61話 失敗した人達
「完全に失敗したね……」
全員がドラゴンから去ったのを見計らい、赤仮面が空から降りてくる。
「クッソ……」
青仮面は悔しそうに近場の木を殴りつけた。
それもそうだ。フォレストの冒険家を釣るために仕掛けたはずなのに、蓋を開けてみれば、偶々近くにいたネオンの冒険家が対処し、巻き込みたくなかった造花の足止めのための防御魔法は、そもそも仕掛けた場所を造花が通過せず、挙句の果てに、言霊の魔力の存在を匂わせてしまう始末。
あり得ないほどの大失態だ。
「どうしてこうなった……」
天を仰ぐしかない様子の赤仮面。
「功を焦った……クッソ」
一方青仮面は苛立ちをぶつけるように木を殴り続けている。
「もう1度魔物を操ってー」
「そんなことはさせないよ!」
「誰だ!?」
言葉を遮られ、声のする方を見ると、
「やっと見つけた」
そこには、静かに怒りを露わにしているドライアドと、迷彩服のマントを着たエルフが1人いた。
「これはこれは、ドライアド様じゃありませんか?私達に何かようですか?」
警戒しつつも、おちゃらけた声で2人を見つめる青仮面。
「用事がないと思っているの?私のテリトリーで好き放題してるみたいだけど?」
殺意を隠す様子もなく、1歩ずつ2人の仮面に近づいていくが、
「ドライアド様、貴女様が人間の問題に介入する訳には」
隣にいた迷彩服のエルフに止められる。
「……そうね、その為に貴女を動かしていたんだわ」
「はい、なので私にお任せを」
ドライアドを抑制して、代わりにエルフが1歩ずつ仮面に歩み寄る。
「嬢ちゃん、2対1で勝てると思っーガァ!?」
青仮面が話し終える前に、一瞬で目の前に移動したエルフが青仮面のみぞおちに拳を喰らわせる。
「なんで……エルフが武闘家してんだよ!?」
「グフッ!?」
苛立ちを拳に込め、お返しとばかりにエルフのみぞおちに拳を喰らわせる青仮面。
その隙に急いで後退し、体勢を整える。
「成る程、最近妙につけられてるいると思ってたが……お前か、コソコソしてたの」
睨むような、値踏みをするような目でエルフを見回す青仮面。
「……」
一方でエルフは、話をするのも嫌なのか、何か口止めされているからなのか口を開かない。
恐らくどっちもだろうが、
「ま、そんなのはどうでもいい。私としては、お前が少しでもーっと、危ねぇ……」
話している最中でも、一切の容赦なく攻撃を仕掛ける。
寧ろ話に夢中になって、注意が疎かになったタイミングがチャンスと言わんばかりに。
「嬢ちゃん強えが、そんなんじゃ僕達の相手にはならないぜ!?」
「ガハッ!?」
青仮面ばかりに夢中になっていたが、これは1対1ではなく2対1だ。
赤仮面への意識を疎かにし過ぎたせいで、思い切り蹴りを喰らうハメになった。
「貴様……!」
腹を抑え、苦し紛れに赤仮面を睨むが、
「すまんね、俺らの目的は君じゃないんだ。手荒な真似はしたくないし、大人しく眠っててくれると嬉しいな?」
「クッソォ……」
蹴りの1撃が重かったのか、そのまま身動きがとれなくなった。
「あら、ムカつくほど強いのね君たち」
苛立ちを露わにしながらも、ドライアドは余裕そうに呟く。
「貴女様ほどじゃないですよ、ドライアド様?」
気絶した女性の口調を真似して煽る青仮面。
「本来、神が人間の世界に手出しするのは良しとしないんだけど……」
1つ深呼吸をして、
「大事なパートナーをコケにした人達を無視するほど、私は出来た神じゃないんでね?」
「「!!?」」
森の動物が一斉に逃げ出しそうな殺意、を一切抑える事なく撒き散らす。
「ちょっ、自分で差し向けた癖に理不尽な!」
「こりゃやばいぜ……あのドラゴンが可愛く見えてくる……」
焦りながらも2人の仮面が構える。
「覚悟は出来てー」
「ちょっと、お前が出てくるのは反則じゃねぇか?」
ドライアドの声を遮り、別の誰かが猛スピードで空から降りてくる。
「うわっ!?」
「くっ!?」
衝撃波と土煙に負けて顔を逸らして目を閉じ、吹き飛ばされる2人の仮面。
そんな2人にお構いないで乱暴に土煙を振り払い、視界を取り戻させる。
どうにか起き上がり、衝撃波の元凶を見つめると、
「「ボ……ボス!?」」
2人の仮面の前には、黒髪に茶色のズボンに上半身裸、歯車の模様が縫い込まれた金色のローブという、変態を彷彿とさせる格好をした筋肉質の男が立っていた。
そんな格好も相まってか、さっきの立てたドライアド相手に少しも怯えぬ豪胆さを見せている。
一方ドライアドは、
「何で……お前がここにいる!!」
怒りを露わにして、元凶を睨みつける。
「別にどこにいたっていいだろ?俺の勝手だ」
ドライアドの怒りなど、どこ吹く風と言わんばかりに言葉を返す。
「もしお前がここで出しゃばるなら、俺も相応の対応をさせて貰うが?」
口調とは裏腹に、ドライアドにも劣らぬ魔力が溢れ出す。
「……」
ドライアドはその様子を見て、
「しょうがない、うちの子を連れて帰るとするよ」
戦うには分が悪いのか、動けないエルフを横抱きして森の奥へ消えていった。
「あっぶねぇ……」
ドライアドが消え、安堵の息を漏らす青仮面。
「流石に怖かった……」
赤仮面も同様に声を漏らす。
「お前らバカやり過ぎた。もしかしたら今までの計画全て台無しになるところだったぜ?」
そんな2人を見て、ボスと呼ばれている男は苦笑い。
「本当に申し訳ない」
赤仮面は素直に反省している。
「そういえば、ボスはなんでドライアドを殺したいんすか?」
謝罪の言葉1つも出さずに質問を始める青仮面。
「お前な、まぁいい。ドライアドに限った話じゃねぇ、俺は現存する神を全員殺したいんだ」
「おぉ、おっかね!じゃあなんで僕らにやらせるんです?」
容赦なく質問をする青仮面だが、
「俺が直接動くと、他の神全員と対峙しなきゃいけなくなるが、人間は違う」
嫌な顔1つする事なく答えるボス。
「人間のやる事に極力神は介入しちゃいけねぇんだ。だからお前達にドライアドを殺させようとしてんのさ、この世界に神はもう必要ねぇ」
「人間に神殺しねぇ、まぁ頑張りますよ」
事の重大さをよく知らないまま軽く頷く青仮面。
「あぁ頑張ってくれ」
軽く手を振って、不意に消えるボス。
「ま、お前の計画が頓挫しなければ、ドライアド殺すのは簡単だ、全部任せた」
雑に全てを投げる青仮面に、
「あれ考えたの俺じゃないよ?俺主軸になってるけど」
「お前じゃないの!?」
「うん、大半はボスの案だよ」
「はぇ〜流石だな……」
既にボスがいなくなった空間を見つめる2人。
「流石は機械神、デウス・エクス・マキナ様だ」
その姿は機械神とは程遠い、人間と差し違いのない、機械生命体だ。
◯
「申し訳……ございません」
ドライアドに横抱きされたエルフが力なく謝るが、
「気にしないで、2対1の戦いに放り出した私が悪いんだから……私こそ申し訳ない」
ドライアドも合わせて謝罪をする。
「しかし、こうなると造花に頼むしかないかもです……」
「しかし、造花はリラの一件で……!」
「私もわかっています。しかし、あの仮面の2人と戦える人は、今フォレストには造花しかいない……」
「君がそんなに言うなんてね……」
「はい……恐らく1対1でも勝ててません」
担がれているエルフが悔しそうに唇を噛む。
「そうか……」
ドライアドは力なく呟く。
「なんにせよ、このままだとフォレストは長くない。今後のためにも、仮面の2人はここで始末しておかないと……」




