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192 新たな拠点

そして日が暮れると今度は歓迎会用の料理が並び始めた。

急な事だったのにちゃんと用意してくれているのがメノウとクリスの凄い所だ。

ただ、今回は洋風ではなく和風にまとめたようで筑前煮や数々の天婦羅が並んでいる。

しかも、どこで覚えて来たのかトウモロコシや卵の天婦羅などもあまり、初めて見る物まで混ざっている。

そして、それらに一番驚いているのはトキミさんだ。

彼女も恐らく見た事のない具材が幾つかあったのだろう。

俺も卵の天婦羅は初めて見た。


「味の方は気に入りましたか?」

「勿論だよ。油物を食べたのは30年ぶりくらいだからね。料理人の奴ら、体に障るとか言って精進料理しか出しやしない。若い体で一番嬉しいのは好きに食べれる事だね。」


そう言って先程から次々に料理を口に運んでいるがサツキさんも以前に似た様な事を言っていたな。

しかしその食べっぷりの良さを見ていると疑問が頭を過った。


「夢で食べたりしないんですか?」

「腹の膨れない夢で美味い物を食っても拷問にしかならないよ。それにあの天使の嬢ちゃんは料理の腕が良いね。私にくれないかい?」


そう言って笑っているが目はかなりマジだ。

それに先程から何も話していないはずなのに我が家の事がポロポロ出て来る。

そして、既に俺がどう答えるかを知っていそうなトキミさんに、苦笑を浮かべて答えを返した。


「お断りします。家のメンバーは全員が大事な家族ですから。」

「この業突く張りが!・・・まあ、言ってみただけさ。」

「それならそんな恨めしそうな顔で睨まないでください。」


そして、今度こそ豪快に笑い、俺の肩をバシバシ叩いてくる。

なんだか背が縮む思いがするので勘弁してもらいたい。

すると彼女は急に真顔に変わると再び重要な事を口にした。


「そろそろ全員揃ったみたいだね。それじゃ、もう一つ教えといてあげるよ。明日、この土地から全てが消える事になるから避難の準備をしておきな。明日は朝一番で移動するよ。」


その言葉に全員が一斉に視線を集中させた。

そして、そのまま俺に視線が移りどうするのか判断を求めて来る。

しかし、いきなり言われても俺としても混乱するばかりだ。

まずは情報を整理しよう。


「それは予知夢の結果ですか?」

「そうだよ。夢で私達が出発した後にこの敷地に何らかの攻撃が行われる夢を見た。周囲には一切の被害が無い事から普通の手段じゃないだろうね。」

「それじゃあ皆もそれに巻き込まれるのか?」

「そうだよ。でも、どういう訳かみんな無傷で生き残ってたけどね。」


『それはおそらく身代わりの護符のおかげですね。』

「護符?みんなそんなの持ってるのか?」

「これが護符よ。」


するとライラは手にあるリストバンドをマフラーにして俺に見せてくれる。

しかしそれは俺がクリスマスの時に渡したマフラーだが形を変える機能なんて付けていない。

ただ、ホロの服にしている様にライラならこれくらいの事は可能だろう。

そうなると年中使える様に細工でもしているのだろうか。


「ライラが付与したのか?」

「貰った時から付いてたわよ。だからって訳じゃないけどみんな肌身離さず大事に持ってるわ。」


言われてみれば、皆の手には俺があげたマフラーと同じ色のリストバンドを巻いている。

俺は頭に?を浮かべるが今度はスピカが事情を教えてくれた。


『皆さんの安全を守るために私が付与をしておきました。』

(そういう事か。)


その言葉で俺の疑問は完全に解消された。

それにスピカも皆の事を考えてくれていたのだと知れて何だか嬉しくなる。


「どうやらスピカの仕業みたいだな。」

「そうなのね。ありがとうスピカ。二人のおかげで今日まで安心して暮らせて来れたわ。」


ちなみにリリ達にもここに来る前にマフラーを渡してある。

あちらの大陸は暖かかったがこちらはまだまだ寒い。

そのおかげで明日を生き延びることが出来たようだ。


しかし、そうなると準備は必要だろう。

せっかくアリシアが整えてくれた庭だが必要な物だけ回収して放棄するしかない。

それに両親との思い出がある家も大事だが、今を生きる皆には代えられないのでこちらも置いて行く。

もともと人も増えてきて限界を感じていたため、みんなの要望を取り入れて立て直すか増築するつもりだった。

その際には隣とその隣の土地も買い取って敷地も広げようと思っていたが手間が省けたと思いそこは我慢しよう。

しかし、だからと言って勝手に壊されて許すほど俺は人が出来ていない。

その代償はしっかりと相手に支払ってもらう。

そう思うだけでダンジョンでのレベル上げに気合が入ると言うものだ。


「アリシア、すまないが庭は任せた。」

「はい。ジェネミーも手伝って。」

「分かったわ。あの木とのリンクも切らないとね。」


そう言って彼女は寂しそうな顔をして依り代としていた木を見上げた。

俺も最後に、あの木に咲く花を見たかったが、それを見れるのはにはまだ半年ほど先になる。

何処かに移動させようにも俺が生まれる前から庭にあったこの木はしっかりと大地に根を張って移動させる事は出来ない。

業者に頼んでも中型のクレーンが必要だろう。

明日の朝となるととても間に合わない。

それにこういう突然の別れは何度味わっても胸が苦しくなる。

新しい家族が居なければ今頃は泣いていたかもしれない。

すると俺の内心に気付いたのかライラ達が横に来て手を握ってくれる。

ホロやワカバも犬と狐の姿で足に体を擦り付けて慰めてくれた。

俺は彼女たちに「ありがとう」と感謝を伝えると少しぎこちないが笑顔を浮かべて答える。


「本当にアンタらは仲が良いねえ。」


そう言って呆れ半分な苦笑を浮かべてトキミさんは言葉を零した。

本当に、俺には勿体ないような最高の家族だ。


そして、その夜は部屋から荷物を回収すると大きな部屋にベットを並べてみんなで寝る事になった。

この家で過ごす最後の夜なので少し寂しいが仕方ないだろう。

そして眠りに着くと朝は瞬きの間に訪れた。


「もう朝か。」

「なんだかこの家ともお別れとなると寂しいわね。短い間だけど皆との思い出が詰まった大事な家なのに。」

「そうだな。次に家を建てたら俺も少しはのんびりしたいな。」


どうやらライラもこの家に愛着を持っていてくれたようだ。

最後まで彼女の部屋を見れなかったがそれは新たな家を建てれば機会は幾らでもあるだろう。

そして、リビングに向かうとそこには既に俺達以外の全員が集合していた。

その中には当然アキトと自衛隊組の他に隣に住むハナさんも一緒に来ている。

トキミさんの話では周りに被害は無いと言う事だが、その後の事までは分からない。

俺達が居ないと知った相手がどう行動するかまでは分からないのだ。

もしかすると無差別に攻撃の手を広げるかもしれない。

そうなると困るのでいつでも駆け付けられるようにオリジンの水鏡で状況はリアルタイムで確認しておく予定だ。


その後、俺達は事前に連絡をしておいたドワーフ王国へと移動して行った。

まずはそのまま王都に入りクラウドの待つ城へと向かう。

クラウドが渡してくれた通行証を持っているので今回は何も問題なく城まで辿り着けた。

そして、兵士に案内されて俺達は城の中を歩きクラウドの許へと向かって行った。

すると部屋に案内された俺達は兵士に少し待つように伝えられ、ここで待つ事になった。

しかし少しするとノックも無く扉を開けてクラウドが顔を見せる。

ちょっと不用心な気もするが、ここには国崩しが出来る程のメンバーが集まっている。

それに事件後からあまり時間の経過していない国内ではここが最も安全と言えるだろう。

クラウドは俺達の顔を見ると以前と変わらぬ笑顔を浮かべて歓迎をしてくれた。


「よく来たな。まずはお前らが住む家に案内するから付いて来てくれ。」

「住む家ってそんなのまで準備できたのか?」

「ああ、先日の事件で大きな空き家が何軒か出来たからな。その内の一軒をお前らの拠点に準備したから好きに使ってくれ。使用人は居ないが要りそうなら紹介状を書いてやるから好きに雇え。」


そう言ってクラウドは俺達を連れて一軒の屋敷へとやって来た。

その大きさは俺の家の10倍以上。

空間を操作してもらわなくても一人が一室使って十分に余裕がある。

芝生の広がる庭も付いているがそこはすぐに畑へと姿を変えそうだ。

そう思っているとアリシアとジェネミーはさっそく庭へと向かって行った。

それを見て、俺もある事を思い出しお土産をクラウドに見せる。


「そう言えば代金代わりにお土産があるんだった。」

「おう、もしかして酒か?酒なのか?」


なぜそこで酒の一択なのかは分からないがもしかして大量に買い込んだ酒をもう飲み切ったのだろうか。

俺が渡しただけでもかなりの量だったと記憶しているんだが。


「酒も持ってきてるがが大量のオリハルコンだな。偶然手に入れたから半分渡そうと思って。」

「半分か。なら大した量じゃない・・・は!?」


俺はオリハルコンの塊を取り出して山にしていく。

量にして剣あら数千本は打てる量はあるだろう。

その山を見てクラウドは顎が外れそうな程、口を開けて動きを止めた。


「現物で悪いがみんなの武器と、この屋敷の代金はこれで足りるか?」

「・・・・・お、あ、ああ。貰いすぎなくらいだ。これだけあれば国が買えるぞ。」

「残りは土産って事で受け取ってくれ。それに俺達は国が取れる程の武器を作ってもらってるんだ。これでお相子だろ。」


そう言って笑い合うとついでにここでトキミさんを紹介しておくことにした。


「そう言えばこの人はゲンさんとサツキさんの師匠でトキミさんだ。武器を注文したいらしいけど大丈夫か?」

「それならお前らの武器は完成したところだから大丈夫だ。二人の師匠ならやっぱり小太刀が二本か?」


どうやら、とうとう俺達の武器が完成したようだ。

作り始めてそれなりの日数が経過しているが、スキルが進化してもオリハルコンの加工は大変だったのだろう。

そしてトキミさんだがそんなクラウドの言葉に首を横に振って答えた。


「私は小太刀だけじゃなくて大太刀が欲しいね。それを二本ずつ作ってくれるかい。」

「ああ分かった。一応、後でサイズを確認するから教えてくれ。」

「任せたよ。」


そして、俺達はクラウドに案内されて屋敷へと入って行った。

中に入ると大きな玄関ホールと二階へ続く階段がある。

廊下は大理石の様な石で出来ており歩くとコツコツと小気味よい音が鳴る。

ただ、部屋に入ると家具はなく、大きな窓があるだけで他には何も見当たらない。

カーテンは後で買うとして、私物は持ってきているのでベットと棚などは問題ないだろう。

そして部屋割りを決めると全員が遠慮なく扉の丁度いい位置に釘を打ち付けて名前の書かれているネームプレートを固定していた。

その思い切りの良さに俺は呆気に取られながらも同じように扉に釘を打ち付ける。

みんなしているので俺だけしないと仲間外れになってしまう。

それにこんなに部屋があると慣れない内は自分の部屋が分からなくなりそうだ。

みんな部屋にそれぞれ荷物を置くと一階の食堂へと集合した。


その頃にはアリシアたちも庭の作業を終えたようだ。

作業と言っても新しいゴーレムを作って指示を出すだけで、後は彼らが勝手にやってくれる。

後は耕した土の状態を確認して調整を加えるだけだ。

ただここは日本ではないので土に含まれる魔素も豊富だろう。

それほど手を加える必要はないかもしれない。

そして俺は集合してまずはオリジンからの報告を聞くことにした。

彼女は先程から水鏡で家の様子を見てくれている。

それに少し前に表情が曇ったのでトキミさんが言っていた予知夢が現実になったのだろう。


「それで、家はどうなってる?」

「さっき無くなったわ。おそらくは長距離魔法攻撃ね。一瞬で全てが潰れてしまったわ。」


そう言ってオリジンは家があった場所を見せてくれる。

するとそこには敷地内にあった家の残骸と深さ数メートル程の穴が出来ていた。

敷地の外には切れた電線が垂れ下がり、水道管からは水が漏れている。

敷地内にはガス管もあるが、この様子なら誰かが通報してくれるだろう。

これだと次に俺達が住む家は新築になりそうだ。


「見事に無くなったな。」

「色々な楽しい思い出のある家だったから残念ね。」


オリジンは寂しそうに水鏡に視線を落とすと手を振って消した。

しかし、俺達さえ生きていれば思い出はまた作れる。

次に建てる家はなるべくみんなの要望を取り入れたものにするつもりだ。


「次に建てる家はみんなでしっかり話し合わないとな。いっそのこと骨組みはオリハルコンで作るか?」


今の俺達なら図面さえ作ってもらえば家ぐらい建てる事は出来る。

ただ、建築法などを知らないのでそこはプロにお任せする事になるだろう。

すると俺の言葉にオリジンも笑って頷いてくれた。


「そうね。次に作るなら世界一強固な要塞を作りましょ。もう誰にも壊されないようにね。」


要塞ではなく家なのだがオリジンはどんな物を想像しているのだろうか。

出来れば今後住む事も考えて暖かみのある家にして欲しい。


そして俺が話している最中にもクラウドは周りに完成させたオリハルコン製の武器を配っている。

付けられている付与には違いは無いが以前よりも遥かに強力との事だ。

トキミさんにはクラウドが持っていた試作の剣が渡され、その場で付与が行われている。

どうやらサイズ調整と重量変化を付与してもらうようだ。

後は敵を倒しレベルを上げれば問題ないだろう。

そして、彼女は玩具を受け取った子供の様な笑顔を浮かべ、遊園地に向かう前の様にソワソワし始めた。

その様子を見ればサツキさんの師匠であるのが頷ける。

はやく若返った体と新しい武器の試し切りがしたいのだろう。

ただ、ここで他人に声を掛けて試し切りをしようとしない辺り、サツキさんよりは自制心がありそうだ。

しかし、その自制心もあの様子だと何処まで持つかは分からない。

これは早くダンジョンに向かい、発散させる必要がありそうだ。

時間は昼過ぎと中途半端だが様子見としてならいいだろう。


「それじゃあ、少しダンジョンに潜りましょうか。クラウド、この国最大のダンジョンは何処にあるんだ?」

「それならあそこの山の麓だ。」


そう言ってクラウドは窓から見える山を指差して方向を教えてくれる。

俺はマップと千里眼でそちらを見るとダンジョンを確認できた。

流石100階層以上あるダンジョンなだけはあり、その周囲は城壁の様に囲まれ周りには町が出来ている。

ここからだと距離にして20キロと言った所だろうか。

多くの商人と冒険者たちが居る様で今も大変賑わっているようだ。

喧嘩なども起きているらしく、ドワーフの兵隊たちが忙しそうに走り回っているのも目に入る。

お世辞にも治安が良いとは言えない様だ。


「場所は分かった。それじゃあ行きましょうか。」

「ああ、頼んだよ。それとゲンとサツキも付いといで。アスカとそこのアキトもだよ。少し話があるからね。ユウは悪いけど運転を任せたよ。サツキに任せると何人轢殺すか分からないからね。」

(それは俺も同感です。あの人はハンドルを持ってはいけない人種ですから。)


そして、俺達は屋敷を出るとダンジョンへと向かって行った。

町から出ると車に乗り換えてなるべく急いで移動して行く。

久しぶりにダンジョンに潜るので少し気分が高揚しているが、今日はあくまでも慣らしなのでそれほどは潜らないだろう。

本番は明日からだと思いながら俺はアクセルを踏み込んだ。

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