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221 避難勧告 ①

俺達はリストのを場所を回ってそれぞれの村や町で解放を行いギルドに避難を呼びかけた。

流石、ギルドが調査し認められた場所だけはあって邪魔をする者は誰もいない。

逆に協力までしてくれるので作業は順調に行われた。

既に避難の準備も出来ていた様で全員が一丸となり素早く避難を開始していく。

そして4つの町と村を回り終わったので俺達は次の目的へと移る事にした。


「次からはギルドが見捨てている場所だな。」

「ああ、しかし、俺達の目的は全ての精霊と天使やデーモン。囚われている奴隷達の解放だ。救いを求めている者たちはどの街にも居る筈だ。ここからが始まりと言っても良いだろうな。」


そして俺達は人だけでなく家までが姿を消した元村があった場所から飛び上ると次の目的地へと向かって行った。

場所は全て手元の地図に記載されている。

マップと千里眼を併用すれば取りこぼす事も無いだろう。

そして、程なくして俺達は次の村に到着した。

ここは農業が主流の様で周りには多くの畑があり、そこには元気な作物が収穫の時を待っている。

しかし、そこには人の姿はなく、見えるのは下位精霊だけだ。

人口は100人程だがその中にヒュームは30人ほどで、それ以外は奴隷の獣人や魔物由来の亜人が70人居る。

千里眼で見ると精霊は作物の世話をし、奴隷達は収穫した物を整理している。

それだけなら長閑な風景だが作業をしている者は誰もが疲れた表情を浮かべ、明らかに痩せている様に見える。

それに比べてヒュームは全員が肥え太り、家の中でのんびりと過ごしている様だ。

そこに周りで働いている者達へと気配りは無く手伝おうともしていない。

それにあの体では碌に仕事は出来ないだろう。


「これは酷いな。」

「そんなにか?」

「ああ、ここは解放したらヒュームは放置して次に行こう。」


俺達は結界の前に行くとそこに手を当ててみる。

すると硬質な感触があるのでここも物理系の結界が張られているようだ。

どの程度の強度かは分からないが今は壊さなくても入る方法がある。

俺は解放の魔道具を手に持つともう一度結界に触れた。

すると結界に入口が開いたので俺達はそこを通って中へと入る。

これはここに来るまでに回った町の1つでギルドから教えてもらった。

これで毎回、結界を破壊して入る必要はなくる。

そして中に入るとそれに気が付いた精霊達がやって来る。

どうやら、畑内では自由に動けるようだ。

それに畑の世話と言っても彼らがそこにいるだけで作物は元気に育つ。

疲れた顔なのは常に精霊力を放出しているからだ。


「こんにちは、村に御用ですか?」


どうやら彼らは俺の事を知らない様だ。

俺とオリジンが出会ってそれ程には時間は経過していないがそれ以上の期間はここに囚われていると言う事だろう。


「君たちはここから出たいか?」


すると精霊達は首に巻かれている隷属の首輪に手を添えた。

そして浮かべていた僅かな笑みも消え去り悲しそうな表情を浮かべる。


「これがあるからここからは離れられないの。」

「それなら大丈夫だ。」


俺はそう言って解放の魔道具を使い首輪を外してやる。

するとその精霊は首に手を当てるとその目から涙を流した。


「・・・これは?」

「助けに来たんだ。だからみんなをここに呼んでおいで。人に見つからないようにそっとね。」

「分かりました。それと助けに来てくれてありがとうございます。」


すると小さな精霊は急いで遠くにいる精霊達を呼びに向かって行った。

俺は次々に開放すると彼らは更に仲間を呼び集めに向かう。

そしてその手は村で働く奴隷達にも広がって行った。

村人と思われる者達はその全てが家の中で今もそれに気付く事無く過ごしている。

しかも逃げれないと油断しているのか誰も外を気にしていない。

そのおかげで村の中から全員が脱出し、こちらに来るのに10分と掛からなかった。


「今からお前達も解放するからすぐにここから避難しろ。」

「それは構わないが何処に行けばいい?」

「隣の国まで逃げろ。食料と武器はあるか。」

「食料は十分にある。しかし武器が問題だな。俺達はナイフと鋏くらいしか持っていない。」


すると一人の男が持っていたボロボロの鋏とナイフを見せてくれた。

それにナイフと言っても5センチもない。

これは恐らく野菜の収穫用だろう。

どう見てもこれで戦闘は不可能だ。


「それならこれを使え。」


俺は彼らにダンジョンで手に入れた武器と、質は良くないが革鎧を渡した。

武器は100階層ダンジョンの下層で手に入れた物なので防具と違って質は十分だろう。

70人もいるので食料さえあれば十分に逃げ切れるはずだ。


それにこの国は現状で兵士は殆ど巡回していない。

兵士自体が少ないのかそれとも外の魔物が怖いのかは分からないがこちらとしては都合が良い。

俺達は結界に出口を作り彼らを外に出すとしばらく移動に付き合い戦闘などで問題が無いのを確認すると最後に軽く声を掛けた。


「俺達は次へ向かうからな。」

「ああ、ありがとう。この恩はいつか返す。」

「それなら無事に逃げ切れよ。」


ここはディスニア王国から一番遠い場所だ。

歩けば3週間はかかるだろう。

運よく村には荷を運ぶための馬車が複数ありそれを引くための馬も居た。

これらは俺が持って来たので気付かれてはいないはずだ。

ついでに野菜も大量に持って来たので馬達の食料も大丈夫だろう。

村から収穫済みの野菜が殆ど消えたが畑にはまだ大量の作物がある。

食べるなら自分達で収穫すれば良いだろう。


それにこの馬車の速度なら10日程で国境を越えられるはずだ。

その後、俺達は次々に近くの村を開放していった。

どの村でも同じような状態になっており逃がすのは容易かった。

それに村から離れれば魔物が居るので追手の心配もない。

そして、俺達はようやく次の町へと辿り着いた。

人口は1万人くらいだろうか。

大きな町ではないが精霊の数は多く奴隷も1000人はいる。

一般市民と奴隷を合わせれば11000人は居る計算だ。


今は丁度日が沈み始めているので俺達は夜になってから行動する事にした。

深夜までは軽く睡眠を取って食事も済ませておく。

そして深夜になると俺達は町へと侵入した。

ここには兵士は駐留しているが全員がだらけ切っており巡回も疎らだ。

夕方に見た街の光景も一部を除けば平和な街並みが広がっている。

その一部というのも精霊を酷使し、道具として使っている事だがそれさえなければ見分けるのは難しいだろう。

しかし、この街にとって精霊とは既に生活の一部になっている様だ。

水を出すにも精霊を使い、料理を作るにも精霊を使っている。

人は一度でも楽を覚えるとそれを手放したくなくなるので彼らの中では精霊にも心があるという意識はもう無いのかもしれない。


俺はひっそりと民家に入ると精霊が入れられている入れ物を手にして外に出た。

どの家にも生活に欠かせない水と火の精霊が必ず居る。

俺は彼らを慎重に外に出すと説明を行い解放していく。

そして、こまめにアキトに外へと連れ出してもらい俺達は夜の間に全ての民家を回った。

精霊達は誰もがお礼と笑顔を向けて町を去って行く。

残ろうとしない所を見るとこの街には未練はないのだろう。

俺達は一度町から出ると日が昇ってから結界の傍まで近寄った。

ここは町の入り口から見える場所で移動してきた冒険者はここで待つ事になっているそうだ。

そして、少しすると気付いた門番がやって来た。


「お前らは冒険者か?」

「ああ、そうだ。」


俺とアキトはそれぞれにギルド証を結界の外から見せた。

それを見て門番は少し表情を硬くさせる。

今までの町でこういう対応をされた事が無いので俺達は揃って首を傾げた。

通常どの街でも魔物を駆除してくれる冒険者は歓迎される。

これだけの規模なら必ずギルドの支部もあるので無法を働く者も滅多にいない筈だ。

しかし、男は一向に結界に入口を作らないので不審に思い声を掛けた。


「どうした。俺達は入れないのか?」

「その通りだ。この街に冒険者は立ち入り禁止だ。残念だが別の町に行け。とは言っても冒険者を受け入れる町は殆どないがな。」


そう言って男は背中を向けると門へと戻って行った。

取り付く島もないとはこの事だ。

今は早朝なのでまだ騒ぎになっていないがもう少しすると町は大騒ぎだろう。

なにせ精霊が全て居なくなっているのだから。

俺達は民家だけでなく兵士が居る施設からも残らず助け出している。

もうじき彼らがどんな行動を取るのかが非常に楽しみだ。


「アキト、朝食にでもするか。」

「結界を壊して入らないのか?」

「それをすると精霊を奪った犯人にされるだろ。少し静観して様子を見よう。」


結界を破壊するとその負荷で結界石も壊れると聞かされている。

すなわち、俺達がこうしてここに居る事こそがアリバイとなるのだ。


「クックック!まるで犯人じゃあないみたいだな。」


アキトは珍しう黒い笑みを浮かべると椅子を取り出してその場に座った。

取り出されたのはキャンプ用のリクライニングチェアで俺の記憶が確かなら3万円はするメーカー品だ。


(アキトも最近は精神が鍛えられて図太くなってきたな。)


そういう俺も同じくリクライニングチェアを出して座るが俺のは5000円の安物だ。

アキトを見ると何やら勝ち誇った様な顔で見て来るが俺は悔しい気持ちを飲み込んで朝食を取り出した。


「何時頃来ると思う?」

「1時間以内じゃないか。町では既に騒ぎ始めている様だからな。」


確かに町では人が家から飛び出して周りに視線を走らせている者がチラホラ出始めた。

この調子ならいずれ兵士が変な邪推を行い、こちらに来るのも時間の問題だろう。


そして、朝食を終えてアキトはコーヒーを飲み、俺がコーヒー牛乳を飲んでいると兵士が団体さんでやって来た。

しかも全員が武装しており、その表情からしてただ事ではなさそうだ。

兵士たちは俺達の前に来ると結界の向こうから声を荒げた。


「貴様らが精霊泥棒の犯人だな!」


容疑者をすっ飛ばして犯人とは驚いた。

何処にその証拠があるのだろうか。

もしやこの街に俺の潜伏スキルを上回る存在がいるかと思いスピカに検索を依頼する。


『その様な存在は居ませんね。完全な言い掛りでしょう。』

(そりゃそうだよね。)


俺は確証を得たので堂々と胸を張り兵士たちの返事を返した。


「俺達がどうやって中に入ったって言うんだ?お前らと俺達の間にある結界が見えないのか?」

「ムググ・・・!ならば捕らえて尋問すれば良いだけだ。すぐに罪を認めさせてやる。」


それは尋問ではなく拷問だろう。

俺は呆れて溜息を放つと結界に歩み寄った。


「なら早く結界から出て俺達を拘束したらどうだ。」


コイツ等は先程から結界から出てこようとはしない。

もしかしてとは思うがまさか怖い訳ではないだろう。


「ならば早く武装解除してその場で手を上げろ。安全が確認され次第、結界を解除する。」


まさかこんなチキンな奴らが兵士だとは思わなかった。

この街に冒険者が居ないのはこんな奴らとの馬鹿なやり取りに疲れて出て行ったからかもしれない。

しかし、こんなバカの相手を毎日しないと町にも入れないなら俺も確実に町から出て行くだろう。


「おいおい、ここは魔物が歩き回る結果の外だぞ。こんな所で武装解除して魔物に襲われたらどうするんだ。」


そう言っている内に俺達を見つけたウルフが遠くから走って来る。

そのレベルは40と高く目の前の兵士たちでは束になっても勝てないだろう。

そして、俺の後ろから走って来るウルフに気が付いた兵士たちは腰が引け始めた。

そんなのでどうやって今まで町を守って来たのだろうか。

もしかして偉そうな事を言っているが全て冒険者に押し付けていたとか。


そしてウルフはアキトのすぐ横を通り俺に飛び掛かって来た。

どうやら気配を消してやり過ごしたようだ。

ウルフは俺に噛みついて押し倒そうとするが俺はそれを無視したまま兵士へと話しかけた。


「ほら見ろ。お前が武装を解除しろとか言うから魔物に襲われたじゃないか。」

「な、何を言っている。そんな言い掛りは・・・。」

「ならお前のは言い掛りじゃないのか。それとも何か明確な証拠があるのか?あるならすぐに言ってみろ。」


兵士は腰を引きながらも歯を食いしばりこちらの言い掛りに言い返そうとしているが言葉が出ない様だ。

俺は呆れを多分に含んだ溜息を吐くと結界に手を当てた。


(これ殴ったら壊れるかな?)

『デコピンなら一発ですね。』


俺は物は試しと親指で中指を抑えて力を溜める。

そして結界に放ってみると一瞬で結界全体に無数の亀裂が入り小気味よい音と共に砕け散った。

それを見た兵士たちは全員が状況を理解できず棒立ちになっている。

しかし、俺に噛みついていたウルフは違った。

俺にダメージが無い事に気付いたのか、その牙は次のターゲットへと吸い込まれていく。


「キャーーー!」

「な、結界が・・どうして。」

「そんな事やりも魔物だ。仲間を助け出せ。」

「そんな事してられるか。そいつが喰われている内に町に逃げ込むんだ。」


すると兵士たちは仲間を見捨てる者と、見捨てない者に分かれて動き出した。

そして先程仲間を助けろと吠えた者は一番に町へと逃げ出している。

どうやら他の仲間も犠牲にして自分だけ助かろうとしていたようだ。

襲われている兵士を助けようとしているのは結局一番傍にいた若い男の兵士一人。

そしてよく見ると襲われているのは若い女の兵士の様だ。

もしかすると深い関係なのかもしれない。


しかし、助けようとする兵士も頑張ってはいるが武器の悪さとレベルの低さのせいで碌にダメージになっていない。

剣を振り下ろしても当たった部分の体毛が数本舞うだけだ。

あれでは生きている間に助ける事は不可能だろう。

見捨てても良いがそのガッツに免じて今だけは助けてやる事にした。


「どいてろ。」

「助けてくれるのか!?」


俺はウルフに歩み寄るとその首を掴んで持ち上げた。

口には女兵士が引っ掛かっているが俺が睨むと大人しく解放する。

俺は逃げていく兵士に視線を向けるとウルフから手を放した。

するとウルフは駆け出して逃げた兵士たちを追い駆けて襲い始める。

そして足元の倒れた女兵士を見れば既に虫の息だ。

噛み付かれていた首の傷も深くもうじき息も止まるだろう。

ウルフは正確に首を噛み切り太い牙で肺にも穴を開けたようだ。

すると先ほど助けようとした兵士は女兵士に駆け寄り声を掛けた。


「おい!しっかりしろ!死なないでくれ!」


そう言って魔法で回復を試みるがその程度の魔法では助かるはずもない。

仕方ないので俺も魔法をかけてやり命を助けた。

しかし、俺がしてやるのはここまでだ。

残念だが俺にとってはコイツ等にこれ以上の事をしてやる価値を見いだせない。

女兵士はかなりの血を流しているので傷が塞がっても助かるかは五分五分だろう。

後は男の判断と運次第だ。


「お前らは今すぐにここから逃げろ。」

「アンタはどうするんだ?」

「俺達は町に避難を呼びかける。この国が津波に呑まれると伝えてな。」

「それは本当なのか!?」


普通に信用の無い俺達が言ってもこうやって誰も信じないだろう。

それでも俺達はこの事を伝えて回る。

自己満足に近い行いだが後になって後悔はしたくない。

俺達は二人をその場に残して町に向かい歩き始めた。

その先には先程の兵士たちの死体があり、ウルフが大人しくお座りしている。

俺はウルフの頭を軽く撫でてやると「アイツ等を護れ。」とだけ伝えて町へと入って行った。

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