25.民の声を聞いた聖女様、勇者と戦う
ディマンドの扱いをどうするか? これを決めるまでには、一週間ぐらいかかかるそうだ。
旧王族と現勇者王のどちらを支持するかだけじゃなく、トンデモな魔物のこともあるからね。
ちな、使者の二人からは、トンデモな魔物の情報を一切得られませんでした。
お飾りの団長も、有能な副官も、知らないって言い切ったからね。
万人向けで王道なRPGならともかく、現実世界でそれをそのまま信じられるかというと……。
とりま、国の方針が決まるまで、ただ待ってるのは暇――じゃなくて、聖女を待ってる街はたくさんあるから、私は地方巡業を再開した。
瞬間移動魔法の鳳凰天駆と、高速飛行魔法の鳳翼天翔のおかげで、移動効率は超アップ。
転移門で領都や王都に戻る手間が省けるのは、大きいよね~。
ということで、地方巡業再開二日目の今日。私はディマンドにほど近い小国との国境の街にやってきました。
門の前には難民っぽい親子三人。ペコペコしながら門番と話してます。
対する門番は慣れた感じ。この街には、それなりの数の難民が来てるんだろうね。
え? 街の名前や隣接してる国の名前は説明しないのかって?
ここはダクキンダム領の国境の街・モルガよ。
小国の名前? それは聞いてません! だって、滅びてるかもしれないからね!
うん。ディマンドの勇者王ってば、配下の勇者を周辺国に差し向けてるらしいんだ。
目的は不明。友好の使者かもしれないし、侵略なのかもしれない。
情報源は、使者の二人。信憑性は、冒険者の噂話レベルだ。
なので、そこらへんも含めて、エリシュは独自に情報を集めてるところらしいです。
国としての対応を決めるのに、時間がかかるのも当然なわけですよ。
あ、親子の手続きが終わったね。
「オラオラ、どけどけ! グフッ」
いきなりっ! 背後から粗暴な野郎の声。擬音は省かれてるけど、ソコソコ大きな何かが、地面に落ちたような音もしたね。
振り向くと、エリシュじゃ見かけない鎧を装備した冒険者が、無様に尻もちをついてた。
これは……私を突き飛ばそうとして、200%反射をくらったっぽいね~。ざまあ!
しかし、なかなか強い奴が後ろに来たのはわかってたけど、まさか門番が見てる前で手を出してくるとは思わなかったよ。
はい。私の気配感知じゃ、相手が何をしようとしてるかまでは、わかりません。
「て、てめぇ……、何しやがった!」
コケたままで凄む冒険者。
こいつ、使者の団長より強いのに、私を見下してる! エリシュでそれだけ強い人は全員、私の強さに気付いたというのに……。ある意味、レアな存在だね~。
この場面、聖女姿だったら「天罰でも下ったのでは?」と返すところだ。でも、今の私は冒険者姿。
となると、見くびられたら終わりってことで。
「何もしてないわよ。貴方、私が怖くて目をつぶっちゃったのかしら? だったら、何が起きてもわからないわよね~」
そう言いながら、無詠唱で氷弾を連射。冒険者を型抜きしたみたいな弾痕が地面にできた。もちろん、軽くかすらせた両頬には、じんわりと血が滲んでます。
うん。私、戦闘民族の血を、しっかりと引いてるね~。
冒険者は顔を引きつらせ、いろんな液体を垂れ流しながら逃げ去った。
うーん。無用な争いを避けるためには、ある程度の強さを滲み出させた方がいい気がしてきた。
あ、でも、半端に強いと思われると、逆に舐められるから、結局は同じことか……?
「いや~、助かりました。あいつには、街中が困ってたんですよ」
門番が心底ホッとしましたって感じで声をかけてきた。
ふむ。これは王女として、話を聞いておく必要があるわね。
☆ ☆
ま た お 前 達 か!
話を聞き終えた私は、そう叫びたくなった。
ああ、うん。カラクリコの弱々勇者ズとは別人だってことは、よ~くわかってる。
でもね、勇者って一括りにしたい気持ちでいっぱいなんだよ!
さっき私に絡んできた冒険者はキガーン。なんと、驚きのSランク!
もう一人のSランク冒険者ガロベンと二人で、三日前に国境の街に現れたとのこと。
で、二人とも、勇者を自称してるんだ。
勇者が総合力判定を受けたら、間違いなくSランクになると思う。
そして、キガーンの強さはエリシュでも騎士団団長レベル。マジモンの勇者には程遠いけど、冒険者ならSランクでも通る強さだ。
そりゃあ、相手の力を漠然とでも感じられない一般人は、二人は勇者だと信じるよね。
で、それをいいことに、二人はやりたい放題。
ノックもなしに民家に上がり込み、タンスやツボに隠してあるヘソクリを奪う。
宿屋や兵舎の部屋の鍵を勝手に開け、金目の物を根こそぎ奪う。
ボロボロになった武器や防具、干からびた薬草や使用期限切れのポーションなんかを、標準小売価格の半額で売りつける等々。
ゲームの中なら「そんなもんだろう」で許されることを、現実にやっちゃってるんだ。
まったく、勇者がこんなに迷惑な存在だなんて、全然想像できなかったよ!
こいつらを王都に入れたら、ましてや王城に入れたりなんかしたら、文化財やら国宝やら、ごっそり持っていかれるわ!
というわけで、パチモンの勇者には、早急に退場してもらおう!
どこから退場させるのかって? 無論、この世からよ。
ただ、自称勇者じゃなくて、Sランク冒険者並みに弱体化したマジモンの勇者だったら、メッチャ厄介なんだよね。
殺しても復活するし、完治魔法で真人間になるとも思えないし。
それになにより、こいつらを救いたいとは1ミリも思えない。同じ回復系魔法をかけるなら、過剰回復魔法を使いたい!
私がカラクリコの勇者ズを解呪したのは、彼らが悪事を働いたわけじゃないからよ。
大勢で押し寄せたから、結果的に迷惑行為になった。でも、それは彼らの責任じゃない。
一方、こいつらは犯罪者。不法侵入に窃盗、それに押し売りは確定。なんなら強盗もやらかしてる可能性がある。
目撃者も多いから、見つけ次第処罰で全く問題ない。
私はパチモンの勇者二人を断罪するため、国境の街に滞在することにした。
☆
「来たわね」
門番を手伝ってる私の気配感知に、強者の反応が現れた。そのすぐ側には、なかなか強い反応もある。
強者がガロベン、おまけはキガーンで間違いなさそうね。
程なく二人の姿が見えた。
さっきとは違う鎧を装備したキガーンと、漢なのに武闘のレオタードを装備してるガロベン!
いや、話は聞いてたから、覚悟はあったよ。
でもね、実物を見ると、結構くるよ……。
「おう、お前がワシの兄貴分に恥をかかせた冒険者か?」
実に漢らしい声で凄むガロベン。
だから、そのコスは勘弁してください! 全部台無しなんですよ!
それはそれとして、こーゆータイプって、こっちが黙ってると、好き放題言いそうよね。
だったら、やられる前にやっちゃおう!
「兄貴分って、隣にいる怖がりなお漏らし男のこと? 私が怖いから正面から文句を言えなくて、おまけに軽く魔法を使って見せただけで漏らすんだから、そりゃあ、恥ずかしいわよね。それで、弟分に頼んで仕返しに来たのかしら? それも恥ずかしいわよね。あんな醜態さらしておいて、よくまあノコノコやってくるものね。あっ、そうか! 今度はオムツを履いてきたんだ。だったら、多くても安心ね……」
「えーーーい、黙れ黙れ!」
裏返った声でキガーン。枠線が太い時代の漫画なら、頭に湯気、真っ赤な顔のそこら中に、怒りマークがついてそうだ。
まあ、こいつはうるさいだけの雑魚。放っておいても害はない。見逃すつもりもないけどな!
一方のガロベンは黙して目を閉じ、静かに闘気を高めてた。
「口ではお前に勝てそうにないな。漢なら、拳で勝負だ!」
カッと目を見開き、ガロベンが言い放った。
いや、私、女の子なんですけど……。
「!」
カロベンが縮地! ソコソコあった距離を一瞬で詰め、絶妙の間合いから右の裏拳!
私はそれをダッキングで回避! その体勢から左のショートアッパーを下あごに寸止め!
ギョッとしたガロベン!
その隙に私は右手でデコピン! ガロベン、思いっきり吹っ飛ぶ!
たかがデコピン、されどデコピン。
スキルで弱体化してる相手に、カンストしたSTRが倍マックスしてる私が使えば、当然の結果よ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
終りの方でちょこっとだけバトってますが、本作のバトルは、基本短いです。
文章だと1ページ埋められるけど、漫画だと1コマか2コマってレベルですね。
それと、明日も投稿できそうです。




