1ー14 王女(前編)
長いので分けました。続きは明日、投稿予定です。
ーーーオリオンーーー
ソフィーナが屋敷に来てからしばらく経ったある日のこと。俺たちは一家揃って着飾って玄関先に並んでいた。レナード、豚、フィリップ、俺、ソフィーナの順だ。両脇にはロバートさんやヘルム執事をはじめとした使用人たちがずらりと並んでいる。一様に緊張した面持ちだ。なぜこんなことになっているのかというと、王様が来るのだそうだ。まあ無理もない。俺は実感がなくてほけー、としていたが。本来ならこちらから王城に出向くものだが、今回は弔問なので特別に王様から出向くらしい。上流階級というのは面倒だな。学者でも目指そうかな?
そんなことを考えていると騎士甲冑を身につけた騎士が馬に乗って駆けてきた。
「開門ッ! 開門ッ!国王陛下の御成である!」
馬上で騎兵槍を掲げて騎士が宣言する。それに従って門番たちが門を開けた。あの騎士は先触れといって、偉い人の来訪を事前に告げる役の人らしい。横でメイドさんたちがヒソヒソ話している内容を聞いた。
門が開けられて十分ほどすると随所に金細工か施された豪華な馬車が見え始めた。俺たちはその場に跪いて王様の到着を待つ。……せっかくの豪華な服が汚れると気にしてしまう俺は貧乏根性が染みついてしまっているようだ。本音をいえば立ち上がったままでいたいのだが、レナードなんかから王様に促されるまで跪いたままでいろ、と厳重に言われているので泣く泣く言われた通りにする。父まで敵に回すと屋敷に居場所がなくなるからな。
パカパカ、ガラガラと馬車が屋敷に入ってくる。待ち時間がもどかしい。いや、落ち着け俺。耳を澄まして周囲を把握するんだ。気分は武道の達人。その境地に俺はーー至らないまでも何が起こっているのかは推測できた。まず馬車の走行音が消える。バタバタと慌ただしい音ーー足音か?ーーがする。その後、一際大きな足音が響いた。
「面を上げよ」
落ち着いた威厳のある声がする。言われた通りに顔を上げると美少女がいた。肩出しの純白ドレスにプラチナブロンド。碧いつぶらな瞳ーーラノベで登場する典型的なお姫様だ。ゆえに萌える。激萌えである。あんな娘と結婚したい。……いや、異世界チートなら可能か。ちょっとやる気が出てきた。え? 隣にいるおじさん? 興味ない。お姫様の隣にいて王冠を被ってるんだから王様なんだろ……多分。二度言うが、興味ナッシング。姫様置いて帰んな。なんだか盗賊みたいだ。それに下心に気づいたのか、お姫様に若干怯えられた。しゅん……。俺が姫様に振られて落ち込んでいる一方で父と王様が挨拶を交わしている。
「お久しぶりです、陛下」
「レナードか……久しいな。前に会ったのは先年の新年会であったか」
「はい」
「カトレアも健勝か?」
「この通り、病もなく息災にしております。これも陛下のご威光の賜物でございます」
「フィリップは大きくなったのう」
「ご無沙汰しております、陛下」
と、ここまで順番通りの挨拶。ところが俺を見てそれが止まった。じーっと注目される。やべ、お姫様に萌えていたのがバレた!? 俺が戦々恐々としていると、王様がはてなと首を傾げた。何だ?
「レナードよ。この者たちは?」
彼の目線は俺と横のソフィーナに向く。ああ。見慣れないから困惑しているのか。なるほど。でも自分から名乗ると文句が出そうだ。というわけでレナードを見て促す。
「男はオリオンと申しまして、私が地方に出向いた際に才能を見出して養子としました。娘はソフィーナと申します。弟の娘で、身寄りがないために私が養子として引き取りました」
「そうだったのか……」
「……」
ソフィーナの話で王様とお姫様が顔を曇らせた。重い話だし無理もない。だがゲストに暗い顔をされたままでは困る。せいぜい道化になりますか。そんな決意とともに俺は一歩前へ出る。
「お初にお目にかかります、国王陛下ならびに王女殿下。私はレナードの息子、オリオンと申します。まだ若輩の身ではありますが、ゲイスブルク家を盛り立てられるよう、日々研鑽を積んでおります。以後、お見知りおきを」
「ソフィーナと申します。よろしくお願いします、陛下」
俺の言葉にソフィーナがおっかなびっくりといった感じで続く。うん。よく頑張った。さすがは俺の義妹。
言葉遣いなんかが変だったかもしれないが、それほど無礼でもなかったはずだ。あとは王様からお言葉をもらってお終いーーのはずなんだが、肝心のお言葉をもらえない。あれ? なんかやらかした? ……いやそんなはずは。もう少し待ってみよう。
「のうレナード」
待つことしばし。王様がようやく口を開いたーーが、その相手は俺でもソフィーナでもなくレナードだった。
「オリオンはいったいいくつなのだ? 見たところ、アリスとさほど離れておらぬようだが……」
「七つにございます」
「七!? 七つにしてこれほどの教養を修めておるのか。素晴らしい才だ」
「光栄です」
レナードが頭を下げる。王様に褒められたからか、その顔は笑顔だ。
「オリオン。面を上げよ」
「はっ」
「そなたの才は素晴らしい。今後も勉学に励むのだぞ」
「より一層、努力いたします」
この時の俺はノッていた。豚が悔しそうに、血走った目で俺を凝視している。自慢の息子のフィリップを差し置いて俺が王様に褒められたことが許せないのだろう。ハンカチを渡せば引きちぎりそうだ。いやはや。愉快、痛快。
「ソフィーナよ。辛いことがあっても、前向きに生きるのじゃぞ」
「ありがとうございます、陛下」
ソフィーナにも励ましの声をかけた王様は邸内に入っていく。それをレナードが追いかけていった。はあ。これで今日のお仕事は終了だ。




