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召喚されて三年、聖女に気に入られ無茶振りをされた結果、店と弟子を持つことになりました。  作者: あかね
食材探しの旅in東方 ~RTAは得意です?~

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師匠は師匠というセイブツ

 師匠は近衛を泣かした女である。と聞いて期待していた。そんなすごいやつがいるのかと。

 初めて見た師匠は、カレンにとってただの女であった。

 そのまま、へぇ、ただの女じゃないか、と口に出して、冷ややかにドアを指さされた。帰れと言いさえしない。自分よりもずっと大きい男相手にその態度。おもしれ―女と思ったのは確かだ。

 それから、恐怖の師匠になるわけだが。

 普通はそうでもないのに、コックコートを着て、厨房に入った途端に威圧感がある。あ、これ逆らってはいけないやつと思い知るのには一か月は必要なかった。

 恐怖の上官と刷り込まれている。

 仕事終わりにおつかれさまと笑うときは、とてもかわいいのに、である。


 なお、カレンの家族ウケはとてもよかった。あのチャラい弟がっ! まともにっ! 髭も剃って! と双子の姉に言われたときには、頭が痛かった。別にチャラくないしと言いはしたが、あなた、遊びまくってるでしょうにと冷たい視線を向けられた。ただ、女の子が好きで愛想良いだけだ。

 そのあたりは、お店に出ていても変わらなかったりするが黙っている。顔の良い男は顔で商品を売ればよろしという師匠の考えであるが、ひとまずひでぇと思った。


 その師匠がである。

 意気消沈していた。天変地異でも起きるのかとカレンはびびった。好きな人が不在なくらいで、そんな落ち込むのかと。

 一週間くらいは空元気、それ以降はため息だの気落ちしているだの外に駄々洩れ。

 行先は不穏ではあるが、大体は問題ないと聞いているがそれほど心配することだろうか? カレンにはピンとこなかった。

 そういうものかと事実をぼかして姉に尋ねたら、呆れたような視線を向けられた。


「身内でも心配するものよ。長い旅なら特にね」


「へ? 姉ちゃんが?」


「あのね。あんたのこと心配しなかった、とでも思ってるの?」


 衝撃だった。生まれたときから一緒で、でも仲もよくない姉であったのだから。いなくて清々した、邪魔なのよねぇと嫌味さえ言うと思っていたのだから。

 カレンはそういや、お守りももらっていたと思い出した。


「ごめん」


「わかればよろしい。

 まあ、他人がとやかく言うことじゃないだろうから落ち着くまでいつも通りでいたら?」


「慰めたりとかは?」


「いらないでしょ。大丈夫って笑うのかなりきついのよねぇ……」


 姉はそういって遠い目をした。

 カレンはちょっと反省した。喧嘩ばかりだが、身内として大事にされていたらしい。

 だからまあ姉の助言に従いカレンはいつも通りにしていた。そして、聖女様が訪れて、事件が起こり店は一時閉店。

 自由なんだから旅に出ようかと言いだした他の同僚を見てカレンは考えた。

 姉、というか家族は嫌がりはしないだろうかと。同じように考えたものはいたようで、保留して朝の集合時間まで来なければ残ることになった。


「でもな、何かあった場合責任者になるから気をつけろよ」


 グスタフの予言めいた言葉で、カレンは一瞬で撤回した。嫌な予感がする。

 なんたって、あの聖女様がダメだ。あの女、絶対、猫被ってるだけで本質絶対かわいこちゃんじゃない。トラとかライオンとか、猛獣だ。


 家族にはちょっと旅行にと断って出てきた。カレンは家に帰ったら説教かなと思っている。隠しおおせる気は全くしなかった。


 数日後の集合時間には皆がそろっており、予想通りに師匠まで姿を現した。

 さらに面倒な色々も追加され、妙な道中はひとまずは予定通りに進んでいた。


 一度、師匠行方不明事件があったが、本人はホントに散歩だったらしく、のほほんとした顔をしていた。

 こちらの焦った気持ちを返してくれというくらいに普通で。


 普通すぎて、やばいなとカレンは思っている。

 事態を認識していないわけでもないが、やはり現実味はないだろう。その実力はあるだろうが、一度として争いごとのただなかにいたことはない。


 何もないといいけど、というのはやはり都合の良い話だ。

 近衛がなぁとフェリクスが素でぼやくほどに、この任務と相性が悪い。戦力で言えば合っているが、性質が合わない。

 元々何もない前提で、ルイスの護衛と指揮する経験を持たせるために選抜したのだろうと今なら推測はできる。一般兵の素行の悪さの中に元王族を叩き込むわけにはいかないという気遣いは裏目に出ていた。

 望みある話としては、シェフことライオットが同行していることだが、実力はあるものの指揮する側には向いていなそうだ。

 それどころか。


 カレンはそれ以上は考えないことにした。

 それを考えたり対処するのは他のやつのすることだ。とりあえずはいつも通り、しておけばいい。

 ま、これが役に立たないといいけど。

 カレンはこっそり運び込まれた荷物をちらっと見た。これは一周年の記念に用意されていたものだ。


 師匠の従姉がぽつりと店名について話したことで作った冗談のようなもの。これの存在を知っているのは数名で何が入っているかなぞの箱である。

 カレンは興味本位で開けて、口止めされた。


「もう騎士って柄じゃないんだけどな」


 しかも、聖女様の騎士とか、過去の自分が聞けば笑うに違いない。

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