邪神
雷に撃ち抜かれ、半壊する新築の魔王城。
惨状を前にして、リリヤとアリサは唖然とした。
「また……くるっ!」
建物じゃなく、空を見上げていたおれはいち早く異変を察した。
黒めく空、轟く雷鳴。
稲妻が――落ちてきた!
「くっ!」
とっさにDORECAをかざし、空中に石の家を緊急生産。稲妻がそれを撃ち抜き、一撃で粉々にした。
「すごいパパ様!」
「ありがとうですのお兄ちゃん」
「二人ともおれの背中に隠れてろ! あんたもこっちに来い!」
母娘奴隷を背中に隠し、女神(仮)を呼ぶ。
その間もおれは目をそらさなかった。
空はまだ唸っている、色がますます不吉に染まる。
「いきなりなにが起こってるんですの? どうなってるんですの?」
「……」
「お兄ちゃん?」
「多分……これは」
「これは、なんですの?」
ちらっと女神(仮)を見た。腰を抜かしてままこっちに来れてない、その姿を見てるとまた怪しくなってくるが……。
が、彼女が本当にあの女神であるという前提が正しいとしたら、一つの可能性が浮上する。
それは――。
「ふ、ふふふ」
どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
声は辺り一帯にこだまして、奴隷の二人がおれにしがみついた。
「な、なんですのこれ」
「パパ様……」
それは――正しかった。
嫌な感じを伴って全身にまとわりつくような笑い声。聞き覚えのある男の声。
「ふはーはっはっはは!」
次の瞬間、空から人がふってきた。
ゆっくりと、立ち姿のままおりてくる。
両手を広げてまっすぐ伸ばした足でつま先まで揃えて。
その姿から「降臨」というフレーズが頭に浮かんだ。
しつこさに定評のある――聖夜。
おれの前にゆっくり着地した聖夜は、前にあった時の邪神の姿のままだが、何かが違う感じがした。
なにが違う? どう違う?
強いていえば……オーラ?
今までとまったく違うオーラが聖夜から感じられた。
「久しぶりだな、秋人」
「聖夜、やっぱりお前か」
「なんだ、予想はついてたって顔だな」
「彼女が本物ならな」
女神(仮)をちらっと見る。
いや、邪神の聖夜が現われた時点で、(仮)はもうとっていいだろう。
彼女は間違いなく、あの女神だ。
「その見た目、普通のよりも遙かに強いサル、そしていま空からやってくるお前。これだけ揃ってればなにが起きたのか想像がつく」
「ほう」
「女神の力、手に入れたんだな」
「そおだ!」
笑みを浮かべる聖夜。
母娘の奴隷が「ひぃ」って声を揃えておれにしがみつくくらいまがまがしい笑み。
「おれは考えたよ秋人、なんでこのおれがお前に勝てないのか。邪神の力まで手に入れたおれが、なんでお前なんかにに勝てない理由を考えたよ」
「……」
「何だと思う? 秋人よ」
「解答用紙をぶら下げて答えを聞くのかお前は」
「相変わらずむかつく野郎だな、お前は」
嗤う聖夜、言葉とは裏腹にやたらと上機嫌だな。
「そう、この女神の力だ。お前が強いのは結局そいつの力をもってるからな」
「お前もあの時もらってただろう。ライサと一緒に」
「ちがうな、それは違うぞ。おれがあの日もらったのは劣化したまがい物だ」
「は?」
「同じ奴隷を持つのにどうやってもお前の十分の一、いや百分の一の力しか出ない。何故か? まがい物だからさ」
「……」
「お前が何をしてその女に取り入れて、歓心を買ってひいきしてもらったのかは知らん。今となっては興味もない。重要なのは本物を手に入れるにはどうしたらいい、ってことだ」
「……」
「本物を手に入れるにはどうしたらいい? 簡単さ、そいつを殺して手に入れれば良いんだ。そしておれはそうした。簡単だったよ。邪神の力だけじゃたどり着けなかったが、邪神の力をもったおれは簡単にたどりついた。オリジナルの邪神でさえもなしえなかったその女――女神を殺すことが出来た。そして、力を手に入れる事ができた」
「そうか」
また女神をちらっと見る。今の彼女から力の類はまったく感じられない。
ただの人間、ただの女のようにしか見えない。
邪神が地上を滅ぼしたころ、彼女はきっとあそこで見てたんだろう。
邪神の力さえも届かないあそこで。
それを別の世界の出身で、一度は行った事がある聖夜が攻め込んだ。
なるほどな。
その聖夜は両手を広げて、恍惚した顔で空を見上げる。
「今ならわかる、感じる、そして出来る!」
顔がよりまがまがしくなった。
「なにができるっていうんだ?」
「地上の人間すべてを、奴隷にするのよ」
静かに、しかし力強く言い放つ聖夜。
眉をしかめた。自分でも顔が強ばったのが分かる。
「地上の人間全員を奴隷にすれば、おまえの力を余裕で越える。そう思わないか秋人よ」
「……」
まずい、それは非常にまずい。
地上の全員を奴隷にする、多分それはエターナルスレイブだけじゃなくて、普通の人間もそうするって事だ。
魔力の還元無しに聖夜がそう考えるとも思えない、つまりそこから力を得られる算段がある。
人間全員が奴隷になれば、例え聖夜のやり方でも膨大な魔力になる。
それは……まずい!
「……お前をここで止めなきゃならないようだな」
「出来るか? 今のお前に。武器もない今のお前に」
「それでもやるさ」
「ふっ。なら肩慣らしだ。今のお前を軽くひねってやる」
邪神聖夜が手をあげた。おれはDORECAを取り出した。
「お兄ちゃん!」
「パパ様!」
二人の声が切羽詰まってる。状況がヤバイのが二人にも正しく伝わってるみたいだ。
「やるぞ、手を貸してくれ」
「はいですの!」
「任せるだの!」
頷く二人。奴隷がいればなんとかなる。
と、おれが思った――次の瞬間。
黒めく空が光った。赤と黒がない交ぜになった稲妻が落ちた。
落ちて――聖夜に直撃した!
「ぐはっ! な、なんだ、と?」
がくっと、両膝が地に着く聖夜。
一瞬で黒焦げになって、体がぼろぼろだ。
「どう、いう……こと、だ」
「ふふ、お疲れ様。ぼうや」
声が聞こえた。さっきと似てる、空間全体から響いて聞こえてくる声。
聞いたことのない、男とも女ともつかない不思議な声。
ぞっとした、背筋が凍った。
さっき以上のプレッシャーを感じた。
一体……何か起きてるんだ。
「邪神……」
ぼそっとつぶやく女神。
……まさか!?




