218 拠点壊滅 ②
今回は前回とは違い静かに制圧する事にした。
前回は入り口を破壊したがここは町も近い。
もしもの時の備えとしてこの砦は使える。
俺は空からこっそりと中に入ると帝国兵を一人ずつ始末していった。
そして最後に残るのは天使憑きの3人だ。
コイツ等は勘が良さそうだったので最後に取って置いた。
空はそろそろ日が落ちて暗くなり始めている。
薄暗くなってきたため俺の気配遮断の効果は更に上がる。
しかも忍術の合わせ技で容易く相手の背後を取ることが出来た。
この状態で俺の気配を探れる人間は殆ど居ないだろう。
もし居ればそいつはゲンさん達と同様の超が付く達人と言う事だ。
ここはある意味ではこの国の辺境になる。
居るとしてもこんな所ではなくもっと中央の町に居るだろう。
「そう言えば、四天王とか言ってた二人が俺の所に来たのはマリベルを連れていくためか?」
『その可能性はありますね。最近ではゲートの使用が多かったですしユウさんは色々な所で動き回ってますから。』
「確かにな。調べれば俺の移動速度の異常にも気付くか。」
『捕まった精霊、天使からという可能性もあります。』
考えて疑うと限が無いのでこの思考は途中で切り上げて残った反乱軍の許に向かった。
数人は既に今の異常に気付き行動を起こしている様だ。
このまま次に行くと解放の魔道具が手に入らないので一度は声を掛ける必要がある。
俺は精霊達のいるエリアに顔を出すとそこで作業をする一人に声を掛けた。
「解放は順調か?」
「ああ、どうやら手筈通りギルドが優秀な冒険者を雇ってくれたようだ。」
「なら、その優秀な冒険者に解放の魔道具を幾つか譲ってくれないか?」
「・・・。」
すると作業に夢中だった男はやっと俺の存在に気が付いたようだ。
驚きと同時にその場を飛び退いて腰の剣に手を伸ばしている。
それを見て周りの精霊達から笑い声が零れた。
「面白いね。」
「普通に話してたのにね。」
その声を聞いて男は咳ばらいをすると3つの解放の魔道具を取り出して俺に投げて来た。
「今回の協力に感謝する。貴重な物だから無くさない様にな。」
「分かった。それじゃあ俺は次に向かう。」
「次ってお前、他の2つも落とすつもりなのか?」
「ああ、知らないだろうが西のはもう落とした。後は中央だけだ。」
すると男は俺に驚きの顔を向けて来る。
まあ、情報を漏らさない様に反乱軍以外は皆殺しにしたし残った彼らが定時連絡くらいは上手く誤魔化してくれるだろう。
彼がこうして驚いているのがその証だ。
「しかし、今の中央の拠点にはここよりも遥かに多い数の兵士が居るぞ。」
「それくらいはどうにかする。お前らは今の状況が外に漏れないようにだけしてくれればいい。」
俺はそう言って最後の拠点に向かって行った。
しかし、これでやっと3つ目だ。
この調子なら今日はここが最後になるだろう。
急いで次々に攻めていきたいが俺の行動を補足していつ強敵が来るとも限らない。
休める時に休んでおかないと簡単に命を落としてしまう。
そして、俺が拠点に到着するとそこでは門が開き、大勢の兵士たちが進軍を開始したところだった。
実は先ほどの拠点同様に少しずつ間引くつもりだったが当てが外れてしまった。
仕方ないので正面対決するしかないだろう。
オール・エナジー・ブレスで吹き飛ばす事も考えたがそれをすると天使や精霊まで死なせてしまう。
仕方ないので今回も・・・。
そう思っていたら帝国兵の進む先に一人の男が立ちはだかっていた。
俺はそちらを見てやっぱり来たかと溜息が零れる。
男は武器を取り出すと容赦なく兵士たちに魔弾の雨を降らせた。
「ユウーーー!居るのは分かっているんだぞ!どうして俺を置いて行ったーーー!?」
そして少し離れた俺に届く程の声が響きアキトは瞬く間に帝国兵を皆殺しにして見せた。
アイツもこの国が天使や精霊にどんな非道を行っているかを知っている。
と言うか、アキトが容赦なく尋問して吐かせたので知っていて当然と言える。
だから、コイツだけは来るかもしれないと思っていたがそれが的中したようだ。
俺は気配遮断を解除するとアキトが居る場所まで向かって行った。
「やはり居たか。」
「今来たところだけどな。」
「それで、どれくらいまで進んでいるんだ?」
「国境周辺の拠点はこれで終了だな。」
かなり不機嫌そうだが状況確認は怠らないのは職業病だろうか。
この様子なら言っても帰りそうにないのでこれからは二人で行動する事になりそうだ。
その後、俺はアキトにこれまで得て来た情報を教えて砦に向かって行った。
先程の集団には反乱軍が混ざっていなかったのは分かっている。
彼らは砦に残りそこで囚われていた精霊たちを開放して周っている。
それに今回の情報共有でアキトも識別が出来る様になったので次回からは無差別攻撃はしないと思いたい。
そして、中に入ると残りの帝国兵を始末してから反乱軍を手伝い精霊を開放していった。
当然、先ほどの中にも多くの天使や精霊がいたのでそちらも解放済みだ。
それが無ければ俺はアキトに何発の拳を落とされていたか。
そして、解放が終わると俺達は先程の港町へと向かって行った。
理由は簡単でアキトのギルド証も作るためだ。
SSランクはどうしても目立つのでこれから中央に向かって行こうとすると邪魔になる。
だからと言って他の身分証でも目立つので使うことが出来ない。
それに、敵には俺達の情報もあるようなので、なるべく目立たない様に行動したいと言うのもある。
そして無事にアキトのギルド証も作り終えたので俺達は近くの宿で一夜を明かす事にした。
その時に漁師たちから魚の差し入れと一緒に彼らの間に伝わる言い伝えを教えてもらった。
「これは凄い昔から各地にある話らしい。」
「俺達はこの話を子供の時から聞いているから海の者達とは仲良くしてるんだ。」
そう言って漁師たちは真剣な表情で話し始めた。
各地にあると言う事はそれなりの回数が起きているのだろう。
ここは大きな港町で商人も多そうだ。
そういう話が自然と集まるのかもしれない。
「それで、その言い伝えってなんだ?」
「何でも海には海王っていう巨大なドラゴンが居て海の者達を見守っているんだそうだ。」
(それってもしかしてリバイアサンの事か?)
「そして、陸の者が彼らを虐げた時、その怒りは津波になって大地を襲うと言われている。しかし、たとえ津波に呑まれても心ある者は助かり、それ以外はすべてが海に返るそうだ。」
確かにリバイアサンは普段は大人しいが一度怒ると性格が変わるからな。
彼女なら国くらい飲み込むような巨大な津波を起こしそうだ。
しかもこの国は3方を海に囲まれているので条件はバッチリだな。
(あれ、これってヤバくないか。もうカウントダウンが始まってる気がするぞ。)
俺は自分の予想を否定して欲しくてアキトを見たが真剣な顔で頷かれた。
どうやらアキトも同じ結論に至ってしまったようだ。
もし、この国が完全に腐りきっていれば俺も悩まずにいれただろう。
しかし、この国にはまだウィルの様に調和を願う者達が居る。
それに天使やデーモンを体内に抱える者が海の底に沈んだ場合、助けるのが困難になる。
これはギルドとも相談し素早い対応と正確な情報を得る必要がありそうだ。
「ところで、その伝承はどのくらいの範囲で知られているんだ?」
「古い漁師が居る町なら知ってる奴は多いだろうな。本気にするかは別だが俺達は既に避難の準備はしているからこの国から出て行くつもりだ。皆の解放も出来たから明日にでも出発する。」
アイテムボックスがあれば引っ越しも簡単だろう。
日本などの家と違いしっかりとした基礎を打ち付けて家を建てている訳でもないのでアイテムボックスへの収納も出来る。
まさにその気になれば町ごと引っ越す事が出来ると言う事だ。
「魔物は大丈夫か?」
「俺達は漁師だ。船もあるし海岸付近はケルピー達も守ってくれる。他に比べれば遥かに危険は少ないだろう。それに海の男は強いからな。もしもの時は俺達も戦うさ。」
そう言ってウィルは腕に力を入れて鍛え抜かれた筋肉で力こぶを作る。
確かに通常の冒険者よりも遥かに逞しい体をしているな。
レベルも28と高いので基礎力と合わせれば十分に戦えるだろう。
しかし、あの銛では心許ない。
「それならお前らにこれを貸しとくから戦闘の時に役立ててくれ。」
「これは槍か。」
「黒鉄とミスリルの合金で出来てるドワーフ製だからレベルを覆して敵を倒せる。よく切れるから気を付けろよ。」
「ああ、ありがとよ。後で必ず返すからな。」
これ位の事は問題ないだろう。
それにドワーフ製と言ってもそれ程良い物ではない。
あの国では下っ端の兵士が装備するようなものだ。
以前の戦闘時に大量に手に入ったのでそのまま死蔵していたがこの町の男達なら間違った使い方はしないだろう。
俺は5本ほどの槍を渡し席を立った。
これから少しギルドに行って話をしなければならない。
あそこには通信の魔道具があるのでそれを使って避難を呼び掛けてもらう。
それにギルドはそれぞれの町や村の情報を持っていそうだ。
明日までにそれを纏めてもらいそれによって動く事にする。
おそらく国を飛びまわる事になるかもしれないが仕方ない。
いまの俺の速度なら手間ではあるがそれ程、時間は掛からないだろう。
「ギルマス、話がある。」
「来ると思っていたぞ。」
そう言ってギルマスは手に持っていたリストを机の上に置いた。
町の名前は分からないが地図も付いていてしっかりと情報が纏められている。
どうやら俺が来るであろう事を予測して準備を整えてくれていたらしい。
「ウィルから話は聞いたと思うがギルドは最悪の状況が起きると考慮して動くと決まった。各村、各町の選別はこちらでしておいた。このトリアージで非難された時は全て冒険者ギルドが責任を持つ。」
俺は紙を受け取るとそれに目を通す。
そこにはこの国の大まかな地図に〇と×が付いている。
しかし、国の面積に比べ〇はかなり少ない。
40ほどの印があるが丸は10箇所だ。
しかも港町が3に内陸が7個とかなり少ない。
「少ないと思っただろう。」
「ああ。」
「昔はもっと細々とあったが魔物に滅ぼされたり国の命令で一カ所に纏められているんだ。昔は小さな漁村も入れれば100はあったんだがな。まあ、そのおかげで回る場所は少なくて済む。」
しかし、そうなると一カ所の人数は多くなるのではないだろうか。
そうなると移動はかなり大変だ。
「護衛は冒険者ギルドから派遣した者達が居るから問題はない。だが誰もが解放の魔道具を待っている状態だ。それとこちらの国境に近い3カ所は拠点制圧後の奴らが既に向かっていると連絡があった。お前は国の反対側にある残り4カ所を頼む。」
今回初めて国単位でギルドが機能しているのを目の当たりにした。
もしかすると非常時において、これだけ迅速に動けるのが冒険者ギルドなのかもしれない。
そのおかげで俺達も素早く行動に移せる。
しかし、こちらの目的はこれで終わる訳ではない。
あくまでこれは最優先で回らないといけない場所なだけだ。
ここを回れば他の村や町を訪れて解放と避難を呼びかける。
それで動かないならその結果は自分達で決めた事だ。
どうなったとしても俺が考える事ではない・・・。
「それじゃあ、明日にでも俺達はこの街を発つ。あんたらは自分達の仕事をしてくれ。」
「分かっている。そちらも気を付けて行けよ。」
俺達は互いに短い言葉を交わすとそこで別れた。
そして、そのまま宿に戻りアキトに地図を見せるとそのままベットに潜り込んだ。
いい宿なので寝心地は良いが気分はそれほど良くない。
今後を不安に思いながら俺は眠りに落ちていった。




