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210 100階層ダンジョン ⑱

一階に下りるとそう言えばと思い俺はミリに確認を行った。


「魔物の解体は順調か?」

「あ、はい。タキも嬉しい悲鳴を上げていますよ。」


それが本当の悲鳴でない事を祈るがギルドでは魔物の解体を請け負っているがその仕事はあまり忙しくない。

ギルドも技術者が必要なため最低限の給料を出して雇っているが、彼らの給料は歩合制のため金額を上げるには魔物を解体しなければならない。

しかし、それには魔物を持ち込んでもらう必要がある。

作業者はギルドが得た金額から決まった率の金額が上乗せされる仕組みになっているからだ。

すなわち安い魔物を解体しても少ししかお金は増えず、大物を解体すればそれだけ稼げると言う事だ。

俺は下層で倒した大量の魔物の一部をここに下ろしているのでタキの給料は今までに無い程に増えているはずだ。

それでなくても解体に必要な魔物は数が少ないのでここまで纏まった数が来るのも初めてかもしれない。

今も現在進行形で数を増やしているのでしばらく仕事に困る事もなさそうだ。


「それなら良いが、無理はさせるなよ。過労死でもしたら大変だからな。」

「大丈夫です。昨日そちらのお宅で頂いた料理のおかげで朝から夜まで元気いっぱいです。」

「そ、そうか。程々にな。」

「はい!」


ミリの勢いに任せた発言に俺は若干視線を逸らし、失言に気付いたミリも恥ずかしそうに視線を落とした。

俺はそのままギルドを出ると最後の問題を解決させるために家に帰りライラに声を掛ける。


「すまないが見て欲しい物があるんだ・・・。」

「どうしたのそんな顔して。まるで叱られる前の子供みたいよ。」

(当たらずとも遠からず。そんなに顔へ出てたかな。)


俺はマリベルに頼んで部屋を準備してもらうとそこに地竜の残っていた胴体を取り出してライラに見せる。

それを見てライラの目元が鋭くなり俺に詰め寄って来た。


「これは何かしら?」

「・・・地竜です。」

「もう一度聞くわね。これは何かしら?」

「地竜の尻尾です。」

「そうね。これは尻尾ね。内臓も頭も無いただのお肉よ。どうしてこんな事になったのかしら?」


確実に怒っている為か、なんだかいつもと口調が違う。

ここで「怒ってる顔も可愛いよ」と言ったら少しは許してくれるだろうか。

いや、今は冒険は止めておこう。

更に怒ったら次は龍の姿で怒られそうだ。


「実はアキトが久しぶりに暴走してしまいました。」

「もしかしてメガロドンの時みたいに?」

「そうです。その結果、大事な部分が全てミンチになりました。」


するとライラも諦めて大きく溜息を吐くと苦笑を浮かべてくれた。

この調子なら何とかなりそうだ。


「それじゃあ今回はしょうがないから次回に期待しましょ。もしかするとこれも定期的に取れるかもしれないものね。」

「もしかすると下層で魔力を放出すれば釣れるかもしれないから余裕があれば試してみるよ。」


あそこには穴が沢山あったのでワカサギ釣りみたいな要領で糸を垂らせば本当に釣れるかもしれない。

その場合の餌は以前に拾ったリアの腕が最適だが、今ではあんなのに食わせたくないので他のを何か考えよう。


「無理はしなくても良いけど次からは気を付けてね。」

「ああ。それじゃあこの解体はメノウに頼むしかないか。」

「そうね。ここまでだと解体というよりは切り分けると言った方が正しそうね。メノウに来てもらってお願いしましょうか。ユウも暇なら手伝ってあげて。」

「ああ、そうするよ。」


そしてライラが退出してすぐにメノウが部屋にやって来た。

メノウは置かれている地竜だった物を見て苦笑を浮かべる。


「この様子だとライラさんに叱られましたね。」

「その通りだ。それで、これを解体したいから指示をくれ。素早くばらしてご飯にしたい。」

「分かりました。ちょっと待っていてください。」


そう言ってメノウは外に顔を出すと傍に居た人物に声を掛けた。


「ナトメア仕事ですよ。こっちに来なさい。」

「え~~今日はもう働きたくな~い。」

「良いから来なさい。頑張れば美味しい地竜のステーキが食べられますよ。」

「ホイ来た。この私にドンと任せなさい。」


最初にぐずついていたようだが地竜のステーキという言葉に釣られてナトメアは部屋に飛び込んできた。

そして置いてある地竜を見てなるほどと納得した顔になる。


「この肉を修復すればいいのね。」

「そうです。あなたなら簡単でしょう。」

「任せなさい。ユウ、肉片は拾って来てる?」

「ここにあるぞ。」


俺が肉片を取り出すとナトメアはそれを傍に置くように指示を出して地竜の残った半身に触れた。

すると横に置いていた肉片が吸収される様に消えていき代わりにボロボロだった半身が修復されていく。

そして最後には完全な形を取り戻した半身がそこで横になっていた。


「これで良いかしら?」

「凄いもんだな。」

「フッフッフ!凄いでしょ。でもこの様子だと内臓までは無理そうだわ。流石にここまでの破損だと肉が限界ね。それじゃあ後は任せたわよ~。」

「ありがとう。助かったよ。」

「フフ、ご飯期待してるからね。」


そう言い残して彼女は部屋を出て行った。

これなら切り分けるのもそんなに手間は掛からないだろう。


「それではお願いしますね。」


そして俺は地竜の皮を剥ぎ肉を切り分けて行った。

地竜には骨が無いので皮さえ剥いでしまえば後は簡単に切り分けて終了だ。

ナトメアのおかげで傷がある所と無い所を分けなくても済んだので思っていたよりも早く終わらせることが出来た。

彼女には今日のお礼に沢山ステーキを食わせてやろう。


そして、俺は今日を何とか乗り切ると部屋に戻ってさっきの事を振り返った。


「なんか、ダンジョンよりも私生活の方が遥かに危険を感じるな。」

『とうとうシロウさんの仲間入りですか?』

「やっぱりそう思うか・・・。」

『かなり前からそう思っています。』


俺は過去を振り返りスピカの言葉い納得するが素直に頷けない・・・と言うか、頷きたくない。

しかし疲れていたのか俺はいつの間にか眠っており、気が付くと朝になっていた。


「もう朝か。」

「今日はよく眠っていましたね。」

「そうだな。昨夜は毛布の温もりと気温がベストマッチだった。」

「そうですか。きっと私の添い寝のおかげですね。」

「そう言う事にしておくよ。それで、今日はどうするんだ?」

「それではこれで。」


そう言ってスピカは逃げる様に消えていった。

いつもながらに人前に出るのが苦手な奴だ。

俺は少し広くなったベットから起き出すと一階へと降りて行った。

するとそこにはソワソワしている神楽坂家の3人が椅子に座り朝食が出来るのを待っている。

恐らくは今日から100階層の攻略を行い、それ以降はまだ誰も訪れた事のない未知の階層へと突入する。

そのため、楽しみで仕方ないのだろう。

アスカはしっかりとした大人に成長しているのにこの3人の方がまるで子供の様だ。

しかし、俺も昔は釣りに行く前日はこうだったと思い表情を綻ばせる。


そして朝食を取り終えると俺達はダンジョンに向かって行った。


「それでは慎重に、慎重に行きましょう。」

「どうして2回も言うんだい?」

「自分の胸に手を当てて聞いてください。」


するとトキミさんは本当に胸に手を当ててすぐに首を傾げた。


「分からないねえ。それよりも早く行くよ。未知なる風景が私達を待っている。」

(未知なる風景って。進んでもあるのは暗い岩肌の通路だけだと思うけど・・・。)


俺はトキミさんの夢を壊さない様にその事はそっと胸に仕舞、その後ろを追い掛けた。

そして、しばらく進むと道の先から1匹の魔物がやって来る。

その外見はリザードマンの様だが少し違う。

今まで見て来たリザードマンはどれもツルっとしていてシンプルな外見だった。

しかし、前方から近づいてくる魔物はゴテゴテしていると言うか体に突起も多く頭には角の様な物まで生やしている。

身近で見覚えのある外見だな、と思いながら鑑定で確認を行ってみた。


「やっぱりそうか。」

「なにが分かったんだい?」

「コイツはドラゴニュートですね。ダンジョンで見るのは初めてです。」

「それだと私達と同類かい。」

「似たようなモノですけど会話が出来る程の理性があるかですね。」


もしそうなればこのダンジョンでは初めての理性ある魔物との遭遇になる。

まあ、ドラゴニュートは霊獣最強であるドラゴンと人間のハーフなので厳密にいえば魔物ではないが、もしも理性が無いなら魔物と見なしても良いだろう。

マップで確認するとこの先にも多くのドラゴニュートが徘徊している。

可能なら殺したくはないがダンジョンで生まれたモノはダンジョンに囚われている。

対話が出来なければ倒す以外に進む方法はない。

俺は対話を試みるために話し掛ける事にした。


「そこのドラゴニュート。俺の言葉が分かるか?」

「キュルル?」

「あ・・・これはダメな奴かも・・・。」


そう思った瞬間、ドラゴニュートは爬虫類特有の縦に割れた瞳をギョロリと向け腰に差した剣を抜いて向かって来た。


「性能は分かりませんけど素材的には良い剣を持ってますね。あれってヒヒイロカネ製ですよ。」


あの金属はサツキさんの持つ小太刀。

吸血丸と血喰丸を鍛え直すために使用しようとしている金属だ。

あの2本に関しては癖が強いらしく、クラウドでも手を焼いている。

材料があれば良いと言う訳ではないが倒してしまった場合はお土産にでもしよう。


「ギシャーーー!」

「やっぱり駄目そうだな。」


先程から声を掛けているが帰って来るのは甲高い叫びばかりだ。

攻撃は鋭いが力任せの部分が多くゲンさん達と会う前の自分を思い出させる。

恐らく、スキルレベルは高いのだろうが練度が不足しているのだろう。


すると、後ろに居るトキミさんから声が掛けられた。


「ユウ、私と少し変わりな。」

「それじゃあお任せします。」


俺は相手の剣を弾き返すとそのタイミングで後ろに飛びトキミさんと入れ替わる。

トキミさんは珍しく真剣な顔で刀を抜くと再び振り下ろされた剣を綺麗に受け流した。

しかし、その後は幾度となく激しい攻撃が行われるがトキミさんはその全てを見切り剣を使わずに躱して行く。

それでも高レベルなドラゴニュートはスタミナが多い様でその猛攻に衰えはない。

いつまでするのかと思っていたが次の瞬間にサツキさんは動きを見せた。

持っている刀が高速で動き相手の剣を根元から切り取る。

さらに体中に死なない程度の傷が無数に刻まれ血を噴出した。

それには流石のドラゴニュートも耐えられなかったのかその場で膝を付いてしまう。

するとサツキさんは更に途轍もない殺気を叩きつけると酷薄な笑みを浮かべて言葉を投げつけた。


「我に従え。」


すると見上げる態勢にあったドラゴニュートが観念したように頭を垂れてその声に答えた。

サツキさんは何やら金属の板を取り出すと指で何かを書き始めた。

どうやら指の先から血を出して血文字を書いている様だ。

書き終わるとそれをドラゴニュートに見える様に突き出すと呪文の様なモノを唱え始めた。


「汝を我が式とし我が戦列に加える。我が命令は絶対なり。汝が命尽きるまで護るべき者を守り倒すべき敵を倒せ。」


するとドラゴニュートは「キュルル~」と一声鳴くと金属の板に吸い込まれて消えていった。

どうやら、これは何かの術かスキルの様だ。

見た感じではファミリアに似ているが言っていた言葉から主従関係はしっかりしていそうだ。

まあ、トキミさんがファミリアのスキルを持っていたとしてもファミリアになったモノたちが逆らうとは考えずらいが。


「それは何かのスキルですか?」

「私はそこの脳筋と違って術も得意だったからねえ。それで今のは妖を式神にして使役する術さ。クラウドに頼んでオリハルコンで札を作ってもらったんだよ。この術は札が壊れると中に居る式神も死んじまうからねえ。逆に言えばこれが壊れなければ死んだとしてもこの中でしばらくすると復活するんだよ。昔は何体も持ってたんだけど巫女になる時に解放してやったから今はこいつだけさ。」


トキミさんはそう言うと先程使用した札を仕舞い次の札を取り出した。

どうやらここで式神を補充する様だ。

それでなくても危険人物なので程々にしてもらいたい。


「それを何に使うんですか?」

(戦争ですか?)


聞きたい本音は心の中だけで呟いて確認をしてみる。

まさかとは思うがこれで国盗りをしようなんて事は言い出さないだろう。


「これをミサキに持たせてアイツを守らせるんだよ。少し鍛えてやればコイツ等も使える様になりそうだからね。」

「それは良い考えですね。ぜひそうしてください。」


そう言う平和的な利用法ならどんどん使役してください。

コイツ等の方がトキミさんよりは安心してミサキを任せられる。

彼女に任すと確実に血の雨が降りそうだ。


「乗り気じゃないかい。それじゃ10体ほど使役するからそれまで待っておくれ。すぐに終わるからねえ。」


まあ、レベル100のドラゴニュートがそれだけいれば安心だろう。

それにあの見た目なら出すだけでも相手が逃げてくれそうだ。

武器が持てそうなら後で適当な武器を渡しておこう。

俺でも作れるのでクラウドの手を煩わせることは無いだろう。

恐らく、今の俺なら普通のオリハルコンなら1時間程度で打てるはずだ。

後で暇を見て作っておこう。


その後、俺達はトキミさんが式神を必要数まで集めるのを待ってこの階の敵を殲滅した。

それにしてもやはり、霊獣系は経験値の入りが良いのかレベルがすぐ上がる。

家には霊獣系の者も多いので早い段階でレベルを上げておいて正解だった。

無いとは思いたいが経験値目当てに襲って来る者がいたかもしれない。


そして、この日は105階層を目標にして進んで行く。

途中の103階層にはアダマンタイトの巨大斧を持ったミノタウロスが現れた。

その一撃はとても重くまるで小枝を振っている様に早い。

ここではトキミさんの指示でゲンさんとサツキさんの部分龍化の修行にあてられた。

そのため、今も二人は巨大斧を振るうミノタウロスと絶え間なく打ち合っている。


「ここまでの剛力を持つ相手はそうはおらんぞ。」

「それにさっきのドラゴニュートと違ってある程度はスキルを使いこなしてるわね。この子達、少しは知恵がありそうよ。」


それでも次第にミノタウロスは追い詰められていく。

ただし二人は敢えて力勝負をしている為に本気ではない。

もしこれにいつもの剣技が加われば打ち合って2合目にはミノタウロスは首のない躯に変わっているだろう。

それでも動きが鈍って来ると二人は容赦なく相手の首を刈り取り次の敵へと向かって行った。


「これは後でギルド行きだな。」

「家で食べないのかい?」

「人型はなるべく食べたくありません。」

「そんなもんかね~」

「そんなもんです。一応食べてもA5の黒毛和牛より美味しいらしいですけどベヒモス程ではないそうですよ。」

「そうかい。それなら今はベヒモスを探して狩ろうかねえ。」


俺達は雑談をしながら二人の速度に合わせて進んで行く。

今では部分龍化をものにしたようで色々なパターンで変化させている。

首から上だけを変化させればブレスも撃てるようだ。

一度だけ撃って見せてくれたがミノタウロスの上半身が消えてなくなっていた。

別に俺が食べる訳ではないので良いがダンジョンの壁に大きな穴が開いてしまった。

これは余程の事が無い限りダンジョンでは使用しない方が良いだろう。

閉鎖空間でブレスは危険すぎる。


その後は目立った問題もなく俺達は105階層に到着し、ダンジョンから帰還していった。

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