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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第八章 華帝国

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8-2 工業都市リヴァプール

少し短めです。【閑話】も同時投稿しておりますので、どうかご容赦を……

 



 ーーーオリオンーーー


 ひと口に『都市』といっても、その形態は様々である。例えばカルカソンヌやパルマノーヴァのような城郭都市があれば、ニューヨークやロンドンといった商業都市もある。それぞれに特色があるわけだが、俺は今回ある都市の建設を考えついた。工業都市である。文字通りの都市だが、俺はこれを世界で一番の技術を誇る都市にしたいと考えていた。それに必要不可欠な要素がひとつ。俺はそのキーマンを呼んでいた。

 カチンの応接室。そこにいたのは妖精族の族長たちだ。その代表格であり犬猿の仲(と勝手に思われている)の土妖精ドワーフ族の族長ヴェルンドが俺を睨む。


「客を待たせるなんていい度胸だな」


「色々と忙しいんでね」


 俺は彼の圧力を受け流す。もちろんこの遅刻はわざとである。妖精族の多くは未だ帝国に反抗的だ。特に土妖精族と水妖精ウィンデーネ族は。まあ無理もない。妖精王、妖精女王になったはいいが、実権は森妖精エルフ族に握られたままだったのだから。それを仕組んだのは俺である。だって聞いてると無茶苦茶やりそうなんだもの。とても任せられない。


「それで、アタシたちを呼びつけた理由は何なんだい?」


 水妖精族の族長セリーオラが敵意丸出しで俺を見る。そんな怖い顔をしないでほしい。


「頼みたいことがある」


「断る」


「嫌だね」


 ヴェルンドとセリーオラはノータイムで断った。俺は口をへの字に曲げる。


「そんなこと言わずに引き受けてくれよ」


 と言ってみるが、二人は頑として首を縦に振らなかった。はー、へー、ほー、ふーん。そういう態度をとるわけね。仕方ない。


「パルミラ、お前は引き受けてくれるよな?」


「はい。お任せください」


 森妖精族の族長パルミラは快く引き受けてくれる。そりゃそうだ。彼女たちが実権を握っているのも俺の策謀なんだから。貸しはたんまりとある。キリキリ消化してもらうとしよう。俺が生きているうちに。

 パルミラの色よい返事に俺はにっこり笑顔を浮かべた。


「そうかそうか。感謝する。次の族長会議ではそなたを再び妖精女王にすることにしよう」


「「なっ!?」」


 俺が妖精族のトップをすげ替えると言ったことに驚愕するヴェルンドとセリーオラ。だがこれは簡単にできてしまうのだ。トップの地位に留まるために俺と相対する際には協力している二人だが、逆に俺(人間)とパルミラも協力関係にある。残るは火妖精族のジルベルトのみ。その去就が会議の行方を決定づける。だが彼を抱き込むのはとても簡単だ。


「ジルベルトはもちろん協力してくれるな?」


「あ、ああ……」


 彼は俺の依頼を二つ返事で引き受けてくれる。なぜなら俺を殺そうとして見逃してもらったという借りがあるからだ。森妖精の下手人は処罰し、ジルベルトをそのままにしておいたのもこれが狙いだった。妖精族を俺の意のままに操るために。

 これで三対二。次回の族長会議でパルミラが妖精女王に返り咲く可能性が濃厚になった。これを容認できないのがヴェルンドとセリーオラだ。


「ま、待て! そういうことなら協力させてもらう!」


「そうだね! な、何だって引き受けるよ!」


 あっさりと掌返し。そこまでして今の地位に留まりたいかと思うが、結果として協力してくれるので強くは言わないでおく。


「おっ、協力してくれるのか。それはよかった」


 我ながらわざとらしいとは思うが、競っているのは政治力である。いくら演技が上手くても、政治ができないなら意味はない。履き違えてはいけないんだよ(負け惜しみ)。


「それで、ワシらは何をすればいいんだ?」


「まずは火妖精族には労働力になってもらう」


「おうよ。任せとけ」


「そして彼らを中心に街を造るが、これは土妖精族が監督してくれ」


「わかった」


 ヴェルンドは頷く。政治はからっきしだが、土木工事や鍛治仕事で頭を使うことは得意な土妖精族だ。上手くやってくれるだろう。一応、補足もしておく。


「割り当てを受けた区画については、自分たちが使いやすいように工房を建ててもらって構わない。そこを拠点に活動してもらうんだからな」


「了解したーーいや、待て。ワシらに何をさせるつもりだ?」


「言ってなかったか?」


「聞いてねえよ!」


 ……そういえば言ってなかった気がする。ま、まあ人間だからミスもするさ。はっはっは。なかったことにしよう。


「これから造ってもらう街は帝国で一番の工業都市にするつもりだ。そのために帝国各地から職人を募ることにしている。そこに妖精族も参加してほしいというわけだ」


「そういうことか」


 ヴェルンドは小さく舌打ちする。彼の考えは手に取るようにわかった。本当は拒否したいが、もしそうすればさっきのように妖精王の座を奪うと言われるのはわかりきっているので何も言えないのだ。


「土妖精族には鍛治仕事を、水妖精族には水運関連のノウハウを、森妖精族には森林管理のノウハウを、それぞれ提供してもらう」


「オレたちはどうなるんだ?」


「火妖精族には戦闘顧問として帝国軍の戦技指導を任せたい」


 兵士が強くて損はない。戦闘に長けた彼らが教えてくれるのは大歓迎だ。それに教えるだけなら、もう戦闘ができない人でもできるし。


「それで話の続きだが、この街は工業の一大拠点になる。それを支えるためには何が必要か……わかるな?」


「技術だろ」


 ヴェルンドが答える。俺は頷く。


「それもひとつだな。しかし、足りない」


 技術がなければお話にならないが、それよりもっと根本的な問題がある。


「パルミラはわかるな?」


「はい。物流です」


「正解だ」


 さすがにパルミラはわかったようだ。そう、物流がなければ話にらない。どれだけ高性能なものを作れても、材料がなければ意味がない。そのためにはインフラを整備して物流を効率化しなければならないのだ。これは基本である。戦場には武器を持って行く、というレベルの。


「そこでこの街に向かって運河を建設する。その指導と管理を水妖精族に任せる」


「わかったよ」


「森妖精族には建築資材の管理を任せる。それとパルミラは建設事業の総監督に任命する」


「はい! 粉骨砕身、精一杯務めさせていただきますわ!」


「頼んだぞ」


 俺が大役を任せるというと、パルミラはとても嬉しそうにした。声にも気合が入っている。なんだか犬のようだ、と思ってしまった。

 ともあれ、妖精族の協力を取りつけることには成功した。彼らのこの時代としては先進的な知識は街と帝国の繁栄を支えてくれるだろう。……しかし、この街を造る本当の目的はそれではなかった。


 ーーーーーー


 地球の歴史上、数々の国家が成立しては滅んでいった。様々な言い分はあるだろうが、ともあれそれらの多くは他国に征服されたパターンだろう。するとどうなるか。虐げられるのはまず間違いない。かつての支配者階級は特に。

 盛者必衰とはいえ、自分の子孫が悲惨な目に遭うのは御免である。だからこそ俺は大陸の他勢力を潰してきた。しかしどうしようもないものはある。その筆頭が外国からのインパクトだ。ぐらつきつつも命脈を保っていた江戸幕府が呆気なく潰れたのも西洋文明との接触ウエスタンインパクトが原因だ。であるならば、俺はそれに備えなければならない。

 俺はリヴァプールの街外れにある一画に能力で小さな店を立てた。もちろん竜脈に流れる流れる魔力を使い、崩れないようにしている。そこはちっぽけな個人商店ーーではなく、秘密の工房だ。そこには俺の知りうる限りの技術が眠っていた。


「オリオン様、ここは……?」


 お供はシルヴィ。彼女は誰もいない空間が不思議でならないようで呆然としている。まあ、このだだっ広い空間を見ればそうなるか。しかも人はひとりもいないのだから。


「ここには俺の知りうる限りの知識が眠っている。例えばこれは金属を撃ち出す道具だ」


 いわゆる小銃だ。ここには火縄銃から現代の銃器までが揃っている。それからこの場にあるものをいくつか説明していく。


「これは金属の破片を撒き散らすものだな」


 手榴弾である。


「これは空を飛ぶことができるものだ」


 航空機である。レシプロとジェットのどちらも揃えてあった。


「これは帝国の端から端まで飛んで攻撃することができる」


 ICBMーー大陸間弾道ミサイルだ。各種の弾頭(通常弾頭と核弾頭)、地対空、艦対空、空対空その他のミサイルもある。この他にも自動車、戦車、宇宙船などもあった。核兵器や生物兵器も。とにかく本当に俺のすべてを吐き出した場所である。


「……」


 シルヴィは言葉を発さないーーいや、発せないようだった。

 正直、俺は彼女に軽蔑されても仕方ないと思っている。善政を敷くことを唱えておきながら、裏では大量殺戮の準備を整えているのだから。

 しかし、シルヴィは俺を軽蔑することはなかった。


「……オリオン様。私もこのような兵器を使う機会がないことを祈ります。そのために頑張りましょう」


「ああ。もちろんだ」


 この言葉に嘘偽りはない。平和である以上にいいことはないのだから。その努力は惜しまないつもりだ。


「それと、これを他の皆さんにも見せてあげてください」


「それはーー」


 俺は返答に詰まる。家族に隠し事はなしだと思っているが、これだけはなるべく見せたくない。シルヴィに見せたのも信じていたからだが、分の悪い賭けだと思っていた。それをアリスたちにも見せるのは……。


「大丈夫ですよ。皆さんもきっとわかってくれます」


「…………わかった」


 しばらく逡巡したが、シルヴィを信じることにした。彼女を信じるといったのだ。最後まで信じることにする。

 こうして俺はリヴァプールの秘密を家族全員に明かし、そして全員から理解を得ることができた。特にエリザベスたち子ども年長世代の反応は激しかった。エリザベスなど『絶対に使わせません!』と言ったのだ。俺は嬉しく思うと同時に、肩の荷が下りた気がした。




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