前世騎士だった少女05
「ほらほら、恋人さんっ!!手をつないで行った行った。」
美紀め、覚えておけよ!?
心の中で悪態をつきながらも俺は海紫の手を握る。
美紀を無視してもよかったのだが先ほど騒いでいたおかげで微妙にこちらへ視線が集まっており、この状況で手をつながないのは逆に辛いからだ。
奥の席に俺は座り、隣に海紫が座る。
「い、いい?海紫、あんたもし変なことしたらぶっ飛ばすからね!?」
後ろには知らない人たちがいるので女の子口調でしゃべる。
基本、俺は親しくないやつには女子口調だしな。
クラスでも『俺』でしゃべりかけているのは美紀と海紫を合わせ数人だ。
「お、おう…」
ガラガラとジェットコースターが上へ上がる中海紫はなぜか顔を俺に背けたままいう。
「ほ、本当に分かってんでしょうね!?」
「……」
「ちょっと、海紫…」
「ごめんっ、俺もう限界だわ…っ!!」
「……っ!?」
その言葉に俺は反射的に目を瞑ってしまうがすぐにそれは杞憂だったと分かった。
隣では……海紫がゲロを吐いていた。
しかも頭をジェットコースターの外へだし、下に…ゲェ…ゲェと。
袋はもうきれちまったみたいだ。
いや確かにね、中で吐かれても困るんだけど、外に向かっては流石に……
その途端ジェットコースターは急降下を始める。
俺はみた。
二度目の人生で初めてみた。
ゲロが綺麗な跡を描きながら宙を舞い、意識を失いかけている少年を。
それはまさに飛行機雲のようだった。
「はあ…今日は疲れたな。」
「中谷くん、ご愁傷様。」
美紀はにこりと笑う。
空はすでにオレンジ色に染まりつつある。
一通りのアトラクションを回り、俺たちは今から帰る所だ。
「結局吐いてばっかな気がした。」
「デスニーCにゲロ吐きにくる中谷って特殊な性癖よね。」
「ちなみに今回吐いたのは初めの一つを除いて吐いたのは全部無理やり乗せられたやつだからな!?」
「ま、あれだけ吐いてもまだ吐ける中谷の胃袋の容量には驚いたけどね」
美紀は皮肉気にそういうと海紫はムスッとした顔になった。
「……でも、楽しかった。」
俺の呟きには全員が笑顔で頷きあった。
翌日、変態親父を蹴り倒して学校へくると海紫が「よう」と手を上げた。
だから俺も片手を上げて「おはよう」と返事をし、席に座る。
そういや、この間剣道部に見学しわすれたな。
今日の放課後にでもいこうかな。
さて、今日1日も楽しみだ。
帰りのホームルームが終わり、俺はゆっくり剣道部の活動場所である体育館へと足を進める。
「こらー。置いてくなって。」
剣道部に到着する直前に後ろから走ってきていた美紀が追いついてきた。
「置いてってないだろ。先にゆっくり歩いてっただけだって。」
「へ~、目的地まで?」
「うん。」
「それを世では置いてったと言うんじゃー!!」
そうやってたわいのない話を美紀とし、いよいよ入口の扉に手をかけた。
「強い人、いるといいね。」
美紀は笑顔でそう言ってくる。
「ああ。」
まあ今は相手が誰だろうと楽しめる気がするけどな。
ガッと扉が開く。
中では「えいっ、やー」と掛け声をかけながら練習に励む部員たちがいた。
俺は大声で叫ぶ
「たのもーっ!!」
みんながこちらを見る。そして驚く。
口々に「神川だ…」「なんで神川がここに?」などと言っている。
無視してさらに続ける。
「部長さんでてこーい!!手合わせしてくれ!」
みんなの目が点になる。
まあ、驚くのもしょうがないだろ。
こちらは美少女二人組だからな。……まあ俺は男だが。
すると3年生くらいの男子がこちらに歩いてくる。
「えと、1年の神川さんだよね?」
な、3年にまで俺は知られてんのかよ。
美少女パワー恐るべし…
俺、男なんだけどね!?
「悪いけど、今部長は留守なんだ。」
マジかよ~。
「部長の次に強い子ならいるんだけど。もしよかったらその子とやる?」
「やりますっ!!」
にこりと3年は笑うと聞き覚えのある名前を呼んだ。
「海紫ー。この子と手合わせしてあげて。」
「え、海紫!?」
体育館の奥から呼ばれて出てきた人物を俺は知っていた。
「んあ、神川!?」
「なんだ、二人とも知り合いだったのかな?神川さんは向こうに必要なもん1セットあるから使っちゃって。」
そう言って3年は練習に戻ってしまう。
俺は着替え、竹刀をもって海紫と向き合う。
「本気でこいよ?」
「本気でっていってもさ…お前、一応女子だし…」
ぬ、突然紳士的な態度になりやがって…
今さら努力したってお前は紳士にゃなれねえぞ。
なんせ女子の隣でありったけのゲロを吐いたんだからな。
「大丈夫。防具もしてるからケガする心配はない。まず、本気で手合わせすることこそ、礼儀だと思うぞ。」
その言葉を聞き、海紫はそうだなと言って姿勢を構えた。
3年生が頃合を見計らうと声を張り上げる。
「始めっ!!」
ダンッと剣と剣がぶつかり合う。
俺は横に、海紫は縦に竹刀を振り、ぶつかり合ったのだ。
パンパンっといくらか竹刀と竹刀がぶつかり合い、お互いに後ろへ下がり距離をあける。
「強えじゃん。」
海紫が呟く。
「そっちこそ。」
つい、笑みがこぼれる。
こんなに強いやつと対峙するのは随分前のことだ。恐怖と興奮が共鳴する。
紛れもなく、俺はこういう世界に身を投じていたのだという証明だ。
「いくぜっ!」
「おうよっ。」




