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呪われた乙女は御曹司に求婚され続ける  作者: 久浪
御曹司は求婚し続ける
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 クラウス含めシモンズ家一行が自領への帰還を果たして数日の時が過ぎていた。

 クラウスが待てど暮らせど父親が来ると言ったジゼルは来なかった。父親に仕事の手伝いをさせられる一方でそれで溜まっているのではない不満。

 おい嘘ついているんじゃないだろうなとの疑惑が日に日に強まり、ついに本日。まだ少しは父親の部屋に乗り込むまでは時間があった頃。

 クラウスは呼ばれていると父親つきの執事筆頭に言われて部屋へ。


「見合いだ」

「…………は?」


 見合い?

 最近――ではないが嫌な記憶と予感が付随して来ざるを得ないその単語は聞いたことがある。同じような反応もした気がする。一瞬理解できない、なんてことそうそうない。

 見合い。


「セレナ嬢という名前でな」

「親父殿」


 騙された。と察したクラウスは目にした者すべてが凍りつきそうな目をして立ち上がり、椅子に座る父親を見下ろした。

 誰とも知らない聞いたことのない名前。

 クラウスを連れて帰ってきた父親。仕事漬けの毎日。


「騙したな」

「名前一つで大人しくなるとは、多少ごねると思っていたからかくも名前とは偉大だ」

「だからあれだけ止めて俺を行かせず、帰ってきたと思ったら仕事を手伝わせて……でも来ないのか」

「おかげで仕事がはかどった。まあ元々跡取りのお前にしてもらうものばかりだったわけだが」

「俺は大真面目だぞ」

「こっちも大真面目だ」


 親子はどちらも視線を逸らさなかった。


「明日うちに来ることになっている」

「明日?」


 明かされた日取りが明日ときた。

 相手の詳細情報には欠片も興味が湧かないが日取りを前日通達。そういうのはもっと早く、こんな前日などとぎりぎりではなく前もって言っておくべきだろう。さすがのクラウスも明日とは思わなかった。


「早く言い過ぎるとお前が家を出るかもしれないからな。一日ならこの家の人間はお前を止めることができる」


 お前の思考なんてお見通しだと言いたげな父親の口ぶり。

 使用人に訓練でも施しているのかとクラウスが言いたくなる内容。


「まず逃げられると思うな」


 罪人か何かに対するようなことば。


「ひとまず今からどこで何をするにも監視をつける」


 監視つき。しかも「入ってこい」との父親のことばで開いた扉から部屋の中に入ってきたのは二人。

 体つきがただの使用人ではない。この家の使用人はどうなっているんだ。それとも衛兵か。


「うちにこんな使用人いたか?」


 クラウスが言うと傷ついたような表情を二人がした。元々いたらしい。だとしても面影がない。


「三年とは実に充分な時だな、クラウス」


 自分が三年神殿にいる間に何が起きたというのか、クラウスには見当がつかなかった。

 父親に鍛えられたのならご愁傷様だ。使用人を鍛えるのではなく警備要員から選出すればいいだろうに。鍛えた手腕に感心するべきか悩む。


「監視はやりすぎだろう」

「それは過去の自分の行いを省みた上でのことばか? 違うだろうな」

「監視をつけられるようなことをした覚えはない」

「記憶の劣化が始まっているとは思いたくないから記憶の消去が早いぞ俺の息子。これまで見合いまでに邸から姿を消したことが何度かあっただろう」

「だがそれ以外は出たんだろう?」

「お前が破談に向かわせたがな」

「それは仕方ない。出るだけましだ」


 すっぽかしたのは断じて逃げたのではない。出て破談に向かわせる手間がすっぽかすだけで賄えるとは魅力的すぎる方法だからだ。

 出たときといえば単純に椅子に座っているだけより苦痛、あれはどうなっているのか。


「次会うのは明日だな」


 父親は一切抗議は受け付けないつもりらしい。「監視」の二人がクラウスの左右に立つ気配。


 まず愉快ではない。

 大人しく戻ってきて大人しくしていて待っていた展開がこれでは誰だってそう思う。

 何がなんでもすっぽかそうとクラウスは決めた。





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