マップ埋めは厳しいけれども!
洋子の予想どおり、ドラゴン攻略については時間がかかりそうだ。
大剣術士達が2度目の敗北報告をする事によって、それが確実なものとなる。
「融合魔法を使うと、火の玉が使われて防がれるのか……」
「私達が水弾を使った時も威力を弱められましたね」
「言われてみりゃ、そうっすね……」
「火球も駄目だったの? なら風牙はどう?」
良治の部屋へと集まり、大剣術士の書き込みについて話し合っているのだが、その最中に、香織がアイディアを閃かせた。
彼女が思ったのは近接職同士の風牙。
これなら、敵の足元に出現させることが出来る為、火の玉を吐かれようが問題はない――が、
「倒せる訳が無いわよね……」
その一発で変身を飛ばして討伐を成功させると言う事は出来ないと自分で悟った。
トロルの腕を輪切りに出来る威力ではあるが、ドラゴンには鎧のような鱗がついている。大きなダメージは与えられるかもしれないが、そこで終わってしまうだろう。
もし、これが洋子と良治によるものであれば違ったかもしれないが、風牙の融合魔法はできない。理由は形状が違うからだ。
仮に洋子が扱うブーメラン状での融合が出来たとしても、今度は火の玉による反応が起きるだろう。試していないので不明だが、その火の玉を切り裂き、ドラゴンにダメージを与えられるのか? という事になれば、出来ないと思える理由があった。
(たぶんランク付けのようなものがあるはずよ。だとすれば、水弾や火球も駄目だったのだし、風牙でも一緒かも……。もっと上の威力を出したいなら、魔法職同士の融合魔法になるだろうし……)
自分がもし開発側だとするなら、そうすると洋子は考えた。
そして、それが出来るのなら、こんな悩みもいらない。
(氷結や雷光。それに木人形。どれも魔法職同士なら融合魔法が出来るはず。それさえあれば……)
もっと簡単にドラゴン討伐が可能だ。
これは洋子が思うだけではなく、多くのプレイヤー達が思う事だろうが、現実問題として魔法がメインのプレイヤーというのは少ない。ドラゴン討伐の方法が見つからなければ、魔法職の奪いあいが起きる可能性もあるだろう。
(私達の攻略法は正式なものじゃない。ちゃんとした攻略法が分かれば……)
1人悩む洋子であるが、そんな彼女の肩に良治の手が置かれる。
顔をあげ良治を見ると、苦笑していた。
「1人で悩むのは俺の悪癖のはずだろ?」
「……あっ」
言われてみれば、そうだったと反省。
彼女は考え込み始めていた事を、素直に話し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
融合魔法は一旦忘れよう。
洋子の話を聞くなり、良治はそう言った。
「固執しすぎても駄目だろうし、他の手段を考えた方が良い」
「道理ですけど、じゃあ、どうするんです?」
他に当てはあるのだろうかと、3人ともが良治を注視するが、勿論そんなアイディアはない。期待されても困ると思いつつ考えを巡らせると、動画を見始めた理由を思い出した。
「……隠し部屋……探してみないか?」
思い出した事をそのまま口にしてしまったせいか、3人共が眉を寄せてしまう。
それは賛成や反対だとかという前に、なぜそうなるのか? という疑問からなのだろう。
良治は、昨日家へと帰ってから考えた事を伝える事にした。
動画に魅入ってしまい、隠し部屋の事を忘れていた事については触れなかったが。
「ドラゴン攻略用のアイテムがある。と言う事でしょうか?」
「そこまでは言わないが、何か戦力を上げる為のものがあれば、少しは助かるんじゃないか?」
手で顎を撫でながら言うと、洋子と須藤が考えこみだした。
「反対か?」
「いえ、隠し部屋を探すのは賛成ですが、人手がいるかもしれません」
人手。と聞いて良治が首を捻った。
「このゲ―ムでマップ埋めは厳しいと思うっすよ」
須藤の言葉に、さらに良治の顔が傾く。
「鈴木さん、どうかしたの?」
「んー…。隠し部屋を探すのって何かコツみたいのがあるんじゃないのか? って、思っていたんだが……」
良治が動画を見たのは、そのコツを知ろうとしたが為でもあったのだが、ゲームに詳しい2人の話を聞く限り、
「そういう事じゃないのか?」
尋ねられた2人が互いに顔を見合わせ、困り始めた。
「……どう言えばいいのか」
「ちょっと難しいっすね…」
「そんなにか?」
いつもなら悩む事はあっても、何かしらすぐに教えてくれる2人が言葉を濁している。
「普通のゲームだと係長が思うように大体ヒントがあるんです。少しだけ壁が崩れていたり、妙な仕掛けがあったり、あるいはメッセージ的なものがあったりと様々ですけど、このゲームでは見つかっていません」
「そうなんすよ。だから、隠し部屋があったとしても、まずマップ埋め……って…」
何かを言いかけた須藤が洋子を凝視した。
「マップスキルを使えば、分かるんじゃないっすか? 壁を挟んだ向こう側に空洞とかあるかもしれないっすよ?」
「それ、私が考えなかったと思います? スキルを使って見られる部分は見ましたよ」
「……すでに確認済みなんすね。さすがっす」
なにがどうして洋子が流石なのか、良治は全く分からなかった。
分かったのは、自分にはゲーム知識が足りていなくて、この2人の話を理解するには、もっと経験が必要と言う事ぐらいだろう。
「マップ埋めをするには、私達だけじゃ無理過ぎます」
洋子の両肩から力が抜け落ちる。
明らかに落胆しているのが分かってしまった。
マップ埋め……。
そう聞いて、洋子が3階で歩いていない部分があると言っていた事を思い出す。
「洋子さんは、マップ埋めはしたいんだよな?」
「……出来ればですけどね。でも無理ですよ。時間がいくらあっても足りません」
良治に向かって言う洋子の態度は、自分へと言い聞かせているように見えた。
3階の地図を見せてくれといったのも、その隠し部屋関連なのだろうが、未踏破の部分を見ておきたかった気持ちもあるように思える。
「なら、せめて、3階だけでも調べてきたらどうだ? まだ、歩いていない部分があるんだろ?」
「……えっ?」
「それに気になる事もあるようだし、この機会に見てきたらいいと思うぞ」
「……まぁ……はい」
悟られているように言われ、洋子がうつむき返事をした。
須藤が怪訝な表情をしてしまったのは、言っていることが違うと考えたからだろう。
「3階に思い当たることがあったんすか?」
「ヒントが無いとか言ってなかった?」
「……ちょっと違うんですよ。……私もハッキリしないので、言いたくなかったんです」
プイっと顔を反らしながら洋子が言うと、良治は気まずそうに頬をかいてしまう。
「気になる事ってなんすか?」
「それを言うのは、確認してからじゃ駄目ですか?」
「確認? すぐ終わるような事なの?」
「んー…分かりません。たぶん2、3時間ぐらい? あるいはもっとかかるかも?」
「どういう事っす? 歩いて回るだけじゃないんすか?」
「……こうなると思ったから、言わずにいたのに」
須藤と香織に交互に追い詰められていく洋子を見て、最初は苦笑していた良治であったが、中へと割って入った。
「言い出しておいてなんだが、後の事は確認してからにしよう。洋子さんも、ちゃんと分かったら教えてくれるんだろ?」
「そのつもりです。私の考えすぎという可能性が高いですけど、それでも構いませんか?」
「もちろんだ」
話が決まると背に隠された洋子が、横へと出てきて顔をあげた。
「今から、行って来てもいいです?」
「あぁ。洋子さんが気にしている事が分かっているのに、そのままっていうのはどうもね……」
「……係長」
気が付けば見つめあっている。
出来上がるは謎の空間。
近づく事に躊躇してしまう結界のようなものが出来つつあった。
それは仲間であるはずの須藤と香織にも効果がある。
知らぬ間に外野にされてしまった2人は、呆れ顔だ。
「やってられないっす」
「私も火球をぶつけたくなったわ」
そんな事を言う2人の言葉は、見つめ合う2人には届かなったようだ。





