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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
新装開店。~支店営業始めます?

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仮店舗とシュトーレンと酔っ払い

 大人向けのパーティーから早二週間。

 仮店舗での営業開始である。まあ、その前から常連さんとか、近隣にお住まいの方への営業はし始めていたけど、本格営業は今日から。


 以前と違うのはいつものエプロンではなくコックコートにシックな黒エプロンになっている。大人向けパーティー用に用意したものが弟子たちに好評。ファンシーは卒業したいらしい。これは今後の課題として残すことにした。なんか、やっぱり威圧感があるんだよな……。


 喫茶スペースは家の中だけのつもりだったけど、庭が思いのほか好評らしく庭の席も用意した。こぢんまりしているけど、趣味の良い庭だという。まあ、確かに落ち着くところはある。

 虫よけの道具を活用しても多少いるのは仕方ないと諦めてくれる人しか案内できないけど……。


 今日は客が多く来ると思うので、昨日のうちにご近所さんにご迷惑をおかけするかもしれませんと菓子折りを持って挨拶に行っている。

 これで多少は見逃してくれるとありがたい。

 高級住宅街らしく、まあ、お気になさらずと対応はされたけど。


 事前告知していたが、朝のうちから整理券配布を行い、閉店までの席は終了してしまった。予想通りである。常連さんには大変申し訳ないけど、半月ほど来店を控えてもらえるようにお願いしておいた。申し訳ないが、遠方からたまにしかこれないお客様もいらっしゃるのだ。

 幸いというべきか、だいたいの方は納得してもらえた。

 忙しく過ごしているうちに予約のお客さんがやってきた。


「これで拙者は帰れる」


 なんだかんだと一か月くらい滞在していた拙者、じゃなかったサイゾウ氏。外交としてきたはずなのに、ほとんど遊び歩いていたようである。敵情視察ということだとうそぶいていたけどね。軍資金がないと酒場で用心棒してたと弟子から聞いたときには、思わず笑ってしまった。貧乏旗本か。

 聖女様とは無事に面会も相談というか食べ物談義もしていたようだし、従姉に紹介したら、錬金術師に気に入られたとかそういう話もあったらしい。

 異国の剣技は珍しいとフェリクスがお金を出して、孤児院に出張実演してもらったりもしたという話を後から聞いた。そのまま一週間ほど間借りしていたらしい。孤児院では空前の拙者ブーム、それがしも流行りつつあるそうだ。

 かなり馴染んでいる。


「日持ちするものばかりを用意しましたけど、瓶詰めしたものは開封したらすぐに召し上がってください。それから、ケーキはかなり甘いものになっています。薄ーくスライスして食べてくださいね? 一応、状態が良ければ一か月程度食べられるはずです。食べておかしいなと思ったら破棄してください。

 今度来た時に同じものを用意します」


「食べきって、悪くなっていたと嘘をつくかもしれんが?」


「今後の付き合いを考えると得策ではないでしょ?」


「うむむ。わかった。約束しよう」


 そう言って代金を払い、サイゾウ氏は東国に帰っていった。

 金払いがいいというのはいい。現金払い最高。

 手間も暇もかかるシュトーレンもどきを作ってよかった。もう金に糸目をつけぬと言われたのならこっちも最高に手間かけてやるよと頑張った。しばらくは作りたくない。長期保存用で基本のレシピに忠実に作ったから最高に甘い。先生の店の手伝いに駆り出された経験が役に立った。クリスマス前に仕込みまくるのだ。その次にクリスマスケーキ戦線に乗り出すのだから、あの時期のお菓子屋は死ねる。

 まあ、今回はそれほど数は作らなかったけど。持って帰っていったものは戻ったころには良い感じに熟成されている予定である。


 開店一日目は穏やかに過ぎ去っていった。予定より少し遅く閉店し、後片付けも終えてみんな帰る。私はこのまま泊まる予定だ。しばらくここに滞在しているので、どちらに帰る予定ですか、なんて聞かれない。


 今日はシェフが帰ってくる日でもある。

 遅くなると事前に聞いているので、遅くても安心して待っていられる。


 明日は一日休みだと聞いている。先週休むつもりが、予定外の宴会があって休めなくなったから代わりにフルで休みにしたらしい。

 明日は店の手伝いというか、総合的な仕事を見たいそうだ。一日密着されちゃうのだ。

 ……失敗しないといいけど。


 一人で夕食も済ませ、明日の準備もして、お風呂も入っても、まだ、来ない。


「…………来ない?」


 もしや、予定外の何かが?

 そう思ってそわそわして玄関まできてしまった。チャイムの音が小さく聞こえる。調整がいるかもしれないと聞いていたが、予想外に小さい音だ。


「おかえりなさい」


 そう言って扉を開けるとシェフがちょっと驚いたような顔をしていた。

 タイムラグなさ過ぎた。


「その落ち着かなくて、玄関にいてですね」


 言いわけの途中で、抱き寄せられた。ぎゅって、ぎゅって!?


「ただいま」


 ……わかっててやってんじゃないかと思う。耳元の低音ボイスが脳に響くぜ……。

 会いたかったとか、甘いこと言うようになったの。どうした? うっかり、私もですとか駄々洩れしたけど。

 違和感ある。

 なんだろとされるがままにしていたが、気が付いた。いつもと違う匂いがする。


「……酔ってます?」


 ほんの少しのアルコールのにおいがする。それから、焼肉っぽい匂い。どっかでごはん食べてきた?


「二番目の兄につかまって少しだけ飲んだからちょっと酔ってるかも」


 そういうシェフはちょっと眠そうだった。こりゃ駄目そうだ。相当弱いんだな。

 部屋に速やかに送ったほうが良さそう。どこかに座られたりしたら、どうにも動かすのは無理そうだ。


「お部屋行きましょうか」


 二階にさくっと追い立てて、部屋の前まで送る。


「お水持ってきますね」


 そう言って下に降りる。……不埒なことを考えなくもないけど、明日シェフが心底後悔してそうだからやめた。

 部屋にお水をもっていけば、ベッドに横になってうーんと唸っていた。お酒のあとの微妙な体調の悪さ。そのあたりらしい。


「お水をどうぞ」


「ありがとう。

 果実酒一杯も空けてないんだが」


「お外では飲まないでください」


「そうする」


 素直にそういうところが、かわいい。

 たまには、家で飲んでもらおう。こういうものでしか摂取できない養分がある。


「ゆっくり休んでください」


「ごめん」


「気にしないでください。

 おやすみなさい」


「おやすみ」


 よし、健全に、部屋を出てこれた。はぁと扉を閉めてからため息をついてしまう。かわいい、とか言いだす前に出れた。

 ほんのりと顔が赤いとか、いつもより乱れた髪とか、シャツボタン外してるぅっ!? それよりなによりはじめてお部屋は入っちゃった! とか漏れ出なくてほんっと良かった。

 明かりはつけたものの大部分暗くて見えなかったので残念まである。

 私も相当ダメである。


「早く寝よ」


 あまり寝れる気もしないけど。


 それにしても、二番目のお兄さんにつかまってどういうことだろ。今まで一度も話題に出てきたことがなかった、ような?

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