77話 不屈の悪
3人との戦いの後の出来事
「あのガキィィィ!!」
右腕の痛みを堪えながら、苦しそうに言葉を吐く青仮面に、
「あまり力まないで、血が止まらないから」
必死で治癒魔法をかける赤仮面。
「なんであの一瞬だけ早くなった……」
手を抜かれていたとは思えない。寧ろあの戦いはどう見ても全力を出していた。
実力差はある。油断しなければ負けることはない。そして油断をしたわけでもない。
そのはずなのだが、重傷を負った。
「自分でも気付いていない力を持ってるって考えるのが、一番妥当だろうね……」
赤仮面にも、あの剣の太刀筋は見えなかった。
それこそ、ホープを彷彿とさせる、神速ともいえる速さだった。
「はぁ……」
「おい、何故回復を止める!」
ある程度傷が塞がったところで、赤仮面は青仮面の治癒を止めた。
「これ以上回復させたら無理するでしょ?だからこれ以上は回復してやらない。したきゃ自分でして!」
もっとも、ここで自ら回復魔法を行えば、魔力不測でユグドラシルを操る分を失う。
「……僕がユグドラシルにあてる時間は1週間だ。1週間かけて、魔力を魔法陣に注ぎ続けて、操るんだ」
「それがどうした?」
「さっきの場所に戻る」
どうにか身体を捻って立ち上がるが、
「よせ!傷がどうこう以前に戦いの疲労も抜けてないだろ!」
当然だが、回復も仕切っていない。というか、無茶させない為に回復を止めたのに、このまま動かれたらたまったものではない。
「どうせあいつらも戻ってこねぇよ、チャンスは今しかねぇんだ……!」
「また魔力使えばドライアドにバレるだろ?何をそんなに焦ってるんだよ!」
「焦ってなんかねぇよ……チャンスを不意にしたくねぇだけだ」
なりふり構わず、身体に鞭を撃って歩き出した。
「待って!置いてくなよ!」
赤仮面も急いで立ち上がり、青仮面の後を追った。
◯
ようやくさきの戦いの現場に戻ってきた。
「言っておくが、切り落とされた右腕くっつけられるほど、俺の治癒魔法は優秀じゃないからね?」
真っ先に落ちている右腕に目が入ったのを見られたのか、先んじて赤仮面が言葉を吐いた。
「そんな事わかってる。それこそ、ドライアドの治癒魔法じゃないとそんな芸当出来ねぇだろうよ……右腕は諦める」
ドライアドを、これから殺す相手を頼ると言うのも変な話だと。
「本当に今からやるのか?」
「……僕は1回失敗してんだ」
赤仮面の問いに答えず、青仮面は話し出した。
「せっかく1日かけて操ったドラゴンも、ボスが用意した防御魔法も、無駄にしちまった……」
破壊の魔力を持っていると知っていながら、ドラゴンを倒したキーマンだと考えず、挙句侮っていた相手に腕を切り落とされる。
完全に三下ムーブをかましている事が気に食わないのだ。
そんな自分が、許せないのだ。
「だから、どんな手を使っても、僕はユグドラシルを操ってみせる、だからボス、もう一度、僕にチャンスを、力をくれ!」
2人の仮面の見る先に、突然、デウス・エクス・マキナが現れた。
「ボス、僕に防御魔法を張ってくれ」
「その後はどうするつもりだい?」
「自身に呪いをかけて、魔力の供給を無限にする」
「おい青いの!流石に無茶だ!」
赤仮面は声を荒げるが、
「無茶かどうか決めるのはお前じゃねぇ赤いの」
一切響く様子はなく、
「始めてくれ、ボス」
視線をデウス・エクス・マキナに切り替えた。
「本当にいいんだね」
心配するような表情をするが、
「構わなねぇ、あんたの期待に応えて見せる、絶対に」
青仮面の意思を汲み取り、
「……わかった、赤は下がってな」
青仮面の足元に、魔法陣を1つ生成した。
「そんな……!」
「赤いの、そんな顔するな、何も死ぬ事が決まった訳でもねぇんだ」
仮面の下からニヤリと笑って見せたが、恐らく、届いていないだろう。
赤仮面の仮面の下は、曇ったままだ。
「おっけい、作り終えたよ」
「流石神だな、まさか防御魔法のストックが出来るなんて」
「そもそも防御魔法の作り方すら、知ってる人なんてごく稀だよ……」
赤仮面は必死にいつも通りの会話風に話したが、明らかに声のトーンが低い。
「赤、恨んでくれて構わない」
「……青いのが望んだ事です。恨みませんよ。最後まで一緒に戦います」
「そうか……俺は封印解除の続きをする。何かあったらすぐに呼べ」
そう言葉を残して、再び不意に消えた。
【我が声に答えよ、カースフレーズ】
デウス・エクス・マキナが消えた瞬間、防御魔法の中で青仮面が呪いを唱え出す。
「呪いが上手くいけば、3日前後でユグドラシルを起こせる。それまで、頼んだぜ、相棒」
青仮面を外し、苛烈な笑みを浮かべた青年。
「全く、振り回される身にもなってほしいね」
赤仮面を外し、苦笑いで返す青年。
【7日後に、私の全てを捧げる】
「久々だな、仮面を外してお前の顔をちゃんと見るのも」
青い仮面を地に置き、右半分は普通の人間の姿で、左半分は露骨に機械で出来た青年はゆったり地面に座る。
「全くだ、機械都市に住んでから、ずっと仮面付けてたからな!」
赤い仮面を地に置き、左半分は普通の人間の姿で、右半分は露骨に機械で出来た青年はゆったり地面に座る。
【代わりに、永遠の魔力を授けたまえ】
「随分と、宇宙の魔力使いこなせてたな、本当」
「言霊だって、ユグドラシル操ろうと思えるほどに強くなったじゃん」
そこから、他愛もない会話をずっと続け、
「なぁ、赤いの……じゃなくて、リティ」
「どうした、アイディ」
「僕のようには、なるなよ」
「どうしたんだ急に」
「僕は、高圧的に話す事でしか、上手く言霊の力を引き出せなかった、上っ面な魔力と、表面だけの言葉だ。でも、お前は違う」
「……」
「お前の宇宙の力は、必ずボスの力になる。私の分の恩返しを、頼んでもいいか?」
「……そんなもの自分で返せって言いたいけど、任されたよ」
「ありがとう」
そして青仮面の男、アイディは、詠唱を始めた。
全ては、デウス・エクス・マキナの野望の、神を殺す為に。
そして、時間の限り、詠唱と魔力を込めるのに注ぎ、たった2日で、ユグドラシルを言霊の魔力の支配下においたのだ。




