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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第四章 動乱の序章
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4-10 長対陣

 



ーーー???ーーー


「ご当主様! 報告いたします!」


「うむ」


「ホニアラ氏族がパース氏族に敗れました」


「ほう。我が一族と並び称された『東方の雄』が敗れたか。理由は?」


「パース氏族が引き入れた外の軍勢のせいです。彼らはドラゴンを使役し、ホニアラ氏族に大打撃を与えておりました」


「ドラゴン……。ふん。最強生物といわれてはいるが、我の用兵の前では空飛ぶトカゲよ」


「さすがはご当主様です」


「この程度、最強の豪族であるアバルア氏族の当主であれば当然よ。 兵を集めよ! 南へ進軍するぞ! 異人どもを蹴散らし、島を我の手で統一するのだ!」


「その前に使者を送って降伏を迫ってはいかがですか?」


「なるほど。それはいいな。降伏するなら奴隷として生かしておいてやるか。逆らうなら皆殺しだ!」


「ははっ!」


ーーーオリオンーーー


 島の南部を勢力圏に収めた俺は帰国の準備を進めていた。まだ北部にはホニアラ氏族にも引けをとらない大豪族がいるとのことだが、とりあえず放置する。そんなことよりも領地経営の方が大事だからだ。戦費についてはパース氏族から支払われるし、俺の蓄えもあるからそこまで問題はない。金銭面だけで考えればこの先も戦争を続けられただろう。しかし領地の開発には人手が要る。ただえさえ少ないのに戦争に駆り出して余計に数を減らしているのだ。この遅れは容認できない。だから短期決戦としたのだ。

 早期の帰還を目指して俺自ら陣頭指揮を執る。桟橋にずらりと並んだ船にまず女性たちが乗り込んだ。彼女たちは今回、俺と交戦した豪族の娘たち。賠償金さえも取らなかった俺に贈り込んできた。つまりは人質だ。俺は豪族の当主と交渉し、イアンさんとフレデリックさんの側室として貰い受けた。今後の島をまとめていくのはクレアたちパース氏族。その上に俺がいるわけだが、もし俺がパース氏族以外の娘をもらい受け、子どもでもできようものならパース氏族の地位が一気に危うくなる。彼らはあくまでも中堅豪族。それが島を統治する立場にいられるのは、ひとえに俺たちブルーブリッジ侯爵家の後ろ盾があるからだ。そんな政治的理由があって断ってもよかったのだが、彼らも不安だろう。そこで重臣の二人の側室としたのだ。あの二人は俺に近しい存在だが、家臣である。あまり無茶はできない。なお側室としたのは、正妻枠に王国の貴族の令嬢が入るだろうからだ。彼らは有力貴族の出。そして数少ない俺とのパイプ役だ。次の代以降にどうにか一族の娘を送り込むための下地とする可能性は充分にある。ーーそんな理由でイアンさんたちには側室待遇とすることで手を打ってもらった。それでもひとり五人にはなるのだが……ガンバ(他人事)。


「よし、これなら今日の昼にも出られそうだな」


「はい。ようやく帰れますね」


「長かったな……」


 気づけば一ヶ月ほど経っている。打ち合わせなんかでちょくちょく帰ってはいたが、かなりタイトなスケジュールだった。だからカチンに滞在する時間は本当に必要最低限で、娘の顔さえも見れなかった。……ああ、エリザベスに会いたい。

 ところがそんな子を思う親の気持ちを踏みにじるかのように、理不尽な報告がもたらされた。


「ブルーブリッジ侯爵様! クレア様がお呼びです」


「クレアが?」


 帰ることは事前に伝えているから、見送りに行けないということはないはずだ。では一体何の用事なのか。……面倒事の気がしてきた。

 クレアの執務室へ行けば、彼女が疲れた表情で待っていた。まるで廃人一歩手前の薬物中毒者のように虚ろな笑みを浮かべている。


「どうした?」


「オリオン様。わたしは悪くありませんよ? 相手が言ったことなんです。仕方がなかったんです!」


「な、なんだ?」


 言っている意味がわからない。普段の彼女ならもっと理知的に話すのに。『廃人一歩手前』とはいったけど、まさか本当に一歩手前だとは思わなかった。


「何があったんだ?」


「自分が説明します」


 クレアに仕えている近衛隊長改めパース軍の司令官となったエリックが言うところによると、北の大豪族から使者がきた。使者はクレアたちに島の外から兵を引き入れたことは許せない。だから即刻手を切るように。もちろんタダというわけではなく、一族から後継者になる男子を送り込むとのことだ。


「露骨だな〜」


 家を乗っ取ると宣言しているようなものだ。たしかにその提案を受け入れれば俺たちがいなくなった後に想定される内紛の再燃は回避できるだろう。だがあまりにも直接的すぎるため、裏に潜んでいる意図が丸見えだ。あまりに杜撰な策略。バカの匂いをひしひしと感じる。

 クレアだって最初こそバカをやらかしたが本当のバカではない。穏便に済ませようとしたはずだ。なのにこの有様ということは……、


「お察しの通り、『さもなくば戦争だ』と脅されました。それでもクレア様は粘られましたが、引き出した別の条件もまた……」


「何て言ってきたんだ?」


「……オリオン様が当主のところへ行って臣下の礼をとり、その娘を人質として当主と世継ぎに差し出し、馬車百台以上の貢物を持ってくることです」


「それは……戦争がしたいのか?」


 常識的に考えて到底受け入れられるものではない。別の条件を出してきて、その内容が以前のものよりも苛烈になるなど、こちらが引き延ばしているわけでもないのに考えられない。

 だが相手がそう言っている以上はこちらもそれなりの対応をしなければならない。


「とりあえず、一日保留だ。話し合ってくる」


 使者の応対はクレアに丸投げーー任せて、俺はまずシルヴィたち、島にいる幹部のもとへ向かった。


「ーーというわけだが、どう思う?」


 俺は幹部を招集して事情を説明して意見を求めた。

 まず反応したのは騎士団長だった。


「侯爵様は受け入れるおつもりですか?」


「まさか。俺は侯爵ーーつまり国王が従うべき君主だ。なのに地方の豪族に臣下の礼をとるなんてありえない」


「そのお言葉を聞いて安心しました。ーー騎士団としては戦うべきだと思います。彼我の力の差をわからせてやりましょう」


「私も騎士団長のご意見に賛成です。このような無礼は許せません」


 とのことだった。


「俺も同意見だ。ただ、兵たちは帰りたいだろう」


 二人の言うことはもっともなのだが、それは権力者にとっての問題だ。兵たちはその大半が徴兵によって集められており、一刻も早く家族のもとへ帰りたいと思っている。既に帰還の命令は出してあった。撤回すればーー下手をすると反乱されるかもしれない。やはり職業軍人の数が欠乏している。俺はこれを改善することを心に決めながらカチンへと移動した。


ーーーーーー


  カチンの街に戻ると、街全体がとても慌しかった。何事かと思って近くのメイドを呼び止め、事情を訊く。


「何かあったのか?」


「あっ、お館様。実はソフィーナ様が移住者を大量に送ってこられたので、その受け入れ作業に追われているのです。イアン様は執務室にいらっしゃいます」


 俺が訊こうとしていることをすべて言ってくれた。そのことに感謝を述べ、ちょっとしたご褒美(金)を与える。信賞必罰は大切だ。

 イアンさんのところへ行くと、書類の山と格闘していた。同情はしない。なぜならその大半はやがて俺に回ってくるーーつまり、後で同じ目に遭うからだ。その手を止めてもらうことへの罪悪感はあったが、声をかけて事情を話す。難しい顔をされるかと思えば、あっさりと了承された。


「反対すると思われましたか?」


「ああ」


「数日前なら反対しましたが、今は準備万端整っています。むしろ戦いは終わった、なんて言われたら困っていましたよ」


「どうしてそんな急に意見が変わったんだ?」


「ソフィーナ様が移民を大量に送ってこられたのですが、その多くが元傭兵だったのです」


「元?」


「はい。ソフィーナ様は傭兵たちに侯爵家の私兵になることを了承させて送ってこられたのです。戦い慣れている彼らは即戦力になりますからね。元傭兵の部隊、合計五千名が揃っております。オリオン様が戻られたら送っていただこうと思っておりました」


「わかった。なら島の部隊は戻そう。そして新たな部隊を積んで島へ帰らせる」


「ではそのように取り計らいます」


 イアンさんとの打ち合わせを済ませた俺は、続いて王都へ飛んだ。王都の屋敷を守っているフレデリックさんに会うためだ。そしてあるお願いをする。


「軍の統率ですか?」


「そうだ。シルヴィを出しているが、いつまでも母子を引き離すわけにはいかないからな。カチンの掌握はイアンに任せればいいし、王都にはシルヴィを入れる。だからフレデリックはカチンへ向かってくれ」


「わかりました」


 了承を取りつけた俺は、彼を伴って転移陣を使いカチンに戻る。存在は知っていたが使ったのは初めてなので、フレデリックさんは驚いていた。

 島からの戻り便は騎士団や一部幹部を残して出港している。代わりに乗船する兵士も用意した。従属した豪族たちにも兵を出すように伝える。無礼千万の使者は斬り捨ててもよかったが、野蛮なので塩水を頭からかぶってもらい追い返す。シルヴィは転移で王都の屋敷に送り届けた。もちろんエリザベスも一緒だ。

 かくして戦争の準備は整った。こちらの兵力はブルーブリッジ侯爵軍五千、騎士団一五〇〇、島の諸部族連合軍七千、ドラゴン五十体にラプトルが五百と、最初から考えると堂々たる陣容である。

 パースから俺たち王国軍は進軍するわけだが、騎士団は西のヤレン氏族と合同すべく分かれた。西は守り東は攻めるという二正面作戦だ。

 東へ進んだ俺たち本隊はホニアラ氏族のもとに結集した諸部族軍を吸収。一万の軍勢となって領境の川に行きつく。そこで敵軍と鉢合わせた。敵はざっと二万。こちらより優勢。軽く当たってみようと合戦すれば、一進一退の熾烈な攻防が繰り広げられた。勝負はつかず、両軍は川の両岸に陣を敷いて睨み合う。小競り合いはあるものの全軍を投入した決戦には至らず、気づけば半年が経過した。




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