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瑞雲高く〜戦国時代風異世界転生記〜【1周年感謝】  作者: わだつみ
三章・明日をも知れぬ村(青年編壱)

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5・外れ籤

 唐突にそう声を上げたのは十を幾つか越えた位の年齢の少年だった。

「これ、宗太郎!」

傍に居た男が慌てて止めに入る。

「おい、やめねぇか!!どうも、申し訳ねぇ…」

「いや、構いませぬ。宗太郎と言ったか。この村は誰の村だ?」

大人に羽交い締めにされた少年はそれでも強い意志の籠もった目でこちらを見返して来る。

「お、俺達の村だ!」

「その通り。自分達の村を守れるのは自分達だけだ。通りすがりの者ではないぞ。」

「だ、だけど、俺達じゃ守れないんだ!武家はみんな逃げちまった、父ちゃん達も皆死んじまった!!」

最後は涙を流しながらも瞳の強さは変わらずに宗太郎はそう叫ぶ。

 どう答えようか。そう思案していると、

「申し訳ございませぬな。この子が申している様に我等は最早、いつ明日をも知れぬ様になるか分からぬ有様でして。」

寂し気に柳泉もそう言う。

「その逃げたと言うのはどう言う事なのです?」

余り聞きたくないが話の流れ的に聞くしかないか…


「現在、彌尖国の東側は遠濱国の守護である佐高(さたか)家の支配下に在るのはご存知でしょうか?」

その問いに頷く。

 切途浦に面する敷島の西岸の一番北側に飛び出す様に位置する彌尖国は、南東部に小さめの平地である彌下(みもと)平野とその北の早瀬盆地がある以外は、国の名にもなっている西の彌尖(岬)まで低い山が連なり地も痩せている為、住むものもほとんど居ない不毛の地であると聞く。

 西端の彌尖(岬)には彌尖大社と言う航海の安全を守る神社が構えている。大社の名を名乗る神社は日の下で唯二つしかなく、かつては大変に栄えたそうだ。そして本来は、彌尖国全域が大社の社領であったと言う。一国丸々社領と言うのは途轍も無いと感じるかもしれないが農業が可能な土地は前述の南東部他、極めて少ない事がその理由とされる。

 だが地理的な不便さのせいに加え、大陸への朝貢が途絶える等、寄進の減少が進み力を徐々に落として行くと、社領の統治にも綻びが見られる様になる。徐々に大社の支配を離れ、独自に行動する国人が現れ始めたそうだ。その数は時を追う毎に増えて行き、最後は大社に従う家も年貢を運ぶ道中の安全が確保出来ずに荷を運べない様な状況になっていたらしい。


 そして、東西に朝廷が分裂すると更に状況が変わる。東朝が新たに京を構えた豊浩(ほうこう)平野の勢力が東朝に付くと、遠濱国の佐高家は西朝に付いた。西朝に忠誠を誓っていると言うよりは、不倶戴天の豊水(とよみ)国守護廣澤家が東朝に付いたからと言うのが本当の処だろう。

 だが、相手は日の本有数の穀倉地帯、豊浩平野の北半分を領する上に、南半分である浩渡国を支配する守護代豊田家と足並みを揃え後顧の憂いが無くなった結果、佐高家は一気に劣勢に追い込まれてしまった。

 それを打開する為に彌尖大社の社領の内、生産力の高い南東部を横領する手に出たのだ。既に分裂状態で各々がてんでばらばらに動いていた彌下平野や早瀬盆地の勢力は組織立った抵抗が出来ようはずもなく、社領は奪われる事になった。

 当然、大社は朝廷や幕府に訴えたらしいのだが、東側は敵がやった事等知った事では無い。西側は味方の勢力が挽回する為と黙殺となってしまったらしい。


「この村はその頃に住処を追われたり失った者達が百年程前に崖に道を切り拓き、住む者の無かったこの地にやってきた事が始まりと言います。」

成程、大した抵抗が出来なかったとは言え、各所で散発的な抵抗はあっただろうし大社と関係の深かった人々は故郷を追われもしたのだろう。だが、大社の在る西へ逃げなかった辺りに、ここより西の貧しさが垣間見える様だ。

「その後、細々と生きながらえて来たのですが二十年程前に佐高家から服属を求める使者が来たのです。横柴家はご存知ですかな?」

「勿論です。三管領家ですな。だが、あの家は…いや、遠濱の咲山(さきやま)御所の事ですか?」


 管領横柴家は元々は浩渡(ひろと)国を含め三国の守護を務めて居た幕府の一門だったのだが東西分裂の際に西側に付いた。

 当初、西側優勢だった争いは現在の東側勢力が海を渡り敷島に逃れた事を転機に形勢が変化する。豊水国の廣澤家が東側に付いたからだ。これに拠り、戦線は膠着。局面を打開する為に在京だった横柴家当主と嫡男は浩渡国に下向。対東側の最前線へ出る事になる。

 横柴家配下の三ヶ国の兵とその他に多少の西側の兵を加えた西朝勢に対し、東側の兵力は半分程度であったとされるが戦はあっさりと東側の圧勝で終わる。原因は浩渡国の守護代豊田家の裏切りで、挟み撃ちに遭った横柴勢は元々、指揮系統の不統一や海越えで兵糧に不安があった事等で士気も低く、大した抵抗も出来ずに潰走。横柴家は当主と嫡男を討ち取られてしまう。

 豊田家の裏切りは、入念に準備されたものであったらしく、戦に勝つと直ちに廣澤家との同盟の締結(若干の領地の線引きの変更があったが)、東朝から浩渡守、東府から浩渡国守護への任官が行われた。

 因みに東の京は浩渡国に置かれたが、これは阿久津の湊になるべく近くを希望した東朝の希望を受け、水害の被害を受けにくいある程度の広さを持った高台を探した結果らしい。廣澤家としては思うところがあっただろうが帝のご意向とあらばと飲み込んだのだろう。


 対する横柴家は揺れに揺れた。それはそうだ、宗家の当主と嫡男が一度に喪われたのだ。当主には次男も居たが幼子であった事も拍車を掛けた。結局お決まりのお家騒動が起こった末に、残った二国の守護は当主の弟達に奪われてしまう。

 宗家には名目上浩渡国守護の座が残されたが三国以外の所領もほとんど親族に奪われてしまい実権は皆無となる(大敗の責任を負って領地が欲しければ取り戻せとの意味合いもあったのだろう)。当然、没落一直線となり、一時は今日明日の食い扶持に事欠く状況に追い込まれたらしい。

 ところがそんな横柴宗家に価値を見出したのが遠濱国の佐高家だった。東側に対する旗印として遠濱国に招くと少ないながらも所領を与え、お飾りではあるものの国内では丁重に扱われているらしい。そして、その在所から現在では宗家次男の家系は咲山御所と呼ばれている。


「良くご存知ですな。仰る通り咲山御所の事です。この地は佐高家の支配する地である故に領主を迎え入れよとの事でした。それでやって来たのが咲山御所の分家筋の男だったのです。」

「それは、まぁ…佐高家の言い分は左程不自然な事ではありませんな。この村の成立過程を思えば住民の心は穏やかではないでしょうが…」

柳泉の言葉にそう返すと、

「まぁ、お武家様のお考えだとそうでしょうな。ただ問題なのは、彼等は望んでここへ来た訳ではなく、御所での争いに敗れてここへ来た様なのです。」

「成程、派閥争いか何かに敗れて、ある意味流罪的な感じで来たと言う事ですか。」

俺の答えに渋い顔で頷く。

「えぇ…それ故、領主としての仕事は…」

そもそも管領家に連なる者が実際に領地に赴いて統治の実務を行う様な能力を持っているかどうかは甚だ疑わしいな…

「そして逃げ出した…と?」

「左様。逃げ出したのは息子の方ですが。父親はここへ来て十年程で亡くなりましてな。それからは息子が治めておりましたが。早瀬の地が荒れ始め、村へ賊が来る様になるとさっさと御所に逃げて行ったのです。」

さて、逃げた先で居場所があったのだろうかと思うが。逃げたっきりなのは事実なのだろう。


「まぁ、話を聞く限りでは居ても居なくても同じ。なんなら税を取られない分、いない方がマシと感じますが。年貢等はどうしているのです?」

「最初の二年程は使者が来て、御所まで届ける様に言っていたのですが。遠濱は余りに遠い…ましてや賊が蔓延る様になってしまったこの地では不可能に近い。それ故無視しておりましたところ、それっきり…」

なんと言うか、支配地域内に管理の行き届いていない範囲があるが、税も大して期待できない外れ籤だから誰もやりたくない。そこで勢力争いに敗れた奴が居たから嫌がらせ的に押し付けた様に感じるな…まぁ、支配者側から見れば、面子の保持と懲罰を一挙に行ったと考えれば上手くやったのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い [一言] 全然地名が頭に入ってこない。勢力図がほしいです。設定を煮詰めるのと読者ストレスが釣り合ってないかも
[良い点] 更新お疲れ様です。 こういう架空世界の歴史、聞いててワクワクします。 敷島と秋津島で完全に東西朝にわかれているわけでもないんですね。 他にも面白い歴史がありそうでこれからも楽しみです。 […
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