ご主人様の資質
「ホルキナだよ」
リベックに戻る戦艦リーシャ、そのブリッジの中。
つれて来られたリグレットの女が明るい調子で名乗った。
銀色の髪に褐色の肌はまさにリグレットそのままで、ミラ以上に陽気で、リリヤ以上に幼い感じを受けた。
「アキトだ」
「アキトちゃんって、もしかして王様のアキトちゃん?」
「ちゃん……?」
知りあいだったかなと一瞬思った。
「その通り。国王のアキトだ。お前こそスベトラーナと一緒に来たっていうリグレットか?」
「そうだよー。そうだ、スベっちは大丈夫?」
「スベっち……。安心しろ、彼女は……」
「ホルキナ!」
言いかけたところにスベトラーナが入ってきた。
ホルキナにいきなり抱きついて、涙を流した。
ホルキナを見つけたから連絡を飛ばしたんだけど、待ちきれなくて出向いてきたみたいだ。
「無事だったんだな! よかった……」
「無事じゃないよ、痛かったんだよー。って、あれ? 何であたしが生きてるの? バラバラにされたはずなのに」
どういう死に方したんだよ。
「それに……スベっち?」
ホルキナはスベトラーナを見た。
ぎゅっと抱きしめられる中、スベトラーナの髪を手ですくって、まじまじと見つめる。
それを自分のと見比べる。
スベトラーナの金色の髪、ホルキナの銀色の髪。
「なんでスベちゃん、エターナルスレイブに戻ってるの?」
当然の疑問だった。
☆
落ち着いたスベトラーナを引き離してホルキナに説明した。
シュレービジュを倒して戻したらスベトラーナがエターナルスレイブになってたことと、その原因がまったく判明してないということを。
「そーなんだ」
「そうなんだって。反応薄いな」
「それよりもスベちゃん、親書は持ってる?」
「いや、ない」
落ち着きを取り戻したスベトラーナが答える。
「モンスターに襲われた時最後まで必死に持っていたのだが、気がついたらもうなくなってた」
そりゃそうだ、サルになってたんだから。
あのサルが親書なんてものを持ち続けてるはずがない。
多分スベトラーナがシュレービジュになった場所にうち捨ててきたんだろう。
「わかった、親書は改めてもらってくるんだよ。その前に話してもいいかな」
おれにきいてきた。
「ああ。聞くだけなら」
親書が届くまでだ。
話によっては準備が必要だし、前もって知っとくのは悪いことじゃない。
実際の世界でも、外交で親書を届けるのはある意味儀式的な物で、内容なんてまえもって知らせておくもんだ。
当然である。送る側は親書の受け取り拒否をされたらメンツがつぶれるし、受け取る側も変なものを受け取って対応を難しくさせられる可能性がある。
前もって話を詰めて、じゃあ送る、はい受け取る、というのが一般的だ。
「で、どういう話だ」
「その前にスベっちの話をするんだよ」
「うっ」
スベトラーナがびくっとなった。
何故か緊張――いや怯えてる?
彼女の性格を考えたら不思議な反応だ。
「スベトラーナがどうした」
「アキトちゃんは奴隷一杯持てる人だよね」
「ああ、今五人だけど」
「全部エターナルスレイブ?」
「ああ」
「すっごーい!」
ホルキナがいきなり目を輝かせだした。
冗談でも皮肉でもない、心からすごいと思ってる顔。
「すごいのか?」
「うん! だってエターナルスレイブ奴隷を持つって事はたくさん仕事を用意しなきゃいけないんだよ?」
「……ああ、そうか」
何となくわかった。
エターナルスレイブはご主人様の命令を求めるもの、過労で倒れくらいの仕事を任されるとより喜ぶ生き物だ。
「普通はそんなにもてないんだよ。エターナルスレイブの奴隷は。一人くらいが限界なんだよ」
「だから我らも……主を見つけられずにリグレットになった」
「なるほど」
今にしておもうと聖夜もライサ一人だったな、持てた奴隷は。
カザンから送られてきたユーリアも、あの有能さ故に主を得られずにおれのところ流れてきたのか。
「五人って言うのは頭がおかしいくらいすごいんだよ。ものすごく前代未聞なんだよ」
「褒め言葉として受け取っとく。で、それがスベトラーナと何の関係があるんだ?」
「スベっちをアキトちゃんの奴隷にして欲しいんだよ」
ホルキナが言う、スベトラーナがびくっとした。
「それが親書の内容と関係あるのか?」
「ううん、まったくないんだよ」
「じゃあ?」
「だってスベっちエターナルスレイブに戻っちゃったんだよ。何でなのかわからないけど。ってことはもう国に戻れないんだよ」
「うん?」
それってまさか。
スベトラーナを見る、おずおずと頷かれる。
「リグレットの国に、エターナルスレイブは入れないんだよ」
「……そういう掟があるのか」
「法律なんだよ」
ますます切ないな。
エターナルスレイブに戻ってしまったから追放されるって事か。
スベトラーナを見た、目をそらされた。
そんな必要はないけど、何となく責任を感じてしまう。
おれは少し考えて、頷いた。
「わかった、奴隷にする。ただし」
「ただし?」
ホルキナが首をかしげる。
「おれの奴隷になるからにはいくつか条件がある。働いてもらうのはもちろん、首輪をつけてもらうのと、娘が出来たらその子もおれの奴隷にする。それでいいな」
いうと、スベトラーナもホルキナも驚いていた。
「な、何故それを」
「いやか?」
「いやではない!」
スベトラーナは大声で否定した。
「だが、どうしてそれを」
「もしかして、今までの奴隷がアキトちゃんに話した?」
「ああ」
頷く。
リリヤに言われたのが最初だったな、確か。
「すごいんだよ、おめでとうなんだよスベっち。最高のご主人様なんだよ」
「う、うん」
頬を染めるスベトラーナ。
俺をチラ見する目は、サルから戻った直後よりも潤んでいる。
「説明してくれ、なんで大騒ぎするのかよく分からん」
「母娘奴隷はエターナルスレイブの夢なんだよ。でも普通は話せない、普通のご主人様は引いてしまうんだよ」
「引く?」
「どん引きなんだよ」
……なんで?
こんなに可愛くて健気な生き物だぞ?
娘も奴隷にしたいなんて喜ぶ以外の反応はあり得ない。
なんでどん引きするんだ?
わからん。
「おめでとうなんだよスベっち」
わからんが、喜んでるようだから別にいいかなって思った。




