23話 果たせなかった
「しまった……果たし状。渡し忘れた」
疲れきって昨日の服のまま布団に倒れたまま翌日を迎えたお陰で、ポッケの果たし状の存在に気付き損ねた。
急いで階段を降り、リビングに向かう。
「あ、おはよう!タクマ!どうしたのそんなに慌てて?」
既にマナが朝ごはんの準備をしていた。
「これ、昨日渡し損ねて……」
とマナに果たし状を渡す。
「あぁぁ……うん!これはホープに渡して!私宛じゃないだろうし!」
え?
「明らかにホープさんに全投げしたよね!」
「タクマ!気にしちゃダメ、いいね!」
「……」
「い・い・ね・?」
「……はぃ」
そんなにヤバイものなの、果たし状って。
いやこんなの渡す新人の方がヤバいか。
勿論ノウンの事だよ?
「……そういえば、昨日僕が居なくなってからエスさんの話ってどうなりました?」
「……」
一瞬マナの顔が曇る。
「うん、何事もなく進んだよ!今日少しだけエスの所に足運ばなきゃだけど、それだけ!だから気にしないで!」
「そうですか?」
だいぶ顔に出てたから何かあったのだろうが、まぁ触れないでおこう。
「おはよう」
都合よくホープ登場。
「おはようございます。昨日ヘビーナイトのノウンからこれもらいました。僕これからシャワー行くのでお願いします」
早口で逃げる様にシャワーに向かうタクマ。
もう厄介ごとと察してしまっているため全部なすりつけることにした。
「うわぁぁ」
とホープの呻き声が聞こえたが、聞こえなかった事にしてシャワーに行く。
「おいマナ!」
「私料理で忙しい!」
「コガネ……は無理か」
「どうするのそれ!」
「どうするも何も……どうしよう」
なんか凄い聞こえてくる。
「おいタクマ!これお前が受け取ったものだろ?」
「ホープさん擦り付けはいけませんよ!」
「お前が言うな!!」
「まぁまぁ、ここは造花の代表としてホープさんがが頑張るしかないでしょ!」
「ホープが対人戦嫌いなのは知ってるけど、ここは踏ん張りどころだよ!」
「お前何言ってんだ?どこに踏ん張る要素があるんだ!?」
マナはタクマの味方してくれている。
勝ったな。
この世界の果たし状がどれだけ厄介な代物か知らないが、擦りつけられたからなんでもいい。
◯
果たし状は受けるらしい。というか受けなきゃいけないらしい。
ただの果たし状なら蹴っても良いが、魔力の込めた、特殊な果たし状だったのでこっちも相手もそれなりの覚悟が必要。
らしい。
らしいばかりだけど知らないんだもん。
マナ以外の3人はだいぶゲッソリしている。というか何故マナはご機嫌なのだろうか。
向かう場所は昨日ヘビーナイト達と会った訓練所。既に全員の姿があった。
「こんにちは」
憎たらしくもノウンが挨拶する。
相手も相手でノウン以外げっそりしている。
ノウンはノウンでボコボコにされた後がある。
「ザザさん……これって」
タクマがザザに質問しようとすると、
「お察しの通りさ。ノウンが独断で仕掛けたものだ。まさかこんな面倒な物だとは思わなかった。すまない」
明らかに元気のなさそうなザザが謝る。
「えっと、なんなんですかこれ?」
ただの手紙にしか見えない。
「普通の果たし状、というか普通の手紙なら問題ないんだ。が、こういう魔力の籠った物は賭け事に使われるんだ。で、基本的に開封したことによって成立するもので、今回ノウンがタクマに渡して、開封したことによって成立してしまった、という事」
ホープが懇切丁寧に教えてくれる。
本来なら互いの合意で受け取るものなのだが、拓真が何も知らないのをいい事に受け取らせたという事だ。
「やってくれたなマジで……」
貴様は詐欺師か何かに転職してはどうだ。
「まぁ、なんだ。束縛の魔法がかかった手紙って認識でいいんですね……」
なんてこった。
「本当にマジでやってくれたな!?」
無知は罪とは言うが、騙し方に悪意がありすぎる。
「でもそれって卑怯じゃないですか?知らなかったのに!」
「……まぁ、これから学んでいこうな?」
苦笑いで返すホープ。
マジすみません。
因みにその果たし状は下の雑貨店で売っているらしい。
本当にふざけていやがる。なんでこんなもの販売してるんだ。
「本当に申し訳ない」
何度も何度もザザが頭を下げている。他のメンバーも気まずそう。
実際ノウン以外は私服で満更戦う気はなさそうだ。ノウンは完全武装。
無数のたんこぶの後は、おそらくメンバーにやられたのだろう。ノウンは名誉の負傷と言わんばかりの顔をしている。
「……タクマ」
コガネが“魔法で壊せ”と無言の圧をかけてくる。
「はぁ…ちょっと貸してください」
果たし状を貰う。
魔法は使いたくないから、魔力を帯びた剣で切ろう。
果たし状を地面に置き、剣を突き立て、
「えいっ!」
なんとも締まらない声で刺す。
まぁこれで魔法の効果壊れるだろうとの判断だ。
予想通り手紙から“パリン”と音がして、ただの紙に戻っている。
この魔力便利だな。
「え?嘘!?」
「凄い!何!」
ヘビーナイトの皆んなが驚いている。
ノウンを除いて。
「嘘、僕の果たし状……」
ノウンだけ絶望していた。
「勝ったな!」
2勝0敗、もしかして優秀か?
「さて、依頼見に行くか、じゃな!」
全てが無に還ったと見計らうやいなや、訓練所を後にする造花。
本当にノウンは何がしたかったんだ?
「ねぇマナ?」
「ん?何、ネイヴィス?」
マナだけ引き止められる。
「あの子、タクマ君って剣士……何だよね?」
「そうだよ?どうして?」
「あんな莫大な魔力待ってるのに何で剣士やってるんだろうなって。魔導士になったら誰も勝てなさそうな力持ってそうなのに……」
「あー、彼ね、詠唱が唱えられないの!」
「なんで?」
「さぁ、じゃあね!」
ちょっとした会話を済まし、マナも後を追う。
◯
「よし!張り切っていきましょう!」
やけにテンションが高いマナ。
「マナさん、何かいい事ありました?」
ニッコニコのマナに尋ねると、
「わかる?ここ来るとき新しい服が並んでるのが見えたからね!早く依頼終わって買いに行きたいんだ!」
超ウッキウキだ。
「服もいいが、それはエスからの呼び出しを済ませた後な。」
「はーい、ふふっ!」
ご機嫌そうで何よりです。
「さて、何か簡単そうなのはっと!」
マナがタブレットを高速スクロールさせる。
元気すぎやしないか?
適当に止めたところで目に入ったのが、
《羽の生えた猫に襲われた》
「猫に襲われるって……あ!」
半ば呆れる前に答えを思いついた。
「マンティコア、ですかね。」
「半分正解かもな」
この世界の、多くの魔物は割と伝承や言い伝え通りの姿してる。
今までもそうだ。鬼の顔をした小さいモンスターのゴブリン、二足歩行の、豚イノシシ顔のオーク、襟を持った巨大なミミズのワーム。
伝承通りでいけば、羽の生えたライオンだろう。少なくともネコではない。いやネコ科だけれども。
「え、半分?」
もう半分について聞こうとした時、
「これにする。異論は認めない」
珍しくコガネが強引に押し切る。
いや待って難易度は?
「コガネどうした?やけにご機嫌ななめだね?まさか、振られ……って痛い!?」
ご機嫌なマナがご機嫌ななめなコガネを煽る。そして叩かれた。
「全然違う。何で朝起こしてくれなかったの?」
「え、起こさなかったので怒ってるんですか?」
大分意味がわからない。
タクマどころか2人とも理解していない。
「朝のゴタゴタ私も混ざりたかった」
「「「……」」」
朝のゴタゴタ。タクマが渡し忘れた果たし状のゴタゴタ。
確かにコガネは睡眠中で混ざっていなかった。
「それだけ……ですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「なんか、仲間外みたいでヤダ……」
コガネが頬を膨らませている。
え、何この子可愛い。
「コガネェェェ!!」
「え!?」
マナがコガネに飛びつく。
そして抱きつく。
「妬いちゃったの?嫉妬しちゃったの!可愛いなぁもう!!」
マナが愛犬を愛でるようにコガネを撫でる。
「……」
コガネが頬を膨らましたまま、何も言わずにタクマとホープを見ている。
「ホープさん、コガネさんが仲間になりたそうにこちらを見ています。仲間にしますか?」
人間相手に言うとは思わなかった。
「はぁぁ……」
ホープは頭を抱えてため息を付いている。
「タクマ、謝っとけ!」
「無視ですか!?あと謝るの僕だけですか!?ホープさんは!?」
「俺も後で謝る。だからタクマは先に謝っとけ」
「タクマ……?」
なぜ後でなのか。
コガネもずっと見ている。すっごいつぶらな瞳で見てくる。
味方はいなさそうだ。
「……仲間はずれにしてごめんなさい!」
はは、小学生だな。
「……」
コガネは笑いを堪えている。
やっぱり全然可愛くなかった。
「いいもの見た。満足。依頼やろ」
コガネがにこやかにマンティコアの依頼を承諾する。
「あれ、タクマどうしたの、そんなしかめっ面して、可愛い」
コガネがにこやかな笑顔で尋ねてくる。
「何でもないです。コガネさんは本当にこれっぽっちも可愛くないですね……痛っ!?」
煽り返したら殴られた。
「女の子に可愛くないなんて最低だ!ホープもなんか言ってやって!」
「おおぉ!?俺に来たか!ええっと……」
「よし!行きましょう!」
全ての会話を遮って1人ギルドを後にする。
「ちょっ、タクマ置いてくな!」
続けて3人もギルドを後にする。
依頼内容が決まり、マンティコア討伐に向かう。場所は森の西側の小さな村の近く。
どうやら非常に凶暴な状態らしい。




