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24話 ハグれた獣


 今日の依頼の場所もいつも行っている森。


「この森危険潜み過ぎじゃないですか?」

「え?そう?普通じゃない?」

 マナが不思議そうに返す。


 何回か依頼を受けているが、その殆ど、というか今のところ全部目的地がこの森だったりこの森付近だったりだ。


「行商人も使う商業路もこの森に作られてるのに、こんなに魔物だらけで危なくないですか?多少遠回りでも迂回した方がー」

「それはしょうがない。この森は都市から見たら横長だから。森を迂回してたらとんでもない日数かかる。それこそ誰も依頼を受けないくらいやばい日数……」


 おぞましい声で答えるコガネ。

 脅しですか?


「だとしても危険な森を通るよりましなのでは?」

 そうすれば襲われる事もないだろう。

「タクマ、少し勘違いしてるみたいだから教えておくよ。この森が危険なんじゃなくて都市が安全過ぎるんだ」


 タクマの言葉を否定して答えるホープ。


「え?どうゆう事ですか?」

 思わぬ返答に戸惑う。


「俺らは今まで結構いろんな町や都市、小さな村を回ったが、ネオンは他の町と比べて何処よりも安全なんだ。防御魔法を持続し続ける都市なんて俺はここしか知らない」

 タクマはネオンしか知らないため、驚きを隠せない。何処の町や都市でも同じだと思っていたのだ。

「じゃあ他の町や都市って」

「どうにか毎日防御魔法を繋ぎとめている、或いは数日に1回」


 ちゃんといろんな町を見てきたからわかる、ネオンがどれだけ安全な都市か。


 つまり他の町、特に小さな村は常に危険と隣合わせで生活しているという事だ。


「じゃあさっき言ってた危険な状態って……やばくないですか?」

 タクマの顔が青くなる。

「え?そんな事言ってた?」

 マナが首をかしげる。

「はい、言ってました……」

 思い返すように考え込む。


 のほほんとしていた3人の顔も一気に血の気がひいたように青くなっていった。


「やばい!急ごう!」

 全員魔力感知を使い、一気に駆け出す。





 暫く全力で走り続け、強い気配を魔力感知がとらえた。

「「「!!!!」」」

「いました!!」

 なぎ倒された木々に爪痕、五月蝿過ぎる雄叫び。

 正面から見た姿は思い切り羽の生えたライオンだ。


 翼がやけに小さい気もするが、そのあたりの質問はあとだ。


「マナとコガネは魔法の準備しておけ!俺とタクマで翼を落とす!!」


 ホープが急いで指示を伝え、コガネとマナが立ち止まり詠唱、ホープとタクマが駆けながら剣を抜きマンティコアに向かう。


「タクマ!避けろ!」

「はいっ!?」

 急なホープの指示に急いで避ける。


 ホープはタクマの反対に避け、2人の間を通るようにコガネのカマイタチが通過し、マンティコアに直撃する。


 指示がなかったらタクマが餌食になっていた。


 殺す気かよって思ったが、ホープが気付いてタクマに指示して避けているあたり、タクマがまだ周りと連携が取れていないという事が明らかだ。


 が、そんな事考えるのは後だ。

 注意はコガネに向いている。


 その間に一気に距離を詰める。


「はああァァァおりゃァァ!!」

 勢いよく剣を振り、両羽を切り落とす。

「「「!!!?」」」

「硬っ!痛っ!?」

 1発で斬り落としたが、思っていた以上に羽の根元に頑丈な骨があり、叩き折ったの方が正しく。


 正直そのまま切り落とせたのが不思議なくらいだ。


 そして、両翼を斬り落とされたマンティコアは悶え苦しんでいる。


「タクマ!ぼーっとするな!離れろ!」

 マンティコアの上から、まるで1本の炎の槍のように尖った、渦巻く竜巻が降ってくる。


「なんじゃありゃぁぁ!?」

 思わず降ってくる槍を見つめる。

「早く離れろ!!」

「すみません!?」

 呆気に取られていたが、我を思い出し急いで離れる。

「「!!!」」

 決着は一瞬だった。


 マンティコアは逃げる様子もなく、そのまま魔法の餌食となった。


「なんすか、今の……」

 唖然としながら死んだマンティコアを見つめる。


 腹部に巨大な風穴空いている。というかマナの魔法が強すぎたせいで風穴通り越して真っ二つに割れている。


「私の特大魔法!凄いでしょ!」

 後ろからマナが自慢げに言ってくる。

「ははは……やばっ」

 一撃ではないとは言え一瞬すぎて戦った実感がわかない。


「よし、帰ろう」

 コガネが来た道を戻り出す。

「え、燃やさなくていいんですか?」

「燃やすのは大きい魔物だけ。こいつは子供。大きくないからいい」

「なるほど」


 コガネも普段から今みたいにちゃんと説明すればいいのに。


「これが半分正解の正体だ」

「そういえば、さっき半分正解って言ってましたね。どうゆうことですか?」

 ホープの言葉を思い出し、そのまま疑問を投げると、

「元々マンティコアは家族で動き回る種族なんだ。でも、1匹で出てきたってことは?」

「えっと、迷い子とかですか?」

「もしくは、追放されたか。どちらにせよ、単独で動くマンティコアは、子供だけ」

 とのこと。


 強さはあるが、子供故脆く、武装した自分達に大きな被害を加えるのは難しいらしい。


「無事終了!私達もいこ!」

 1つ大きな伸びをして、マナとコガネが来た道を戻り出す。

「危険な状態って言ってたけど……」


 よく見るとマンティコアの口の中には木の破片が詰まっている。


「ギリギリセーフ?かな?」

 本当に何気ない動作でマンティコアを見る。


 戦いが一瞬すぎて気付かなかったが、マンティコアの口元は血が付いている。


「自分で吐いた血……だよね?」

 嫌な想像を無理やりせず、恐る恐る空いた腹部の中を覗いてみる。


 物凄い異臭に鼻を摘む。


 噛み砕かれた肉塊や骨の中に、明らかに人の手っぽい何かが。


「これって、まさか!」

 急いで魔力探知を使って周辺を探る。

 すると、明らかに魔力の残留が濃い場所を見つけ、大急ぎで走り出す。


 嫌な予感がする。


「おい!どうした、タクマ!」

「え、待ってタクマ!」

 タクマが皆んなと逆方向に走り出したのに気付き、後を追う3人。


 急に焦りが出てくる。一足遅かったらのではないか、口元の血はあそこに住んでいた村人の物だったら。


 不安にかられながら村に向かって走る。


 やがて、不安は確信に変わる。


 森を抜け、拓けたところに村があった。

 が、村があったのは既に過去の話。


 多くの家は半壊、もしくは全壊しており、人の気配はまるでない。道に倒れる人や、多量の血で溢れている。

 食いちぎられたように体の一部が欠けている人。

「はぁ……はぁ……これって」

 遅かった。

「どうしたタクマ……って、嘘だろ」

 ホープも村の光景に打ちのめされた。

「え、何これ……」

 マナが口を押さえ青ざめる。

「……!?」

 コガネも唖然と立ち止まる。


 皆が皆言葉を失い、暫く誰もそこを動く事が出来なかった。


「……」

 少しして、コガネは何も言わず、村の中に入って行く。

「あ!コガネ!待って!」

 それを歩いて追う3人。

 全員で簡単に村を歩いて周る。


 時々、ぴちゃっと音を立ててしまうのがかなりきつい。水溜まりでも踏んだのか、と思いたくても周りの光景が許さない。


「多分、今日の朝、だな」

 ホープが歩きながら話し出す。


「何がですか?」

「この村が襲われたのが」

「なんで、そう思うんですか?」

「この依頼、昨日出たやつなんだがー」

「昨日ギルドに行ってたんですね?」


 確か休みにしていたはずだが。


「やる事あったしな。で、昨日の時点では緊急性はあまりないって言われててな……」

 受付人に聞けば、そう言ったことも答えてくれるらしい。


「ごめんなさい。昨日休もうなんて言わなければ、こんな事には……」

 無性に罪悪感に飲まれていると、

「そんな意味のない謝罪はしなくていいよ!今私達がやるべき事は少しでも生き残っている人を探して手当する事!後悔なんて家帰ったらいくらでも出来るんだから、今はやるべき事をしよ!」

 いつの間にか隣に来ていたマナが答えた。


 こういう時いつも空気を良くしてくれるのはマナだ。マナだって後悔しているはずなのに。





 村を魔力探知を使って見て回ったが、子供から大人まで生き残りはゼロだった。


 文字通りの全滅。


「この村、どうするんですか。このままって訳にはいかないですよね?」

 ゲームや漫画ではいつのまにかどうにかなっているが、実際どうなるのかはわからない。


 いや、想像はついているが、考えたくないだけだった。


「焼き払うん……ですか」

「あぁ」

 ホープも返したくなさそうに返した。


 それはそうだ。このまま放置すればこの近くを通る商人から苦情が来る上、魔物の住処になる可能性がある。


 ならば全て無に返して木々の肥料にしたほうがいい。


 村の人達に誰1人知っている人はいない。


 前世だったら人が亡くなったニュースを見ても、殆ど何も感じなかった。

 いや、感じたとしても少し哀れむ程度だった。

 が、実際に人が亡くなった光景を見るのは、非常に怖い。


 呼吸も荒くなる。泣き叫びたくなる。我ながら今の状況でよく逃げ出さないと思う。よく取り乱さずにギリギリ平常心を保っていられると思う。


 でも、なんとかしないとという気持ちが何処となく溢れてくる。でも怖い、今すぐ逃げ出したい。

 混乱で頭の整理が出来ない。

「タクマ、大丈夫?」

「……はい、なんとか」

「顔色悪い。無理だけはしないで」

「俺らはもう少し回るから、風通しのいい方で休んできたらどうだ?」

 3人が励ましてくれる。


 こんな事されたら逃げる訳にはいかないでしょ。


「せめてこれだけでも」

 小さな民家の近くに咲いていた花、いや、唯一綺麗に咲いていた、生き残っていた花の方が正しいかもしれない。


 赤と白の一輪の小さな花だが、何もしないよりマシだと考え、村の真ん中に置く。こんな事しか出来ない。


「この花、元々真っ白だったのかな……?」

 コガネがタクマの置いた花を見つめる。

「多分」

 置花から滲むように赤い液体が少し広がる。多分、血だ。

「コガネさんって水魔法使えましたっけ?」

「使える、なんで?」

「この花についた血、洗い流してくれませんか?」

「お安い御用」


 簡単に詠唱を唱え、花についた血を洗い流してくれた。


「ありがとうございます」

 再び村の真ん中に置く。

 立ち上がり、大きく息を吸う。

 そして、頭を下げ、

「助けられなくて、ごめんなさい!」

 泣きながら大声で、綺麗になった花に謝罪する。

「ごめんなさい」

 横を見るとコガネも頭を下げていた。


 タクマとコガネの声は、虚しいほど村全体に響き渡った。





 村を出て、マナが村を覆う巨大な魔法陣を展開する。


 タクマとコガネが村の真ん中にいる間に、ホープとマナが村を細かく周り、報告しなきゃいけない事を概ねまとめてくれていたらしい。


「みんな、大丈夫?」

 マナの放った大丈夫の一言にいろんな意味が込められた。

 ホープは、もう報告する事を簡単にまとめ切れたか。

 コガネは、追って魔法をかける準備ができたか。

 タクマは、ちゃんと心に焼き付ける準備が出来たか。


「「「大丈夫」」」

 全員、準備は出来ている。

 後悔を、焼き払われる村と同時に心に焼き付ける。


【火の魔力よ、その炎で村を包み焼き尽くせ、ファイア】


 と詠唱を唱え、村が炎に包まれる。


【音の魔力よ、亡くなった者たちに安らぎの音色を贈りたまえ、バラード】


 コガネが詠唱を唱え、魔法陣から光が放たれるが、それだけ。本来なら人に使わないと特に意味のない魔法だが。


 何かしないと気が収まらないのだろう。


 村が燃え尽きるまで全員、その場を動く事はなかった。


 そして、


「帰るか」

 村がなくなり、魔法が途切れたタイミングでホープが村に背を向け歩き出す。


 追って3人もついていく。


 それぞれが責任を感じ、マンティコア討伐は成功で幕を閉じた。

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