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瑞雲高く〜戦国時代風異世界転生記〜【1周年感謝】  作者: わだつみ
三章・明日をも知れぬ村(青年編壱)

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57・決別

 目の前には褌一丁で座らせられている男が一人。俺は腰に下げた小刀を鞘から抜き放ち、躊躇う事無くその者の首元から白刃を一閃させる。

「「あぁ!」」

周りを囲む村の者達から悲鳴とも驚きとも取れる声が複数上がる。


「兄者!?何するんだ!?」

皆の声に一瞬遅れて目の前で褌一丁で悲鳴を上げるのは祥猛。

 ここは飯富村の風呂場。夏も半分程を消費して漸く復旧に漕ぎ着けた東の堰から水を引ける様になったのを記念して?俺は普請作業中、ずっと思っていた事を実行に移したのだ。


’髪を切りたい!’


 そう、子供の頃から我等は伸ばした髪を後ろで縛る髪型で過ごして来た。縛る位置が襟元から後頭部上部に変わりはしたものの髷を結わずに長さなどは基本変わらぬままだ。

 しかし、毎日の炎天下での重労働の中で思ったのだ…熱い…鬱陶しい…と。思えば前世の髪型は楽だった。

 今までは夏の昼間にそんな無茶な事をする経験は少なかったのだが、今度ばかりは我慢の限界に達したのだ。

 良し、風呂が復旧したらバッサリ行くぞ。そう心に決めた俺は今日という日にそれを実行に移したのだ。祥猛の頭で!

 なぜなら、俺の思い描く髪型を誰も見たことが無いので、誰かの頭を用いて実践して見せる必要があるのだ。だって、自分で自分の髪は切れないからね。


 手の中にはズッシリとした重みを感じる髪の束。取り敢えず縛っている髪を根元からぶった切ったので、目の前には後頭部だけ短く、そこから遠くなる程長くなると言う何とも珍妙な髪型の生物が座している。

「兄者!どうしてくれんだ!?」

振り返った祥猛は俺の左手に握られた髪の束を見て、掴み掛からんばかりに怒りを露にするが、掴み掛かっては来ない。何故なら俺の右手にはまだ白刃が煌いているからだ。

「まぁ、待て。これから全体を整える。文句はそれを見てから言うのだ。」

そう言うと無理矢理前を向かせる。

「こんな事をするなら最初から言えばいいだろう!?」

不承不承、前を向きながらそう言う祥猛に、

「言ったらお前逃げるだろう?」

俺はそう返す。

 そう、髪を切るとは言ったがこんなにバッサリ切るとは一言も言わなかったのだ。

「当たり前じゃないか!智の兄者でも良かっただろう?」

「智にはやり方を見て貰って、俺の髪を切って貰わないといかんからな。」

そんな不満も織り込み済みなのでそう答える。

「ほら、さっさとやらないと珍妙な頭のままだ。それに下手に動いて耳が無くなっても知らんぞ。」

そう言いながら俺は櫛と小刀を使って長い部分の髪を適当な長さに切り揃えて行く。しまったな、髪を解いてから切れば良かった。結び目の真下の髪だけやたら短くなってしまったので他との調整が大変だ。

「何で俺ばっかり…」

まだブツブツ言っている祥猛を、

「お前ばかりでは無いぞ。俺も切るし祥智も切る。」

そう慰めた所、

「え!?」

「え?」

別方面からも疑問の声が上がった気もするが気にせず疑問で返しておく。


「おい、ちゃんとやれよ!?」

「煩いな、静かにしてくれよ。」

祥智が俺の髪を切った後、祥猛が嬉々として祥智の髪を切っている。祥智はせめて俺に切って欲しいと言ったのだが祥猛は頑として譲らなかった。

 散切り頭と言うのだろうか、三人揃って不揃いな短髪になった所で、山の様に溜まった切り落とされた髪を片付けて頭を洗う。

「確かにこれは楽かもしれん…」

湯に浸かりながら祥智がそう呟く。

「そうだろう?俺も前々からそう思っていたのだ。」

こちらに来てからはこんな髪の長さになるのは初めてなのでそんな言い方になる。自分でも明らかに頭が軽いのが感じられる。

風呂から上がった後、鬢付け油を使って髪を流すと、

「あら、意外と素敵ですね。」

女性陣からも悪くない評価を得られた。


 さっぱりした後、夕暮れの丘の上から短くなった髪を風に揺らされながら西の田畑を眺めながら考える。

 夏も半ばを過ぎて、当初予定していた西の川への堰の建設は何一つ進んでいない。

 これから冬に向けて何をどう進めるべきか…冬は川での作業は負担が大き過ぎるし、そろそろ家も建てたいんだよな…

 短くなった髪をガシガシと掻きながら様々考える。しかし、この髪形は完全に武士の括りからはみ出したな。武士どころか世間一般から見ても大分飛び出している。

 武士との決別は望む所だが民と決別する事の無い様には気をつねばならない。そんな決意をしながら思考の渦に戻る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! [一言] ざんぎり頭を叩いてみれば 文明開化の音がする(古)
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