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216 ガストロフ帝国に向けて

ここには現在、多くの冒険者が集まっている。

その目的は当然この草原の浄化をするためだ。

そうなるとやはり魔法使いがメインとなりその中でも白魔法を得意とする者に偏って行く。

今回の呪いは効果としてもそれほど強くはない。

ただ、広範囲に広がっているので大変なだけだ。

しかし、家のメンバーが居れば10キロちょっとの範囲くらいならすぐに浄化できる。


そして見てみると端の方でワカバとリアも頑張って浄化作業をしていた。

他の者が一度に1メートル程を浄化するとすればあの二人はそれぞれ一度に30メートルの範囲は浄化している。

そのため、あの辺の人達は二人を主軸として僅かに残った呪いなどを浄化して回っている様だ。


俺は地上に降りると頑張っている二人に声を開けた。


「頑張ってるな。」

「こういう事は得意分野だからね。」

「初めてだけど上手に出来てますか?」


どうやらリアは浄化の経験があるがワカバは初めての様だ。

少しムラはあるがそこは周りの大人たちがフォローしてくれている。

慣れればもっと上手くなるだろうからこのまま続けても問題ないだろう。


「良い感じだぞ。もう少し練習が必要そうだけど初めてでこれなら十分だ。」


俺はそう言ってワカバの頭を撫でて褒めてやりながら周りに視線を向ける。

するとサポートしている大人たちが、こちらに向いて親指を立てて来た。

どうやら良い人たちの様なのでここは彼らに任せても良さそうだ。


「リアもワカバの事を頼んだぞ。」

「任せておいて。姉の威厳を見せつけてあげるわ。」


威厳があるかは別としてもしっかり手本にはなっていそうだ。

俺はリアの頭も撫でてやると他の場所へと移動していった。


少し行くと、そこではヘザーの指導でアリーナやツボミが浄化の練習をしていた。

家にはまだ魔法を使い慣れていない者も居るので力を引き出す訓練としては丁度良いのだろう。

やはり魔法は掛ける対象があるとイメージもし易く、効果も目で見て分かる。

今は浄化なら打ち放題なので頑張っている様だ。

そして、一番遠くにはゲンさんやサツキさんが変身して空から霊力を散布している。

一番遠くでしているのは移動が速いのと一般参加してくれている冒険者たちを驚かせない為だろ。

下を見ると広範囲に行っている為、少しずつだが呪いが薄らいできている。


そして、その手前には俺達の中で最も浄化が得意なクオーツが麒麟の姿で静止している。

どうやら角に浄化の力を溜めている様だ。

全力の浄化は久しぶりに見るがレベルの上昇でどうなっているのかが楽しみだ。


そしてどうやら準備が終わった様で嘶きと共に角を下に振り下ろし、地面に浄化を放った。

するとクオーツを中心にして大地は眩い光に包まれそれは次第に周囲へと広がっていく。

ヘドロの様になっていた真っ黒な地面は元の乾いた茶色の土に戻り、酷い臭いをさせていた水たまりも綺麗に透き通たものに変わる。

そして、次第に広がる光は周囲3キロ程を完全に浄化した。

以前は1キロ程だったのを考えれば凄い成長だ。

周りで浄化をしている人たちもこれにはさすがに驚いて作業の手を止めている。

この様子なら思っていたよりも早く終わりそうだ。


俺も人がまだ手を付けていない場所に行くと魔法による浄化を開始する。

最近では毎日の様に使っており、亜神になったおかげで精霊王たちの力を更に多く扱えるようになった。

以前の俺を水道の蛇口とするなら、今は火事の時などに活躍する放水口くらいだろうか。

亜神になりたての俺でこれなら、このまま成長すれば川くらいにはなれそうだ。


「それじゃあ始めるか。」


俺は気合を入れて周囲を浄化していく。

水の精霊力を込めた浄化は、雨という形で大地を汚染した呪いと相性が良い様だ。

なので広範囲に広がる様にミスト状にして周囲へ散布していく。

それだけで周りは浄化され精霊力のおかげで新芽が出始めた。


「ちょっとやり過ぎか?」

『気にしなくても良いと思いますよ。』


だが、周りを見てもここまでの効果が出ている所は無さそうだ。

それでも、これが一番効率が良いのでこのまま作業を進める事にした。

その後、昼前には浄化は終わり俺達は家に帰って行った。

そして、皆が帰って行くのを見届けると俺はトキミさんに声を掛ける。


「それじゃあ、そろそろ行ってきますね。」

「やっぱり一人で行くのかい?」

「ええ、相手に亜神以上の存在が居るなら他の皆では対処できないでしょう。」


実力だけなら問題ない。

しかし、ダメージを与える手段と防御する手段が無いので一緒に行っても危険なだけだ。

それにこうなるかもしれないと既にトキミさんからは話を受けていた。

そして、この戦いが終われば少しの間だが平穏が訪れるとも。

トキミさんも断言していなかったがそれは神が関わっているからだそうだ。

自分よりも上位の存在の事は完全には把握できないらしい。

それでも、俺はこれが最後の戦いになってくれると願ってこれからガストロフ帝国に向かう。


「皆には上手く言っておいてください。」

「大丈夫だよ。それに生きて帰れたら良い知らせもあるから楽しみにしておくんだね。」

「今教えてくれないんですか?」

「今言ったら死亡フラグってのになっちまうよ。帰るまで楽しみにしておくんだね。」


そう言ってトキミさんは笑い「行っといで」と背中を叩いてくれる。

俺はそれに苦笑して答えるとそのまま亜神になる事で使える様になった転移を使ってディスニア王国とガストロフ帝国の国境に跳んだ。


そして国境に到着するとその異様な光景を見て顔を曇らせる事になった。


「くっきり境目が出てるな。」

『そうですね。あそこから先がガストロフ帝国でしょう。』


こちらの世界でもだが国境といっても壁等がある訳ではない。

ドワーフの国の様に山脈が国境代わりになっている所もあるが普通は目の前の様な平原もある。

しかし、俺の前にはハッキリとした線引きがされていた。


ディスニア王国側は緑豊かな平原が広がっている。

これは精霊が居れば当然の事だ。


しかしガストロフ帝国側は草木一本生えていない荒野が広がっていた。

しかもそこには一切の精霊の気配を感じない。

危険を感じて逃げたのかもしれないし、オリジンが避難させたのかもしれない。


そして、その境界線を境にして魔素の濃度が高くなっている。

恐らく精霊が居なくなった事で魔素の消費が追いついていないのだろう。

そのためマップに映るどの魔物もレベルが30を超えている。

俺にとっては雑魚と変わらないがこの国の連中はどうやって生活しているのだろうか。


疑問を感じながらも俺は境を跨いであちら側に入って行った。

まるで県境を越えた時の様に何だか不思議な気持ちになる。


『誰か助けて!』


しかし、せっかく境を越えたのに俺の中に悲鳴の様なモノが届いた。

別に耳を澄ましても何も聞こえず、感覚からして聞こえたのは声ではない。

断言は出来ないが思念を受信したのだろう。

俺は思念を追ってそちらに千里眼を飛ばす。

するとそこには国境を越えてガストロフ帝国の兵士が走り回っていた。

これは完全な領土侵犯と言っても良いだろう

しかも、追われているのは人間ではなく精霊だ。

見ると結界石の様な魔道具で閉じ込めて逃げられない様にしている。

精霊達は兵士たちから逃げ惑いながら捕まると首輪をはめられている様だ。

恐らく隷属の魔道具か何かだろう。

自分達の国に精霊が居なくなったのでこうして他国で精霊狩りをしていると言ったところか。

ディスニア王国にはその国土を護りきれるだけの兵士すら不足している。

奴らはその穴を突いてこの様な横暴な事をしていると言う事だ。


俺はそこまで移動すると結界の様な膜に手を触れてみた。

どうやら物理にも対応している様で叩くとコンコンと硬質な音が返って来る。

すると俺に気が付いた兵士の一人が俺の許にやって来た。


「お前は何者だ?」

「俺は通りすがりの冒険者だ。」


別に嘘は言っていない。

ただ、言っていない事の方が多いだけだ。

それにお前らの敵であるという情報はわざわざ言わなくても良いだろう。


「この事を黙っているなら殺さないでおいてやるぞ。」

「別に言う気は無いな。」


俺はそう言って素早く剣を抜いて兵士の首を斬り落とした。

それと同時に結界も壊れ捕まっていない精霊達は姿を消して逃げて行ったようだ。

どうやら今の結界には精霊を具現化させる性質もあったのだろう。

しかし、既に捕らえられている精霊達は逃げる事は出来ない。

そして兵士たちはこちらの状況を見て剣を抜くと素早く斬りかかって来た。


「貴様、この結界を破壊するとは何者だ!」

「だから通りすがりの冒険者だ。」


俺は最初に斬りかかって来た兵士を容赦なく斬り捨てる。

これであとの残りは5人だが全員が俺を警戒して足を止めている。

それならと俺から挨拶する事にした。


「その剣は飾りか。」

「ヒィー!」


俺が突然目の前に現れたので兵士は短い悲鳴を上げて顔を恐怖に引き攣らせるが容赦なく剣を振って斬り殺す。

更にそのまま3人の兵士を始末し最後の一人に剣を振るとその兵士は見事な跳躍と共に空に飛びあがった。

しかもその背中には天使の様な翼が生えている。

どういう事かと思い鑑定すると状態が天使憑きになっていた。


天使憑きは天使が体に憑依した状態の事だ。

普通は心清い者に力を貸す時のみ、天使は憑依をする事があるらしいがこれは明らかに違う。

恐らく天使を無理やり従わせて自分の力を強化しているのだろう

既にダンジョンで捕まえた工作員の尋問により、ある程度の事は分かっていたがこうして見ると腹が立つ姿だ。

腹が立つからと言って天使が憑依している状態でコイツを斬り殺せば天使まで死んでしまう恐れがある。

現状の天使がどんな精神状態かは分からないが俺からすれば人質を取られているに等しい。


「それがお前の奥の手か。」

「この力は我らが仕える神王様から頂いたものだ。この素晴らしい力で死ねるのだから感謝して逝け。」


そう言って兵士は上空から羽を飛ばして攻撃してくる。

天使にはこの様な攻撃手段は無い筈だが力の使い方も自在と言う事か。

しかし、兵士に憑依している天使からは苦痛の思念が伝わって来る。

これはあまり時間を掛けない方が良さそうだ。


俺は回避を止めて一直線に兵士へと向かう。

そんな俺に兵士は笑いながら攻撃を仕掛けて来るが全ての攻撃が弾かれているのに気が付くと驚愕に目を見開き、破れかぶれに剣を振って来る。

しかし、俺はその剣を素手で掴んで握る潰すと反対の手で兵士の首を握りしめた。


「ゲームオーバーだ。」

「化け物か貴様。!」

「自分の姿を見てから言うんだな。どこから見てもオレの方が人間だろ(見た目だけは)。」


そして俺が少しずつ力を入れていくと最初は暴れていた兵士も次第に動かなくなっていく。

思念には天使からの苦しみは伝わってこないのでこのまま始末すれば良いだろう。

ついでにいくつか試したい事もあるのでこいつには実験台になってもらう。


すると程なくして兵士の首が折れて息が止まったので、兵士の死体を地面に寝かせるとしばらく待ち続けた。

どうやら思った通り、兵士が死んでも天使は出て来ない。

反応はあるので死んでいない筈だが受けている命令次第ならこうなってもおかしくないと思っていた。

仕方なく俺は剣を手にするとツクヨミを放つために構える。

すると男の中の天使から何処か諦めの様な思いが伝わって来る。

確かに知らなければ天使ごと男を解体するように見えるだろう。


「安心しろ。今解放してやる。」


そして俺が剣を振ると確かな手応えが返って来る。

失敗したかと不安が過ったが少しすると兵士の体から天使が姿を現した。


「怪我は無いか?」

「はい。ありがとうございます。私は解放されたのですか?」

「そうだ。不満が無いならそのまま北に向かってメノウと合流しろ。今後の指示はそいつがくれる。」

「分かりました。他の同胞もよろしくお願いします。」


下位の天使は聞き訳が良くて助かる。

天使はそのまま飛び上るとメノウの所に向かって飛んで行った。

残るは先ほど捕らえられた精霊達だ。

見た目は30センチから50センチくらいと小さく、今は地面に座りこちらを見ている。

そして俺が歩み寄ると彼らはすぐに笑顔を取り戻してくれた。


「母様の旦那様。ありがとうございます。」

「俺が誰だか知っているのか?」

「みんな知ってるよ。もし困ってたら助けてあげてって言われてるから。」

「そうか。ならこれから解放するからな。さっき見てたから怖くないか?」

「大丈夫。」

「そうか。」


俺は彼らに笑顔を浮かべると一振りで全員を解放した。

そして彼らは笑顔で手を振って姿を消していく。

しかし、これで次に行くべき所が決まった。

ああやって狩りをするなら近くに拠点があるはずだ。

俺はマップと千里眼を使い周囲にある人が密集している所を調べていく。

すると国境付近には3つの拠点があり、そこには多くの精霊達が囚われていた。


「まずはここを潰すか。」


俺は飛び上るとそのまま一直線に一番西の拠点へと向かって行った。

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