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222 避難勧告 ②

町に入るとそこでは人々が混乱の中で動きまわっていた。

どうやら、何処かに精霊が残っていないのか探し回っている様だ。

しかし、精霊が家庭にまで浸透したのは最近のはずだ。

それなのにこれだけの人間が自分で水を作り火を起こす事を完全に放棄していると言う事だ。

これを見ると人が堕落するのは早いものだと実感する。

俺達はギルドを見つけると建物へと入って行った。

しかし、そこには冒険者は誰も居らず、残っているのはギルド職員だけだ。

俺は受付嬢に歩み寄り声を掛けた。


「ギルドはどれほど機能している?」

「あなたは?」

「避難を呼びかけに来た冒険者だ。連絡は来ていないのか?」


すると受付嬢は後ろにいる同僚に声を掛けるとギルマスを呼びに行かせた。

そして視線を戻すと俺の質問に答えてくれる。


「実は兵士に通信の魔道具を破壊されてしまいまして、最後に伝えたのはこの支部を見捨てる様にという知らせだけです。」

「そうか。それで、お前らはどうするんだ?」

「私達は結界に閉じ込められているので出る事が出来ません。どうやら兵士たちは我々をこの街から出す気が無い様で結界を開けてもらえないのです。」


何やらしょんぼりしているが今は結界を破壊しているので外に出られる。

逃げたいのなら今がチャンスだろう。


「それなら俺達が破壊したから問題ない。もし、一緒に逃げ出す者がいるなら声を掛けてこい。外までは送ってやる。」

「え!?まさか、そんな事が。」


受付嬢は窓辺に走りそこから外を覗いた。

そして結界が消滅しているのを確認すると駆けて戻って来る。


「皆!結界が消えてるわ。逃げ出すチャンスよ。すぐに声を掛けて回って。」


すると全員が立ち上がり外へと向かって走り出した。

どうやら人を集めに回ったようだ。

それにここに住んでいる訳ではないので自分の荷物も取りに向かったのだろう。


「アンタは行かないのか?」

「私はここの宿直室を借りて寝泊まりしています。この街には私達を敵視している者も多いので安心して過ごせなくなりましたから。」


先程の兵士の対応を見るとギルド職員は良い目では見られていないだろう。

女性職員が身の危険を感じるのも当然と言える。

それに、町中を回ったがギルドには精霊が居なかった。


「それで、逃げても外には魔物がいっぱいだぞ。戦力は足りているのか?」


ギルド職員は一般人に比べればレベルは高い

しかし、外にはそれ以上に強い魔物で溢れている。

集団で動くと目立つので戦力が居なければ魔物の餌になるだけだ。


「それなら大丈夫です。元冒険者に声を掛けていますから戦力は揃います。結界だけが障害でしたから。」


すると上の階からギルマスが下りて来た。

どうやらここのギルマスは高齢の様で足腰が少し不自由な様だ。

そして、下りて来ると俺達の前に来て優しく微笑みを浮かべる。


「君たちが伝令かな。それで、他の皆はどうしたんだい?」


受付嬢は今までの事を説明して俺達の事も紹介してくれた。

ギルマスは大きく頷くと傍にある椅子へと座る。


「そうか、そうか。ならばお前たちはこの期に早く逃げなさい。」

「ギルマスはどうするんだ?」

「儂は既にこの歳だ。逃げても足手まといにしかならんよ。そうじゃ、昔に儂が使っていた剣を持って行きなさい。思い出に持っておったが売れば金になろう。避難先で売って生活資金の足しにしなさい。」


そう言って取り出したのは2メートルもありそうな大剣だ。

それをギルマスは手で軽く回して床に突き立てた。

地面は石を敷き詰めて作られているが剣は軽く30センチほど刺さるとギルマスは手を放す。


「ドワーフ製じゃからな。売れば良い値になるじゃろう。」

「ギルドマスター・・・。」


受付嬢はギルマスの言葉に今にも涙を浮かべて縋り付きそうだ。

しかし、彼の言う通り連れて行くと全体に危険を与えるかもしれない。


「なら、最後の晩餐に飯にでもしようぜ。」

「あなた、何てこと言うんですか!」


どうやら先程からのやり取りで分かる様にこのギルマスは周りから慕われている様だ。

この歳でもギルマスが出来ているのにはそう言った理由もあるのだろう。

俺は受付嬢の言葉を無視するとそのまま料理を並べて行く。

それを肴に酒も進めていった。

ギルマスはそれを美味しそうに食べていき受付嬢もブスッとしながらも一緒にご飯を食べる。

その間に職員たちが次第に戻って来たのでギルマスは最後に別れを告げるために酒の入ったグラスを手に取った。

俺は周りの者にもアルコールの薄い酒を配り持たせていく。

そして準備が整うとギルマスは話し始めた。


「この齢まで仕事を出来たのはお前達のおかげだ。儂はここに残るがお前たちはまだ若い。ここで終わらず、新たな地で生き抜いてくれ。」


そして、残るという言葉に周りから悲鳴に似た声が上がり、共に行こうと説得する声も上がった。

しかし、ギルマスはそれに首を横に振るとグラスを掲げた。


「本当に昔から仲間には恵まれた人生じゃった。儂はお主たちが無事に国境を越えられる事をここで祈っておるよ。」


そう言ってギルマスは酒を飲み干して背を向けた。

その横には先程の大剣が突き立っていてまるで墓標の様だ。

すると外が騒がしくなり怒鳴り声が聞こえて来た。


「この建物は既に包囲されている。ここから逃げられると思うなよ。お前達は反逆罪でこれから地下牢へ幽閉する。」


そんな声が聞こえて外を見ると50人程の兵士が待機していた。

中にはレベル40越えの者も混ざっておりそれなりに強そうだ。

しかし、天使やデーモンは居ないのは分かっているのでこのまま放置でも良いだろう。

彼らの相手は大剣の横に立つ彼がしてくれる。

俺達はこれから奴隷の解放をしに行かなければならない。


「それじゃあ、俺達は行くから外で待っててくれ。奴隷の解放もしないといけないからな。」

「ちょっとあなた達、この状況で何を・・・。」

「構わんよ。あの程度のヒヨッコ共なら儂一人で十分じゃ。」


そしてその声に全員がそちらに視線を向けると体を筋肉で武装している様な男が大剣を手にしていた。


「もしかしてギルドマスター!?」

「そうじゃ。何をしたか知らんがまるで若返った様に体が軽い。今ならお前達を護ってやれそうじゃ。」


そう言ってギルマスは外へと歩を進める。

そして彼のレベルは79もあるので若ささえあれば俺達を覗いてこの街では最強の男だ。

恐らく無傷で帰って来るだろう。

俺達は裏口から外に出るとこの場を任せて町中を走り回った。

今は犯罪奴隷かなどと調べている余裕はない。

とにかく全員を開放していき門へ向かう様に告げた。

ギルド職員ならギルドにある大量の武器を使って彼らを戦力にするだろう。

国から出た後にどうするかは彼ら自身が決める事だ。


そして1時間ほどで全ての解放を終えると俺達も出口へと向かって行った。

途中に地面が真っ赤になっている場所があったが、きっと誰かがトマトでもバラまいたのだろう。

そして外に出るとそこでは多くの人達が出発の準備をしていた。

馬車もあるので可能な限り集めたのだろう。

その一角にはウルフが一匹居るのであの兵士二人も上手く乗せてもらえたようだ。


俺はギルマスの所に行くと彼に声を掛ける。


「後の事は頼むぞ。」

「ああ!任せておけ。それよりもこれはギルドからの依頼か?それに俺のこの体は何だ?」


どうやら俺達が居ない間にやっと気が付いたようだ。

しかし、細かく説明する義理は無い。

そのため最初の質問にだけ答える事にした。


「ギルドは既に殆どの町や村を見捨てる決断を下している。これは俺達が勝手にしている事だ。別に解放するのはヒュームだけじゃないからな。」


ある程度の話はぼかしたが俺達が奴隷を解放している時点でその為の魔道具を持っている事はバレているだろう。

そうなれば精霊達が消えた理由も簡単に想像がつく。

ギルマスはニヤリとだけ笑い他の事は聞いてこなかった。


「そうか。なら、その行動に感謝しておくとしよう。」

「それじゃあな。俺達は次に向かう。」

「ああ、他にも俺達みたいなのが居るかもしれない。そいつらも助けてやってくれ。」

「任せろ。そいつらが俺達から見て善良なら助けてやる。」


俺はそう言って飛び上ろうとすると遠くからこちらに向かって来る存在に気付いた。

しかもその速度は俺に匹敵し、あと数秒で到着しそうだ。

だが、そのまったく減速する様子が無い動きに俺は苦笑を浮かべてそちらに体を向けた。

そして衝突と同時に俺は後ろに移動しながら衝撃を弱めて優しく受け止めてやる。


「ホロ、もう少し早く減速しないと怪我するぞ。」

「ワン(次から気を付ける。)」


まさかマッハの壁を越えて犬が降って来るとは誰も思わないだろう。

俺はホロを抱えたまま戻ると驚いた顔のギルマスに詫びを言っておくことにした。

少なからず周りも驚かしてしまったがそちらは後で彼から伝えてもらおう。

そう思っていたのだが周りで一斉に動き始める者たちが居た。

その全てが何らかの獣人だが俺の前まで来ると地面に平伏し頭を下げる。

その光景は以前に富士で見た事がるので彼らがそれをしているのは俺ではなく、俺が抱いているホロにだろう。

俺はホロを下ろすとそのまま彼らの前まで移動していき姿を変えた。


「忠誠を誓う?」

「「「誓います!」」」


するとホロは俺に視線を向けて許可を求めて来る。

ここで俺が頷けばスキルを発動させるのだろう。

別に支配したり連れて行くわけではないので俺は頷いて許可を出した。


「なら、みんな仲良くしてね。」

「「「御心のままに!」」」


それと同時にホロはスキル獣帝を発動した。

これで特に何かが変わる訳ではないがホロも今では神気を使える様になっている。

あれは信仰が力になるので獣帝のスキルととても相性が良い。

少しでも増やしておけば自身の助けになるだろう。


「それじゃあ、みんな頑張って生き延びてね。」


そう言ってホロはまた俺の許に戻って来ると犬の姿で俺の腕に収まった。

それに意見する者は誰も現れず、それぞれに元の場所に戻って行く。

俺はギルマスの所に向かい軽く声を掛ける。


「騒がせてすまないな。」

「気にする事はない。長く生きておると色々と不思議な物を見るもんだ。儂の知識からすると獣王のスキルか?」


ギルマスは確信に近い事を聞いて来るがあまり良い印象のないスキルなので「そんなもんだな」と言って答えをはぐらかしておく。

そして、俺達は今度こそこの場から離れて次の場所へと向かって行った。


そして俺は移動の間を使ってホロに事情を聞くことにする。

危険なので全員を置いて来たが今のホロは神気も使いこなしている。

俺の居ない間に何かがあったと言う事だ。


「アティルの所に沢山の神様が来て色々教えてくれたよ。」


なにやら要領を得ないが、神でもヴィシュヌと同様に敵ではないのだろう。

しかし、どうしてそんな事が起きたのかが重要だ。

ホロはそう言う事にはあまり興味を示さないので聞いていても忘れているだろう。

すると俺の中に居るスピカが補足を入れてくれた。


『私がお願いしていた神たちですね。連盟を通じて救援を要請しておきました。』

「連盟?何の事だ?」

『少し前に一部の神が問題を起こしました。その際にその世界にいる神だけでなく他の世界に住む神同士でも助け合おうという話が出たのです。そして私はこの世界の神として連盟に参加しています。』


また、サラリと重要な事を言うが俺はそんな事は初耳だ。


(そんな事よりもスピカは神だったのか!)

『はい。正式名称は大地母神ガイア。この世界では最高神です。』

(それなら、以前にお前と繋がっていたアティルはその事を知っているのか?)

『知っています。でも怒ったり嫌いにならないであげてください。私がお願いして時が来るまで黙っておいてもらいました。個人情報という奴ですから。』


何か急に現実的な事を言い出したが別に怒ってもいないし嫌いにもならない。

今なら「まあ、信じても良いかな」と思うが以前ならあまり真剣には信じなかっただろう。

何せ人見知りで引き籠りのスピカが神だと言われても流石の俺も信じるのが難しい。

それどころか冗談だと思い笑っていたかもしれない。

そう考えると今のタイミングが最善と言える。

今なら神と向かい合い、俺も亜神へと変わっているので存在自体を否定できない。


(それで、質問があるんだが?)

『何でしょうか?』

(以前に敵の亜神、確かブルテだったか。あいつが俺の中で見た物は何なんだ?お前が自分で作り出したのか?)

『あれですね。あれは私の存在が知られた時にライラに頼んで購入してもらいました。ネット環境はユウさんのステータスにある携帯機能を経由しています。』

(もしかして、このために携帯機能を取り込めるようにステータスを変更したのか?)

『・・・・・。ぐ、偶然ですよ。はははは。』


凄く怪しいがあの機能には俺も助けられている。

距離もアンテナも関係なしに相手に繋がるのでとても便利だ。

すなわち、どこでもネットが使い放題だがそこは触れないでおこう。

スピカも俺の中に居るだけでは退屈だろうからあれ位の娯楽は必要だろう。


本なども何処で手に入れたのかが疑問だがこの調子ではライラに通販でもお願いしたのかもしれないな。


『ああ、それはネトゲの友達から教えてもらったタイトルを通販しました。最近のゲームって進んでますよね。』


何やらスピカは俺よりも今を謳歌している気がしてきた。

何故か先程までの思いが消え去り少し妬ましくなってくる。

これは帰ったらしばらくはゲームの無い生活をさせた方が良いかもしれないな。


『ノ~~~ウ!それはやめてください。ネトゲの友達と狩りをする約束がギッシリ詰まってるんです。一日とて抜けられません!』

(どんだけのめり込んでるんだ。俺も昔は睡眠時間を削ってネトゲをしていた時期があったがこれほどではなかったぞ。)

『私はゲームでは聖騎士ガイアと呼ばれて周りから頼られているんです。あそこは私の新たな世界です。平和が訪れるまで騎士として世界を救います。』


その世界よりも先に現実を救ってほしい。

どう見てもそちらよりもこちらの方がピンチだろう。

しかもいつリバイアサンがこの事に気が付いてこの国を沈めるかも分からないのに。


『残念ですが、全ての神が戦闘に秀でている訳ではありません。私の戦闘力などユウさんから見ればゴミも同然です。あ、約束していた方がログインしました。それでは聖騎士ガイアはこれから頑張ってきます。』


そう言ってスピカはネットの世界へ旅立って行った。

俺の中には居るがしばらくは反応が無いだろう。

道理で最近話しかけても反応が遅い時があると思った。

眠る必要のない彼女はまさにネトゲ廃人になる才能を持っていたと言う事だ。

俺はその秘密を胸に秘めて次の村に到着し、精霊や奴隷を解放しながら進んで行く。

その間にもスピカの悲鳴が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。


そして、余談ながらしばらく後で親友であり、ネット関係に強いリョウタに聞くと聖騎士ガイアはとても有名な人物である事が分かった。

多くの掲示板サイトを使いその容姿もあってか人気も高い。

一部では本人の画像が加工画像だろうと噂されているが俺が見せてもらった物はそのまま本人だった。

まあ、俺から出ないので問題は無いがスピカには困ったものだ。

スピカはアティルと双子の様に似ているので彼女には外を出歩く時は気を付けてもらわないといけないな。


そしてこの日は夕方まで飛び回りその後は揃って眠りに着いた。

スピカが居れば夜は安心だ?

きっとゲームに夢中になっておろそかにすることは無いだろう。

俺は不要であると知りつつも結界石を設置し、安全を確保してから眠りに着くのだった。

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