みんなのお願い
「ふあ……」
館の中のおれの部屋。
一日働いて、くたくたになって戻ってきたおれはベッドの上に倒れた。
魔力もつかった、体力もつかった。
いまでも未完成の魔法陣があっちこっちにあって、誰かが素材集めしている。
とりあえずおれのやる事は終わったから、戻ってきて休む事にした。
コンコン。部屋がノックされた。
「おぅ……だれだ」
「リーシャです」
「ミラです」
奴隷の二人だった。
「はいれー」
ベッドの上に寝たまま言った。二人が部屋に入ってきた。
「どうした」
「あの、ご主人様」
「マッサージはいかがですか?」
「マッサージ?」
「はい、ご主人様が疲れてるだろうと思って」
「その疲れを少しでもほぐせたら、って」
「そうか。よし、じゃあやってもらおう」
「はい!」
「ユーリア、あとはお願い」
ユーリアが入ってきて、リーシャとミラが出ていった。
うつぶせのおれの横にきたユーリアは小さい手でマッサージをはじめた。
「どう? ご主人様」
「ああ、気持ちいい。肩のところを念入りにやってくれ。もっと強め、というか強くしていい」
「わかった」
相変わらず無愛想なユーリア。
だがその首には白い宝石の首輪があって、DORECAには200万の魔力が入金されてる。
ユーリアは小さいからだで一生懸命マッサージしてきた。
「ユーリア」
「なに」
「おれの上に乗って、体重を掛けてふんでくれ」
「……わかった」
ぼそっと「ごめんなさい」が聞こえた。
小柄なユーリアじゃそもそも力が足りない。
上に乗って、ふんでもらって丁度いいくらいだ。
「なんであの二人がやらなかったんだ? なんか聞いてる?」
「聞いてはない」
「そうか……うん?」
流し掛けて、その言い方に気づく。
「聞いてはない?」
「うん」
「どういう意味だ?」
「エターナルスレイブとして、思い当たる節なら、ある」
「教えてくれ」
「これ」
ユーリアは自分の首輪を指した。
心なしか顔が紅潮している。
「あの二人も、首輪をもらってたって聞いた」
「ああ、訳あって没収中だがな」
「ご主人様はいいご主人様」
さらっとむずがゆいことを言われた。
「命をかけて尽くしたくなるご主人様。だから疲れてるご主人様をいやしたい」
「ふむ」
「でも今自分達がしたら、首輪のためのご機嫌とりって思われる。だからわたしにやれっていった」
「そんな事を気にしてたのか」
「奴隷だから」
「ふーん」
奴隷だからっていうより、エターナルスレイブだからなのかもしれない。
こいつらはこいつらで、結構複雑な精神構造をしてるって思う。
……よし。
「リーシャ! ミラ!」
大声で二人を呼んだ。
ドアが開いて、二人が慌てて入ってきた。
「お呼びですかご主人様」
「ああ、お前らもマッサージに加われ」
「でも……」
「命令だ」
ちょっと強めに言って、それから意地悪っぽく言った。
「ご主人様の命令を聞けない奴隷なんて、まさかこの世にいないよな」
「――ううん!」
「そんな事ありません!」
そう言って、二人はおれの横に来てマッサージをはじめた。
顔をちらっと見た。
リーシャもミラも笑顔だ。
ご主人様のおれに命令されて嬉しい、って顔をしてる。
――魔力を1,000チャージしました。
――魔力を2,000チャージしました。
魔力も微妙に増えてる。
おれはそのまま、三人に体をほぐしてもらった。
整体に行ったときみたいにものすごくいい気持ちだった。
一人一人の手際は悪いけど、コンビネーションが良くて気持ち良かった。
ぶっちゃけ、二人が入ったことでユーリアのマッサージも良くなった気がする。
それでうとうとしかけた時。
ぎゅるるるるる。
誰かの腹の虫がなった。
顔をあげると、ミラが真っ赤な顔をしてるのが見えた。
「お前か」
「ご、ごめんなさい!」
「もうミラ、何してるの」
「間抜け」
ミラは二人にせめられて、シュンとなった。
「気にするな、腹は減るもんだ」
「ごめんなさい……」
「なんか食いたい物あるか?」
「でも、食材がありません」
リーシャが言った。
おれは体を起こして、ベッドの上であぐらをくんで座った。
DORECAを持って、メニューの中から食べ物を確認する。
ゴールドカードになってから増えた機能で、魔力だけで物を生産できると言うのがある。
素材はいらない、代わりに魔力を十倍消費する。
元が3千のケーキなら3万って感じだ。
それを使おうと思った。
「食材なくても作れる」
「代わりに?」
ユーリアが首を傾げて聞いてきた。
小さい顔に似つかわしくない、知性的な瞳。
素材なしで作れる代わりにデメリットがあるのを一瞬で見抜いたみたいだ。
こいつは賢いなとおもいつつも、小柄で可愛いから頭を撫でてやった。
「さあ、なにがいい? えっと、いまなら――」
メニューを見て、それを読みあげようとした時。
コンコンコン、とノックされた。
部屋じゃない、玄関から聞こえてくる遠い声。
「リーシャ」
「はい!」
リーシャがパタパタ走って行った。
しばらくして、戻ってきた。
「ご主人様、町の皆様がご主人様に会いたいって」
「また要望か、よっこらせ――」
「いえ、なんか色々持ってきてます」
「色々持ってきてる?」
どういう事だろうと思った。
起き上がって、部屋をでて、表にでる。
そこにたいまつを持った町の住民達がいた。
数はざっと二十人。
その横にリーシャが行ったとおり、物が積み上げられていた。
けものや果物、箱に入れた魚などがある。
パッとみた感じ、全部が食料だ。
その量はちょっととんでもないものだ、
四人家族なら(腐らない限り)一ヶ月は食いつなげられるんじゃないかって量だ。
「これは?」
聞くと住民の一人……別の町にいるアガフォンが前にでて、おれに言った。
「税です」
「税?」
「はい、領主様におさめる税。アキトさんに色々してもらったけど、してもらうばっかりじゃだめだろって。それでみんなで相談して、まずは現物でおさめようって」
「そういうことか」
「どうか、受け取って下さい!」
アガフォンがいって、物を運んで来た全員で頭を下げた。
「わあ……ご主人様すごい」
「税金を受け取ってって頭を下げられるなんて」
「頭おかしい、いい意味で」
なんか後ろで奴隷達がごちゃごちゃ言っていた。
まあでも。
「わかった、ありがたくもらおう」
「ありがとうございます!」
アガフォン達は頭をあげて、今度はものすごい勢いでお礼を言われた。
全員が笑顔で、「受け取ってもらえて嬉しい」って言われたような気がした。
「やっぱり頭おかしい、もちろんいい意味で」
後ろでユーリアが呆れ気味にいった。
おれもちょっとだけそう思った。




