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気にしていた事

 アイテムポーチにしまってあったA4式バインダーノートを取り出し洋子へと渡す。


「良かった。持っていたんですね。私が地図作りをしているから、持ってきていないのかと思いました」

「気になった事は忘れないうちに書いておかないと忘れてしまうから、それでな」

「そうなんですか? メモを取っている所を見た事ないですけど?」

「休憩中に……って、後ろの方は読まなくていいから!」

「色々細かく書いていますね……盾PT?……って……」


 良治が止める間もなく、しっかりと見てしまう。

 書き込まれている内容のほとんどは、今まで尋ねて分かった事が大半であるが、中には分からないままでいる事も書かれていた。


 例えば、先日見たばかりの『盾PT』という言葉についても『<洋子さん案件?』等と書かれており、それを見た洋子の目付きが工事現場にいる彼女のものへと変わった。


「私案件って何ですか……」

「聞けば分かるかな? と思っただけだから。深い意味はない」

「それなら、案件とか書かなくても良いですよね?」

「その方が分かりやすくてさ……。でも、気分を悪くしたのなら謝る。……悪かった」


 言葉どおり頭を下げると、洋子は小さく笑ってみせた。


「大丈夫ですよ。係長が、私の事をどう思ってくれているのかは、この間の事でわかりましたから」

「あー…うん」


 余裕がある態度を見て、良治が胸を撫で下ろす。

 洋子は平然とした態度であるが、内心では全く違った。


(また、言ってくれないかな……)


 ほんの数日前に聞いたばかりの告白を、今この場で聞きたい。

 そうする事で、良治の気持ちを再確認したかった。

 ハッキリとした言葉と態度で気持ちを示してはもらったものの、この数日の間で心変わりしていないかという不安からだ。


 不安の原因は良治に対して行っている訓練の事。

 死に顔を見たく無いが為に、出来る限りのことを考えた。

 その一つが良治のスキルをいつでも有効利用できるようにする事だったのが、その結果嫌われ始めているんじゃないかという不安が出て来ている。


(大丈夫……だよね?)


 あれだけハッキリと言ってくれたのだし、数日たらずで揺らぐと言う事は無いと思いたいが自信が薄い。


 洋子の目が、良治のベッドへと向けられる。

 以前と変わらずシングルベッドだ。

 他のPTでは、ダブルベッドに変わったという報告があるが、良治と洋子のベッドは相も変わらず、そのままである。


(……)


 今週の土曜日もまたくるという。

 目的はゲームの続きというが、良治とて男。

 なら今度は……。


「どうした?」

「……」

「洋子さん?」

「……いっそ私が……ってぇぇ!?」


 良治の声で正気に戻ると、あたふたと手を振ってみせた。

 何がどうしたのか全く分からないが、とりあえず洋子が望んでいた3階の地図を見せようと、彼女に渡したノートをめくって見せた。


「ほら、ここだよ」

「あ、有難うございます」

「うん? 本当に大丈夫か?」

「何でもないですよ!」


 とは言うが、良治から見れば大丈夫そうではないから困りものだ。


 洋子が胸に手を当て深呼吸を一度する。

 目つきを変え、良治が開いてみせた3階の地図を見つめると「うーん…」という声をだした。


「急にどうしたんだ?」

「いえ……。3階で気になった部分とか無かったですか?」

「3階で?」


 話しの流れが掴めず、説明してもらいたい良治であったが、とりあえず3階について思い浮かべた。


 敵モンスターはゴブリンとコボルト。

 コボルトの方は顔つきのわりに気弱なモンスターであったことは覚えている。

 風牙があった階で、魔法も使い方次第で性能を変えると言う事が分かった。

 バランス設定を間違えたらしいスラッシュを得たのも3階。

 色々とあった階ではあるが、それらについてはすでに洋子のブログにも書かれている事だろう。


(そういうのが聞きたいんじゃないよな?)


 ジっと自分を見ている洋子の眼差しから、期待のようなものが感じられる。

 もし、その気持ちに応えられたら、また嬉しそうな表情を見せてくれるかもしれない。そう思うと期待に応えたくなるのだが、報告に上げた事以外、気にしている事はなかった。


「洋子さんが知っている通りだと思うが、何を気にしたんだ?」


 隣に並んだまま尋ねると、


「何かがあると思うんです。例えば隠し部屋みたいのが……」


 そう、洋子が悔しそうに呟いた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昨今のゲームにおいて隠し要素というのは普通に存在している。

 昔であれば、それ一つで子供達が目を輝かせたものだが、今となってはどうだろうか?

 それはともかく、洋子が言う隠し部屋というのは、そんな昔からあったものの一つである。

 

 ゲームによって隠し部屋に用意されているものは異なるが、大概のものは少しだけ便利なアイテムが置かれているだけ。その場所を見つけられなければ、クリアはできないという事があってはいけないという開発側の配慮からだろう。

 尤も中にはゲームバランスを崩すようなものもあるが。


 これとは異なり、隠し部屋を通らなければクリアができないゲームもある。

 そうしたタイプの隠し部屋というのは、複数のヒントを聞く事で見つける事ができたり、イベント誘導によって行くこともあるだろう。

 こちらは隠し部屋と言うよりもイベント用の場所と言うべきかもしれない。


 どちらのタイプにしろ、プレイヤーならば見ておきたいという気持ちは出てくる。特にダンジョンゲーム愛好家であれば、こう思うのではないだろうか?


『空白部分は埋める為にある!』……と。


 洋子は、その埋めたいというタイプの人間であり、迷宮階転移が利用できるようになってからというもの、その事を頭の片隅には置いていたが、誰かに打ち明けたと言う事はない。

 何故なら、このベーシックダンジョン(仮)は分厚い壁が多数ある為、ただ歩いていたのでは、埋める事ができない部分が多すぎるからだ。


 特に多いのは8階と9階。

 大地に出来た亀裂の中を歩くようなマップな為、埋められない場所が多すぎる。

 パワー効果を加えたスキルや魔法を使えば地形破壊は可能だが、それら全てを調べて歩くには時間がかかり過ぎるというものだ。

 なんのアテもなく「ここを破壊してください」とは、洋子も言えずにいて、今日に至っている。


「ドラゴン攻略に時間がかかりそうですし、この際、気になっていた事について、考えてみようと思ったんですよ」

「それが3階? なんでまた?」

「歩いていない部分があるんですよね。係長と早く合流した方が良いと思ったからアイテム回収だけをして、合流を優先したんです」

「……そういえば、早かったな」

「頑張りましたから」


 そういって洋子が微笑む。

 良治は自分の頬に指先をあて、軽くかいた。


 4階のボス討伐が済んだ夜に説教されているが、その時にはすでに3階のアイテム回収が終わっている。

 洋子が、そうした理由は本人が言った通りであるが、そのせいで歩いていない道というものが多く残っていた。その歩いていない場所を、彼女は気にしたようだ。


「その隠し部屋って、最初の方にあるものなのか?」

「結構ありますね。ゲームクリア後になってから知って、2週目をしたりすることもあります」

「同じゲームをまたやるのか?」

「やりますよ。係長に教えたゲームは少し違いますけど、たぶん、ラスボスを倒したあとも続けると思いますね」

「ボスを倒したらゲームクリアだろ?」

「普通はそうなんですけどね……その時がきたら分かりますよ」


 そう言って洋子が微笑む。

 先の笑みとは違い、妙に怪しい。

 何かを企んでいるような?

 そんな気がしてならなくなった良治は、洋子が教えたゲームに対して不安を感じてしまう。


 結局良治が持っていた3階の地図については洋子が借りる事になった。

 じっくりと見たいらしいが、何か思う事があるのだろうか?

 それは気になる事だが、良治は彼女の方から言いだすのを待つことにした。


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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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