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165 結合

俺達は激しい揺れに襲われ地上から空へと移動した。

そして俺の中から全員が姿を現すと1カ所に集まり状況を確認する。


「こらがどういうことか分かるやつはいるか?」

「恐らく私とガイアのリンクが絶たれた事で世界の融合も解除されたのでしょう。しかし、この揺れは異常です。下手をしたら星が引き裂かれるかもしれません。そうなればあなた達に生きる道はありません。」

「何か手は無いのか!?」

「あるわ!」


すると俺の言葉に真っ先に応えてくれたのはオリジンだった。

彼女は今も強い意志の籠った瞳でこちらを見詰めている。


「どういう手段なんだ。」

「世界樹を芽吹かせるのよ!」


だがオリジンは自信を持って言っているが俺にはどういう物なのかが分からない。

しかし、時間が無いため彼女は即座に行動に移した。


「アリシア、こっちに来て頂戴!」

「はい!」


その言葉にアリシアも急いでオリジンの許へと向かう。

そして地上に降りると紋章のある方の手を取りそこに手を差し込んだ。

それには当のアリシアどころか俺達ですら驚いて視線が釘付けになる。

しかし、アリシアは痛がっておらず、血も出ていない為、肉体に指を差し込んだのではない事に気が付いた。


「ん~と・・・あったわ!」


そしてオリジンがアリシアの手の甲から指を抜くとそこにはクルミの様な種が握られていた。

それを見てオリジンは大喜びで笑顔を浮かべている。


「やったわ!初めて発芽してる。今まで成功した事なかったのに、この最後で成功したわ。」


そう言ってオリジンはアティルを見ると彼女もやはり嬉しそうだ。

どうやらオリジンは密かにアリシアを使って何かをしていたと言う事だろう。


(これは後でお仕置が必要だな。)


するとオリジンは気付かなかったようだが横にいるアティルは気付いた様でクスリと笑みを深める。

ただ何も言わないので彼女から見ても今のオリジンの行動はアウトだったようだ。

そして、何かを始めたオリジンを横に余裕を持った笑みを浮かべてこちらへと寄って来た。


「本当にあなたと妹は仲良しですね。」

「まあ、互いにあれなので。俺の中に居たなら見てたでしょ。」


すると彼女は少し頬を赤らめて顔を逸らした。


(やはり一部始終を見られていたようだがこちらではそう言うのをデバガメと言うんですよ。)


しかし最初の出会いから夜の営みまで全部となると少し恥ずかしいが今はあえてぼかして深く追求するのは止めておこう。

後でオリジンが知った時にどのような反応をするかが楽しみだ。

なのでその事に関してはまずこの騒動を収めた後としよう。


そして種を手にしたオリジンは地面を掘るとそこに優しく種を植えた。

するとただそれだけなのに芽は急激に成長を始めて行く。

その高さは既に10メートルを超え周囲から大量の魔素を吸い上げている様だ。


「凄い速度だな。土地は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。このためだけに私達精霊はここに何千年と住んで力を土地に蓄積してきたんだから。」


そして、オリジンの言う通り成長は留まる所を知らず、既に50メートルに達しようとしていた。

枝も横に広がりそちらは既に100メートルは伸びで大地に影を落としている。

幹も5メートルを超えており更に成長を続けていた。

すると次第に地震は小さくなり始め、穏やかな風が吹き始める。

そして30分後にはそこに山よりも大きな巨木が出現していた。

それを見てアティルは嬉しそうな笑顔を浮かべて目には涙を浮かべている。


「お帰り、私の体。世界樹アティルトス。」


そう言って彼女はその手で世界樹に触れると光に包まれて消えていった。

そしてすぐに世界樹が激しく光り、続いていた微振動すら完全に停止する。


「どうにか世界が安定したのか?」

「そうよ。世界樹は世界に根を張り、すべてを安定させる役割があるの。これでスタンピードも起きにくくなるし世界の浄化も加速するわ。」


オリジンはどうやら色々知っていそうだが周りを見回せば精霊王たち以外は少なからず首を傾げている。

ここは後で大々的な説明を求めた方がよさそうだ。

そう思っているとようやく俺達の前にリバイアサンともう一人がやって来た。

二人とも人の姿だが初めて見る方は髭を生やした中年のおっさんに見える。

しかし、リバイアサンと並んでも見劣りしない気配からかなりの強者であるのが窺えた。

今の力を使い果たしている俺では絶対に勝つ事の出来ない存在だ。

するとそのおっさんは周囲を見回すと一点で視線を止めて駆け出した。


「ライラちゃ~~~ん!」

「やっぱりお父様!」


そしてライラはその抱擁を受け止めるとすごい勢いで後方へと押されていった。

ライラがお父様と呼ぶ存在は世界中を探してもただ一人。

龍王のみのはずだ。

すなわち、こいつは龍を統べる最強の個体の一人。

海がリバイアサンだとすればこの男が陸か空、又は両方で最強と言う事だ。

それにしてもこんなにライラを思っているとは思わなかった。

これなのにライラの旅立ちを認めないといけなかったと言う事は沢山の嫁と子供に囲まれるのも大変なんだな。

なんだか他人事じゃない気がしてくるので自分も心配になって来る。

ここは少し挨拶をする必要がありそうだ。


「こんにちはライラのお父さん。」

「ん?ああ、君がもしかして姉さんから聞いたユウと言う男かね。」

「はい。」

「そうか・・・。」


すると男は次の瞬間には口を開けてブレスを放つ態勢に入る。

このまま避けようと思えば可能だが後ろには俺の家族と成長中の世界樹がある。

避ければ被害は甚大になるので俺は逆に距離を詰めてその口を鷲掴みにした。


「何!?」

「ドレイン・・・。」

「うおーーーーー!」

「お前馬鹿か。さっき二人分のブレスを吸収できた俺がお前一匹分のブレスを吸い切れない訳ないだろ。」


しかし、俺はブレスを吸いつくしても手を離す事はしない。

エナジー・ドレインは触れたモノから力を吸収することが出来るのでそのまま吸い尽くす勢いで吸って行く。

そしてある程度吸い尽くすと男をその場に投げ捨て世界樹の許に行き肥料の代わりに周囲にまき散らした。


(ふふ、ありがとう。かなり良質な霊力ね。それに庇ってくれて嬉しいわ。)

「成り行きだから気にするな。」

(ならそうしておくわね。お礼にこれをあげる。)


すると空から先程オリジンが手に持っていたのと同じクルミの様な種子が落ちて来た。

俺はそれを受け取ると首を傾げる。


(これをどうすれば良いんだ?)

(好きに使うと良いわ。スピカにもこちらでしっかりとした依り代があった方が良いでしょ。)


その言葉で俺はどことなく思い出した。

スピカが以前欲していた物は穏やかな風、清浄な水、暖かな光、広大な大地だ。

なら、何処かに彼女用の世界樹を植えればそれも叶うかもしれない。


「ありがたく貰っておくよ。」


俺は種をしまうとライラの所へと向かった。

彼女は何処か申し訳なさそうな顔で俺を出迎えてくれる。


「ごめんなさいね。まさかあんな事しようとするなんて・・・。」


ライラは顔を俯かせて少し複雑そうだ。

唯一の家族と呼べる父親から結婚を反対されたも同然なのでこうもなるだろう。

しかし、そんな事はお構いなしの存在が一人だけ居た。


「ドラド!あんた何考えてるのよ!!私が良いって言ってるんだからあんたは口出すんじゃないわよ!!!娘1人守れないボンクラがーーー!!!!」


その存在とは当然リバイアサンだが以前会った時とは比べ物にならない程に口が悪い。

しかも力尽きて立てない男に地面が揺れるほどの蹴りを容赦なく連続でみまい、さらに遠くに蹴り飛ばすと巨大なブレスまで放っている。

なんだか先程のを見た後だと何処となくする事が似ていると感じるのは俺だけだろうか。

そしてライラはそんな二人のやり取りを背景に何食わぬ顔で俺の手を引いた。


「あちらは任せましょ。私達は気にしたら負けよ。お父様も他の奥さんとああやって良く喧嘩してたから大丈夫。」


ここにライラの神経の図太さが何処で培われたのか、その一端に触れる事が出来た気がする。

そして俺はライラに賛成し二人に背中を向けるとみんなの所へと戻って行った。

あれだけ痛め付けられればしばらくは大人しくなるだろう。

もしならなかったら今度は干乾びるまでドレインし続けてやる。


そして俺達は集まるとアティルの宿った世界樹の前に集合した。

するとそこでは、ここに居る多くの精霊達が世界樹に精霊力を注ぎ成長を助けているようだ。


「状態はどうだオリジン。」

「安定してるわ。そろそろ姉さんが離れられそうよ。世界樹自体は姉さんが離れても役割は果たせるから。」


どうやら、家に帰る時も近そうだ。

かなり疲労が溜まっているので早く帰って眠りに付きたい。

そんな事を考えていると俺の傍にスピカが駆け寄って来た。

するとその姿は先程と違い70センチくらいの幼い子供の姿へと変わっている。

彼女は年相応に幼く可愛らしい笑顔で俺を見上げて来た。

こうして見るとオリジンの妹の様だ。


「ねえユウ。」

「ん?呼び捨てにする事にしたのか?」

「ダメ?」


そう言って彼女は首をコテリと倒すが何だか楽しそうな顔をしている。

それに対し俺は笑顔を浮かべて「いいよ」と返しておいた。


「スピカとも付き合いは長いからな。それで、どうしたんだ?」

「あのね。今はまだユウの中に居たいの。」

「それは構わないぞ。その剣があればいつでも出て来れるんだろ。」

「うん。」

「なら好きにすれば良い。これからもよろしくな。」

「よろしくね。」


そう言って彼女は一際嬉しそうな表情を浮かべると俺の中へと戻って行った。

そしてそこには俺とクラウドの作った剣が一本だけ残される。

すると今度はオリジンか声を掛けて来た。


「ユウ、お願いがあるんだけど。」

「剣の事か?一本あれば問題ないだろうからそれはそっちで使ってくれ。」

「ありがとうー!」


オリジンは俺の言葉を聞くと嬉しそうに俺に抱き付いてくる。

そして彼女が傍に来たので耳元で先ほど決めた事を囁いた。


「先程のアリシアの事もちゃんと説明してくれよ。」

「それは当然するわよ。」

「それと・・・。」

「それと?」

「黙ってたから後でお仕置な。」

「・・・うん。」


俺の言葉にオリジンは恥ずかしそうに頬を赤く染める。

どうやら何処でどんなお仕置をされるのか想像してしまったようだ。

どうも最近はクオーツにお仕置をして以来、お仕置が標準化しつつある。

本当にお仕置になっているか微妙だが本人たちが喜んでいるので良いだろう。

力も高まっているのでその時にはベギバギ言わせてやろう。


(ん?喜ばせたらダメなのか?・・・まあいいか。)


そして少しすると笑いながらアティルが姿を現した。

しかしオリジンに優しく笑いかけると彼女は恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。

それがおかしかったのかアティルは更に笑みを深めた。


「あなたの中で人間性は学びましたが妹も良い方向で成長しているようです。これからも愛してあげてくださいね。」

「生きてる限りはそのつもりです。」

「その言葉。覚えておきますよ。」


何か意味深な言い方だが俺もあと何年生きられるか分からない。

その間くらいは例え何があったとしても愛し続けて見せる。

しかし、このありふれた言葉が予想外の結果を招くとは殆どの者が知る由もなかった。


「それじゃあ、アティルも出て来たから家に帰るか。」

「「「お~~~!」」」


そしてゲートを使い家に帰ると、俺とクラウドは風呂に入りメノウ達料理班は料理の準備に入る。

その他は部屋が地震で散らかっていたのでその片付けを始めた。

だが当然、その中にオリジンとライラは含まれていない。

二人は女子力でもそちらのステータスが特に低いため戦力外なのだ。

何気にこっち関係では子猫のケイトの方がまだ役に立つからどれだけ生活力が無いかが分かる。

それに我が家に始めて来たアティルの相手も必要だろう。

そんな名目で二人には優しく仕事を遠慮してもらい3人でお茶をしてもらっている。


そして、アティルは顔に微笑みを浮かべ出されたお茶とお菓子を美味しそうに食べていた。


「それにしても彼の中でずっと見てたけど本当に美味しいわね。世界同士の融合を承認して本当に良かったわ。」

「やっぱり姉さんが融合を許可したの?」

「そうよ。私とガイア。双方の思いが一致したの。」


すると周りのメンバーも手を止めてアティルの話に耳を澄まし始めた。

そして丁度、俺もクラウドと共に風呂から上がりリビングへと戻って来る。


「それじゃあ話しましょうか。世界融合の真実を。そして、私達や天使にデーモン。霊獣たちの真の役割を。」

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