前世騎士だった少女06
目立っていたのかしばらくすると周りに剣道部員たちが集まってきていた。そしてその中心で俺と海紫は竹刀を振り合う。お互いに息が上がっておりそろそろ集中力も落ちてきた頃だ。前世ならばいざしらずこの体ではこれが限界だ。埒があかない、そう思った時、海紫は少し後ろに足を引き力を込めてこちらへ踏み込んできた。
「ダァァァ!!」
「させるか!!」
俺は一か八かでその振りに合わせ踏み込んで応じた。タンッと少し弾かれた海紫の竹刀は俺に当たらず宙を切った。世界が止まって見える。海紫の驚く顔も見える。チャンスは今しかない。
「くらえーーッ!!」
下から振り上げたその一撃は見事に海紫の手の甲にあたった。一度静まり返り、一泊おいてから歓声があたりに響く。礼をして試合が完全に終わると周りに部員たちが大勢集まってきて強いだの、今度俺とも手合わせしてくれだの、可愛いだのと賞賛の声が次々に浴びせられた。可愛いは関係ない気もするがな。
「いや、本当にすごかったね、今のは。」
そう言いながら先ほど審判をやってくれていた3年生がこちらへ歩いてきた。
「どう?うちの部に入らない?」
「はい、ぜひ!!」
帰り道、美紀は買い物を頼まれているといって別の方向へ走って行ってしまい、たまたま家が同じ方向にある海紫と二人で歩くことになった。
「お前本当に強かったな。」
「海紫だって十分強かったと思うよ。」
そんな他愛もない話をしながら俺たちはてくてくと歩き分かれ道までたどり着いた。
「ああ、んじゃ俺こっちだから。」
そう言って海紫が手を振りながら俺の隣を離れた。
その時、なんとなく本当になんとなく不安を感じて、きゅっと海紫のTシャツを俺は引っ張った。
「え……?神川?」
海紫に名前を呼ばれ『私』はハッと指を離す。そして海紫が隣にいることに安心感を覚えていた自分を自覚し、恥ずかしくなって指を後ろに隠した。そして顔を下に向ける。
「ど、どうした?神川?」
「愛華……」
「え……?」
「愛華って呼んでも、いいよ。海紫」
「お、おう。なに?愛華。」
「今日はありがと。私『今』をとっても楽しめたと思うの。これも全部海紫のおかげだよ。」
「ああ、こっちこそありがとな。面白かったぜ。」
にこっと笑う海紫。そんな彼を見て『私』は気づいてしまったんだ。本当の自分の心に。
なんて気持ちのいい感情なんだろう。その感情に身体を支配されていくような気がする。
これが本来『私』の持つべきだった感情。記憶を残したまま二度目の生を授かってしまったがゆえに持てなかった感情なのだ。だけれど今気づけたこの感情にこのまま任せてしまえば全てを忘れられる気がする。もともとあるべき女の子に戻れる気がするのだ。
「海紫……」
……好き。そんな言葉がもう少しで出そうになって『俺』はそれを飲み込む。
まだだ。『俺』はまだ忘れてはいけない。あの記憶を。最期に俺を呼び続けた愛しかった人を。
『今』を生きるのも大事な事だが、だからといって過去を忘れていいわけではない。自分のしたことに万が一罪があるのなら償わなくてはいけないし、たとえ罪がなかったとしてもそれを思い出すことは『俺』にとっての義務でもあり、それを投げ出す訳にはいかない。
だから、それを終えるまでは、『私』には我慢をしてもらわなくてはならないんだ。でも……
「これからも一緒にいてよねっ!」
これくらいなら、いいよな。
どうもmshミクネギです。とりあえずこれでお話に一区切りはついたことになります。とても稚拙な文ではありますが少しでも楽しんでいただけたのであれば光栄です。
今後は違う小説なども投稿しようと思いますがその際はまた是非お願いいたします。
俺は前世男子だった!?もどうしようか迷ってはいるのですが、気が向いたらorもしもご要望があったりすれば続きを作っていきたいと思っています。
また些細なことでも今後に活かしたいし、制作の励みとなりますので感想をいただけたらとても嬉しいです。
それでは、又の機会にお会いできることを心から願っております。




