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215 呪いの核

真っ赤な血の様な赤い球はまるでこちらを観察する等に浮遊し始め俺達の周りを幾度となく回り始めた。

しかし、こちらには先程助けたばかりの精霊たちが居る。

もしあれがこちらに攻撃可能な存在ならこの状況はかなり不利だ。

すると、俺の横にマリベルが門を開きそこから赤い魔弾が発射された。

それは見事に赤い球に直撃して遠くへと弾き飛ばしてくれる。

しかし貫通のスキルが付いている魔弾で破壊できない時点であれは唯の球体ではないだろう。


俺はその間に球体へマーカーを付けて精霊達をゲートに放り込むと俺も中に入った。

そしてその場から離れると皆と合流を果たす。

しかし、あの球体は今も数キロ先からこちらに目掛けて接近中だ。

それ程の速度ではないがこのままだと数分でやって来るだろう。

見れば呪いの雲もあれに合わせて移動している。

あれが呪いの核で間違いなさそうだ。


「ユウ・・・。」

「すまないが話は後だ。呪いの核がこちらに迫って来てる。皆は一旦後方に下がってくれ。」


俺はオリジンの言葉を遮る形で現状を伝え逃げる様に伝えた。

ハッキリ言って得体の知れない物がこちらに迫って来ているので何が起きるか分からない。

それにいまだに気を失い動かない50人もの精霊が居るので彼らを逃がす必要がある。

最悪、あの球体がこの50人を再び取り込んだ場合、また救い出せるかは自信が無い。

それに精霊を合成する事に使われた物質だ。

オリジンや他の皆にも寄生するかもしれない。

そうなると俺には手が出せない可能性もあるので安全を考えて下がってもらいたい。


「分かったわ。お礼は後でちゃんと言うからね。」

「ああ。」


そしてオリジンたちは精霊達を抱えるとダンジョンへと移動していった。

普通なら魔物が徘徊する危険なダンジョンも、俺達には逆に安全な避難場所だ。

あそこなら雨が降っても簡単には影響が出ないし、攻められても時間稼ぎになる。


しかし、それよりもまずはこいつをどうするかだ。

俺が視線を戻すと先ほどの球体は再び俺から少し離れて浮遊している。

その表面には傷すらないのでやはり得体が知れない。


しかし、すぐにその正体が判明する事になった。


「貴様は亜神だな。」

「喋れるのか!」


すると球体は次第に形を変え、人の姿へと変わる。

そして俺の前には赤い鎧に身を包んだ美丈夫が現れた。


「お前がここに居ると言う事はブルテは敗れたのだな。」

「ブルテって誰だ?」

「ダンジョンで会っただろう。青い髪の下品な男だ。」

「髪の色は覚えてないが下品な男なら俺が倒したな。」

「・・・、まあ良い。そいつは何か言っていたか?」


俺は口に手を当ててあの時の事を思い出してみる。

しかしアイツが言った言葉を思い出しても真面な会話をした記憶が無い。


「いや、碌な事は何も話していないな。仲間なら代わりにお前が話してくれよ。」

「・・・。」


先程から俺の言葉に目の前の男から呆れた視線が飛んでくる。

しかし、どう考えても俺は聞かれた事に答えただけだし、話の流れからブルテという男は俺達に何かを言う必要があったとしか思えない。

いくら記憶力に乏しい俺でもあんな目で見られると少し傷付いてしまう。


「それで、俺はユウという名前だがお前は名乗らないのか?」

「そうだな。せっかくなので名乗っておこう。俺はガストロフ帝国四天王が一人アカテだ。」

「まさかその後にブルテは四天王最弱の男。あいつと俺を一緒にするなよ。とか言わないよな。」

「・・・・・。」


するとアカテはその赤い髪と同じように顔を赤らめて俺を睨んで来た。

どうやら思わぬところでセリフを奪ってしまったらしい。


「す、すまん。まさか本当にそんな事を言う奴が居るとは思わなくて。」


俺はそっと視線を逸らすと頭を掻きながら素直に謝った。

しかし、アカテはそんな俺に対して剣を抜くと無言で襲い掛かって来る。

先程よりも目が怖いのでこれがコイツの本性か。


「貴様が怒らせたからだろ。心の声が駄々洩れなんだよ。しかも何が恥ずかしい奴だ。そう言うのはもう少し心を引き締めてから思え。」


どうやらこいつも人の心を読めるようだ。

声に出していなかった本音を言い当てられ、俺としても言い訳のしようがない。

しかし、勝手に心を読んでおいてこの言い草は無いだろう。

一応はこいつに配慮して口では言わなかったのに。


(それにしても面倒臭い奴だな。あ、本音が出ちゃった。)

「ガアーーー!」


しかし、これなら最初の赤い球の方が扱い易かった。

まさかこんなに話が通じない奴が出て来るとは誰も想像できないだろう。

しかも、何か話があるような事も言ってたのに結局分かったのはさっき殺した相手がブルテで四天王最弱と言う事とコイツがアカテと言う名前であるくらいだ。

コイツも今では怒りに我を忘れて碌な会話が出来そうにない。

ある意味では皆を逃がしておいて正解だったとも言える。

それにコイツから感じる力は俺以上だが剣技に関しては大した事は無さそうだ。


俺はアカテが横に振った剣を下がって躱し、右斜めからの振り下ろしを剣を横に弾いて逸らした。

そのまま剣が空ぶった隙を突いてその腕を切り落としアカテの使っていた剣を回収するとそれで首を斬り落とした。

それと同時に先ほどの失敗を生かして肉体の全てを神気を込めた炎、神炎で焼き尽くして始末する。


「これだけやれば流石にゴーストにはならないだろう。」

『そうですね。それよりも何だったんでしょうか?』

「感じからしてお前と同類な気がするんだが。知り合いにあんなのは居ないのか?」

『それは酷い言いがかりです。私は人様に迷惑を掛ける事はしません。』

「俺の事は?」

『ユウさんは既に人でないのでノーカウントです。それでは早く皆の所に戻りましょう。』


俺は溜息をつくと仕方なく残った呪詛を剣の一薙ぎで消し去り町へ戻って行った。

やはり発生源と核が無ければ呪いを消し去るのは簡単の様だ。

その後、ライラたちに連絡を取りギルドで落ち合う事に決めた。


そしてギルドに入るとそこではチヒロとティオネが恋人同士の抱擁を行っていた。

周りには冒険者たちが居るが誰も目を向けようとはしない。

恐らくはティオネの事が怖いからだろう。

そして、その横にはオマケの様に他の仲間たちが控えている。

俺はそちらに行くと食堂を無言で指差して移動していった。


「それで、こちらに被害はありそうか?」

「ギルドで調べた話だと他の所に被害はないそうだ。この街も俺達が水際で食い止めたから町から見える草原が広範囲に渡って被害が出ただけだ。しかし、その範囲に人が居れば当然被害に合っているだろう。この後、高レベルの冒険者で捜索する予定らしい。問題なければ俺は部下と5人で参加する予定だ。」


アキトは以前のディスニア王国でも救助活動をしていた。

彼らが加われば捜索は捗るだろう。

それに5人にはユウライシアから作った新しい秘薬を持たせれば被害者を見つけた時に試してもらえる。

俺も今日は家でのんびりする予定なので彼らが参加しても問題は無い。


「それなら新しい秘薬を持って行ってくれ。あの呪いでどんな症状が出るか分からないからな。」

「了解した。それではその事を受付に伝えて来る。」


アキトもどうやら自分達の世界に入っているチヒロとティオネに声を掛ける勇気は無い様だ。

二人の横を素通りすると受付で仕事をしているミリに声を掛けている。

俺達はその後、王都の家に帰るとその後はのんびりと夜まで過ごした。


ちなみに、助けた精霊達は精霊の住処に送ってしばらく静養させるらしい。

下位精霊達はあまり長い間の記憶を覚えておくほど精神が発達していないそうなので数ヶ月して問題なければ再び仕事に戻るそうだ。

今は世界樹の下でアティルと共に穏やかに過ごしているとオリジンが教えてくれた。

いつか元気になった彼らにも会ってみたいがその時には俺の事も忘れているだろう。

元々俺と直接に顔を合した訳ではないので覚えているかも怪しいが。


そして、夜になると今日はライラが部屋にやって来た。

最近は忙しかったので俺も久しぶりだがライラもここに来るのは久しぶりだ。

皆もライラが毎日夜遅くまで頑張っていたので遠慮していたらしい。

その間の俺の横はホロやワカバ、居ない時はスピカが独占している。

この3人は隣で寝るだけで満足してくれるため俺もゆっくりと寝ることが出来る。

ライラは二人っきりでは久しぶりと言う事で少し緊張している様だ。


「なんだか初めての時みたいだな。」

「そうかな・・・。実は今日は魔法を掛けてないの。」


その言葉で俺は納得できた。

確かに今までは避妊の魔法を必ず使っていたが使わずにするのは今日が初めてだ。

なんだか初々しく感じたのはその為だろう。


「それじゃあ頑張らないとな。」

「うん。よろしくお願いします。」


そして、俺はライラが満足するまで付き合い、互いに抱き合って眠りに着いた。


朝になると俺達は目を覚まし互いに笑い合うとベットから起き出した。

そして、俺は服を着ているとベットの上で座ったまま、お腹に手を当てているライラに気付く。


「どうしたんだ?」

「い、いえ。何でもないわ。早く服を着て一階に下りましょう。」


しかし、その動きはいつになく慎重に見える。

俺は疑問を感じながらも動きの遅いライラに合わせてゆっくると一階に向かって行った。


「今日はギルドに言って報告をしてくる。それと夜にはガストロフ帝国についての対応を話し合う予定だ。」


これについては早く決めた方が良いだろう。

相手の目的は分からないが奴らは俺達の事を狙っている様だ。

少なくともアカテの標的は俺だった。

最低限、俺がここを離れないと他の皆が危ないかもしれない。


「それで、昨日の捜索はどうなったんだ?」


昨日アキト達が帰って来たのは夜もかなり遅くなってからだ。

あの程度の範囲の捜索でそんなに時間は掛かるはずないので可能な限りで浄化も行って来たようだ。


「被害者は10名ほど見つけた。雲の発生が街道から外れていたおかげで全員が冒険者だ。だからレベルの関係でなんとか全員を助ける事が出来た。」


この国で外で仕事をするのは中堅以上だとティオネから聞いた。

そのおかげであの呪いを受けても発見まで死なずに耐える事が出来たのだろう。

もしこれが他の国なら王都も近いこの地域で仕事をしているのは新人冒険者だ。

恐らくそうなっていれば全員が死んでいたかもしれない。

ティオネの政策は結果として複数の冒険者を救った事になる。

運が悪ければいつ死んでもおかしくない職業なので、巻き込まれた10人には悪いが助かったので良しとしてもらおう。


「それで、浄化の進捗具合は?」

「昨日の内に出来たのは2割という所だ。今日にでも全員ですれば昼までには終わるだろう。」

「分かった。俺も報告が終わったら手伝いに向かうよ。」


するとそこでライラが手を上げて少し考えてから俺を見て声を掛けて来た。


「悪いんだけど私は少し休ませてほしいの。」

「そう言えば朝から少し様子がおかしいな。それなら念のためにメノウとクリスも残ってくれるか。今の段階で一人になるのは危ないからな。」

「任せてください。」

「畏まりました。」


俺の言葉に二人は了承してくれたので食事を終えてから安心してギルドに向かった。



その頃家では。


「ライラさん。あなたの中に新たな命を感じますよ。」


メノウはそう言ってライラのお腹に視線を向ける。

それに対しライラは優しくお腹を擦りながら微笑んだ。

しかし、まだお腹が膨らんでもいないのでクリスは確認のために二人に問い掛ける。


「もしかしておめでたですか?」

「でも、昨日の今日よ。早すぎない。私も朝になって気付いたけど。」


するとメノウは口元に手を当てて少し考えると思いついた予想を口にした。


「もしかしたら、ユウライシアの隠れた効果かも知れませんね。媚薬効果が消えた代わりに妊娠の成功率が上がるとか。」

「そうかもしれないわね。でも妊娠中は変身も使えないし、私も初めてだから少し心配なの。」

「それでしたら知識と経験があるので私がお世話しましょう。それで、この事は何時お伝えしますか?」

「今夜にでも話しておくわ。皆にはユウライシアの効果を教えておかないといけないしね。」

「分かりました。残念ですがあれはしばらく食卓に出すのは止めておきましょう。」


今では常に夕食に並ぶほどの人気がある果物だが、詳しい効果がいまだに判明していないので大量摂取は控えておいた方が良い。

それにしっかりと説明すれば皆も分かってくれるだろう。


「そうね。ドラゴニュートの妊娠率は知らないけどドラゴンは滅多に子供が出来ないの。もしかするとアリシアも一度で妊娠するかもしれないわ。」

「そうなればエルフにとっては救いの果実になりそうですね。最近ではエルフの数が減少傾向にありますから。」


それでもあのトゥルニクスがこのユウライシアを同胞に進めるかは微妙な所だ。

彼は良くも悪くも感情的な所があるのでそこが心配である。



そして、その頃のユウはギルドで報告を行っていた。


「まさか、こんな短期間でダンジョンの最下層に到着するとは思いませんでした。」

「こちらもそれなりに多くの事を学ぶ良い機会だった。」

「それではこちらが報酬となります。」


そう言いてティオネは金貨の入った袋を差し出して来る。

ついでだったのであまり金額は覚えていないが確か200枚くらいだったかな。

日本円で1000万円くらいだ。

今回は主に5人で攻略したので1人200万円くらいか。

アキトもこれから家を買うとか言っていたので少しは足しになるだろう。

とは言っても先日のキラーアントの討伐報酬として一人に金貨が500枚ほど出ている。

二人で合わせれば家くらいは買えるだろう。


「確かに受け取った。それと俺はもうじきここを離れるからこれを先に渡しておくぞ」


俺は必要になるだろうとジャイアント・デビル・スパイダーの糸を机に置いた。


「それでは有難くいただいておきましょう。」

「まったく迷いが無いな。」


俺が糸を置くとティオネは当然の様にそれを受け取ってアイテムボックスに収納する。

ここまで自然と言う事はもうかなり先の事まで考えているのだろう。

二人の関係は結婚を主眼に置いたお付き合いと言う事だ。


「迷いなど有ろうはずありません。私は愛に生きると決めたのです。彼の行く所なら何処にでも付いて行きます。」

「行くのは良いがちゃんと後任を決めるてから、二人でこれからどうするかしっかり話し合えよ。」


チヒロは他人に合わせる傾向にあるからな。

ちゃんとその辺の事は話し合わないと後々で問題が出るかもしれない。


「大丈夫です。もともと私も引退を考える年齢だったので後継者は育てています。1ヶ月もあれば引き継ぎも終了するでしょう。」

「それなら俺から言う事はないな。それじゃあ、俺はこれから平原の後処理をしてくる。」

「お願いします。しかし、本当に報酬は無くても良いのですか?」

「たまにはボランティアもしないとな。」


本音を言えばあれは俺達がここに居たから起こった可能性が高い。

ようはその後始末なのでお金を貰うのは気が引ける。

その事は言わないでおく代わりに無料で協力している。

それにアキトが言う様に半日もあれば終わるだろう。

呪いさえ消えれば後は精霊達が元の草原に戻してくれるので俺達の出番はない。


(残った半日を使えば今日中には草原に戻せるけどそこまではしなくても良いだろ。)


そして、俺は外に出るとみんなが浄化作業をしている所へと向かって行った。

昨日の内にアキト達が進めてくれていたので既に半分が終了しようとしている。

この調子なら昼は家でゆっくりとご飯が食べられそうだ。

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