25話 実体のない魔物
「服見に行ってくる!」
依頼の達成確認を済ませ、自由時間がやってきた。
マナは真っ先に出て行った。
依頼前から言っていた新しい服。
コガネは楽器店、ホープは図書館にそれぞれ向かっていった。
都市に戻ると、みんないつも通りに戻っていた。
いつも通りなのは嬉しいはずなのに、何処となく悲しさが見え隠れしていた。
多分いつも通りに振る舞ってくれているの方が正しいのだろうが。
1週間も一緒にいないのに、細かいところまで見えるようになっているのは嬉しい限りだ。
「やる事ないな……」
都市の掌握も終わってる、欲しい服も特にない。
「なら、森の掌握しよう!」
個室で私服に着替えて、剣だけ担いで森を目指す。
依頼の時にしか森に出ていなかったため、1人で入るのは何気に初だ。
なんだかんだでタクマもいつも通りの自分に戻っていた。
いや、無意識的にいつも通りの自分を振る舞っていた。
そして全員エスの呼び出しを忘れた。
後日痛い目見るのは明白だ。
◯
「うわぁ……」
いざ1人で入って周りを見ると、驚くほど同じ景色で何もない。
あまり整備されていない道に羅列する木々、ちょくちょく見かける崖と泉、そして洞窟。飛び交う蚊トンボや魔物。
「つまんなぁぁぁいい!」
同じ景色過ぎて壊れそう。
「もうちょい奥行こ!」
ちょっと気分転換に獣道にも分類されなさそうな草だらけの場所に足を踏み入れ進んでみる。
ボコボコの地面。土もまともに見えないくらいに大量に生える下半身くらいの高さの雑草。
草の先がチクチクするし足も挫きそう。
ガシャッ
「ん?」
歩いていたら明らかに土っぽくない音が地面から聞こえる。
どうやら鉄の棒みたいなのを踏んだ。
「不法投棄だ!」
おもむろに踏んだ鉄の棒を拾い上げる。
好奇心旺盛か。
正直この時はだいぶ正気を失っていた。というか何故か童心を思い出していた。
多分その弾みで拾ったのだろう。
しかし、拾ったものがものだったせいで、一気に正気が戻る。
「え!?なにこれ……?」
拾い上げたのは鉄の棒ではなかった。
先端は尖っており、持ち手のテープが剥げていて柄が割れているが、間違いなく、
「レイピア……かな?」
はい、レイピアです。
それだけじゃない。槍や杖や盾などの、武器が数えきれないくらいには散乱している。
この世界の武器は、1本1本手打ちで割と貴重な為、こんな風に捨てられてるのを見たら鍛治職人の怒りを買いそうなものだ。
「勿体ないな……」
だからと言って拾って帰る訳にもいかない。
それか近くに誰かいるのだろうか。
「誰かいるんですか?」
大きな声で叫んでみるも返事なし。
「いない」
つまり、不法投棄だ。
許すまじ!
「大分暗くなってきたし、報告だけして帰ろう」
適当に引き返そうとした瞬間、
ゾクッ!
っと、後ろから魔物の気配でも、動物の気配でもない得体の知れない気配が湧き出てくる。
「剣持ってて助かった……!」
勝てるかどうか別だけど。
剣を構え、急いで後ろを振り返る。
「は?」
敵は、いないのでしょうか?
「おかしい、辺り一体から変な気配が消えな……い?辺り一体?」
背後に感じた気配は、いつの間にか辺り一体に広がっている事に気付く。
すると、地面から黒い靄が湧いてきて人型になる。
「……は?」
そして地面に落ちていた武器を拾い上げ、タクマに襲いかかってくる。
「ちょっ!ちょっと!?」
動きはトロいが、呆然としていたせいで反応が遅れ、回避がギリギリになった。
何かは知らないが、間違いなくやばい。
「効かないだろうけど、おりゃ!」
様子見で、風の力を込めた一閃を振るうが、避けなかった。
武器にカツカツ当たったもの以外全て貫通し、攻撃がすり抜けた。
まぁ知っていた。
今度は突進し、突をかますが、刺さった感覚が無く、靄が散乱する。
が、散乱した靄は再び人型に戻る。正直これも知っていた。
「何、こいつ……」
怖い。怖すぎる。
リアルバケモノだ。
「流石に逃げよう」
都市に戻る為、魔力感知を使うが、
「……マジか」
そこら中の黒い靄が人形に変身している事に気付く。
そして、全員が全員武器を持っている。
「やばいやばいやばい、とにかく都市を……ってやばっ!」
靄が剣を振り下ろしてくる。都市探しに夢中になっていたせいで腕を深く斬られた。
痛みと焦りで思い切り転倒する。
「ーっ!」
急いで立ち上がり、無我夢中で走り、
「ハァ……ハァ……この辺……なら!」
ようやく魔力感知が何もとらえなくなったところで足を止める。
「はぁ……はぁ……」
深呼吸をして落ち着こう。
と思ったが、
「ゔぅ!」
いつの間にか沸いた靄に背中を思いっきり斬られた。
辺り全体が異様な気配な上、突然湧いて出てくるから気づかない。
「やばい、逃げよう!」
痛みも忘れて必死に走る。どこに向かっているか全然わからないが、とにかく走る。とにかく死にたくない。
何度も新しい靄が出てきては武器を拾って襲いかかってくる。
「散乱してた武器はこいつらのかよっ!」
魔力感知を使いながら木々を避け、道なき道を走る。
しかし、
「アァッ!」
横腹に異常な痛みが襲い、走ってた勢いに任せて倒れる。
横腹に槍が刺さっていた。
「……ぁ」
幾度か戦って知ったが、この世界の防具と身体は金属までいかなくても異常に頑丈だ。
それこそ木の剣で思いっきり殴られても「いったぁぁぁ!!」で済む程度。
骨は折れないし痣も残らない。防具を着込めば殆ど痛みを感じない程に。
思い切りジャンプすれば月面にいるかのような大ジャンプも出来るのではないかと思う程だ。
だが、防具や身体が頑丈なだけであって、痛みに強くなった訳ではない。
横腹に槍が刺されば動けない程、叫ぶ程痛い。
私服で来た事を心底後悔している。
「ぁぁああああぁ……」
刺さった槍を抜こうとするが、
「ーっ!?」
靄に振りかざされた剣が太ももを深く斬る。
「とにかく……逃げないと!」
咄嗟の起点で自分の内側に雷の魔法陣を作るイメージで自分に電気を流す。
そして急いで走り出す。
剣に魔力を送って無理やり魔力の実体化が出来るなら、と思い咄嗟に自分の体でやってみた。
確かに上手くいった。本来じゃ出せない速度で走れた、というか最早瞬間移動。
案外なんとかなるものだ。
速くて前がよく見えないがとにかく逃げー
「くっ!?」
勢いのまま木に衝突する。瞬間移動の勢いなのか、木にぶつかったせいか、槍は腹部から抜けていた。
そしてさらに問題が1つ増えた。
自分自身に無理矢理魔法を流すと、身体への負担がやばい。
残念ながら人間の体に魔法の耐性は存在していない。
お陰で逃げ出すことは出来たが、雷魔法の痺れで、震えが止まらなくなった。
それも当然、雷魔法を生身で内側から喰らったようなものだ。
「はぁ……はぁ……」
身体が焼ける様に熱い。腹部が吐きそうなくらい痛い。意識もどれだけ持つかわからない。
視界的にも精神的にもお先真っ暗。
しかしついに、
「あれは!」
奇跡的に都市の防御魔法を見つけた。
「よし……っあれ?」
身体が動かない。
もう1度体に雷を纏わせ、体を無理やり動かし、都市に向かって走り出す。
幸い、靄の動きは早くない。むしろ遅い。ゾンビみたいな動きで不気味だが、怖がっている場合じゃない。
「武器持って攻撃当たらなくって何度でも蘇るって、ゾンビよりタチ悪いよ!」
なんて捨て台詞を吐き、急いで都市へ戻る。
こんな傷だらけの人が特急で門を通り抜けたのだ。門番や通行人はさぞ驚いただろう。
◯
「はぁ……はぁ……ただ……い……ま……」
ようやく家に辿り着き、安堵と同時に力が抜け、玄関で倒れる。
「お帰り……ってどうしたの!傷だらけじゃん!」
ボロボロのタクマを見て、マナが大慌てで駆け寄る。
走っている間に何発も攻撃当てられたし、木々に引っかかって服はボロボロだし。
槍が刺さった場所は痛いし、自分に魔法使って身体中痺れてるし。
生き残りたい執念が深すぎたお陰で家まで戻って来れた。
火事場の馬鹿力とは正にこの事だ。
「なんか、森に……!」
口が回らないからそれくらいの説明しかできないが、それで十分だったらしく、
「おい!この時間に森に行ったのかよ!」
ホープが驚き口調で声を荒げる。
「この時間の森、というか都市の外は危険」
コガネが2階から降りてくる。
「何ですか、はぁ……はぁ……あれ……」
痛みで呼吸が整わない。
「とにかく先に治癒魔法!」
マナが両手をかざし、詠唱する。
【治癒の力よ、その安らぐ暖かさと強大な癒しの力を持って、愛する友を救いたまえ、マスターヒーリング】
高位の魔法の為、詠唱には少々時間がかかるが、凄い速度で身体が癒えていく。
「で、何で森に行ったの!夜は魔物が活発になるんだよ!知らなかったの?」
マナが心配そうに問う。
「全然知りませんでした……」
こんな事が起こるって知っていたら好き好んであんな場所にはいかない。
「あの黒い靄って何なんですか?」
1番聞きたい質問。
「実態の持たない魔物だよ」
ホープが答える。
「実態を持つ魔物と持たない魔物がいるってのは知ってるよな」
「はい、知ってます」
この都市を覆うオーロラの時に聞いた記憶がある。
「それだ」
「どれですか!?」
わかっただろうみたいな言い方されても。
「夜にしか湧かない魔物だよ!」
今度はマナが答える。
「実態のない魔物は500年ほど前から現れる様になったって言われている異常種。対策方法は5属性以上の魔力を使った防御魔法。倒す方法はまだない」
コガネが続ける。
その為のあのオーロラって事らしい。
そういえばそんなことも言っていた。
「倒す方法ないんですね。もう地面から湧き出る様に出てきて、武器持って……もう意味わかんない」
「……なにそれ?」
コガネが何言ってんだこいつみたいな言い方をしてくる。
「なにそれって……その魔物が武器を持って襲って来て」
「武器?本当になにそれ!武器なんて持ってたの!どうゆう事!?」
今度はマナが声を荒げる。
「獣道を踏み外したら武器が散乱してて、それもって戦ってましたよ?」
そうだ、武器のことを報告しようとしてたんだ。
「俺たちも実態のない魔物と相対した事あったが、武器なんて持ってなかった。しかも森に武器が散乱してたって……?」
ホープの顔色が悪くなる。
「そんな慌てる様な事ですか?」
「当たり前だ!ただでさえ倒す方法がないのに武器なんて……本気で牙をむき出したらひとたまりもないだろう!」
怖い、ホープが怖い。
でも確かにそうだ。魔法で眩ます程度しか対策がないのだ。
「魔法が施されていない小さな村や町に湧いたら……今日、みたいなことが……」
「起こるかもな」
やっと事の重大さに気付いた。
「大変な事態だけど、重く受け止め過ぎる必要もない。そもそも夜にしか湧かないから。夜に危ないところに行かなければ無縁」
コガネはまるで我関せずとばかりに呟く。
「森に武器の散乱に実態のない魔物が武器を持って戦うなんて、嫌な報告だよ……な?ああぁぁぁぁ!エスの呼び出し!?」
ホープが珍しく大声で叫ぶ。
「あ、やっば!」
マナも思い出したらしい。
「……しまった」
案の定全員忘れていた。
「……とりあえず明日!全部明日!今日はもう疲れたからご飯食べて反省会して寝よ!」
疲れのない元気な声で話を終わらすマナ。
というか投げやりだ。




