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43話 ハーチス子爵と結婚できない女たち


「リリナ、紹介するわ。こちらの竜人族で口が荒いのが第八騎士団団長のカルラ・ハルディよ」



 カルラは赤い竜の尻尾に肉感的な体つき。そして気の強そうな美人だ。服装は軽装の軍服で、胸の谷間が見えている。淑やかな貴族令嬢とはかけ離れた、働く女性といった感じだ。



「アタイのことは、カルラって呼びな。コッチもリリナって呼ぶからよ」


「よろしく、カルラ」



 手を出して握手をすると、カルラはニッと牙を見せた。



「お前強いな。本当に新薬を作って叙爵されたのか?」


「そうだけど」


「なるほどな。強い上に頭もいいのか。最高の女じゃねーか」



 ガハハッとカルラが笑うと、向かいに座っていた褐色のエルフが眉を顰める。



「もう少し言葉遣いをなんとかできませんの?」


「うるせーよ」



 ふたりはバチバチと見えない火花を散らした。



「喧嘩しないで仲良くしてよね。こちらのダークエルフがヴィヴィアナ・ベータ伯爵よ。ディミトリエ皇帝の教育係を務めていたの。今は皇子と皇女の教育係もしているわ」



 ヴィヴィアナは褐色の肌に水色の髪の華奢で淑やかな女性だ。エルフ族らしく顔立ちも整っており、いかにも貴族女性といった感じだ。



「どうぞヴィヴィアナとお呼びください。口調も崩してもらって構わないですよ。今日はお友達になりに来たのですから」


「分かった。私のことも好きに呼んでくれ」


「では、リリナさんとお呼びしますね」



 ヴィヴィアナは席を立つと私の分のお茶をティーカップに注いだ。



 ……私が来る時間を予測してお茶を用意していたのか。すごいな。



「あたくしは領地のない伯爵なのですが、リリナさんは貧しい領地を与えられたそうですね」


「荒れ果てた土地で、今後消えてなくなるかもしれない」


「でも住んでいる方はいるのでしょう? 教育方面なら、あたくしも手伝えることがあると思います」


「わざわざ伯爵が手伝ってくれるのか?」



 私が疑問に思っていると、カルラが呆れた目でヴィヴィアナを見た。



「コイツは貧しいヤツとか、親を亡くしたヤツとか、苦労している人間に教育するのが大好きなんだよ」


「皇子と皇女の教育は楽しくないって言ってたわね」



 タリアはコソコソと呟いた。



「皇位継承争いで荒れていた時と違って、今の皇子と皇女は平和な環境ですくすく成長しているからな」


「あたくしは教育者として使命感があるのです。恵まれない者にこそ教育が必要なのですよ」


「洗脳が好きなだけだろ」


「脳みそが筋肉でできているあなたに言われたくないですね」



 また、カルラとヴィヴィアナはバチバチと火花を散らした。



「……タイプの違う女の集まりに見えるが、どうして友達になったんだ?」



 私が問いかけると、3人は笑った。



「わたくしたちは100年以上同じ夢を掲げているのですわ」


「そうそう。アタイたちはこう見えて乙女だからな」


「フフッ。やはり夢は叶えてこそですね」


「その夢ってなんだ?」


「「「自分だけの王子様と結婚すること!」」」



 一瞬、私の中で時が止まった。



「……あー、100年以上夢を追いかけているってことは、タリアは人族じゃなかったんだな」


「鬼人族よ。小さいし、髪色と同じだから目立たないけど角が2本あるでしょ。そんなことより! わたくしたちの王子様の条件聞きたくない? 聞きたいでしょ!」



 話題を変えたかったが、すぐに戻されてしまった。



「まずはわたくし、タリア・ブランシェの理想の王子様はね。とにかく、顔がいいこと!  とにかく世界一のイケメンよ。顔が良ければ性格も出自も前科も関係ないわ」



 ……前科も関係ないイケメン好きはそういないと思うな。これが公爵令嬢の言うことか。



「顔がいい人はいっぱいいるんじゃないか。皇帝陛下も賢者リュネルもタイプが違ったイケメンだと思うが」



 私がそう言うと、タリアは顔を両手で抑えながら恥じらうように頭を振った。



「確かに皇帝陛下のワイルドイケメンも、賢者様の正統派美形イケメンもいいわね。だけど、結婚したら旦那様以外のイケメンに目を向けたらダメでしょう。だから、一生飽きずに添い遂げられるイケメンがいいの。はぁ……世界にイケメンの種類が多すぎて目移りしちゃうわ」


「もしも理想のイケメンと結婚できたらどうするんだ?」


「そんなの、イケメンを維持するために食事に運動に睡眠に美容に至るまですべてのスケジュールを管理してあげるの。仕事はわたくしがするからしなくていいわ。ストレスは美容の敵ですもの」



 タリアの話を聞いている間、ヴィヴィアナとカルラの表情は無だった。


 全員がタリアをヤバい奴だと思っているのが分かる。



「タリアは浮気性のくせに束縛が強いな。それに比べてアタイは一途だぜ。なんせ、理想の筋肉と強さを持つ男と出会ったら即結婚だからな」


「騎士団に所属しているのならすぐに出会いそうだが」



 私が言うと、タリアは残念そうに溜息を吐いた。



「あいつらの筋肉と強さはまだまだだ。アタイはな、理想の王子様をただ待っているだけじゃない。騎士団の奴らを自分好みにしごいて、しごいて、死ぬ寸前までしごいている。……だけど、アイツらはあと少しというところでアタイの理想じゃない筋肉を付けたり、弱弱しい女と結婚したりするんだ。何故だ?」



 ……騎士団の奴らのトラウマになっているじゃねーか。




 カルラの話を聞いている間、ヴィヴィアナとタリアの表情は無だった。


 全員がカルラをヤバい奴だと思っているのが分かる。



「まったく、あなたたちは人の外見ばかり。大切なのは中身ですわ。この世で最も清く優しい男性と結婚することこそ女の幸せよ」


「大人になれば清く正しく生きるのは難しいぞ」



 私がツッコむと、ヴィヴィアナは上品に微笑んだ。



「そうですね。外の世界は穢れています。だから、あたくしの旦那様は家から出てこなくていいのですよ。醜い物は見ず、辛い思いはせず、あたくしだけを見ていればずっと幸せでいられますよ」



 ヴィヴィアナの話を聞いている間、タリアとカルラの表情は無だった。


 全員がヴィヴィアナをヤバい奴だと思っているのが分かる。



「……みんながどうして友達なのかは、なんとなく分かった」


「せっかくだし、リリナの男性の好みも聞きたいわ」


「確かにな!」


「良ければお聞かせくださいな」



 ……恋愛に興味がないんだが。


 私はたっぷり1分考えて、好みの男を絞り出す。



「私のお金稼ぎを邪魔せず、私のお金稼ぎのために身を捧げ、私生活を全面的にサポートしてくれる人だな」


「……それってただの奴隷じゃないの?」


「奴隷だな」


「奴隷ですね」



 3人からの冷たい視線が解せない。


 そんなこんなでタリア、カルラ、ヴィヴィアナと親交を深め、異世界で初めての友達ができるのであった。


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