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瑞雲高く〜戦国時代風異世界転生記〜【1周年感謝】  作者: わだつみ
三章・明日をも知れぬ村(青年編壱)

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9・逆風を掴め 肆

 さて、これで漸く第一の問題、セイルについて考える事が出来る。

 まず帆船がどの様にして推進力を得ているかと言う点であるが、一般的には帆に受ける風に押されて前へ進むとイメージしている人が多いのではないだろうか。それが全く無いとは言わないが、それだと真後ろからの追い風でないと前へ進めない事になる。横風を受けて横に進んで貰っては困るのだ。

 ではどの様に推進力を得ているかと言えば、飛行機が空に浮かぶのと同じで、風によって揚力を得て進んでいるのである。飛行機が翼で上向きの揚力を得るのと同様に、帆で前向きの揚力を得るのだ(因みに揚力が発生すると自動的に抗力と言う力も発生するらしいのだが、これについては話が複雑になり過ぎるので割愛する。)。

 これについて細かな説明を始めると切りがない無いし、正直流体力学の細かな所まで説明出来る知識も無いので詳細は避けるが、簡単に言うと帆の前後の気圧差で船が前へ引き寄せられるのだ。

 真後ろから風を受ける場合が一番想像し易いと思うが、真後ろから風を受ける場合は帆を真横の向きに張る。

 そうすれと風は帆で進路を阻まれる。そこに後ろから吹き寄せる風がどんどん押し付けられて圧縮される。

 これに因って帆の後ろ側の気圧が相対的に高くなり、帆が、延いては船が前へ引き寄せられる事になる。


 問題はこれ以外の方向から風を受ける場合だ。真横から風を受けるのにセイルを縦へ向けたとすると、揚力は真横に発生する。これでは意味が無いので、セイルの風上側の縁を前へ出して斜めに風を受けるのだ。

 こうするとセイルは後ろ側を流れる風を受けて丸みを帯びつつ、帆の前側にも空気が流れる。すると、セイルが膨らんでいる分、セイルの前を流れる空気の方が長い距離を走らされる事になる。

 流れる距離が変わると、セイルの前後で空気の速度が変わるのだ。前面では距離が延びるのでその分、速度が速くなる。速くなると気圧が下がるらしい。

 イメージし辛ければ、こう言い直すとどうだろう。入り口の面積は同じだが、流れる距離を掛けた体積(空間)は帆の前面が大きくなる。吹き込む空気の量は前後で同じなので、空間内に供給された空気の質量は同じ。結果、空間が広い前面では密度が下がり気圧が低くなる。逆に後面は高くなる。これに因って斜め前方に向って揚力が発生する事になる。

 これはレーシングカーのウィングの形状と効果と全く同じと考えて貰えれば良い。あちらは下向きのダウンフォースを得る為、帆は前向きの推進力得る為の違いだけだ。


 では船が斜め前に進んでしまうのかと言えば、正解とも不正解とも言える。発生した揚力に対して、船が水から受ける抵抗が抵抗するからだ。そして、船の縦横比の関係から前方向より横方向の抵抗の方が圧倒的に大きい(風呂の中で手を空手チョップの形にして沈め、前後させる動きと左右に振る動きの抵抗の差を体感して貰えればすぐに理解して頂けると思う)。

 斜めの揚力をベクトル分解して前と横への力に分けて、そこから船体が水から受ける抵抗を差し引いて残った分が船の推進力となるのだ。

 因って、発生した揚力の向きよりも大分進行方向に偏った斜め前方向へ船は進む事になる。また風が弱く、発生する揚力が小さければ船体の抵抗で横方向のベクトルは全て相殺されて真っ直ぐ前へ進む事も有る。


 因みに、セイルの角度は概ね風の角度の半分が良いとされる。

 船の舳先を0°とした場合は真後ろからの風なら風の角度は180°、それに対してセイルは真横、つまり90°の向きにする。

 真横からの風なら風の角度は90°だから、セイルの角度は半分の45°だ。

 前方45°からの風に対してはセイルの向きは22.5°の角度となり、現代でもこれ位の角度がセイルで風上に進める限界とされている。これ以上風上に向けるとベクトルの向きが横に向きすぎて、分解した前方への推進力が小さくなり過ぎて船体の前方に受ける水の抵抗に相殺されて横へ流されるだけになってしまうからだ。


 次にセイルの種類の話になる。セイルは大まかに機能、帆を固定する場所に関して二つに分類出来る。

 機能的には横帆おうはん縦帆じゅうはん。固定する場所で区別すると帆桁ヤードに固定するか、支策ステイに固定するかだ。ヤードに固定するのが所謂一般的な帆だ。

 この内、後者の一つ、ステイに固定する帆(ステイスル)に関しては機能的には縦帆に含まれるのでここでは前者について考える事にする。


 横帆とはその形から角帆スクエアセイルとも呼ばれる、帆船と言えばイメージされるであろう四角い大きな帆だ。

 大型船であれば縦に何枚も連ねて張るこれは、アル〇ォートのチョコに書いてある船のやつと言えば分かって貰えるだろうか?

 但し、縦帆にも四角い帆は存在するので四角い帆=横帆ではない事には注意だ。


 その名が示す通り進行方向に対して横向きに張る帆であって、基本位置は船の中心線に対して90°。そこからヤードを傾けて両舷45°〜60°程度旋回出来ると思われる。それ以上は前述の通り、サイドステイに干渉すると思われるが横帆船に乗った事が無いので詳細は分からない。


 その特徴は帆の面積が広く、追い風を受けて走る事を得意としている点だろう。

 欠点は帆が大きく縦帆に比して操帆に人手が必要な点。そして風上に向かって走る際に帆がバタついて綺麗に膨らんだ形を維持し難い、つまり揚力が安定して得られない点と言える。

 運用法としては安定した風が吹き、帆を操作する機会の少ない外洋航行に向いている。


 縦帆は進行方向に対して縦向きに張るセイルであって、基本位置は船の中心線に沿っている。ここまでの話を聞いたなら、その向きにセイルを張ったら前に進めないじゃないかと思うかもしれないが、それは全くその通り。そこからヤードを傾けて両舷90°程度の範囲で適切な角度に旋回させて使用する。

 横帆はスクエアセイル一択であるが、縦帆は様々な種類がある。主立った物では、大三角帆(ラティーンセイル)、ジャンク(セイル)、それからガフセイル等がある。


 特徴は横帆に比して面積が狭く、操作が容易な点、それから風に向かって走る時にセイルの形が安定し易い点だろう。

 逆に欠点はセイルの面積が狭い為に受けられる風の量が少なく、速度に劣る点だろう。

 運用法としては、風向きが変わりやすくセイルを操作する機会の多い沿岸航行に向いている。


 後2話程説明回が続く予定と言ったな。あれは嘘だ!(泣帆の説明と船体の説明で1回ずつを予定していましたが全然収まりませんでした…

 そして、図が無いと全く伝わらないだろうと確信を持ちましたので前回の分を含めて図の制作に取り掛かります。と言う事で次回の更新は未定です!!

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ここまで丁寧にかいてあっても、「なるほど?わからん」となるのがかなしい
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