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201 100階層ダンジョン ⑨

俺達は威圧を放たれたがそれを軽く受け流して静かに相手の出方を待った。

すると俺達がビビっているとでも思ったのか、彼らは強気な態度で声を掛けて来る。


「お前ら!俺達にそれを譲る気は有るか!?」

「先に言っておくが俺達はあと五本分の糸を回収したら撤収する。残りなら譲っても良いぞ。」

「なら言い方を変えよう。今すぐそれを俺達に寄こせ。さもないと一生太陽が見れない事になるぞ。」


ようは殺してでも奪うと言っているのだろう。

すると後ろにいたレベルの低いヒュームの男が前に出て冒険者に声を掛けた。

どうやらリーダーは今喋った冒険者ではなく、こちらの男の様だ。


「まあまあ落ち着いてください。もし良ければ私がその糸を買い取りましょう。それでどうですか?」

「悪いがこれは俺達で使うために集めているんだ。だから売るつもりは無い。」


俺がハッキリ断言すると男は溜息を吐いて頭を左右に振った。

その態度に腹は立つが何も言わずに男の言葉を待つ。


「どうやらあなたはその糸の価値を知らない様だ。それは私の様に優秀で腕の立つ職人だけが扱う事を許された至高の糸なのです。あなた達の様な者に扱える代物では無いのですよ。」

「心配ない、扱いはアキと言う職人がする。ドワーフ王の信頼も厚いと聞いてるぞ。」


すると男はアキと聞いてその態度を一変させた。

目は吊り上がり、顔は憤怒に染まっている。

そして拳を握り肩を震わせると言葉を吐き出した。


「アキ!あの田舎の小娘がまだ生きていたいやがったか!コイツ等との話はもう必要ない。コイツ等を殺し、その後であの小娘を確実に殺す!私よりも優秀な職人はこの世には要らん!」


その突然の変わり様と言葉の内容から俺は審問を使い問いかけた。

呪いは必ず呪った者が存在する。

俺はてっきりデーモンに何かされたのかと思っていたがどうも違う気がしてきた。


「もしかしてお前がアキに呪いをかけたのか?」

「そうだ!高い金を払ったのに役に立たない呪い師だ。何が南方の国で修業したから任せろだ。一月経っても死ぬどころかいまだに仕事までしてやがる。」


何か気になるワードも出ているがあまり詳しくは知ら無さそうだ。

しかし、こいつが犯人である事だけは分かった。

それにコイツ等を生かして帰すと俺の家族にも迷惑が掛る。


しかし、今回は俺の出番は無さそうだ。

神楽坂家の3人が前に出るとそれぞれに武器を抜いて構えた。


「コイツ等に生きる価値は無かろう。」

「きっとお天道様も彼らの顔なんて二度と見たくないわよね。」

「やっぱり試し切りは人間が一番だよ。」


三者三様に声を掛け合うと容赦なく相手の威圧を押し返した。

それには流石にアキトも反応してしまい僅かに糸の太さに狂いが生じる。

俺はアキトの許でその部分を修正してやり壁になる事で集中を継続させた。


背中には先程から怒号と悲鳴が絶え間なく響いているがこれも彼らが選択した結果だ。

選んだ仕事と行動を間違え無ければ死ぬどころか大きな利益を得られただろうに。

そして悲鳴が止んで1時間ほどでアキトの作業も終了した。

残った糸は放置でもいいが争いの許なので回収をしておく。


「お前はこうやって見ると器用だよな。」


アキトは俺と自分との速度の差を見て呟きを零した。

彼は全力で紡いでも10分近く掛かるが俺は1分ほどで終了する。

使い所の少ない技能だがアキトも最近は周りにアスカとカエデが居る。

家庭的な生活の為に今までは気に掛けていなかった一般的なスキルも鍛えているそうだ。

その為、こういった戦闘に関係のない物でも気にし始めたのだろう。


「こんなのは慣れだから気にするな。お前も何百とすれば出来る様になる。それよりもそろそろカエデの事を考えた方が良いんじゃないか。」

「そうだな。最近は良く笑って話すようになったからな。生活環境を変えるべきか。」


しかし話を聞いているとあまり良いベクトルに思考が向いていない気がする。

カエデは既に見た目が少女を卒業しようとしていた。

少し前までは高1くらいの見た目だったのに今では大学生に見える。

これはそれだけ彼女が力を付けて成長した印でもある。

それによく笑い話すのは好きな相手が横に居るからだ。

最近では家の家族ともよく話すようになっているのでもうじきアスカ辺りから話が来るだろう。

あまり外野が騒いで拗れてもいけないので今はそっとしておくことにする。


「アキトも家を買えば良いんじゃないか?そろそろあのマンションも手狭だろう。」

「確かにそういう考えもあるか。帰って二人と検討しておこう。」


どうやらカエデの気持ちには気付いていないが遠ざける気は無い様だ。

これならカエデにも十分にチャンスがあるだろう。

たとえば俺がされたように既成事実を作るとか・・・。

そういう陰謀はメノウに言えば手伝ってくれるはずだ。


そして、糸の回収が終わり俺達は帰る事にした。

まだ俺も素材を渡していないので渡しておく必要がある。

一応66階層の転移陣を登録してそこから地上へと戻った。


家に帰ると客間ではアキが頑張って一人一人の意見を紙に書き出していた。

みんなもこの時を待ち望んでいたため真剣に取り組んでいる。

この様子ならアキには報酬をはずまないといけないだろう。

俺とアキトは部屋に入ると忙しくしているアキに声を掛けた。


「素材取って来たぞ~。」

「もう取って来たのね。見せてちょうだい。」


そう言われて糸を取り出しアキに渡した。

すると彼女は目を大きく開いて肩を震わせ始める。

そしてぎこちない動きで顔を上げると何やら興奮した顔つきで俺達を見上げて来た。


「これってジャイアント・デビル・スパイダーの糸じゃない!どうしたのこれ!」

「ダンジョンを歩いてたら見つけたんだ。数はあるから欲しいだけ言ってくれ。」


俺は討伐したことは伏せて話を進めた。

ライラには悪いが流石に蜘蛛は食べたくない。

今の所、皆はデザインを決めるのに夢中で俺達の話は聞いていない様だ。

早めに終わらして退散しよう。


「それなら100程頂戴。あなたは8で良いわよ。」


俺達は糸を出すとそれをアキに渡した。

これで彼女なら良い物を作ってくれるだろう。

皆の喜ぶ顔は後で見るとして俺は早々に退散していった。


そして、部屋の外で待っていたトキミさん達と合流すると再びダンジョンへと向かって行く。

今日の予定は70階層だが今日はもう一度60階層から再スタートする。

急いでいたため魔物の取りこぼしが多く、今も大量の魔物が犇めいている。

すなわち、経験値が大量に放置されているのだ。

この辺に来ると俺達でも経験値が普通に入るようになる。

それにアキトは特に戦闘の参加が出来ない時もあったので俺達よりもレベルが低い。

十分に経験値が得られるだろう。


そして急いで移動したとは言っても少なくない数の魔物は倒している。

初見と言う訳ではないのでこの日は見つけた端から倒していく。

いまはパーティを組んでいるので経験値は分配されるが俺の指輪の効果で総勢だと30人くらいに経験値が分かれることになっている。

入りは少ないがその分、殲滅速度が速いのでジワジワとレベルが上がっていく。

これなら体を慣らしながら戦闘が出来そうだ。


ここのダンジョンは下に行くにつれて一階層ごとの面積が広くなっていくので60階層を超えるとその広さは数キロにもなり、のんびりしているとそれだけで日が暮れてしまう。

ゲームなら荒らしと言われて批判されそうだが、この付近を狩場にしている冒険者は殆ど居ない様だ。

狩り尽くしても数日で元に戻るので今は遠慮なく狩らせてもらう。


そして、65階層の先ほどの部屋に到着するとそこには多くのサイレント・スパイダーが群がっていた。

何に集まっているかは見なくても分かるが先ほどの冒険者たちを掃除しているのだろう。

供養と言う訳ではないが丁度良く魔物も集まっているので纏めて燃やす事にした。


「トキミさん、知っているかもしれませんが人を殺して放置するとスケルトンやグールになる事があります。後処理はしっかりとしておいてください。」

「分かったよ。それで、ユウはいつもどうしてるんだい?」


俺はレクチャーも兼ねてまずは火の魔法を放ち全てを焼き尽くした。

その後に周囲を浄化し、ゴースト発生などの可能性も消し去っておく。


「更に死体が無くなってもゴーストが発生する可能性があります。高レベルな者ほど厄介なので必ず処理をお願いします。」

「あんた徹底してるねえ。」

「奴らは殺した相手に強い憎しみを持って向かってきます。呪われる可能性もあるので身を護るなら当然の処置です。」


それに家に幽霊が出る様になったら怖いだろ。

夜にトイレに行けなくなってしまう。


「分かったよ。今後はユウを見習って徹底的に処理しておくよ。」

「お願いします。」


そして俺達は次の階層へと進んで行った。

ここからは初めての階層になるので油断なく進んで行く。

すると、進む先から1メートル程の大きな蟻が近づいてきた。

しかし、それを確認するとある異常に気が付き周りへと声を掛ける。


「止まってください。」

「どうしたんじゃ?」

「あの蟻の魔物は異常です。レベルが70あって階層に合っていません。」

「何じゃと!」


ダンジョンは階層ごとにレベルが分かれている。

基本はその階層と同じレベルの魔物がいるはずだ。

魔物は階層間の階段を移動しないので誰かが無理やり連れてこない限りは見ることは無い。

例外としてはスタンピードだがその兆候は確認されていないのであり得ないだろう。

こういう時にアスカが居ればすぐに助言をくれただろうが今はドレスの件でここには居ない。

しかし、聞くことは可能なのでアキトに言って確認してもらう事にした。


その間俺達は蟻を刺激しない様に一旦下がり65階層へと戻る。


「アスカ。66階層でレベル70のキラーアントが出たんだが何かわかるか?」

『キラーアント!!そいつは災害指定の魔物です。普通ならレベルの高くない雑魚で数だけが問題ですが凄い繁殖能力があり数万の群れで町を飲み込んだという話もあります。肉食で狂暴。偵察蟻は1メートル程ですが兵隊蟻は5メートルを超える者もいます。巣を発見すればギルドで即座に討伐隊が作られる程です。』

「なら、可能性があるとすれば増えすぎて既に70階層から溢れ出していると言う事か?」

『そうなります。ギルドに報告しますか?』


アキトは俺達に確認の視線を向けて来る。

レベル70の万を超える蟻の群れだ。

普通なら地上に戻って討伐隊を組織するべきだろう。

しかし、今のこの街にそれが可能だろうか?

検索して探してもこの街にはレベル70越えの猛者は片手の指の数ほどしか居ない。

こんな安全マージンの無い無謀な依頼に参加してくれる保証は無いだろう。


「今確認しましたが恐らくは俺達がこの街の最高戦力です。ギルドに報告しても死人が増えるだけでしょう。」


俺の言葉に皆は納得して頷いた。

この時点でキラーアントは俺達で殲滅する事が決まり下へと降りて行く。

するとそこには先程と同じように偵察蟻が徘徊して歩き回っている。

俺はそれに向かって剣を振り、一刀で斬り捨てた。

しかし、虫系の魔物は両断されてもすぐには死なない。

偵察蟻はその口から「キキーーー」と甲高い声を上げて魔石に変わった。

するとダンジョン内の空気が一変し前方から途轍もない数の殺気が迫って来る。

どうやら先ほどの偵察蟻はその名に恥じない働きをしたようだ。


「来ますよ。」


俺の掛け声に全員が戦闘態勢に入る。

すると前方から大量の蟻がまるで水路を流れる水の様に押し寄せて来た。

この通路の横幅は20メートルほどある。

五人で並んで相手をするには僅かに広い。

しかし、こちらにはアキトがいる。

クラウドのおかげで威力の上がった銃剣はその威力を存分に発揮してくれた。

流れを押し返すほどではないが毎秒数十発の魔弾は確実にキラーアントたちの流れを塞き止めてくれる。

俺達はアキトの視界を塞がないために水刃や風神で蟻たちを始末していった。

こんな数の蟻に接近戦をすればすぐに囲まれてしまう。

それにこの数を相手にするには人数が足りない。

今はまだ兵隊蟻が居ないがいずれはやって来るだろう。

魔物はレベルが一緒でも大きくなれば脅威度は増す。

そうなって来ると対処が追いつかなくなるかもしれない。


しかも、ここは通路の中だ。

限られた空間での大量討伐で魔石が通路を埋め始めている。

ハッキリ言って始まったばかりだというのに邪魔になって来た。

しかし、そんな俺達の後ろから声が掛かった。


「手伝いに来たわよ。」

「ライラ!」


見れば家にいたはずの皆が後ろに来ていた。

どうやらメノウかオリジンがマリベルをここに運びそこからゲートを開いたようだ。

見ればアキまで一緒だが、かなり怯えているので巻き込まれたのだろう。


「アキ、俺達とパーティを組め。ついでにレベルを上げてやる。」

「わ、分かったわ。巻き込んだんだからしっかり守りなさいよ。」


レベルが上がれば少しは安心するだろう。

それに人手が足りなかったのも事実だ。

皆にはありがたく甘えさせてもらおう。


そして、俺達の横に自衛隊組も並び攻撃に参加した。

彼らはアキトと同じく魔弾を覚え、魔力の回復速度をアキトのレクチャーにより強化している。

更にライラの魔道具で足りない分を強化すればかなりの時間で魔弾を撃ち続けることが出来る。

彼らの参戦で殲滅速度は急上昇し俺達は前に進める様になった。

足元に落ちていた魔石は定期的にマリベルが回収しているので足場の心配もない。

それにレベル70の魔物の魔石はどれも拳くらいの大きさがある。

これだけの量があればしばらくは生活に困る事もなさそうだ。

すると前方から兵隊蟻と思われる大型の蟻がこちらへとやって来た。

流石にあれだけの大きさがあれば当てるのは容易い。

しかし、魔弾で効果があるのはアキトの攻撃だけの様だ。


「お前らは周りの雑魚を始末しろ。兵隊蟻に無駄玉は使うな。」

「「「「了解」」」」


アキトは即座に判断を下し指示を飛ばす。

しかし、アキトの抜けた穴は大きく俺達の歩みは止まってしまった。

すると兵隊蟻に向かい一条の矢が放たれた。

それは正確に兵隊蟻の眉間に吸い込まれ頭を粉砕する。

どうやらアリシアも戦闘に参加したようだ。


「アリシアさん。デカブツは任せても良いか?」

「大丈夫です。全て打ち抜いて見せます。」


アキトが声を掛けるとアリシアからは力強い返事が帰って来る。

そして役割分担を終えたアキトは再び雑魚狩りへと集中した。

しかし、しばらくするとどうやら自衛隊組に限界が来たようだ。

彼らは下がり代わりにカーミラやライラたちによる援護が行われるようになった。

しかしいまだに俺達は66階層を歩く速度で進んでいる。

蟻たちの勢いはいまだに衰えることは無く、マップを見ても70階層までは魔物の反応で埋め尽くされている。

まだ一階層分の魔物すら倒し切っておらず、気が遠くなりそうだが俺達のレベルも急速に上がっている。

そのおかげで余裕は出ているがまだまだ長くなりそうだ。


そして、兵隊蟻が減ったタイミングでアリシアから声が掛かった。


「皆さん精霊王を召喚します!」


いつも我が家に勝手に来て飲み食いしているが戦闘に参加してもらうには代償が必要になる。

丁度いい事に高品質な魔石は履いて捨てるほどあるのでここで消費して戦力を増強するつもりなのだろう。


そしてアリシアの声に応えて4人の精霊王がこの場に姿を現した。


「皆さん、四方に散って魔物を殲滅してください。」

「久しぶりに暴れるわよ。」

「我が水で全てを押し流して見せましょう。」

「灼熱の炎で焼き尽くしてあげる。」

「母なる大地に帰りなさい。」


そして精霊王たちはそれぞれにダンジョンを進み魔物を葬って行く。

それによりこの階層にいるキラーアントは全滅し俺達は先へと進んで行った。

魔石の回収はマリベルに任せ俺達は今の内に下層へ向かう階段に向かって行く。

それでもすべてを集めている時間は無いのでマリベルには可能な範囲で集めてもらうだけだ。

そして下層へ下りる階段の前まで行くと、精霊王たちはキラーアントを食い止めながら待っていた。


「まだまだいるけどどうする?」

「これ以降は追加の魔石が必要ですよ。」


流石に大量の魔石を消費したが範囲にして数キロの魔物を全滅させるには1階層が限度の様だ。

残り4階層だが既に70階層は空になりつつある。

3階層くらいなら俺達でどうにか倒しつつ危なくなったら再び召喚すれば良いだろう。


「それなら一旦帰ってもらうか。召喚を継続するだけでも力を消費するんだろ。」

「分かりました。皆さんありがとうございます。また、お願いします。」


そう言ってアリシアは精霊王たちを住処へと送還して言った。

それにしてもアスカは数万と言っていたが、桁が一つ違うかもしれない。。

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