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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
食材探しの旅in東方 ~RTAは得意です?~

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汝の名はオムライス

本日、二度目の更新です。

「拙者が戻らねば攻め込んでくるであろう」


 ふてぶてしい野盗もどきがそういった。

 聖女様が、拙者いった、とぼそっと呟いてなんか笑いそうになった。確かに。

 東国、侍がいて、拙者いうなら、忍びも居そう。いや、ひっそりついてきた5人に視線を向けた。彼らこそが忍者では!?

 ちょっと見ていただけでなんかびくっとされたんだけど、なんで?


「あのね、ちょっとお聞きしたいんですけど、お米ってある?」


 聖女様からの発言に、彼らはぽかんとした顔をしていた。

 ああ、日本的存在があるならば日本的食材もあるんじゃないかと思ったんだね……。でも脈絡はない。


「ありますよ。輸入元です」


 シェフが代わりに答えてくれた。かなり困惑した口調だけど、聖女様に慣れているから。


「え、じゃあ、しょうゆとか味噌とかそういう食べ物も存在しうる?」


「ありますが、輸入はしてなかったと思います。俺もちょっと苦手です」


「シオリさん」


「なにかな、メイちゃん」


「移住しよう!」


 がしっと両手を握られた。


「前に行きませんでしたっけ?」


「その時は出てこなかったっ!」


「他国民には不評で客人には出さないことはあり得る」


 ようやく立て直したのかそう野盗もどきが言っている。


「くっ。知っていれば、定住先を変えたのにぃ」


「そんなに?」


 怪訝そうな表情になるのはわかる。


「くいしんぼうなんです。故郷の味に飢えてるんです」


 人のことは言えない。ひとつ、うまい米を食わせて欲しい。小麦は嫌いではないが、米どころで生まれたDNAが、米を求めている。


「よし、救おう。私のご飯のために」


 ……どうなのかな。これは後世には残せない。


 最初から大いに脱線した。

 ここからは本題に戻って、状況を確認した。


 彼らにとっても最初はいつも通りのちょっかいという話だったらしい。それが現地についてあれよあれよという間に人が増え、おかしいぞと思っている間に、聖女の奪取の話になった、らしい。

 まあ、最初からおかしいと思ってたんだよなと言ってはいた。拙者、これでも実力者。切り込み隊長。などといっていた。

 シェフもそれについては同意していたので、実力者だったらしい。


 こわっ! そんなの相手にしてたの!? 今更、青ざめる。

 そんな奴が、お嬢さん、強いから嫁に来ないとか言いだしている。もちろん断った。米俵貢ぐよとか言われても、言われてもっ! ちょっとぐらついた。

 聖女様の方が食いついていたので、もしかしたら拙者の嫁に?

 殿下が無言過ぎて怖いが、放置しよう。闇討ちには気をつけたまえよ、拙者の人。


 それはさておき、現場まで情報はあったらしい。詳細ではないが、こちらの国が不義理をし、聖女様を独り占めしようとしているから抗議する。それが届かないならば、開戦やむなし。周囲の国も同意はしてくれていると。


 こう考えると婚約の宴について他国から口出しされたのは期間の引き伸ばし作戦に使われたのではないかな。そう穿った見方をしたくなる。


「どうします?」


「ここが完全孤立してたってことなんだろうけど、旗振りはどこなんだろ。

 東国じゃない、と思うよ。状況が悪くなったら切り捨てるつもりなんだろうし。共和国が怪しいんだけどな。武器商人もかなり多い。私が来てからもうからないという冗談をきいたし」


 質の悪い冗談である。

 その件はもっと上の人と話をしなければならないと保留することにした。


 ふむ。そうつぶやくと聖女様は、殿下とルイス氏に向き直った。


「私は、国というものと縁を切ります。

 どこの国にも属しません。私による私のための団体を作って、そこで活動します。各国から数名の代表者は受け入れますが、どこかの国を特別に贔屓はしません。まあ、人間であるのでそこらへん揺らぎは認めて欲しいけど。

 というわけで、婚約は破棄します。今後の婚姻については、検討しておきますけど、落ち着くまでは無理ですね」


 そういって、微笑んだ。


「ですので、殿下、新しい相手を探してください」


 ……振った。もう、微塵も未練なし。のように見えた。

 あ、固まったまま微動だにしない。旅の間はまだ話してたものね。円滑に工程を消化するためであったというのは、気がつかない感じが王子様だなぁと思う。

 さて、婚約破棄の理由が、嫌いになったからという理由でないことにいつ気がつくのか。ちゃんと彼が責められない理由を用意してあるということも、いつかはわかっては欲しいと思う。


 そして、死ぬほど後悔しろ。


 いじわるくそう思っているところで、聖女様の視線が私に向いていることに気がついた。


「シオリはそろそろ本当に私の騎士様になってもらえないかなぁって」


「無理。私、お菓子屋さん。

 専属もしない。私はみんなのお菓子屋さんになりたかったの。だから、なるの」


「くっ。いつか口説き落として見せるっ!

 今は、弟子ごと力を借りたいのだけど」


「既成事実から外堀埋めようとしないで。

 手伝いたいけど、明らかに私が私であるようには……?」


 控えめにテオが手をあげていた。


「変装すればよろしいですか?」


「へ?」


 なんかあるの? 変装グッズ。


「……なんで、こんなものがあるの」


「親が悪ノリして一周年用に用意してまして。こんなこともあろうかと持って行けと」


 ありました、変装グッズ。

 黒地に薔薇の文様があしらわれたマント。揃いの帽子もあり。


「仮面は?」


「身内の顔だとなんかちょっとハズイと姉が用意しました」


 イーザーが微妙そうな顔で申告していた。


「……うん。薔薇騎士量産。いい」


「私は良くないんですけど。それにしてもそっちの名前は言った記憶がない。誰から聞いたの?」


「師匠のお姉さんから。

 薔薇の騎士(ローゼンリッター)ねって」


 従姉がやらかしていた。店名を言ったときに爆笑していたので、口止めしておいたというのに。薔薇っぽくない弟子たちと元ネタの野郎どもの両方でウケていたらしい。詳しいのは先生で私ではないので、早口で説明されてもと思ったけど。元ネタと思しき本の表紙見せられて、赤毛の人素敵ですねといったところで、すぐに引っ込められたんだから。黒髪の人も良くないですか? というとかわいそうな子を見るような目で見られたんだ。あれは何だったのか。


 それはさておき、お着換えは皆に分配された。なんか恥ずかしいな。仮面とか言いだしたのわかる気がする。顔半分隠れているだけでも安心できる。


「ここで、相互の代表者を呼んで、決別した話をしましょう。

 ちゃんと連れてきてね、拙者の人」


「拙者にも名前はある。サイゾウと」


「……うん。わかった」


 一瞬、聖女様が変顔した。わかる。この異世界でサイゾウとか聞くとは思わなかった。すごく興味出てきたな、東国。

 サイゾウ以下手下も逃がしてやる。捕虜としての数が多すぎるので管理しかねるというところだそうだ。なお、襲撃した側の人たちは帰らないらしい。我が主は聖女のみとか言いだしているし。そして、謎なのだけど一目置かれている私。なぜ。


「いいんですか。攻め込まれませんか?」


 ずっと黙っていたルイス氏が聖女に尋ねた。以下近衛の人たちも不満そうではある。ただ、そこで不満を言わず黙っていた、ということは意外だった。てっきり話に割り込んでくるかと思ったのだ。


「ま、その時は逃げましょ。

 殿下は、ねえ、殿下? 聞いてる?」


「……嘘だ。俺のこと好きだと」


 ……。メンタル弱くね? いや、王子様とかやってると振られることもないのか? 本人の前でどうだったかは知らないが、べた惚れだったからなぁ。ショックはでかいだろうが、今ここで死にそうな顔してるとか。


「好きだけでこの事態を乗り越えられると思えるほどではございませんので。

 そう思うならば、婚約すらしてはならなかった。するなら他国の理解を得てからだった。反省しているわ」


 追撃がきついな。

 再起不能とかを取り超えてヤンデレにならん? 国ごと亡んだりしない? 不安になってきて、ちょいちょいと聖女様の肩をつついた。


「なに?」


「国境まで移動したほうがいいのでは? 内側に入れると問題あると思うよ。

 誰か方向わかる?」


「ご案内します」


 以前来たことのあると言っていたフローリスが先頭に立って歩き出した。

 聖女様もついていく。

 で、ぞろぞろ移動しているけど、殿下最後尾過ぎる。再追撃は避けたつもりだけど、どこかフォローしておかないとまずいのでは。


 そう思っていたら、ルイス氏が何か話しかけに行った。大丈夫です。きっと、挽回できますと言っているが、そのルイス氏、恋愛経験ほとんどないので身になるのか。

 いや、私もあまりないので。


「……どうした?」


「殿下に効きそうな一言を言ってもらおうかと」


「諦めろ」


「……ライオットさんも恋愛経験希薄なほう?」


「豊富に見えるか?」


「見えません」


 厨房と家の往復とかしてなさそうな生活で、女性の入る隙がない。私もねじ込んだからどうにか仮にもという立場になっているが。


「まあ、恋愛と結婚は違いますし、聖女様ともなれば色々あるってことを踏まえていたつもりでダメだったということですし」


 遅かれ早かれ破綻していた、ということにしておきましょ。人の恋路に首を突っ込むものではない。

 国境は意外と近かった。


 相手方も姿を見せていたが、少数だった。


「メイ様、御無事で」


「あら、クリス将軍、お久しぶりです。

 無事も何も私のことはご存じでしょうに」


 笑い合うがなんか空気がぴりついている。この狸がとぼそっと呟いたのが聞こえたが、ほかの誰も反応していないところを見ると日本語だったらしい。

 いや、サイゾウがぴくっとしている。


「私、どこの国にも属さないことにしましたの。

 ちゃんとわからせてくるので、それまでの間、兵を引いてくださらない?」


「また捕らわれの身になるやもしれません。我が国に滞在してはいかがでしょう。それから皆を説得されては」


「私には私の騎士がいます。

 直属で用意していますの。ご心配には及びませんわ」


「実力もわからぬものでは心配です」


「あら、実力はそのサイゾウさんがご存じです。ねぇ?」


「はっ、拙者に引けを取らぬ強者でした。配下のものも一騎当千の実力者であります」


「ふむ。では、手合わせを」


「将軍は自分の配下を信用しないということでしょうか。かわいそうに。

 うちで雇っても構いませんよ」


「なぁに、おいぼれは猜疑心が強いものと決まっておりましてな」


「まあ、まだ、お若いでしょう。こんな場所にやってこれるほど足腰もお強い」


 微笑み合うが、怖いわぁ……。


「おお、そこには婚約者殿もいらっしゃるではないですか。やはり、婚約は継続されると」


「婚約は破棄します」


「そうは言われましても、納得されているのですか」


「ああ。至らぬばかりに苦労を掛けてしまったと思っている」


 ……内心はどうあれ表面上は穏やかにそう告げる。

 良かった。やだとか言いださなくて。いまいち信用が置けないというか。

 そこからさらに言葉を繋ぐが、相手方も引かない。そのたびに、さらっと日本語で暴言吐く聖女様。そして、やっぱり反応しているサイゾウ。あれやっぱり日本人関係者なんじゃないだろうか。


「ふむ。

 では、こうしましょう。勝負とは神聖なもの。勝ち負けで、お互いの主張を通しましょう」


「ええ、受けて立つわ」


 自棄になったような聖女様。


「では、国同士としてなので聖女様は審判としていただけますかな」


「……くっそじじい」


 日本語じゃなくて普通に暴言吐いた。

 ぷっと誰かが笑ったと思えばサイゾウよ……。


「サイゾウ、相手を選べ」


「は? せ、拙者ですか。

 そーですなぁ。ライオット殿、頼むことにいたしましょう。ほかは弱すぎる」


「勝負方法を選べるのならば、応じます」


「ふむ。そこは譲歩しよう」


「では、料理で」


 ……りょうり?


 私だけではなく、皆が困惑している。

 ええと、料理?


「俺は、ただのシェフなので、決闘なんかは断ります」


 きっぱり、はっきり、明言しましたよっ!

 侍に二言はないと聞いていますとか追撃されて、認めなければいけない状況に追いやられていた。


 そして、始まったお料理対決は、当たり前のようにシェフの圧勝。

 拙者、料理したことないですよと泣きごとを言っていたのが物語っている……。ああ、かわいそうな卵ちゃん。焦げ焦げの物体に。

 クリス将軍もぐぬぬと言いながら、負けを認めていた。さすがにアレを料理とは認められなかったらしい。


 救国の料理は、ただのオムライスだった。

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