58話 vsトレント
「!!!!」
吹き飛ばされたトレントが立ち上がり、3人に襲いかかってくる。
「うわぁぁ……」
何本もの触手みたいな足をジタジタさせながら迫りくるハロウィンカボチャ顔の、1本の木。
「早く終わらせよう、もう見たくない」
既にトレントを見ていないコガネが魔法陣を生成し、詠唱を唱える。
【雷と風の力よ、その速さと鋭さを持って、敵を切り刻め、閃光カマイタチ】
コガネの魔法がトレントを襲う。悶えながらも、なりふり構わず突進してくる。
「うわぁ、痛そう!」
コガネの後ろに隠れながら呻くトレントを眺めるマナ。この子は多分戦う気がない。
「マナ、大丈夫。直ぐに終わらせる」
ずっと魔法を撃ち続けるコガネさん。聞いてはいるが倒れる気配はなく一心不乱に突撃してくる。
【雷の魔力よ、その速度を持って我を転移せよ、テレポート】
トレントの突進を交わすが、
「なんか拉致があかない気がしてきた?」
別に強い魔法というわけではないが、先程のシルフィの攻撃と合わせても、もう倒れてもおかしくない程度には攻撃を与えているはず。
「僕がやります!」
剣を構えトレントに向かって走り出す。
コガネとシルフィの攻撃を耐え切っている以上何かしら耐性があるはず。
だからまず、それを壊す。
「はああぁぁぁああ!!」
声を荒げて闘気を高めてトレントに一閃。
「!!!?」
予想通り、バリンと音をたて何かしらの耐性が壊れる音がした。
「今」
何も合図していないが、耐性が壊れて怯んだトレントを見て好機と捉えたコガネが詠唱を唱える。
【雷と風の力よ、その速さと鋭さを持って、敵を切り刻め、閃光カマイタチ】
「ちょっ、うわ!?」
「!!!!」
コガネの魔法がトレントとタクマ目掛けて飛んでくる。
トレントはなす術なく魔法を受ける。
タクマは避けようとしたが思い切り横転。お陰で運良く回避する。
「風魔法耐性……ね」
コガネがトレントの持っていた耐性を呟き、耐性が再生する前に畳み掛ける。
「風魔法もいいですけど、氷耐性が無いなら凍らせて蹴り壊せば良くないですか?」
トレントに目をやりながらコガネに聞いてみると、
「……」
「何か言ってください!」
「タクマ離れて、巻き込まれるよ」
コガネが魔法陣を生成して詠唱を始める。
「え?ちょっと待っー」
【風と水の魔力よ、その力は竜巻き、氷の力を乗せて吹雪き渦巻け、ブリザード】
「待ってよ!!?」
コガネの風と氷魔法がトレントを中心に吹き荒れる。
タクマは何も考えず一心不乱に遠ざかる。
「!!!!」
先程までいた場所は渦巻いた後のそのままの景色で凍りつき、トレントからは既に魔力を感じない。
「なんてゴリ押しだよ……」
もしもタクマが魔法に巻き込まれていたらどうするつもりだったのだろう。
「帰ろ」
「いやこの状態で帰るんですか!?」
「うん。どうせ暫くしたら氷魔法も解ける」
そういう問題じゃ無いのだが。
「いや〜疲れたね!」
「いやマナさん何もして無いでしょ!」
それに疲れたのはタクマの方だ。主に精神的に。
◯
ホープとコガネは町に戻り、依頼達成の報告をしに行った。
タクマはまだ町に戻らずドラゴンとワームを討伐した場所を訪れた。
「なんでまたここに来たの?」
「これがお兄さん達が倒したドラゴンね!」
マナとシルフィが付き添ってくれた。
というかシルフィはタクマが付き添って欲しいと頼んだ。まぁもともと付き添う予定だったらしいが。
「このドラゴン、どう思いますか?」
シルフィに聞くが、
「どうって、何が?」
質問が漠然し過ぎた。
「ええっと、大きさとか見た目とか、その他諸々」
「と、言われてもね?」
ドライアドさんは随分と2人で討伐した割には大きいドラゴンと言っていた。
それに辺りにドラゴンの魔力を隠すための魔法が張られているとも言っていた。
「母様の言ってた通り誰か一枚噛んでてもおかしくはないね!」
「……母様?」
「ドライアド様!私達妖精とエルフのお母様!」
「母様なんて呼ばれているのね……」
ちょっと何言っているんだとは思ったが、別に不思議では無いか。
ドライアド世界の始まりからいて妖精とエルフの始祖。
母様と呼ぶ以上に崇め奉られてもおかしくはない。
「ってそれは今はいいんだ」
「本当になんでここに来たの?もう何も無いよ?」
マナから帰りたいオーラが見える。
「ここが現場だからですよ]
「「現場?」」
マナとシルフィが同時に首を傾げる。
「僕の生まれた国にある言葉で、犯人は現場に戻るんですよ」
「どうゆう事お兄さん?」
ますます解らなさそうだ。シルフィの首どころか体ごと曲がりそうだ。
「……こうゆう事です!」
剣を抜き右に向かって一閃。
そして、
「……貴様、どこまでも」
タクマの斬撃を避けて木々の間から青色の仮面をつけた1人の男性が出てくる。
「……想定してた人とは違うけど、出たな元凶!」
犯人は現場に戻ってくるって本当だったんだ。
「お兄さん達の知り合い?」
「知らない!正直ちょっと想定外!」
思っていた人と違う。主に全てが。
というか知らない相手を勝手に元凶扱いしているのは、いささか問題ではないか。主に人として。
「………」
一方マナは青仮面の男を見つめて黙り込んでいる。
「マナさん?」
「あ、ううんごめん、私も知らないかも?」
「……?」
何か煮え切らない反応だが、今は放っておこう。
「想定外?俺の動向を探っていた奴とは別のやつか」
相手は相手で2人が自分を追っている敵だと勘違いしたらしい。
「えっと、いきなり斬りかかってすみません、てっきり、えっと……因縁の相手かと」
相手が何故ここにいるのかは知らないが、取り敢えず敵意はないことは伝える。
因縁の相手とかいう、自分で言うには中々恥ずかしい言葉を使ってしまったが、気にしないでおこう。
「私こそすまないね。最近妙につけてくる奴がいてね、ついには直接攻撃してきたものかと」
青仮面の男も苦笑いで、はぐらかすように言葉を返す。
「ところでこのドラゴンは、君達2人……ん?2人と1匹で倒したのかい?」
驚きと確認を両立させたような声で尋ねるが、
「1匹って、タクマ人間扱いされてないね?」
「いやどう考えてもシルフィですよ……」
「いや失礼ね!最初にボケたお姉さんが匹って事でいいよ!」
「なんだとこの妖精め!」
何故か誰も疑問を答えずコントが始まってしまった。
「えっと……」
思わず顔を引き攣る仮面の男に、
「あぁそうです!僕らでやりました!」
シルフィも一緒に倒した事になったが、大して変わらないだろう。
「ふーん、これを君達がね……?」
「改めて思い返すと、本当、とんでもないやつでしたね……」
さきの戦いを思い返し、勝手にゲッソリしていくタクマと、
「まぁあれはあれでいい経験だったね!」
ケタケタ笑っているマナ。
心の強さの差が露骨に現れている。
そんな2人を一切気に留めず、ドラゴンの亡骸を凝視する青仮面の男。
「凄いね、どうやってたった2人で倒したんだい?」
「どうやってって言われましても、頑張ったとしか……」
手の内どうこうと言うのもあるが、ボードゲームでもないから倒し方を説明するなんて中々難しい。
「だねぇ、何度も剣振って、何度も魔法撃ち込んで……!本当、よく倒せたね私たち……」
「マナさん情緒どうなってんですか?」
マナは勝手に思い出して戦慄している。
「成る程、頑張ったんだね!」
青仮面の男は何故か納得している。というか会話にならないから締めくくるために納得した様子だ。
「私はもう行くよ、君達も気を付けたまえ」
背を向け軽く手を振り、森の奥へと消えていった。
「なんだったんですかね?」
今になって思えば不思議だ。そもそも何故ここに人がいたのか、何故仮面をつけていたのか。
「さぁ!なんでもいいからそろそろ帰ろ!」
「えぇ〜もう帰るの?」
「帰ります、シルフィ1人で残ったらどうですか?」
「お兄さんひどっ!?」
「あ、1匹か!あはは!」
【我が魔力よ、この失礼極まりない人間をぶっ飛ばせ】
「うわぁえええぇぇぇ!!?」
瞬間、タクマが町に向かって弧を描いて飛んでいった。
「うわぁ、すごい飛ぶ!」
マナは人ごとにようにタクマを眺めている。
「さぁ、お姉さん!一緒にいきましょ!」
「だね!後で回収めんどいけど、しょうがないから見つけてあげよう!」
そしてシルフィとマナは2人でのんびり歩き出す。




