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瑞雲高く〜戦国時代風異世界転生記〜【1周年感謝】  作者: わだつみ
三章・明日をも知れぬ村(青年編壱)

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95・梶原党 参

===梶原克時===

 焦りから隊列が乱れた所に礫が降り注ぐ。全く嫌らしい相手だ。そう思いながらも俺は眼前で算を乱す手下共に向けて声を荒げる。

「列を乱すな!盾持ちが慌ててどうする!」

俺がそう怒鳴ると奴等はビクりと体を震わせ、そしてまた慌てた様子で列を整え始める。

 その様子に一瞬満足したのも束の間。腹立たしい事に礫はその一度切りでパタりと止んでしまう。俺は続け様に弓持ちへ出そうとしていた指示を飲み込んだ。

======


 一斉に礫を放った皆が大急ぎで門の中に戻って来る。多少なりとも被害を与えられていると良いのだがどうだろうか?

「どうして一回しか投げないんです?」

「うん?そうだな…何度も投げるとどんな良い事がある?」

その様子を不思議そうに眺める宗太郎の疑問に俺は質問で返す。

「そりゃ、敵がもっと沢山倒せると思うんですけど…」

「そうだな。では、逆に悪い点は有るか?」

「え?悪い事?…うーん…」

不安気に答えを返す宗太郎に更に質問で返す。

 自分でも分かっている。俺は味方に被害が出る事を極端に避けているのだ。要するに仲間が喪われる事が恐ろしくて仕方無いのだ。今だってもう一投位なら恐らく問題無かったと思うのだ。だが、どうしても被害を受ける可能性を考えると躊躇してしまう。

 その結果、接近されて白兵戦になってしまえばもっと大きな被害を受けるかもしれない。それも分かっているのだが、どうしても踏ん切りが付かない…


 宗太郎と二人、違った問題で頭を悩ませながら敵情を観る。敵は崩れた隊列をやや立て直しつつ崖下に駆け込んで来る。

 残念ながら倒れ伏している敵は一人も居ない。やや、足取りが乱れている者が居た様に見えた気がしたが希望的観測だろうか。

 やはり、もう一撃するべきだったかと後悔を感じるが悩んでいる暇は無いと気持ちを切り替える。

「宗太郎、悩むのは無事に生き残ってからだ。今は兎に角相手を観ろ。」

「あ、は、はい!」

宗太郎にそう声を掛けると崖下に目を凝らす。


===鷹山祥智===

 門から一番離れた西の端の土塁の上で胸壁に開けられた覗き穴から外を見る。暫くすると、盾を掲げながら崖に体を貼り付けるように沿わせて敵が坂を登って来る。

 ほぼ真下に見える最初の折り返しを敵の先頭が盾にしっかりと身を隠す様に駆け抜け、次の崖際に身を隠す。中々に練度が高い。先頭を行く弓持ちを狙いたいがちょっと難しそうだ。そう考えながら敵の綻びを探す。


 すると、前を行く連中が妨害を受けずに進んで行くのに気が緩んだのか、隊列の中程を過ぎると盾に身を隠すのが雑になって来る者が出始める。最後尾は頭領が居るだろうからまた警戒が厳しくなるはず…

「弥彦!」

隣に伏せる弥彦に声を掛けると、胸壁から上体を上に出し、隊列の乱れた敵目掛けて二人弓を引く。

 兄者からは敵を混乱させられれば十分と言われているが、出来れば一人でも多く仕留めたい。一射、二射と矢を放つ。一本は盾に、もう一本は具足に阻まれたが、二本の矢が敵の足と腕に刺さる。もう一射、いやっ!

 慌てて弥彦の腕を掴むと胸壁の影に身を隠す。その上をヒュンと音を立てて矢が飛び去る。

「ひぇっ!」

訳も分からず胸壁の影にひっくり返っている弥彦がそう声を上げる。

 誰かから矢を射掛けられると言うのは何度経験しても嫌なものだ。自分から射掛けておいて何をと言われそうだが嫌なものは嫌なのだ。

 しかし、確かに対応が素早い。射掛けて来たのは最後尾に居た頭領とその取り巻きだと思う。状況を見て自分が前に出て来る辺り、戦好きと言う評判は間違い無いのだろう。

 覗き穴からチラリと覗うと、敵は既に隊列を整え先へ進んでおり、最後尾のこちらに盾を向けた男達が視界から消え様としていた。この戦いは、相当に難儀する。兄者がどこまで覚悟を決められるか…

======


 最初の折り返しから最後の折り返しまでの間に敵は隊列を変えてきた。具体的には盾持ちと武器持ちが二人一組で一列に連なった隊列から、全体を二つの集団に分け、盾持ちがコの字形に武器持ちの周囲を囲う形に変わったのだ。

 祥智達の射撃を嫌がったのと、近付けば否応無く投石に晒されると理解しているからだろう。

 そして、最後の折り返しを一つ目の集団が曲がって来る。言い付け通りにこちらは誰も動かない。


 そして、敵が一番下の柵に取り付く。柵を破壊しようと集団が立ち止まり、こちら向きの面を守る盾持ちと数人の武器持ちが柵を破壊し始めたその時、俺はサッと手を挙げる。それは、春、祥猛と直ちに伝わり、その先で待つ男達が行動を開始した。

 崖際に張り付き、真上に盾を掲げる敵目掛けて大石が飛ばされる。先程投石紐で投げたような大きさの物では無い。人の頭程も有る本当に大きな石だ。

 具足が行き渡らない男が二人一組でこれを両側からハンモック状の物で胸壁の向こうへ放り投げるのだ。

 遠くに飛ばす必要は無い。壁を越えて数尺の距離飛べば良いだけだ。後は落下の速度で石が当たった盾持ちは体勢を大きく崩す。

 三つの石が放り込まれ、盾持ちが転んだり、盾が非ぬ方向を向いたりする。そこに、八郎以下の武装した男が胸壁から身を乗り出し、決死の覚悟で長槍で敵を突く。

 大石を飛ばした男衆や控えていた女衆は胸壁に身を隠しながら投石紐に持ち換えて狙いも定めずに礫を放つ。実質殆どの村の者はこの一帯に居る事になる。

「こっちもやるぞ!」

俺はそう声を掛けると立ち上がって弓を構える。

 まだ一丁近く距離は有るが柵に取り付いた連中の邪魔は出来るし、敵は一塊だ。矢が飛び込みさえすれば何かしらには当たるはず。俺はそう考える事にして矢を放つ。

 俺の横では宗太郎と投石の腕を買った三太が投石紐を回し始めた。

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[良い点] 素晴らしい戦闘描写 ワクワクする
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