24.瞬間移動したい聖女様、漫画を参考にする
国境の街で勇者を解呪すること四日で30人。
二日様子を見たけれど、もう棺桶は飛んでこない。
これで勇者禍もひと段落したかと思った七日目の朝、新たなトラブルがやってきた。
私の気配感知に、騎士団副団長級の反応が二つ。
これは……。
ふむ。馬に乗った人間が、ディマンドの方からやってきてるっぽい。
ディマンド全滅って可能性は、これで無くなったね。
見た目聖女の私が出向くのは如何なものかと思ったけど、最高戦力なんだから行かざるを得ない。
外交でもなんでもそうだけど、ファーストインパクトは大事なんだよ。
私が門に着いたのは、馬上の来訪者が名乗りを上げるタイミングだった。
ガタイがいいからか、声が無駄に大きい。
「我輩はディマンド王国近衛騎士団、団長のルーベウス! 後ろは副官のエスメロウド! エリシュに援軍を頼みに来た! 領主に取り次いでくれ!」
ほほう。近衛騎士団のトップが自ら出向いて援軍の要請ですか。で、副官は女性だね。はい。私の気配感知じゃ、知らない人の性別まではわかりません。
二人の身なり、門番の態度、そして強さ。本物で間違いないだろう。
つまり、そこそこの身分の持ち主なわけだ。
でも、馬の上からこの言い草。人にものを頼む態度じゃないよね?
まして、ここは他国。王女として見過ごすわけにはいかないわ。
私は彼らに歩み出て、王女モードで告げる。
「それが他国に援軍を頼みに来た者の態度ですか! まず、馬から降りなさい! それができないなら、この場から立ち去りなさい!」
「なっ! 我らは国お……」
バキッ!
ドザッ!
……。
無茶しやがって……。
ハッ。
私、唖然としながら、目の前で起きた光景を見てました。
えーーーっとだね、何が起きたかというと、だね……。
まず、私を見とがめた副官は、私が何か言うよりも早く馬から降りて、跪いた。
一方の団長は、それに全然気付いてない。
で、私が件のセリフを吐いた。
それに言い返そうとした団長を、副官が実力で黙らせ、馬から引きずり下ろした。
と、そーゆーわけだ。
はい。団長は無様にのびてます。
これって、団長はソコソコ強いだけのお飾りで、副官は実力者ってことだね。
「大変失礼いたしました! 先ごろ聖域から戻られたティアーユ王女殿下とお見受けしましたが、相違ございませんでしょうか?」
おお。副官マジ有能!
エリシュの王女が龍の聖女として聖域から戻ったことは、秘密でもなんでもない。
まず、私が聖女だってことは、神託があった日のうちに、世界中に公表されたそうだ。王族から聖女が出るなんて、世界中にマウント取れるぐらいの名誉だからね。
そして、私が龍の聖女になったのは、その日に聖域にいた者なら、誰もが普通に知ってること。つまり、各国の教会の上の方も、そのことを知ってるわけ。当然、各国の上の方も、知ってるだろうね。
でも、見ただけで私の強さを見抜いて馬を降り、自分たちに対する態度から私の身分にまで思い至れるのは、有能としか言いようがない。
「ええ、相違ないわ。私はティアーユ。発言を許します。続けなさい」
「はっ、ありがとうございます。私はディマンド王国近衛騎士団で副官を務めますエスメロウド、見苦しい姿をさらしておりますのは団長のルーベウス。貴国に援軍をお願いいたしたく、罷り越しました」
「わかりました。教会で話を聞きましょう。誰か、先触を」
☆ ☆
会談の場に教会を選んだのには理由がある。
それは、建物の造りが世界中でほぼ共通だから。
つまり、領の財力なんかを推測されにくいわけ。
礼拝堂のサイズで人口はわかるだろうけど、ここは地方都市。常駐してる兵士の数がバレなきゃ問題ない。
ついでに、内装にケチをつけられないってメリットもある。
話を聞くのは礼拝室。
部屋の奥には神像がある。お悩み相談にも使われるので、机と椅子もある。
つまり、神様の前で話をする形になる。
神様の前では隠し事をせず、嘘偽りなく話すというのがインキビットじゃ暗黙の了解になってる。実際に守るかどうかは、個人の自由だけどね。
「では、話を聞きましょう。我が国に援軍を求めるとは、貴国はどうなっているのです?」
本来答えるべき団長は、他国の王族と話すのが苦手なのか、黙ってる。
あ、助けを求める目で副官を見たよ。
「申し訳ありません。ルーベウスは説明が絶望的に下手なのです。僭越ながら、私が代わりに説明させていただきます」
「わかったわ。続けてちょうだい」
「はい。実は、ディマンドは……、勇者に国を奪われました!」
なん……だと……!?
☆ ☆
使者の二人を教会に任せ、私は王都に戻ることにした。
いや、ディマンドの援軍要請が瘴気に関するものだったら、私の裁量で対応できたんだよ。
でも、国が乗っ取られて王族からSOSなんてのは、私が勝手に対応していい問題じゃない。
父上に報告して、国の方針を決めてもらわなきゃ。
ディマンドがそうなったのは、ハッキリ言って自業自得。
勇者を次々と召喚してたら、そのうちの一人にクーデターを起こされたそうだ。
つまり、国境の街に迷惑をかけてた勇者の出どころは、予想通りのディマンドだったってわけ。
そんなことをしでかした王族を助けるのか? それとも件の勇者を新たな王と認めるのか?
それを決めるのは、私の仕事じゃありません。
それと、もう一つ。
ディマンドで勇者を召喚してたのは、「マルクト聖国の方から来ました」と言って現れた預言者だ。
これは天の助けとばかりに、ディマンド王家は預言者を受け入れた。
預言者は次々と勇者を召喚。勇者は次々と魔物を倒す。それで国民が安心し、瘴気が幾分マシになったらしい。
ここで大事なのが、聖国がディマンドに救いの手らしきもの――預言者――を差し伸べてたという事実。
私がいなかったら、エリシュも同じ運命をたどってたかもしれないんだ……。
勇者のクーデターまでが筋書きだったとしたら、聖国、テラ腹黒ス。
というわけで、私は一刻も早く王都に戻って、場合によっては誰かを連れて国境の街に戻らなきゃいけないわけ。
ここでネックになるのが、国境の街~領都の移動だ。
ゲームなら行ったことがある街に瞬間移動できる魔法やアイテムがあるけど、インキビットには無いんだよ。
よし!
ここはひとつ、そーゆー魔法を創ってみようじゃないか!
雫が読んでた漫画の中には、ゲームが原作の作品もある。
それによると、体全体から魔法力を放出すると空を飛べるし、イメージした場所に瞬間移動もできる……らしい。
魔法を創る時に大事なのは、「魔法力で、こういう現象が起きる」という、確固たるイメージだ。
それが天の声に認められれば、自然と言葉が湧いてくる。そこから口にした言葉が、そのまま呪文になる。
それじゃ、魔法力で飛ぶところからやってみよう。
イメージするのは、聖女衣が全ての翼を広げた姿。聖女衣と同じ名前の主役機のハイマットモード的な姿だ。
頭に浮かんできた言葉は、翼を広げた鳳凰が、自由自在に天空を翔ぶ。
うん。イメージできた! レッツトライ!
「鳳翼天翔!」
よしっ! 成功!
私はZな戦士ばりに空中に立つ。
ついでに流星拳を試し撃ち。
おお!
これ、想像してた以上に凄いね!
足場がないのに地上にいるのと同じ動きができちゃうよ!
次は瞬間移動だね。
一番の目的は、同行者を運ぶこと。
となると、魔法力のカプセルで私と同行者を包む感じかな?
ゲームみたいに巨鳥に乗るのは、瞬間移動じゃない気がする。でも、カプセルが鳥に見えるのはアリかも。
雫のムー的な知識によると、魔法力を特殊なプラズマ化すれば、障害物を透過できるはず。それなら、見た目が火の鳥でも違和感ないわね。
現在地と目的地の最短コースを放物線軌道で飛ぶ。空気も透過するから音速を超えても問題ない。
頭に浮かんできた言葉は、天を駆ける鳳凰の姿。
これで魔法のイメージは完成。目的地は王城! レッツトライ!
「鳳凰天駆!」
☆
新魔法で王城に着いた私は、ディマンドの件を父上に報告。
――したその場で、緊急時以外は必ず門を通って街に入るように、厳重注意を受けました……。
そうね。警備どころか壁や天井まですり抜けて建物の中に現れるのは、確かにマズいわね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
なんとか間に合いました……。
次話は、五分五分ですね。




