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瑞雲高く〜戦国時代風異世界転生記〜【1周年感謝】  作者: わだつみ
三章・明日をも知れぬ村(青年編壱)

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閑話・縋った者

==宗太郎==

 今日から皆で寝る事になったお寺のお堂で莚を被って横になる。お堂の奥ではあの人達と和尚様や弥彦さん達がまだ何か話しをしている。明日からの話をしているんだろうか、俺も話を聞きたいな。ぼんやりとそんな事を思いながら今日起こった事を思い出す。

「助太刀致す!!」

それはきっと村の誰も想像していなかった事だろう。この村に助けがやって来るなんて有り得ない事なんだから。


 今年は去年までに比べても米が穫れる量が少なかった。ううん、米だけじゃない。麦も蕎麦も大豆だって全部そうだ。あの戦いで、父ちゃん達が皆死んでしまったあの戦いで大人が一気に減ってから田んぼの手入れをする人手が足りなくて米の穫れる量は減ってはいたんだ。でも、今年は去年に比べても明らかに穫れた米の量が少なかった。雨だってちゃんと降ったし、いつもより寒いなんて事もなかったはずなのに。

 だから、皆焦っていたんだ。稲刈りから大分経っているからもう賊は来ないだろうって。今までもこの時期になるともう来なかったからって。それで皆で山に栗や団栗を拾いに行ってしまった。

 たまたま気が付いたのは、団栗で一杯になった背負籠の中身を蔵に置きに戻った春達だった。その時にはもう賊は川向こうまで来ていたらしい。チビ達を連れた春は慌てて皆の所に戻ったけれど、もう賊は門(門なんてとっくの昔に無くなっているけれど。)の手前まで来てしまっていた。

 そこからは、無我夢中だった。村に武器なんて殆ど残っていない。丸太を積んで通せん坊した門の向こうの賊を必死に木の棒や竹で突く。賊の人数が俺達よりも大分少なかったのはきっとまだマシだったんだろう。


 それでも少しずつ押されていた。俺も戦いたかったけど、まだ体も小さいし力も弱いからと言われて後ろで見ているしかなかったんだ…皆が段々押されて行くのを…

 そんな時だった。賊の後ろで馬に乗って偉そうに命令していた奴が突然ぐらりと傾いて馬から落ちて行ったんだ。そして、

「助太刀致す!!」

その声が聞こえてから賊が皆やっつけられてしまうまではあっと言う間だった…

 大人達が皆で掛かっても一人も倒せていなかった賊が本当にあっと言う間に皆やられている。大人達は必死に戦っていたから何が起こったのか全然分かっていなかったんだと思う。でも、俺は見ていたんだ、あの人が賊を倒すのを!


 その後も、あの人は無理難題を押し付けて来たりはしなかった。怪我人が居ないか気にしてくれたりもした。この人なら俺達を守ってくれるかもしれない。そう思ったら居ても立っても居られずに和尚様に言ったんだ。

「和尚様、あの人達に村を守って欲しいって頼んでみて下さい。」

俺がそう言うと。他の大人達は慌てて、

「何を言っているんだ宗太郎!あんな余所者信用出来る訳ないだろう!?」

「そうだよ宗太郎。それに助けてくれたのだって俺達を油断させる為かもしれないだろう?」

そんな事を言ってくる。

「和尚様…」

悲しくなって和尚様を見ると、

「そもそもこんな状況の村に残って頂けるとはとても思えぬしのぉ…」

もっと悲しくなる様な事を言われた…

「で、でも、和尚様だってあの人達が残ってくれたら助かるんでしょう?」

そう、慌てて聞くと、

「そりゃあ…武芸に秀でて礼節も弁えていそうではあった。あの様子なら一廉の兵法家かもしれぬ。そんな者がこの村に居てくれればこんなに有り難い事は無いだろうが…」

「そ、そうでしょ!?じゃあ、俺が頼んでみるよ!!」

「勝手に決めるな!!俺達は納得した訳じゃないんだ。」

そこに、あの人達が戻って来た。大人達は納得して無くても、俺はもう決めたんだ。父ちゃんとの「村を守る」って言う約束を果たすんだ。

====


==柳泉==

「まぁ、ここは守り易い地形をしていますから、百程度なら現状でも少し時間があればどうとでもなると思いますが…」

それを聞いて拙僧は心の臓が止まるかと思う程の衝撃を受けた。この人物は、たった二十人の、それも碌に武器すら持たない我等を指揮して百人の敵から村を守れると言うのだ。しかも気負った風でもなく、極めてあっさりとそう言ってのけたのだ。

 今日の賊は不意を突かれたとは言え、たかだか十人弱だった。そんな相手にすら苦戦する我等にそんな事が出来るとは到底思えない。いや、拙僧が指揮を執る限りは決して出来ないだろう。

 満足に修行を修められずにここへ送られた事が今になって悔やまれる。拙僧がもっとしっかりとしていれば村がこの様に困窮する事も無かったのかもしれない。

 しかし、最早これまでかと思った時に斯様な人が現れた。これが仏の導きと言う物なのだろうか?僧として有るまじき考えだが、もしそうだと言うのなら何故もっと早くにと思わずには居られない…


「良し!祥智、後は任せた。適当にやっておけ!!」

馬に跳び乗り出湯に向けて全力で駆けて行く彼の人を見て思う。やはり仏の導きではないかもしれない…

====

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