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45 馬車での話し合い

   


 侯爵家の屋敷から出ると王家専用の馬車が停まっていた。王直属の近衛兵がドアを開けてくれる。


「あれ? カホ様は? やっぱりダメだったのか?」


 馬車の中に座ってるタケルが、サイラス様に声をかける。


「驚いたな。タケル様でも見えないんですね」


 サイラス様の言葉にタケル様が訝しげな顔をした。


「ここにいるのか?」


「私の隣に座ってます」


 サイラス様が答えると


「魔力の流れは見えるが......さっぱりわからない」


とタケル様が目を細めて私のいる方向に視線を向ける。視線が合わないから本当にわからないみたい。マジ私の魔法優秀。

 馬車が動き出してしばらくすると


「もう、姿を現してもいいよカホ」


とサイラス様に言われて魔法をとく。


「......いきなり現れるんだな」


「良かった。本当にカホだ」


 サイラス様は握ってる手を離す気はないようだ。離したらまたいなくなるとでも思ってるのかな。


「まさかサイラス様が助けに来てくれるとは思ってなかったです。王様が動いたら駄目なことでしょう?」


「確かに王として動くのはまずい。だから知人としてクリスティーナに会いに行ったんだ。タケル様が一緒に屋敷に入れなかったのもそれが原因だ。彼女が私だけとしか会わないと言ったから連れて行けなかった」


「まあ、まあどうしても返してくれないときは俺が忍び込む予定だったんだ」


 それで馬車の中に隠れてたんだね。


「でもよくクリスティーナ様だってわかりましたね。私はまさか彼女に嫌われてるとは思ってなかったです」


「ああ、私も彼女のことは信じてた。小さい頃から知ってるから.....いまでも信じられない気持ちだ」


 サイラス様も私と同じようにショックを受けているみたい。私より付き合いが長かったんだから当然だよね。


「侯爵令嬢とは年齢も釣り合ってるし、幼い頃から一緒に遊んでたくらい仲が良いのにどうしても婚約してなかったんだ。普通は子供の頃から婚約者っているもんなんだろう?」


 タケル様が不思議そうに聞いてくる。確かにそうだよね。サイラス様のお父様と侯爵様は仲が良いって聞いてる。普通なら幼い頃に有無を言わせず婚約させられることの多いこの世界でこの年まで婚約者のいなかったサイラス様ってとても珍しい。


「私の父は珍しいものに目がないのは話したことがあるだろう。五歳くらいのとき二人の婚約者候補があったんだ。クリスティーナ嬢と異国の姫だ。異国の姫は珍しい色の肌をしていて、それを気に入った父はその姫を婚約者にしようと考えた。それを聞いた侯爵が「肌の色で私の娘は負けるのか」って言って大げんかになったらしい。そこで一度婚約話が流れたんだ」


 確かに肌の色だけで婚約者に決めるって一国の王としてどうなんだろう。サイラス様も困るよね。


「一度ってことはどの後も話があったのか?」


 タケル様ナイスです。私も聞きたいです。


「うっ、カホと出逢った頃だ。カホを妾にした事で流れた」


 聞かなければよかったよ。あの頃そんな話になってたとは......。クリスティーナ様は幼い頃からサイラス様の隣に立つ教えられて育ってたのかも。だったら私の方が悪者なのかも。私がこの世界に来なければきっと二人は夫婦になってた。

 クリスティーナ様がこんな事をしたのも、それに協力した侍女たちもそれが正義だったのかもしれない。もちろん、サイラス様の事を譲る気はないけどクリスティーナ様たちを憎む気にはなれない。


「私、クリスティーナ様に誘われて泊まりに行ってたの」


「何を言ってるんだ?」


「そういう事に出来ないかな。だって怖いことはされてないし、前の毒の事件の時もおおやけにはしなかったでしょう?」


 毒入りのご飯は出てきたけど、害はなかったから黙っていよう。


「あの頃はカホは妾という立場だった。今は私の婚約者だ。それに彼女は私を脅した。見過ごすことは出来ない」


 サイラス様の本心はクリスティーナ様を傷つけたくないんだと分かる。だから私も負けない。負けたら彼が悲しむから。


「でも私以外に誰も攫われたって知らないんだよね。サイラス様だって本当のことはわからないでしょう? 私は泊まりに行ってたんだよ」


 二人でにらみ合っていたが、結局サイラス様が折れた。


「わかった。でもまた同じことが起こるのは困る。だから彼女には遠くに行ってもらう。これは譲れない」


 私は何か言おうと口を開いたが結局何も言えず閉じることになった。サイラス様がこれ以上折れてくれないとわかったから......。









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