82話 vsユグドラシル 言霊
ユグドラシルが大地を抉り、地鳴りを響かせながらゆっくり起き上がってきた。
「これが……ユグドラシル」
「うん」
その姿は、10階建のビルなんてへでもない大きさで、非常にゴツい両腕、刃も魔法も、一切受け付けなさそうな肌。
ユグドラシル、というよりも、
「ダイダラ……ボッチ」
の方が、表現が近いかもしれない。
「かつてユグドラシルは、何もないところに湖を作り、循環させるための山を作り、植物が生きられる、世界の循環を作った」
「……成る程、だから」
だから、ダイダラボッチの見た目でユグドラシルなのか。
タクマの知る伝承と殆ど同じ。ただ、この世界の人々の認識の差で、元いた世界と名前が変わったのだろう。
植物が生きられる世界を作った神。この字面だけ見れば、確かに植物の神だ。
「こんな……魔力……!」
一方ダリアはユグドラシルを魔力感知で見ている。
触発されて魔力感知を使ってみると、
「なっ……!?」
これまで、強い魔物は総じて大量の魔力を持っていた。強力な魔法を使用でき、連発するために必要なのだろうか。
しかし、目の前の神は、
「なんだこの……ドス黒い……」
魔力感知で見える赤々しい魔力とは程遠い、もはや黒く染まっていた。
「タクマ、君も側から見た魔力量こんな感じだよ」
「僕もなの!?」
いや初めてマナとコガネに会った時、魔力の上が見えないとは言っていたが、こんな風に見えていたのか。
よくこんな恐ろしい存在パーティに入れてくれたものだ。
「!!!!!!!!!!!」
「ユグドラシル!」
「ああぁぁ、耳が!」
「痛い……!」
ユグドラシルの叫び声が、3人の耳を突き刺す。まるで針を何本も詰められたようだ。
「今は言霊の支配下にあるから、まずはそれを解く!タクマ!」
「はい!」
1人ユグドラシルへ向かい、一直線に飛ぶと、
「!!!!!!!!!」
タクマに狙いを定め口を開け、どんどん魔力を溜めていく。
「その技は、ドラゴンの時に見た!」
破壊光線の撃つタイミングを見計らい、思い切り避けようとするが、
「タクマ一旦引いて!」
「!!!!!!!!!」
「は!?」
ドライアドの声が聞こえた時には既に遅く、放たれた光線は一直線に飛ばず、いくつもの光線が乱射した。
おかげで、回避した場所にも、容赦なく攻撃が飛んでくる。
「ちょっ…この!」
魔法陣で攻撃自体は防げるが、
「ドライアドさん!」
「ドライアド様、私が!【エスケープ】」
2人へ飛んで行った分は、ダリアの魔法で直撃することなくUターンした。
「なんだあの魔法……ってそれどころじゃない」
再度ユグドラシルへ接近し、頭上に着地する。
「ここなら魔法は飛んでこない」
破壊の魔法陣を生成し、
「取り敢えず、言霊の支配から外さないと」
それを起点に、魔力をユグドラシルへ流し込む。
これで良いのかわからないがそれ迷っている時間はない。
「!!!!!!!!!」
「ちょっ……落ちる!」
少しは効いているのか、鬱陶しそうに頭を振っている。
おかげでしがみつくので精一杯。
「タクマも少し粘って!今私がー」
「もう無理……!」
ドライアドが何かしてくれる前に限界が来て、
「うわっ!?ちょっ!?」
思い切り振り落とされた。幸い浮遊陣のお陰で落下は魔逃れたが、
「避けて!」
「!?」
ダリアの声に反応し切れず、巨大な拳が、タクマ目掛けて振り下ろされ、大地を凹ませる。
「タクマ君!」
「大丈夫です、生きてます!」
間一髪どころの話ではない。誰かに吹き飛ばされなかったら、確実にやられてた。
そして、
「間一髪だったね!」
タクマを吹き飛ばして張本人が、タクマの後ろへ浮いてきた。
◯
「マナさん、どうしてここに!?」
先程別れて、今は避難している人達の火の粉払いや、避難誘導のフォローをしているはずでは。
「避難誘導はスムーズに出来てるし、飛んでくる火の粉は、2人で対処出来そうだったし!」
「成る程、何はともあれ助かりました」
実際、マナの魔法がなければ死んでいた。死ぬ気はないとか言ってた癖に、真っ先に死ぬところだった。
「2人共、お喋りしてる暇ないよ!私がユグドラシルの動き止めるから、タクマお願いね!」
安心したのも束の間、ドライアドが固有魔法を使い、
「えぇ………ええええぇぇぇ!!?」
なんと、ユグドラシルへと身体を変えた。いくら変幻自在の固有魔法とはいえ、こんな巨体になり変われるとは。
「タクマ、ボーッとしないで行くよ!」
「あ、はい!」
今度は2人でユグドラシルへ接近し、再び頭上に着地。
「マナさん。やばいと思ったら逃げてくださいね」
「当たり前よ!私だって死にたくないんだから!タクマもマズイと思ったら全て捨てて逃げなよ」
「勿論です」
ただでさえ自分の身すら守れるかわからない場所に、タクマのフォローに来てくれているんだ。2人でお釈迦するわけにいかない。
再び魔法陣を作り、ユグドラシルに魔力を注ぐ。
「ドライアド!これで合ってるの?」
マナが大声で叫ぶと、
「合ってる!言霊の魔力が尽きるまで注ぎ続けて!」
「分かりました!」
ユグドラシルの姿をした、ドライアドの声。図体の割に女性らしい声で混乱しそうだが、どちらが本物か分かりやすくて助かる。
「あの青仮面め、たった2日でどんだけ魔力注いだんだよ!」
相手は神だ。易々と魔力で支配出来る存在じゃない。文字通り、全てを賭けて、不眠不休でこなしたのだ。
生半可な魔力量じゃ支配は解けないが、
「生憎僕も、生半可な奴じゃないんでね……!」
所詮は人間が施したものだ。青仮面ができるなら、タクマも出来る。
「!!!!!!!!!」
「ちょっ!」
再び頭を振って、振り落とそうとするが、
「少しは大人しくしなさい!」
ドライアドが両手でがっしり顔を掴み、だいぶ揺れが治まった。
「マジでどれだけ魔力注げばいいんだよ……」
「最悪、回復と魔力の補充は私がやるから!調律の魔法の魔法陣は貰ってきてる!」
「そりゃ、頼りになるけど……」
2日かけて魔法の支配下に置いたのに、たった数時間で解けるものなのか。ドライアドは、どれだけ保つのか。
ずっとそんな不安がよぎっている。
現に、頭を抑えているドライアドは、ユグドラシルの攻撃を防げておらず、一方的に攻撃をもらっている。
ダリアも懸命に魔法で攻撃を相殺しようとしているが、所詮は、巨大な岩に1滴水を当てているような状態だ。まるで意味がない。
今、タクマが言霊の魔法がどれくらいの時間で解けるかが、命を握っている。
「本当、途方もな……え!?」
途方もないと言いかけたところで、パリンと何かが割れる音が聞こえ、ドライアドを殴っていた拳は脱力して、地に落ちた。
「終わった……のか?」
魔力を解除しようと勤しんでいたタクマが1番驚いている。
「そう……みたい?」
隣にいるマナも、目が点になっている。
「元々、ユグドラシルは魔力の耐性が高いから、多分ギリギリ支配下に置けていた状態だったんだよ」
元の姿に戻ったドライアドが、2人と合流して教えた。
「タクマさんの魔力はかなり特殊ですから、耐性とか意味成さずに、直ぐに解除できたんです」
ダリアもドライアドの隣に着地し、
「ちょっと、疲れましたね?」
膝を折り、ユグドラシルの頭に寝転ぶ。
「思ったより、魔力使わなかったな…」
一方タクマは案外ケロリとしている。1回死にかけたが。それ以外は特に何も起きていない。
「私来た意味あったかな……?」
マナも大して疲れている様子はない。1回タクマを助けただけで、殆ど魔法も使っていない。
「あとは、ユグドラシルが私の話を聞いてくれるかどうか……」
「……」
言霊の魔力の支配自体は解けたが、これからどうするのかタクマとマナは何も知らない。
そして4人は知らない。ここから悪夢が始まることも。




