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211 100階層ダンジョン ⑲

俺は家に帰るとトキミさんに声を掛け武器をどうするのかを聞いてみた。

この家は以前にドワーフが住んでいたでけあり工房も完備されていて簡単な鍛冶なら可能だ。

更に研究室のような所もありライラはそこで万能薬の研究に没頭している。

日本の家ではそういった物は準備してなかったのでこちらに来てからはだいぶ捗っているようだ。

するとトキミさんはステータスを開いて式神にした魔物たちの確認を始めた。


「スキルに式神ってのがあるけどこいつは便利だね。」

「どう便利なんですか?」

「使役した魔物の能力や習得可能スキルが見れるよ。しかもこちらの判断で残っているスキルポイントで好きなスキルを覚えさせられるみたいだねえ。ここから武器や防具も装備させられるみたいだよ。」


なにそれ、凄く面白そう。

俺もその術覚えようかな。

そうすれば自分だけの魔物をカスタマイズ出来る。

そうなれば俺の制作意欲も湧くってものだ。

そう思いスピカに声を掛けた。


『残念ですが式神のスキルはありません。』

(やっぱりか。知識すらないから覚えようがないよな。)


これは諦めるしかないだろう。

俺もどちらかと言えば脳筋寄りなので教えてもらっても理解できそうにない。

なので無駄な努力は止めてここはスッパリと諦める事にした。


「それなら必要な武器を言ってください。それくらいなら俺でも作れますから。」

「そうかい。なら少し大きめの剣を頼もうかねえ。ただし、ちゃんと切れる奴を頼むよ。」

「分かってますよ。任せてください。」


剣と言っても日本の刀は斬る事に向いた武器だが西洋などの剣は押し切るや、叩き切ると言ったように使い方が違う。

それに刃を切れるように形成するのはその道の達人の仕事なので、見た目が鍛冶師に見えない俺の作る剣が少し不安なのかもしれない。

しかし、俺が模倣して覚えた相手は超が付く程に優秀なクラウドだ。

そのため出来る物には自信がある。

俺は工房に向かい炉に火を入れると製作に取り掛かった。


「それにしても、やっぱりあの時に使ったオリハルコンは全くの別物だな。」


俺は足りない火力を自分で補いながら鎚を振るう。

聖剣を作るのに比べるととても簡単だ。

スキルの助けもあり形成も簡単に終わる。

研ぎは経験が浅い分少し苦労したが予想を上回る事なく、1時間で1本の剣が出来た。

それを確認のためにトキミさんに見せると何度か振ったりジッと見たりして確認をしてくれる。


「まあまあだね。驚いたよ。結構器用なんだねえ。」

「褒められたと思っておきますよ。それじゃあそれを量産で良いですね?」

「ああ、任せたよ。私は作るのがからっきしだからねえ。」


どうやら、トキミさんには作成系の才能が無い様だ。

しかし、全てが揃っている人間など居ないので出来ない事は出来る人にお願いすれば良いと思う。

俺は今でもそうして周りに支えられながら生活しているが楽しく生きている。

そして、俺は工房に戻ると残り9本の作成に取り掛かった。

途中で夕飯を挿み、なんとかその日の内に全ての剣を完成させることが出来た。

やはりやり慣れていない事はスキルの補助があっても時間が掛かる。

最初に比べて後半は次第に速度が増して来たので良かったがそうでなければ終わるのが深夜になっていた。


そして、工房から出て外を見るとそこにはライラの姿がある。

彼女はベンチに座って庭に植えてあるライシアを見詰めながら考え事をしている様だ。

もしかすると研究が行き詰まっているのかもしれない。

俺は外に出るとその肩にそっとブランケットを掛ける。

するとライラは顔を上げて俺に苦笑を浮かべた。

やはり少し元気が無いようで体もかなり冷えている。

きっと長い時間をここでこうしていたのだろう。

俺は先程まで火の前に居たので体がかなり暖かい。

丁度ライラとは反対なので互いに触れ合って体温を交換する事にした。


「体がかなり冷えてるぞ。」

「ユウは反対に暖かいわね。ごめんなさい心配かけて。研究が上手くいかなくて。効力が途中からどうしても上がらないの。」

「材料の問題か?」

「そうね。限界まで効果は高めてるけどそれぞれの素材を混ぜるとどうしてもプラスの効果だけが出る訳じゃないから。その調整をしてると効果が上がらないの。」


そう言えば漢方でも良く効く薬には副作用の可能性もあると聞いた事がある。

薬と言っても過ぎれば毒なので秘薬も同じなのかもしれない。


「そう言えば、最近は味に深みが出て来たな。」

「不味いって言いたいんでしょ。それは分かってるけど良薬口に苦しって言うらしいじゃない。あなたの世界の人は良い事を言うわね。」


どうやら改善は望めない様だ。

ライシア単体ならブルーベリーの様に美味しい果物なのだが。


「そう言えばライシアが出来たのはレコベリーが蛇の血を吸ったからだよな。他のも与えたら美味しいままで秘薬にならないかな~。」


俺は何気なく言ったのだがライラには違って聞こえたようだ。


「それだわ!ライシアを強化することが出来れば後は霊獣の素材と混ぜるだけで良くなるかもしれないわ。早速、明日にでもアリシアたちと相談してみる。ありがとユウ、愛してるわ。」


ライラはそう言って俺にキスをすると先程までとは違い明るい顔で部屋へと戻って行った。

どうやら、元気が戻って来た様なので良かった。

そして、最大の収穫はあの秘薬の味が改善されるかもしれないと言う事だ。

俺は大いなる望みを胸に部屋に帰って眠りに付くのだった。


そして、次の日からライラはアリシアとジェネミーに協力を仰ぎ、ライシアの品種改良を始めた。

レコベリーの段階から始め、各種魔物の血や内臓を与えて変化と効果を確認し、次第に掛け合わせていく。

オリジンも協力してくれている為、成長も早く日に何度も収穫が出来る。

ちなみに食べるのは基本的にホロの役目である。

初日に皆で食べて夜が大変な事になってしまったからだ。

その中でホロだけは問題が無かったため味見は彼女に全て任される。

恐らく、大食いのスキルが媚薬の効果さえも打ち消しているのだろう。


その間に俺達は更に下の階層へと進む。

そして、そこで手に入れた魔物もある程度は持ち帰り実験は進んだ。


そして、3日が過ぎた頃、ようやく最良の状態でライシアが完成した。

いや、これは既に別の品種と言ってもいだろう。

その証拠に、目の前にある植物を鑑定するとそこにはまだ何も書かれていない。


「これの名前はもう決めたのか?」

「決めてるわよ。その名もユウライシア・・・。」

「ライシア・改でお願いします。」

「でも歴史に名前が残るわよ。」

「残さなくても良いから。二人と違って俺の名前は2文字しかないから名前がそのまま残っちゃうでしょ。」


するとライラとアリシアからジト目が送られてしまう。

当然と言えば当然な気がするが、あの時は俺が言った名前がそのまま登録されてしまった。

不可抗力だったと言いたいが二人の望まない形になったのは確かだ。

すると彼女たちは、無慈悲にも高らかと声を上げ宣言を行った。


「「これはユウライシアで決定~~~。」」

『承認しました!』

「ちょっと待てスピカ。承認ってお前が出来るのか?」

『出来ますよ。ムフフ~!』

「ムフフ~じゃない!ああ~~~。名前が確定したじゃないか。」


俺が鑑定を使うと目の前の名も無き新種の植物にはしっかりとユウライシアと出ている。

これでもう誰が鑑定してもこの植物の名前は変わらない。

俺は膝を折ってその場に手を突くと宣言を行った二人に視線を向けた。

しかし、二人は既にこちらではなくユウライシアの許へと笑いながら向かっていく。

どうやらこれからみんなで試食を始めるようだ。

集まった皆は一つ実を摘み取ると若干警戒しながらも口に入れた。

すると味は悪くなかったようでその手は次の実を摘み取っている。

オリジンも美味しそうに食べているのでどうやら甘い味のようだ。


俺も悲観してばかりいても仕方ないので皆の横で一つ摘み取りその実を近くで見てみる。

色は今までの様な濃い紫色ではなくイチゴの様に赤い。

大きさは1センチより少し小さいくらいで子供が食べるのには丁度良さそうだ。

そして口に入れて味を確認すると今までの酸味が和らぎ甘さが増している。

これなら幾らでも食べられそうだが後は効果がどうなっているのかが重要になる。

ただ、これだけ美味しければこの品種自体を食用で栽培しても良いかもしれない。


後日、再び患者を見つけて実験台になってもらおう。

それまではこのユウライシアを増やす方向で栽培してもらう。


「オリジンもこれを増やすのに協力してくれよ。」

「任せなさい。1千本でも2千本でも増やしてあげるわ。」


オリジンが協力してくれるなら安心だろう。

明日にはこの庭に残っているスペースはユウライシアで一杯になりそうだ。

念のためにそれまでの品種改良で出来たライシアは残しておいて成功が確認できたら処理をしよう。


「ライラとアリシアもご苦労様。あと一息だから頑張ってくれ。」

「任せて。今度こそ成功させて見せるから。」

「私はこの仕事が出来て楽しかったですよ。こうやって人為的に植物の変化を促すのは初めての経験でしたから。」


普通の植物なら変化を実感できるようになるまで何年もかかるだろう。

しかし、この植物はたったの数日でここまで変化を見せてくれた。

与えた物も今まで手に入れた魔物の貴重な部位が多く含まれている。

以前の様に血だけではなく、心臓に肝臓などの主要な臓器の他、眼球や魔石まで与えている。

これだけの物を与えると植物が魔物化してもおかしくないという事も言っていたが、コイツもただの植物ではなかったと言う事だ。

さすがファンタジー世界の植物なだけはある。


その後、実を食べ尽くす勢いで口に運んでいたオリジンとホロを止めて後の事はアリシアとジェネミーに任せる事にした。

二人に任せておけば今日中にでもあの実から種を取り出し、畑に蒔く事が出来るだろう。

オリジンの活躍はその後になる。

頑張れば好きなだけ実を食べれるので存分に張り切ってくれそうだ。


そして、俺達はいつもの様にダンジョンへ向かって行った。

一応、副作用の媚薬効果を心配したがしばらく待っても効果が現れなかったからだ。

そして、俺達の到達階層は現在120階層。

1フロアの広さも直径で20キロにも達している。

ここまで広いと魔物を狩り尽くして下りるだけで一苦労だ。

それにもうじき終わると分かっているので俺達は丹念に魔物を狩りながら進んでいった。


そして、122階層に到着した時にそいつは現れた。

その姿は5メートルはある巨大な羊。

名をスリープ・シープと言うらしい。

恐らく名前の通りなら眠り系の状態異常を行って来るはずだ。

しかも頭には巨大な巻き角があるので眠っている間にあれで攻撃されるとかなり痛そうだ。


そんな事を考えていると横でドサリと誰かが倒れる音がした。

見ればトキミさんとゲンさんとサツキさんが倒れている。

呼吸は正常にしているので恐らく眠ってしまったのだろう。


「アキト、ゲンさんとサツキさんを担げ、俺はトキミさんを連れていく。」

「了解、階段まで下がるぞ。」


俺達は初めてこのダンジョンで魔物に背中を向けて逃げる事になった。

まさか、こんな落とし穴があるとは思わなかったので俺達は逃げながら反省する。

そして、階段を途中まで上がるとそこで3人を軽く叩いて目を覚まさせた。


「う~む。まさか睡眠系がここまで強力とは思わなかった。」

「そうね。体に刃物を刺して気付をする時間も無かったわ。」

「今まで睡眠薬とかの耐性はあったけどこれは別物だねえ。今の内に耐性を習得しとくかね。」


ここ最近のレベルアップでポイントは有り余っている。

それを使い3人はリストにある耐性を習得しレベルを上げていく。

俺も念のために今回働いてくれた気絶耐性を最大まで上げておく事にした。


「まさに、意外な落とし穴でしたね。」

「お前さんらが起きてて助かったわい。」


しかし、もし攻撃を受ければその場で目が覚めるはずだ。

3人ならその一瞬で相手を斬り殺すことが出来るだろうから懸念は即死の心配だけだな。

今までは彼らの強さに驚いてばかりであまり耐性に対して細かく言うことは無かったが今回は良い機会かもしれない。


「それと即死耐性は取って置いてください。あの羊が即死能力を持ってないとは言い切れませんから。」

「そうだな。油断は禁物じゃ。」


そう言って3人は再びリストと睨めっこをして必要そうなスキルを探し始めた。

これなら今日の所は安全のために一度、帰った方が良さそうだ。


「今日の進行はここまでにして家に帰ってから落ち着いて確認したらどうですか?」

「そうだねえ。私もここまでは駆け足で来たからそろそろ落ち着いてスキルを覚えようかね。ついでに余った時間で式達の訓練でも見てやるかねえ。」


ちなみに、トキミさんの式神になった10人のドラゴニュートだが、言語と変身のスキルを覚えさせてから札から出すと人の姿で現れた。

しかも会話も可能で以前にはなかった理性もあり、まるで人間と変わらなかった。

トキミさんが言うには術者の影響を受けているそうだ。

ただ、受けた相手がトキミさんなので普段はともかく戦闘時は注意が必要になる。

本人には言えないがそんな者を10歳のミサキに護衛として持たせようと言うのだから内心でハラハラしっぱなしだ。

しかし、ここは本人よりは安全だろうと信じて任せる事にした。

誰かが常に傍に居る訳ではないので今の所は他に選択肢が無いからだ。


そして、人の姿になって分かった事は10人の内、男女比は男が5、女が5だた。

そのため、男女で1人ずつミサキの護衛に付く事となった。

やはり、荒くれ者が多いこの世界で男が居ると言うだけで安全性は格段に上がる。

俺は見た目が一般人なのでいつも数に入らないが彼らは目付きが鋭いので大丈夫だろう。


ちなみに男は強面のイケメンで、女は強面の美人さんだ。

全員が黒髪黒目とそこもトキミさんと一緒になっている。


そして、家に到着するとそこにはヒムロが実験台として縛られた状態で座らされていた。

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