14話 vsゴブリンキング
巨大なゴブリンに向かい走り出す。
恐らく叩きつけれる範囲に入ったら殴られて死んでしまうので、拳を振りかざした瞬間に避け、背後に回り込み心臓を刺すという誰でも安易に思いつきそうな作戦でいく。
完全に机上の空論だが、それが案外上手くいくのが異世界であり、転生者の特権だ。利用するほかない。
が、やはりここはそう上手くいかない異世界らしい。
まだあまり近付いていないのにタクマ目掛けて思い切りパンチするゴブリンキング。
「!?」
全然ゴブリンキングの拳の射程範囲外だと思ったが、思わず左に避ける。
危機感が働いた結果なのか、それが大正解だった。
キングの拳から空気砲みたいな何かが走り、砂は巻き上げ、岩は砕け散り、何か爆発でもしたのかと思うくらいの音と衝撃が地面を走った。
「……マジで?」
キングの拳の後を唖然と眺めるタクマ。
「タクマ!気を抜くな!!!」
「は、はい!?」
ホープの声で反射的に体に緊張が走り、ゴブリンキングを見据え、再び剣を構える。
既にゴブリンキングはタクマ目掛けて殴ろうとしていた。
「くっ!?」
衝撃に襲われる前にまた左に避け回避する。
「威力やばいけど……」
大振りだから避けるのは苦ではない。
再びゴブリンキング目掛けて走り出す。
何度もパンチし、それを避け、それの繰り返しで一向にキングとの距離が縮まらない。
「!!?!」
攻撃が当たらないじれったさにキングが地団駄を踏むと、
「ちょ!?」
地面が揺れ、バランスを崩し、思い切り尻餅ついて倒れる。
「!!!!!」
思い切り拳を振りかざすゴブリンキング。
「やばっ!」
体が萎縮し、動かない。
思わず目を閉じる。
◯
「お疲れ様、タクマ!」
いつの間にかホープに担がれていた。
「え、あれ!?」
どうやらゴブリンキングの攻撃から守ってくれたらしい。
1分も経たないうちに、タクマは事実上敗北したのだ。
「……ごめんなさい」
「別に謝る事じゃないさ。で、戦ってみた感想は?」
「その前に下ろしてほしいです」
「あぁすまん!?」
地面に足をついて、自分が震えている事がわかった。
腰が乗らないし、急に汗が出てきた。
「で、どうだった?」
タクマの背中を軽く叩きながら聞いてくる。
「……死ぬかと思いました」
結局かすり傷1つ負わせるとこが出来なかった。
助けてもらえなかったら真正面から攻撃を喰らっていただろう。
「そうか。あとは俺に任せな」
それだけ言って剣を抜くホープに、
「いや、まだやれます!」
タクマも剣を構え、キングを見据える。
「!!!!!」
2人に目掛けて拳を振りかざすキング。
震える足を強引に動かして跳躍で避け、
「まだやれます、でも倒し方だけ教えてください!」
なんとか着地。体の震えが止まらないせいで片膝ついたけど。
「タクマ、無茶する必要ないんだぞ?」
「大丈夫です!」
「嘘つけ、絶対大丈夫じゃないだろ!自分で震えてるって気付いてるだろ?」
「……」
黙り込んでしまった。
正直全く大丈夫じゃない。
「タクマ、どうしてそんなに焦って強くなろうとする?」
「別に強くなろうとしてるわけじゃないです。ただ、悔しいだけなんです」
泣くのを我慢する様に唇を噛み締める。
「3人とも強くて、冒険家の仕事しっかり理解して、それでもずっと続けてて……昨日の事思い出すと、今日の依頼も本当は怖くて、甘い覚悟で冒険家やろうとした、自分がバカみたいで」
今にも泣き出しそうにポツポツと言葉を刻む。
「あのなぁ、冒険家になって1日しかたってない奴のセリフじゃないぞ、最初は躊躇って当然なんだからさ」
「でも!」
「でもじゃない。そんな最初から腹括って魔物討伐出来る奴なんていないよ。新人は、最初は守られながら戦うのが当然なんだからさ」
「……わかり、ました」
「タクマ、冒険家を続けていくなら知っておかなきゃいけない事だ。相手が魔物とはいえ、俺らは命のやり取りをしているんだ。だから無理しなくていい。辞めたくなったら辞めてもいい」
「……」
「俺が言いたいのは、何事も、無理をする必要はないという事だ」
「……はい」
「それでも続けるなら1つ覚えておけ、1番怖いのは、魔物を倒す事に快楽を覚える事、命を奪う事に躊躇いが無くなる事だ。だから、タクマが感じた怖いって気持ちは絶対に忘れるな」
タクマの背中を摩りながらホープが話す。
「はい」
「それに、なんの為にギルドが3人以上で1組のパーティを規則としているか忘れたのか?」
「1人で先走る人を、無くす為……正に今の僕みたいな人を無くす為ですね!」
思わず自分を鼻で笑う。
他の異世界のイメージが強すぎて、先走りすぎていたのかもしれない。
平気で魔法を複製するスマホの世界、スライムに転生したのに最強になる世界。
そんな世界に憧れを抱きすぎていたのだ。
そんな憧れ、とっとと捨てて、この世界の生き抜き方を学ばないと、生きていけない。
「ホープさん、あの巨大なゴブリンを倒すの、手伝ってください!」
「任せろ!」
剣を構え、キングを見据える。
「話終わった?大丈夫?」
巨大なゴブリンを牽制しながら尋ねるマナ。
2人で話している間、マナとコガネはキングを痛めない程度にずっと抑えていたらしい。
それも息一つ切らす事なく。
こいつらやべぇわ。
「もう大丈夫です、ありがとうございます!」
「じゃあ客席に戻るね」
マナとコガネが杖をしまい、岩に腰掛ける。
「!!!!!」
巨大なゴブリンはマナとコガネに弄ばれていた事にご立腹な様子だ。
岩に腰掛けた2人に向けて拳を振りかざそうとしていた。
「はぁ!?」
ホープがキングに斬撃を飛ばす。
「!!?!?」
思わずといった様子で男2人を見つめる。
「さてタクマ、さっきどうやって倒すか聞いてきたが、逆にどうやったら簡単に倒せると思う?」
「どうって……」
遠距離で戦おうにも、今飛ばした斬撃の傷はかすり傷程度にしか見えない程浅く、というか剣士が遠くから戦うのは無理がある。
近づこうとすれば、拳からの衝撃で阻まれ、無闇に近づけない。
「わかんないですね……」
「ヒントは、ゴブリンキングの習性だよ」
「習性なんてわかんないので早く答えください」
「もうちょい考えろよ」
「昨日一昨日冒険家になったばかりの人間が魔物の習性なんてわかる訳ないじゃないですか?」
「あー、すまん」
「というか、キング一向に殴ってこないですね?」
さっきから呑気に話しているのに襲ってこない。
「まぁこれも習性の1つだよ。攻撃しても俺らが避けられる距離にいるからな。無駄にエネルギー使わずに詰めてくるのを待ってるんだ」
「ゴブリンの癖に賢いですね。で、どうやって倒すんですか?」
「全力で、背を向けて逃げろ」
「敵前逃亡ですか!?戦うんじゃないんですか!?」
思わず声を荒げてしまった。
「まぁ落ち着け!後ろに向かって全力で逃げれば俺らの正面に飛んでくるから、タイミング測って首狙えば倒せる」
「?」
首が捻れるんじゃないかと思うほど傾げる。
「奴は自分より弱いと判断した相手には弄びながら戦うからな。俺らが全力で逃げれば、ゴブリンキングは自分より弱って判断して弄ぶ様に戦うんだ。その隙をついて倒すって事だ」
「やっぱゴブリンって単純ですね、わかりました!」
ということで、2人は剣をしまい、
「走れぇ!」
ホープの声と同時に、キングに背を向け思い切り走り出す。
「!!!!」
全力で逃げてる2人に向かって信じられないくらいの跳躍を見せて、逃げる2人の目の前に立つ形になって着地する。
「!!!!!」
ニヤニヤしながら空に向かって叫ぶゴブリンキング。
完全に2人を視界に捉えていない。
というか思い切り上を見上げて叫んでいる。
「タクマ今だ!!」
「はい!」
剣を引き抜き、ゴブリンキングの首元目掛けて飛ぶ。
そして、
「はああぁぁ!!」
「!!?!?」
刺さった剣は、キングの喉を貫通し、血を吐き、悶え苦しむ様子もなく、仰向けに倒れる。
「はぁ……はぁ……やった」
口ではやったと言ったが、全然笑えていないタクマがいる。
「お疲れ様、俺の手助けは必要なかったな」
「そんな事ないです、ホープさんがいなかったらコテンパンにされてました。ありがとうございました」
「念のため、もうわかってると思うが、1人で頑張るなよ。なんの為にチーム制を取ってるか考えろよ」
「あはは、流石にもう理解しました」
昨日ほど辛い日はないだろうし、今日ほど苦しい日も訪れないだろう。
「お疲れ様!」
マナとコガネが歩いて2人の元へ来る。
「お疲れ様です、ご心配おかけしました」
「ううん!無事で何よりだよ!」
「これからは1人でやろうとしない事。また痛い目みるよ」
コガネは淡白な口調だが、それなりに心配してくれていたらしい。
「本当に気をつけます」
最後は呆気なく倒せたが、1度敗北している身なのででかい口は叩けない。
「よし、帰ろ!ホープ、報告は任せた!」
「帰りましょ、疲れました、ホープさん報告お願いします」
「早く帰りたい、ホープ、報告お願い」
「お前らなぁ……」
そんな感じでギルドに戻り、報告が終わる頃には日はだいぶ傾いていた。
◯
家に戻り、各々好きな時間を過ごし、いつの間にか夕方になっていた。
「さて、夕飯ですよ!」
マナ、コガネ、ホープが1階の今に集まっている中、タクマだけが部屋から来ない。
「タクマ来ないな?」
ホープが天井見上げながら呟く。
「私、ちょっと行ってくる」
悪い笑みを浮かべながらコガネが2階に向かう。
「あらあらあらぁ〜、コガネは今日の朝の復讐するつもりかな?」
マナも笑いが止まらない様子。
が、直ぐに戻ってきた。
「あれ、タクマは?」
少し心配そうな顔をするホープ。
「寝てた。相当疲れてるんだと思う」
コガネは親切で起こさなかったようだ。
「そっか、やっぱり無理してたんだね!」
「今日で張り詰めてた糸も少し緩くなったかな?」
マナとホープはどこか嬉しそうだ。
「タクマが来てまだ3日目なのに、3人で食卓囲むの久しぶりに感じるな?」
「その内また4人が当たり前になるよ!」
「タクマなら、直ぐ馴染む。だってリラに似てるもん」
3人は今はもういない仲間の人物像をタクマと照らし合わせていた。
そして、また次の日が訪れる。




