188 リリ
ユウが虎人の地を去ってすぐにリリは行動を起こしていた。
「ゼン、私は旅に出るから後は任せた。帰らない時は死んだものと判断して。」
「どういう事だリリ!?」
「私は今からドラゴンの所に行ってリバ様にこの事を報告する。だから後の事は任せたわよ。」
ゼンと言われた白老虎はリリの覚悟を感じ取り渋々と首を縦に振る。
彼はこの時、リリが自分達の今後を考えて命を懸けていると完全に信じていた。
しかし、それはあくまで表の理由である。
本当の理由はユウの住む場所を聞き、そこへと向かうためだ。
それには自分が死んだ事にした方が都合が良かった。
しかし、リバイアサンの所に辿り着けるかは別の話である。
そしてリリは仲間や故郷を全てを捨てて、本当に命を懸けた旅へと出かけて行った。
そして空を行くこと数時間が経過した。
リバイアサンが通行の許可を出している為か中心部であるドラドが住むと言われる山岳地帯へと無事に到着を果たす。
ここまでくればリバイアサンの強大な気を感じる事も出来るため迷う事もない。
「もう少しで到着できる。」
しかし、そんなリリの思いは呆気なく踏み躙られる事となった。
僅かな気の緩みから警戒が薄れ、その存在の接近に気付くのが遅れてしまう。
そして、気付いた時には既に手遅れとなり、リリは目の前に現れたその存在を見て恐怖に体を硬直させた。
『お前は誰の許可を得て我が地へと訪れた。』
目の前に現れたのは先ほど見たシータの3倍はある150メートルクラスのドラゴンである。
その身はドラドよりもさらに黒く、まさに星のない闇夜が目の前に現れたかのようだ。
このドラゴンから見れば霊獣の姿のリリですら虫けらも同じだろう。
するとドラゴンは怒気と侮蔑を込めた目でリリを睨みつけた。
「わ、私は白老虎のリリ。リバイアサン様に会いに来ました。」
『チッ、あのババアにか。それで、伯母上は貴様が来る事を知っているのか?』
「いえ・・・、急用のために単身で参りました。」
「そうか。それは好都合だ。」
「え?」
この時、初めてリリは選択を誤った事に気が付いた。
ドラゴンは素早く手を伸ばすと問答無用でリリを掴み上げる。
その衝撃が幾つもの骨が折れ、内臓が潰れ口からは血が溢れ出した。
そして眼前に掲げてまるで玩具を観察するように弄ぶと大きく口を開けた。
「何をするのですか!?」
「我の趣味は霊獣の踊り食いだ。我が体内でしっかり暴れて楽しませろ。」
「や、いやーーー!」
「はははは。貴様の絶望と嘆きが我に力を与えてくれる。簡単に死んだりするなよ。」
「誰か助けて!リバ様・・・ユ、ユウーーー!」
しかし、その叫びは誰に届く事もなくリリはドラゴンの口に放り込まれ、舌で転がされる。
そしてしばらく嬲った事でリリは気を失い、喉をゆっくりと嚥下して胃へと送り込まれた。
しかし、リリはすぐに激痛と共に目を覚ますと起きあがって魔法の明かりを灯すと周囲を見回した。
「ここは・・・?」
そしてそこに映し出されたのは歪な5メートル程の空間でまるで生物の様に見える。
臭いは酷く周囲にある液体は霊獣である自分をも溶かすほど危険な物だ。
そして意識がハッキリしてきたリリはここが何処なのかを理解した。
「まさか・・・ここってアイツの腹の中!?いや・・死にたくない!ここから出して!」
リリは必死に暴れて胃の内壁に爪を立てる。
しかし傷すら負わせられず、次第に爪も溶けて最後には無くなってしまった。
その間にも胃を刺激したことで胃液が周囲から溢れ出し、リリの体を溶かしていく。
既にその美しかった体毛の多くが無くなり、攻撃を加えていた前足は筋肉まで溶けだしていた。
その激痛にリリは表情を歪めるが諦める訳にはいかない。
リリは爪が駄目なら牙をと胃壁に嚙り付いた。
するとその瞬間、胃液が噴出しリリの両目と腔内を容赦なく溶かしてしまう。
「キャアアアーーー!」
体を癒そうにも胃液で溶ける速度の方が僅かに早く一向に体は回復しない。
既に全身から毛は失われ皮膚すらも殆ど残されていない姿へと変わってしまった。
このままでは生きたまま溶かされ、死ぬまで地獄の苦しみを味わい続ける事になる。
しかし、霊獣の生命力はそう簡単にはリリを死なせてくれず、何故か少しすると体から痛みが消えた。
(もしかして回復してる?)
「きゃああーーー!」
しかし、回復しきる前に再び激痛が押し寄せリリは悲鳴を上げる。
痛みが消えたため気が緩み、体が回復した事で激しい痛みが再び戻って来る。
リリはその苦しみを等間隔で味わい絶望がその胸を満たして始めた。
「もしかしてコイツ。私が死なない様にしてるの。」
「その通りだ。簡単に死なれたらつまらんだろう。さあ、もっと苦しめ。貴様から苦痛と絶望が伝わって来る。」
ドラゴンは笑い声をあげると体を捻り胃を振り回してリリを弄ぶ。
それによりリリは胃液に塗れ、今までに無い程の激痛を味わった。
しかし、既に喉も焼かれ声を出す事も出来ない。
「静かになったな・・・。良い事を思い付いたぞ。お前は先ほどユウと言っていたな。そいつも俺が喰ってやろう。腹の中で感動の再会だ。まあ、それまでお前が生きていればだがな。ははははは!」
(ダメ、ユウには手を出させない。)
「ははは、どうやらお前にとって余程大事な存在らしいな。」
リリは再び暴れ始め骨の剥き出しになっている手足で胃への攻撃を再開する。
しかし、リリの思いは逆にドラゴンを楽しませ、自分の体に新たな痛みを与えるだけに終わった。
あわよくば胃を刺激する事で溶解による自殺も図ったがドラゴンは慣れているのか的確なタイミングで死なない様に回復させて来る。
そして、それはリリの心が折れるまで続いた。
その頃になりドラゴンはリバイアサンから聞いていたユウという人間の元に向かって移動を始める。
「確か、九尾とかいう脆弱な種族の町だったか。せっかくシータを焚きつけて始末させに行かせたというのに。役に立たない奴め。生きていれば俺が直々に殺してやる。」
そして、ドラゴンは真直ぐにヒイラギが住んでいる町へと向かって行った。
その頃のユウはヒイラギ達の許へと向かい移動を続けていた。
今回は休憩も取らず、全力で移動をしている為にもうじき到着しそうだ。
「もう少しで到着するからワカバも頑張れよ。」
「うん!」
ここまでは時間にして5時間と言った所だ。
あと1時間もしない内に到着できるだろう。
既にヒイラギ達は寝てしまっている様だが到着さえできれば相談は明日でも問題ない。
皆には少し負担を掛けてしまったがそれは上手い飯でも振舞って許してもらおう。
そして、俺が千里眼の視界を戻そうとするとヒイラギ達の住む家に明かりが点いた。
彼女たちの能力では俺達を捉えるにはまだ早すぎる。
俺のマップでも、もうしばらくは範囲に入らないからだ。
不安に思い見続けているとヒイラギが大慌てで外へと駆け出して来て西の空を見上げている。
俺もそれに合わせてそちらに視線を向けるとそこには巨大なドラゴンが迫って来ていた。
そして、ヒイラギに視線を戻すと彼女は振るえる口で言葉を零している。
『あ、あれはもしかして・・・ドラド様の長男の・・・オメガ様!』
(長女の次は長男か。)
シータの事を考えれば嫌な想像しか浮かばない。
そのため俺は先行して対処する事に決めた。
「みんな聞いてくれ。ヒイラギの所にもドラゴンが現れた。俺は一足先に行って事態を収拾しておく。他にも居るかもしれないから気を付けて進んでくれ。」
俺は1秒でも時間が欲しい為、それだけ言って速度を上げた。
そして、ここからなら俺の全力で数分で到着できる。
その後も俺は千里眼で状況確認を続け、僅かだが相手の目的を知ることが出来た。
そして分かった事はどうやらオメガは俺を探している様だ。
ドラゴンの口は読めないがヒイラギの口は読めるので会話の半分でも少しは相手の目的が分かる。
しかし、俺はマップに捉えたオメガの反応を見て疑問が浮かんだ。
そこにはオメガの反応にリリの反応が重なっているからだ。
しかし、千里眼で探してもオメガの上にも下にもその姿が確認できない。
するとようやく俺の接近に気付いたのか、オメガが俺の方に顔を向けた。
「気付いたみたいだな。」
その1分後にはヒイラギの前に降り立ち、空に滞空するオメガに視線を向けた。
するとオメガは口元を吊り上げこちらを見下ろして来る。
やはり用があるのは俺の様だが何が面白いのかはまったく分からない。
「お前とは初対面のはずだが何か用か?」
「フン、下等な人間風情が偉そうな口を利く。まあいい、貴様に良い物を見せてやろうと思ってな。」
オメガはそう言って腹に力を入れると胃から何かを吐き出し、それを手に摘まんで俺に見せて来た。
その瞬間、リリの反応がオメガから分離しそれが彼女である事を教えてくれる。
しかし、その姿は一目で何であるかが分からない程に醜く爛れ、まるで溶けた水飴の様だ。
だが、まだしっかりとした反応があるので生きてはいるのだろう。
「確かこの下等な生き物の名はリリと言ったか。今は我が玩具として胃で飼ってやっている。もうじき死ぬが最後に会わせてやろうと思ってな。」
するとオメガは再び口を開けてリリを飲み込んだ。
「リリ!!」
そしてそれにいち早く反応したのは後ろにいるヒイラギだ。
彼女は今まで見せていた母親の顔ではなく1人の人としての顔をしている。
やはり彼女にとってリリは大事な友達なのだろう。
俺は今にも飛び出していきそうなヒイラギを手で下がらせると視線をオメガに戻した。
「まずは交渉だがリリを返すつもりはあるか?」
やはり話し合いは大事だろう。
見た感じでは今はまだリリを殺すつもりは無さそうだ。
すなわち、こいつには何か目的があるのだろう。
そして案の定、オメガは俺の提案に乗って来た。
「返してやらん事もないぞ。しかし、タダでとはムシの良い話だろう。貴様は何を差し出すのだ?」
「何なら納得する。ベヒモスならトン単位で準備してやるぞ。」
「ハハハハ。貴様はそんなつまらない物と大事な物を交換するのか。見下げ果てた奴だ。」
(大事?別にリリは友達の友達程度の関係だ。このまま見捨てても心は痛まないんだが・・・。イテ。)
そんな事を考えているとヒイラギに背中を抓られてしまった。
彼女を見れば般若の様な顔で俺を睨んでくる。
しかし顔も見ないで内心を悟られるとは思わなかった。
(もしかして悪化してるのか・・・?)
「なら何なら良いんだ?」
ベヒモスでダメなら他に思い付くのは俺自身くらいだ。
まさかそんな安い対価で納得するはずはないだろう。
「ならば我と賭けをしようではないか。貴様が我が体内からあの者を助け出せたならば返してやろうではないか。しかし、言っておくが我が胃の溶解液は・・・。」
「え、マジでそんなので良いのか。それじゃお邪魔しようかな。」
「待ちなさいユウ!」
しかし、俺は周囲の言葉をすべて無視して喋っている途中のオメガの口へと飛び込んだ。
「な!貴様何を!」
「何をと言って貴様が言ったんだろう。先に言っとくが後悔するなよ。」
俺は口から無理やり食道を抉じ開け先へと進んで行く。
少し狭いが体にはクロスを纏っているので服が解ける心配はない。
もしコイツの体内から脱出した時に全裸だったら色々な意味で大変だ。
しかも出た瞬間に誰かに写真でも撮られた日には確実にネタにされて脅されてしまう。
まあ、そんな事はさて置き、俺には腐食無効があるのでこの時点で奴に勝ち目などない。
溶解液がどうとか言っていたがこれで溶かせるものならやってみろ。
「まさにこれが本当の獅子身中の虫ってね。ははははは。」
「何を笑っている。貴様も我が胃でジワジワと溶かしてやるぞ!」
「溶かせるなら溶かしてみろ。はははは。」
「笑うなーーー!」
相手がライラの兄でこうして揶揄う事でハイになっているのかいつもに増して笑いが込み上げて来る。
そして俺は胃へと到着するとすぐにリリを見つける事が出来た。
しかもかなり酷い状態で、既に手足は解けて失われ肋骨すら肉が溶けて剥き出しになっている。
このまま何もしなければ数分と持たないだろう。
これで生きているのが不思議なくらいだが霊獣とはそれだけ死に難いのだろう。
「なんでこんな状態で生きてるんだ?」
「それはそいつを苦しめるために死なない様に我が回復させているからだ。貴様ももうじきそうなる。しっかり目に焼き付けておくんだな。」
「ああ、そう。」
俺はリリに歩み寄ると体に付いた胃液を消し去り、口に秘薬を流し込んで更に回復魔法をかけた。
すると体は回復していくがまったく動きがない。
一応、胃へはベヒモスの肉を押し込んでおいたので栄養は足りているはずだ。
俺は回復した虎の姿のリリの顔を叩いた。
しかし、薄っすらと開けた目に光がない。
まるで感情を感じないその目に俺は危機感を感じた。
(もしかして精神が壊れてるのか?このままじゃあヒイラギの説教が・・・)
『保証は出来ませんが修復を試みますか?』
(出来るのか?)
『ただし彼女の壊れた記憶を読み取る必要があります。』
(分かった。やってみてくれ。)
すると俺の視界がブラックアウトし、そこに割れたガラスの様な断片が見え始めた。
どうやら読み取る過程で俺にもリリの記憶が見えるようだ。
しかも、そこからは彼女の思いも伝わって来る。
「なんか、あんまり感情の起伏がないな。」
『生まれてすぐの記憶ですからこんなものなのでは。』
最初の記憶は町を歩いている記憶だった。
誰かと2人で手を繋いで町を歩いて回り自分の家に帰る。
友達と遊んだり、出かけたりはしなかったようだ。
毎日縄張りを見回り、異常があれば対処する。
そして知識を蓄えていくにつれて対処が正確になっていった。
しかし、ある時を境に記憶では一人になってしまい感情が読み取れなくなる。
それ以降は誰とも手を繋がず一人で黙々と作業の様な毎日を歩み始めた。
それはデータを蓄積していくコンピュータの様な淡々とした人生。
しかし、それもしばらくすると変わり始めた。
彼女の前にヒイラギが現れ定期的にお茶会が開かれるようになる。
どうやらあれを最初に始めたのはヒイラギの様だ。
最初は二人だけだったが次第にタクトやグレンが加わり、リリの表情が豊かになっていく。
そして、その欠片はパズルの様に組みあがり、まるで水晶玉の様な形を形成していった。
「だからリリとヒイラギは仲が良いんだな。」
『もうじきリリが最も感情が高まる場面のようです。』
そして、その場面が浮かんで来た時、俺は首を傾げた。
それはつい先ほど俺とリリが出会った時の映像だからだ。
「なんでここなんだ?」
『初恋だからじゃないですか?』
しかし、俺にはスピカの言葉が否定できない。
先程からリリから伝わる思いが、その言葉が真実だと告げている。
そして俺の前には綺麗に組み立てられた丸い水晶が出来上がっていた。
どうやら修復は無事に終了したようだ。
『最後はショック療法が一番ですね。後はお任せします。』
そしてスピカの言葉と同時に俺は元の場所へと戻って来た。
するとそこではリリが人の姿で横たわっているがその目はいまだに虚ろで口からは涎が垂れている。
目は覚ましている様だが意識はいまだに覚醒していない様だ。
『声が伝わりやすい様に彼女を強制的に眷属へしています。後は彼女の心に応えてあげてください。』
「仕方ないか・・・リリ。」
名前を呼ぶと彼女の指がピクリと反応したのでその手を握って持ち上げると体を抱き起した。
眷族になっているおかげでクロスに護られたリリはもはやこの場で痛みを受ける事はない。
時間をかける事も出来るがそろそろ皆が到着しそうだ。
俺は意識のハッキリしない相手にこんな事はしたくないのだがショックを与えろと言われては仕方ない。
俺は虚ろな彼女の顔に自分の顔を近づけてそっと唇を重ねた。
すると少し目に意識が戻ったがまだ足りない様だ。
俺はそのまま舌も絡めて深い口づけを交わす。
「・・・ん!?」
意識を取り戻したリリは最初は驚いたようだが俺と分ると顔を蕩けさせてゆっくりと目を瞑る。
そして繋いだ手を強く握るとそのまま俺を押し倒すようにキスを求めて来た。
「ユウ・・ああユウが傍にいてくれる。これが死ぬ直前の夢でも好きになった人が傍にいてくれるならもう怖くない。」
俺はしばらくリリの好きなようにさせてから大丈夫という確信を得て顔を遠ざけた。
これだけハッキリと恋心を語れるならもうキスを続ける必要はないだろう。
続きがしたければこんな他人の胃という最悪の密室よりも、もっと雰囲気のある所でするべきだ。
「あ・・・。もうダメなのね。」
「何がダメかは知らないがこれは現実だからそろそろ起きろ。外でヒイラギが心配してるぞ。」
すると俺の言葉にリリは「え?」と答えると周りを見て自分の頬を抓った。
「痛い・・・。でもユウが何でここにいるの?それに私は・・・きゃあ~~~~!」
その直後、現実を思い出して自分の口走った事や裸である事に気付き完全なパニックへと陥った。
そのパニックでとった行動は当然、目の前の壁(胃)を殴る事である。
「私ったら、な、何言ってたの!何言ってたの~~~!」
『ゲフ!ゴフ!ガフ!どう、言う事だ!ゲフ!何が、ゴフ!起きている!』
リリが最初に暴れた時はユウの眷族ではない普通の霊獣だった。
しかし、今はユウから力が流れ込みクロスに身を包んだ彼女の攻撃力は格段に上昇している。
その一撃は外から見ればまさに某映画の宇宙生物の出産シーンのようだ。
そしてこの時、まさに獅子身中の虫は2匹へと増えてしまっていた。
俺としてはリリの殴打を見てるだけで楽しいが、このままだとここが胃液で満たされそうだ。
流石にそれは勘弁してほしいのでリリの背中からそっと抱きしめて動きを止めさせた。
リリもそれを素直に受け入れてくれた様で顔を真っ赤にしながらも首を回いて俺を見詰めて来る。
「お前の気持ちは嬉しいぞ。細かい事は外に出てからちゃんと話そうな。」
「ホントに良いの?私迷惑じゃない?」
顔は真っ赤だがその目は不安に震え泣きそうな表情になっている。
記憶を見たから分かるがリリは意外と泣き虫だ。
寂しい時や悲しい時は自分の部屋でよく一人で泣いていた。
最初は機械の様だと思ったがヒイラギのおかげで人らしい感情を育めたようだ。
そういう所は何処となくライラに似ている気がする。
「嬉しいって言ったろ。もしお前が家族になりたいなら家に来い。俺の嫁は沢山居るけどきっと歓迎してくれる。」
「・・・うん。ありがとうユウ。私もあなたに付いて行きたい。だから一緒に連れてって。」
「了解した。」
俺はリリを片手で抱きしめたまま皆の言う所の聖剣を取り出し力を込める。
そしてそれを一振りして目の前の邪魔な壁を切り裂くとリリを抱えて外に飛び出した。
「ぎゃあーーー!」
「リリー!あ、それとついでのユウ。」
(俺はついでかよ。)
そして俺達が地面に下りると後ろではオメガが腹を押さえてのた打ち回っている。
腹を裂かれたので仕方は無いがあの程度で霊獣は死ねない。
こういう時は生命力の強いドラゴンという種族に感謝したくなる。
なにせちょっとやそっと切り裂いても簡単には死なないからだ。
それにリリは先程をもって俺の家族に加わった。
家族に手を出した以上は逃がすつもりは一切ない。
そしてどうやら丁度ゲンさん達も到着したようで俺達の横にやって来た。
これで、俺が獲物を独り占めしたとは思われないだろう。
それに、こいつは殺さなければならない最大の理由が一つある。
その理由は・・・。
「貴様らー!この世界を統べる王に何をしたか分かっているのか!?我は・・わ・我・・我は王。世界を破壊する魔王であるぞ!」
どうやら、こいつはデーモンに世界の敵として認識される程に腐った奴だったようだ。
これなら殺したとしてもドラドは文句を言えないだろう。
正当な理由が出来た所で俺達は世界の敵に対して武器を構えた。




