グラウンドを駆ける騎士09
「「「せーのっ!」」」
かけ声とともに視界がぐらりと縦に移動する。
「神川さん、どう?足場はこれで良い?」
下にいるクラスメートからの問いかけに大丈夫、と返す。
俺たちの騎馬は女子の中でも身長の高いメンバーを集めた主力のうちの一つだった。
現世での俺の身体は女子にしてはやや高い部類に入り、体型はすらりとしたもののしっかりと筋肉もつけているのでそこまで軽くはないであろう。その分高さを活かした有利な戦いができる、そういったチームだ。
「愛華ー!フォーメーションDだよ!D!」
隣りで同じように騎馬を組んだ美紀が叫ぶ。美紀はなんだかんだで運動神経が良い。それを買われて上に乗っているのだろうが、なんというか、うん。小さい。
その分機動性には優れているようで足の速そうな女子たちが騎馬を組んでいた。
「ていうか美紀、フォーメーションDって何よ?聞いてないわよ、そんなの。」
「ともかく、そんなノリだよ!」
意味分からん……。
呆れて美紀から視線を離し、改めて前に広がる『戦場』を見つめる。
鷺谷高校の運動会は四色に分かれており、それぞれ赤、青、黄、白となっている。
そしてこの騎馬戦は最初赤対青、黄対白とが総力戦を繰り広げ制限時間、ハチマキを取られずに生き残った騎馬のみが決勝戦、グラウンドのさらに中央にある小さな枠の中で1対1で闘うことになっている。
決勝戦では勝ち残り式で勝った騎馬に他の色が時計回りで挑み、最後の一騎になった色が優勝となる。
ちなみに翔島は白色、俺は赤色なので出会うとしたら決勝戦である。
『双方準備ができたようです。』
グラウンドにスピーカーを通した際によく起こるトンネルの中で叫んだような感覚のあるアナウンスの声が響く。
『それでは、はじめ!』
うおおおお!っと女子ならではの高めの叫び声と共に全ての騎馬が前進を始める。と、思いきや。
「どりゃああああ!」
何故か大きく逸れて枠の端へと全力で走っていく美紀。
何を考えているのだろうかあいつは。
まあいい。俺は俺で倒せばいいだけなのだから。少しでも倒しておいた方が後の決勝戦では楽になるだろう。
「突撃ぃ!」
そのかけ声でゆっくりと俺たちの騎馬も前進を始めた。向かい側にいた騎馬に近づいていくとあと少しで交戦するといった間合いで両手を上に掲げ威嚇のようなポーズをとった。
甘い!素人がっ!
通常なら交じり合わないギリギリの間合いで俺は身体全体を前に倒し手を伸ばした。
パンッ。そんな子気味の良い音が鳴りそうな程綺麗に相手のハチマキがとれる。
「うそ……?」
そりゃ驚くのも無理はない。
なにせ相手はまだ間合いに入っていないと思っていたのだから。
背が高く、バランス感覚に自信があるからこその戦術だ。下手をしたら落馬するからな、これ。
勝利の余韻に浸りながら体勢を立て直したところにすっと右から手が伸びてきた。
「ぬ……!?」
くるっと身体を捻り伸びてきた手を右手で弾く。
「……!?」
相手の緊張がこちらにも伝わってくる。
だがもう遅い。
相手が硬直したその瞬間に俺は左手でハチマキをとっていた。
「あの子……」
「……いこう」
「手伝って……」
相手の色から断片的に聞こえる声は上級生が俺たちの騎馬に目をつけたセリフだった。
たたたっと音がして、いつの間にか周りには三機の騎馬がいる。
この騎馬戦、全学年の女子から選手が排出されているため、必然的に上級生もいるのだが、やはり上級生ともなると互いのことをよく知っており連携力において下級生の出る幕はない。
「神川さん、これちょっとヤバくない?」
騎馬を組んでくれている女子たちから不安気な声が漏れる。
だが、
「大丈夫だよ。止まらずに前進を続けて。」
これくらい突破できずに騎士団長は語れまい。
ひとまず、この包囲網から抜けることは必至だ。
正面に構えた騎馬と睨み合いながらもだんだんと間合いを詰めていく。
それに続き左右の後方に展開していた騎馬もゆっくりと俺たちの後ろについてきた。
「ダァ!」
正面の騎馬がかけ声とともに近づいていた間合いを一気に詰め、こちらのハチマキに両手を伸ばしてきた。
「っ!」
その両手の平にこちらも手を重ね握り、そのまま手前へと思いきり引っ張る。
体勢を崩した相手は俺たちの方へと倒れ込み、そこを胸で抱きかかえるかのように受けとめ優しくハチマキをとってやる。
「一人目!」
騎兵を失った相手の騎馬はその場で崩れ、俺たちの前進を防ぐことはかなわなかった。
それに負けまいと左右の後方から二機の騎馬が追いすがってくる。
「おっけ!反転して!」
くるりと後ろを向くと相手の騎馬が少し減速した。警戒しているのだ。
さて、ここで二機を同時に相手するつもりだが、果たして上手くいくだろうか。
俺が小気味の良い緊張を感じながら構えをとったその時、
「作戦せいこー!!」
それは上級生の騎馬の後ろを凄い速さで駆け抜けた。
「……あっ!」
「……うそ?」
二機共に呆気にとられた顔をしながら走り抜けた騎馬の方を見ると、美紀が満面の笑みでハチマキを掲げていた。
どうもmshミクネギです。毎度のことながら更新、本当に遅く待っていただいた方には申し訳のしようもありません。それでもこの後書きまで読み続けていただけたというのであればもう感無量でございます。
これからもこのような調子が続いてしまう可能性は多分にあるのですが、皆様気長に読んでいただければ幸いです。




