70話 3人を送った後で
「はぁ……」
3人を送った後、ドライアドはため息をついた。
疲れたからではない。本当にこれで良かったのか。3人じゃ荷が重いのではないか。どうしても考えてしまったのだ。
タクマもコガネもシルフィも決して弱くない。寧ろ実力的に見れば強い方なのだが、運命を託すにはあまりにも経験が足りない。修羅場を潜り慣れていないのだ。
「……」
ギルドの奥に進み、気を失っているエルフを見つめる。
「お前の意識が戻っていれば、同行させたかったけど……」
2人にやられた後、町に戻る一瞬だけ意識を戻したが、それ以降眠ったままだ。
たった一撃もらっただけなのにこの重症だ。
3人が心配にならない訳がない。
「何感傷に浸ってんだ?」
なんの前触れもなく、ドライアドの後ろに、上半身裸の変態が現れる。
「デウス・エクス・マキナ……」
「そんな長ったらしい名前で呼ぶ必要ねぇだろ?デウスかエクスかマキナのどれかで呼べよ」
「なんで此処を狙う」
顔を合わせる事もなく、独り言のように呟くと、
「狙いはフォレストじゃねぇんだがな?」
「じゃあ、マナか?」
「あ?何故そこでチンケな冒険家の名前が出る?」
「鬼の仮面の人がマナを殺す依頼を受けたと言っていたらしいじゃない」
「鬼の仮面?あぁ、大体話が見えてきた」
何が面白いのか知らないが、デウス・エクス・マキナはニヤリと口角を上げる。
「鬼の仮面は俺のところの奴じゃねぇ、あいつらは自分らを「夕闇」って名乗ってたな?詳しくは知らんが、随分と思想が強そうな連中だったな?ヤケに呪いも乱用してるしな?」
「じゃあ……そいつらがリラを……」
リラを殺した組織。
「いや、今考えることはそれじゃない」
思考を無理やり切り替え、
「デウス・エクス・マキナ、どうしてこの町を狙う」
「だから狙いはフォレストじゃねぇんだって」
面倒臭そうに返すと、
「ユグドラシルを起こすんでしょ?そんなのフォレストを狙うのと大差ないよ!」
怒りを堪えるように声を吐く。
「だからフォレストでもユグドラシルでもねぇんだよしつこいな!」
今度は苛立ちを隠す事なく、鬱陶しそうに返す。
「じゃあなんでー」
「お前だよドライアド」
「……私!?」
「正確には、狙いは始祖の神だ。この世界にお前らは必要ねぇから、お前が狙いだ」
「……ガイアみたいな事言うね?」
皮肉混じりに返してみると、
「あんな被害者気取りのクズと一緒にするな」
露骨に不機嫌な声で返ってきた。
「ともかく、お前はもう時期終わりだ。遺言の1つや2つ書いとくのを勧めるぜ?」
「あの仮面の2人が私を殺せると本気で思ってるわけ?」
見下すような、煽るような声で問うと、
「あのチンケな冒険家100人集めても勝てねぇのに、たった2人じゃ不可能だ。だが、それは万全のお前は無理って話だ」
「成る程、そのためにユグドラシルを……」
人間には手が負えない怪物を使えば、動かざる得ない。
「既にお前は袋のネズミなんだよ、人間の問題に足を突っ込めば、誓約に背いて死ぬ、ユグドラシルが目覚めれば、止めるためにお前は力を使い果たして死ぬ、此処を放棄して逃げることは出来るが、お前にその選択は取れないだろう?」
「……」
思った以上に後がない。
本当にタクマとコガネが仮面の2人を殺してくれる事に賭けるしかなくなってしまった。
しかし、
「言いたいことはそれだけ?」
ドライアドは諦めていない。
「あ?」
「本当に言いたい事が、あなたは成し遂げられない」
「……何が言いたい」
「切り札を持ってるのは、あなただけじゃないってことよ、ユグドラシルほどの怪物じゃないけどね?」
確かに、ユグドラシルの封印を解ける人間なんて、存在しているなんて思っていなかった。
でも、こっちにも切り札はいる。
まだまだ未熟で、お世辞にも仮面の2人より強いとは言えないが、神の力の一端を使える異世界人が。
「破壊の魔力を持った人間がいるのよ、うちには」
「ほぉ?」
愉快そうに口角を上げるデウス・エクス・マキナ。
「いつもあのチンケな冒険家と一緒にいる化け物がその力を?」
「ホープじゃない、タクマの方よ」
「……はぁ」
期待はずれと言わんばかりに大きなため息を1つつき、
「あんな雑魚が持ってても意味ねぇよ……」
「タクマを雑魚だって侮っちゃいけないよ?」
「……」
「確かにあの子は、仮面の2人に比べると弱いけど…」
「伸び代があるとかほざくんじゃねぇよな?」
「伸び代、そうね」
確かに、それもあるけど。
「あなたには教えてあげないわ。話す理由も必要もないしね」
「……」
軽くウインクをして、眉間に皺を寄せているデウス・エクス・マキナの視線をいなす。
「そろそろ帰ってくれない?私は忙しいの、あなたと違って。それとも、もう時期死ぬ私と一緒に感傷に浸ってくれるの?」
「………」
不機嫌な顔を正す事なく、何の前触れもなく、デウス・エクス・マキナは姿を消した。
「さて、このままのこのこ死ぬわけにもいかないし……」
適当な引き出しから紙を1枚取り出し、
「遺書でも書きますか」
こうして、ドライアドは、大事な相棒へ遺書を書き始めたのだ。
◯
「……」
デウス・エクス・マキナは困惑していた。
曲がりなりにも、ドライアドは自身と同格の神だ。自身と同等の力を持ち、見る目を持つ。
それなのに、ドライアドはあの雑魚、タクマを切り札だと言い出したのだ。
ホープとかいう化け物ではなく、あんな有象無象の1匹を、切り札だと。
破壊の魔力を持っているだけなら、切り札なんて言わない。
それしかないただの1発芸なんて、警戒するに値しない。
だが、ドライアドがそいつを評価した時点で話は変わってくる。
「何がある……あの雑魚は、何を持っている」
別に不安が押し寄せてきているわけではない。寧ろその方が嬉しいくらいだ。障壁として認識できた方が、計画の軌道修正や、もう数人此処に連れてくる事も考えた。
だが、ドライアドの評価と、あの雑魚の実力が噛み合っていないのが、あまりに不自然だ。
造花の事は、ユグドラシルを顕現させる計画を立ててから。ずっと警戒していた。
ネオンを拠点としているため、いずれ障壁になるだろうと、実力を測るために、何度も戦闘している姿を眺めた。
そして、リラが死に、タクマが加入。
「あのチンケな冒険家や化け物、生意気なガキはともかく……」
タクマの実力なんて、リラに比べて遥かに劣る。それこそ、象と蟻ほどの、圧倒的な差がある。
だから、タクマの実力を知った時は、思わず笑わずにはいられなかった。
障壁となる造花が、実質3人のままの強さで、こちらは既に準備が整っている。
これ以上の好奇はないと思い、2人を連れてきて、ユグドラシル顕現の下準備をさせた。
途中、造花がフォレストに拠点を置き始めたが、そんな事どうでも良かった。
どうでもいいはずなんだが、
「いや、今はユグドラシルを顕現する準備を整える方が先だ……」
全ての疑問を放棄して、そこらの岩と大差ない、小さな小さな祠に入った。
しかし、デウス・エクス・マキナは気づかなかった。象と比べれば、全く手に取らない蟻でも、その小さな蟻には、強靭なパワーがある事に……。




