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197 100階層ダンジョン ⑤

ギルドに到着すると、そこにはマキアスが待っていた。

俺達が近寄ると表情を若干緩めて駆け寄って来る。


「早かったな。」

「急いだからな。それでギルドの反応はどうだ。」

「かなり良好だ。来たらすぐに通すように言われている。ところでそっちの女性は誰だ?」

「コイツはテニスだ。ギルドでは顔が利くから連れて来た。」

「・・・も、もしかしてデストロイか!?」


俺がテニスを紹介するとマキアスは驚きに声を荒げた。

それを聞き周りからも驚愕の声が漏れ聞こえて来る。

ダンジョンから出る前に連絡をして来てもらったのだが予想以上の反応だ。


(テニスはいったいどんな目で周りから見られているんだ。)


なにせ、テニスの事を知る者は例外なく顔を恐怖で引き攣らせる。

俺からすればタダのモフラーなのだが彼女の冒険者時代に一体何があったのか。

こんど機会があれば聞いてみるのも良いかもしれない。


「驚くのは良いが案内は誰がしてくれるんだ?」

「あ、ああ、それなら俺がする事になっている。彼女が来たと知ればギルマスも驚くだろうな。」


そして、俺達はギルマスの部屋に向かいノックの後に中へと入った。

するとそこにはピンと伸びた三角耳に少し曲がったフサフサの尻尾を持つ50代の獣人女性が座ている。

どうやら彼女がここのギルマスの様だ。

獣人でギルマスをしている人物には初めて会ったが、見た目だと性格は穏やかそうに見える。

そしてテニスを見ると彼女は立ち上がりそちらへと駆け出していった。


「テニス久しぶりね。」

「ティオネも久しぶり。元気にしてた?」

「私はもうお婆ちゃんだから毎日が大変。最近は尻尾も曲がって来たし毛並みも昔と違って綺麗じゃなくなったわ。」


そう言ってギルマスは曲がった灰色の尻尾をテニスに見せた。

その顔は少し沈んでいて元気が無い様に見える。

しかし、テニスは気にする事無くその尻尾を手に取り優しく撫でて毛並みを整えていく。

どうやら二人はかなり仲が良い様だ。


「そんな事ないわよ。今もティオネの尻尾は最高の触り心地だから。後で一緒にご飯でも食べましょう。」

「ええ、ありがとう。少し元気が出たわ。それと、今回の話を聞かせてちょうだい。」


そう言ってギルマスは俺達に視線を向けて来るので奴らから得た情報を伝えていった。


尋問の結果、分かった事は3つ。

奴らがこの国でスタンピードを起こそうと企てていた事。

その為に冒険者を殺して数を減らしていたそうだ。

全身鎧を着た冒険者でも不意を突かれれば一溜りもないのでギルド証の数から言って既にかなりの犠牲者が出ていたのが分かる。

それに冒険者の数が減れば自然とダンジョンの中に魔素が蓄積されていくのであのまま俺達が気付かなければ高ランク冒険者は全滅していたかもしれない。


そして2つ目にだが100階層もあるダンジョンのスタンピードとなれば対処できる者は居ないと言っても良いだろう。

そのため溢れた魔物でこの国を滅ぼそうと企てていたらしい。


そして、もう1つが冒険者ギルドの弱体化だ。

ガストロフ帝国にとって強い戦闘員を保有する冒険者ギルドは邪魔な存在らしく可能なら早急に潰したいらしい。

その事をギルマスに伝え今後の対応を取った貰う事にした。


しかし、最後の理由から考えてあの国は世界征服を目指している気がする。

統一国家自体は悪い事ではないと思うがやり方が気に入らない。

それにに他にもいくつか情報は得ているがそれは彼らには関係ないので伝えない事にしている。

しかし、それを知っている俺は予定を早める事に決めた。


(寄り道はそろそろ終了にするか。)


俺はテニスに顔を向けると今回の敵から奪った魔道具をテニスに渡しておく。

今からこれが必要になるだろう。


「ここの事は任せても良いな。」

「ええ。今夜中には終わらせるわ。」

「アキトも協力してやってくれ。」

「分かった。ユウはやっぱり今からダンジョンか?」

「ああ、ダンジョン内のゴミは任せろ。」


そう言って俺は一人でダンジョンに向かって突入して行った。

そしてまずは検索でガストロフ帝国に関係のある者を探し出す。

さっき始末した奴らのターゲットは主に中層だったが持っていたギルド証の中には低レベルの物も混ざっていた。

だから低層にも絶対に潜んでいる筈だ。


そして探すとレベルは高いのに低層をうろついている奴らを発見できた。

しかも3人で一人の女を袋小路に追い詰めているので即座に動いてそこに移動して行く。

間に合うかどうかは分からないが最優先は彼女だろう。


10階層の外れの人気のない所で襲われているようで視線を飛ばせば口には布をキツく押し込まれ服は既に破り捨てられているようだ。

男達は女を拘束しその肌に舌を這わせ下卑た顔で笑っている。

女は既に恐怖と絶望に表情を染め、暴れる事すらあきらめていた。

顔には殴られた痣があるので言う事を聞かせるために既に暴力を受けた後なのだろう。

それ以外にも足や腹などにも殴られた痕があり、口に入れられている布からは血が染み出している。

そして、抵抗を諦めた女の足を掴み男の一人がその間へと体を滑り込ませた。


女は最後の抵抗に声を上げるが男をさらに興奮させるだけの様だ。

男は笑いを上げながら女の悲鳴と抵抗を楽しむその行為は見ていて反吐が出る。

しかし、そのおかげでなんとか間に合わせることが出来た。


「死ね。」


俺は男の頭を横から蹴り飛ばし首から上だけを綺麗に吹き飛ばした。

その後、残っていた体を後ろに放り投げ、腕を抑えている男二人は同時に拳をふるい壁に叩きつける。

殴った顔が陥没しているが死んだ人間を気にかける必要はない。

俺は毛布を取り出すとそれを女にかけ、口の布を抜いて抱えて走り出した。

女は恐怖から声も出ないのかされるがままだ。

走りながら女を魔法で治療し外に出ると下ろして次に向かおうとすると女から声が掛かった。


「あ、ありがとう。」


しかし俺はそれに応える事はなく次に向かって走り出した。

今度は15階層の連中だ。

レベルが50以上あるのにこの階層に居るのはおかしい。

しかも、その進行方向には10人程の冒険者が進んでいるように見える。

見様によっては逃げているようにも見える動きだ。

千里眼で見ると前を彼等は必死な顔で走り続け中には泣いている者まで居る。

そんな彼らの前に魔物が現れ、一丸となり魔物と戦い始めた。

しかし、そんな中でも意識は後方に向けられており動きも悪い。

連携を無視して攻撃を当てる事しか考えていない為、無駄にダメージも受けてしまっている。

そして、倒し終わると魔石を拾う事なく傷の治療もせずに再び走り出した。

これはもう確定だろう。

後ろから追い掛ける男たちはまるで狩りでもしている様に楽しそうだ。

落ちている魔石を拾い逃げる者達を汚く罵り笑い声をあげている。

俺は進行方向に先回りすると逃げて来た彼らに声を掛けた。


「お前ら止まれ。」

「な、先回りされてた!」

「もうお終いだ・・・。」


どうやら戦う気力も既にないのか俺を見てその場に膝を付いて項垂れている。

俺はそんな彼らの横を通り過ぎると軽く声を掛けた。


「疲れたなら休んでろ。あいつらは俺が始末する。」

「待ってくれ。もしかして助けに来てくれたのか?」

「違う。あいつらが気に食わないから殺しに来ただけだ。すぐに終わるから少し座って休んでろ。終わったら転移陣まで送ってやる。」


そして俺は剣を抜くと走り出した。

敵の数は5人。

俺の接近に気付いたのか剣を抜くと迎撃の構えを取った。


「たった一人で英雄の真似事か?」

「男だと殺す事以外で楽しみがねえな。」

「何言ってやがる。男にも穴はあるんだぜ。」


何やら不穏な事を言った輩がいるがコイツ等は確殺決定だな。

俺は先頭の男に剣を振るい一人目を武器ごと両断する。

次に左右へ極細の水刃を飛ばし剣を持つ手を切り離すとその後ろにいる男の首を斬り飛ばした。

二人からようやく悲鳴が上がるがその頃には残ったもう一人の男を天井を足場にして頭から真っ二つにし、残りの二人を最後に斬り殺して口を塞いだ。

俺はすぐに先ほどの冒険者の許に向かい声を掛ける。


「終わったから行くぞ。」

「え、もうですか。」

「ああ。まだ、やる事が残っているから質問は無しだ。急ぐぞ。」


すると彼らはすぐに理解してくれた様で立ち上がって俺の後を付いてくる。

まだこのダンジョンにはガストロフ帝国の工作員が残っているので彼らを送ったらすぐに次へと向かう必要がある。


そして次は35階層。

そいつは一人だけだが素早い足を利用してトレインを引き起こし、魔物に冒険者達を襲わせていた。

この辺の階層には冒険者が多いが上手い具合に動けばこの階層の冒険者を全滅させられるだろう。

もしかすると昨日俺達が遭遇したトレインもこいつが引き起こしたのかもしれない。

俺達が魔物を倒し終わった後には少なくない犠牲者がいた。

あの時は逃げ惑う冒険者に紛れていて気付かなかったが、今なら犯人が簡単に分かる。

そいつはダンジョンを回り魔物を集めて冒険者にぶつけている。

本人は直前で速度を上げて一気に魔物との距離を引き離す事で魔物から安全に逃げ切っている様だ。

俺はそいつを追い掛けてダンジョンを走った。

後方には当然魔物の群れがいるがそいつらはすべて無視する。

どのみちこの程度の魔物ではクロスで覆われている俺にダメージを与えられない。

当然そうなると魔物たちのターゲットは俺に移る。

そして、先頭に立つと俺は少し先を走っている男の足を土魔法で打ち抜いた。


「があー。な、何だ。」

「よう犯罪者。お仕置の時間だ。」


聞いた話だがダンジョンで故意にトレインを引き起こす行為は殺人と同じ罪となるらしい。

コイツを犯罪者と呼んでも支障はないだろう。


「き、きさ、、た、助けてくれ。もうじきここに魔物の群れが来るんだ。」

「見下げた奴だな。今までそうやって冒険者を殺して来ただろう。今度はお前の番だ。」


俺はそう言って容赦なく足を踏み抜いた。

この男は話の最中にも治療をしていたがこれでしばらくは走れないだろう。


「ぎゃああーーー!お前は何したのか分かってるのか!?」

「犯人が逃げない様に足を潰しただけだ。ほらもう一本。」

「ぎゃあーー!止めてくれーーー!」


すると追いついてきた魔物が俺達に襲い掛かって来た。

そして魔物は血を流して苦しむ目の前の男にも容赦なく牙を剥く。

俺はそれを冷たい目で見降ろし、男が無慈悲に魔物の餌食になって死ぬのを最後まで確認する。

男は最後まで命乞いをしていたが奴に殺された冒険者たちは命乞いすら出来なかった。

これで、殺された人々も少しは気が晴れただろう。

俺は群がる魔物を一掃すると魔石などは全て放置して次に向かった。


「切迫した状況はこれで終わりだな。後は一つずつ確実に潰していけば良いだけか。」


現行犯は今のところはこれで終了だ。

後は審問を使い確認しながら始末していく。

ガストロフ帝国の出身だからと言って皆殺しにする訳にはいかない。

それも何時まで続くかは分からないが今はそこまでする必要はないだろう。


その後、俺は一人ずつ丁寧に質問をしていった。

その結果があまりにも腹立たしい結果に終わってしまったがダンジョン内は清潔になったと言って良いだろう。

しかし検索でヒットした全員が工作員だとは思っても居なかった。

その為、俺としては望んでいない結果だったが皆殺しにする事になってしまった。

そして、今日はダンジョン中を走り回りかなりクタクタだ。

時間にすれば2時間しか掛かっていないが体や精神よりも心が疲れた。

早く家に帰って家族とのんびり過ごしたい。


そして、俺がダンジョンから出るとそこには多くの冒険者たちが待ち構えていた。

聞けばどうやら俺が助けたり犯人を始末しているのを見た者達の様だ。

皆は俺に感謝の言葉を送ってくれるのでその言葉を聞いていると少しだけ元気になった気がした。

俺は疲れた心に喝を入れて苦笑いの様な笑顔を浮かべる。

そして多くの者に声を掛けられながら俺は家族の許へと帰って行った。


外の事はテニスに任せてある。

あちらもギルマスの事を考えれば容赦なく血の雨を降らせるだろう。

アキトもサポートに付いているので安心して任せられる。


家に着くとすぐに犬の姿のホロが駆けてきた。

いつもこんな時は一番乗りなのでスキルを通して何か伝わっているのかもしれない。

続いてライラやアリシアが現れアヤネも来てくれる。

みんな俺の顔を見ると心配そうに手を握ってくれた。

その手がとても心地よくて暖かい。

いつも感情が先走って敵を容赦なく殺しているが未だに後になって心が痛む。

慣れたいとは思わないが殺さないと不安でたまらない。

だから俺の心は殺したくないという思いと殺さなければという矛盾した考えでいっぱいだ。

俺としては早く戦いのない平和な時間を過ごしたい。


そして次第にみんなが集まって来たのでそのまま夕飯を取る事にした。

メノウのご飯はこんな時でも俺の体と心を優しく温めてくれるから不思議だ。

そして、食事を終えてのんびりお風呂に入っていると久しぶりにオリジンが入って来た。


「疲れてるわね。」

「そう見えるか?」


そう言ってオリジンは湯に入ると俺の腹に背中を預けて湯船に浸かる。

黒い髪を湯に広げたオリジンからは、穏やかな心臓の鼓動が伝わって来る。

話をする訳ではなく、ただ体を重ねて静かに過ごす時間。

体温を交換し合い、互いを感じ合っていると自然に穏やかな気持ちになって来た。


「少しは落ち着いた?」

「ああ、ありがとう。」

「ふふ、少しは役に立たないとね。」


するとオリジンは最後に軽くキスをして湯船から出た。

こういう所は成熟した大人の女を感じさせるので俺は軽く笑うとその背中に視線を向ける。

どうやら家を失って少しネガティブになっていたようだ。


(今度、みんなにお礼を考えないとな。)

「それならみんなそろそろあなたの赤ちゃんが欲しいみたいよ。考えてあげてね。」


そして最後に言葉を残すとオリジンは浴室を出て行った。

それを見送りながら俺は湯に肩まで浸かり天井を見上げて考えをまとめる。


「子供か・・・。アキトも今年中には結婚すると言っていたからな~。」


こちらの世界の人間は危険が身近にあるので子供を早く産もうとする傾向があるそうだ。

そうでなくても俺の家族は年齢的に問題のない者が多い。

安定するまでと思っていたが家を壊された事でそれまで待たせていると1年以上は先になりそうだ。

それなら別に日本に拘る必要はないので、ここをしばらくの家としても良いかもしれない。

そうなるとアヤネには少し頑張ってもらうか。


俺は考えが纏まったので風呂を出た。

今決めた事をみんなに話しておかなければならない。

俺はまず、食堂で片付けをしていたメノウに声を掛けた。


「メノウ。」

「はい・・・。大変!!!すぐに皆を呼びますね。」


どうやら完全に考えを読まれた様だ。

メノウは食堂から外に出ると家中に届く程の大声を上げた。


「皆さん、天岩戸が開かれましたー!」


いったい何を参考にした合言葉なのか疑問に思うが、それと同時に館全体から激しい足音が聞こえ始めた。

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