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161 王の不在

食事が終わり今ここに残っているのはいつものメンバーだけだ。

麒麟たちは食べたら眠たくなったと言い出したので早々に帰ってもらった。

まるであれでは麒麟ではなく牛ではないかと思ったが今回は良く働いてくれたので良しとしよう。

そして理由は違うがナトメア達にも我が家からご退場願った。

彼女らは問題しか起こせない種族なのでここにいても意味がない。

まさに天使になって出直して来いと言いたくなる。

ただ、ここは勧善懲悪な世界ではない。

悪も善も当然存在する。

そんな世界だからこそ彼らの様な存在も必要なのだろう。

なにせ彼らが動けば悪の存在が明確になる。

その代償は高くつくが手遅れとなってからでは意味がない。

彼らは悪を行い悪を増長させる事で世界を守っている。


例えば隣の国で悪政が行われ何万人も死んだとする。

それを知って涙する者は居ても立ち向かおうとする者は少ないだろう。

しかし、その矛先が向いたらその者たちは確実に選択を迫られる。

そして、人々に選択を付きつけるのがデーモンの役目なら、天使はその選択を間違えない様に導くのが役目となる。

本当に誰が作ったのか知らないが良くできたシステムだ。


それはさて置き、これからドワーフ王国へ行くメンバーを決めなければならない。

前回は安全であるのが大前提だったので行く必要のあるメンバーを選んで連れて行った。

しかし、今回は確実に危険が待ち構えている。

その為に私情は確実に排除する必要があるだろう。


「それで、今回あちらに行くメンバーだけど俺とクラウドは確定として他はどうするか意見を聞きたい。」


するとチヒロが手を上げると早速意見を口にする。

こういう時に作戦を考える役目を持つアキトやチヒロは率先して意見を言ってくれるので周りも助かっている。


(何気に脳筋寄りが多いからな。)

「ドワーフ王国についてどういう所なのか明確な事が知りたい。クラウドさんは何か情報は無いですか?」


確かに俺達が知っている事はとても少ない。

以前に行った時はドワーフたちが何故あんなに武装しているのかも知らかかったほどだ。

それにドワーフ王国というからには王が居るはずだがその名前すら知らなかった。


「そうだな。この際だから王の名前くらいは知っておいた方が良いか。殴る相手の名前も知らないのは探すときに厄介だからな。」


そして俺がクラウドを見るとなんだか顔色が悪い様に見える。。

もしかして酒の飲み過ぎかとも思ったが手紙を読んでから彼は酒には手を付けていない様子だった。

すると数秒の沈黙を破りクラウドは溜息と共に話し始めた。


「それならまずはドワーフがどの様にして王を決めるかを話そう。」

「王は王族がなるんじゃないのか?」


俺は自分の中にある王国や王族についてのイメージを口にする。

しかし、クラウドはすぐに首を横に振りその考えをを否定した。


「いいや、あの国に王族は居ない。あの国の王とは腕のある鍛冶師が自らの作品を国民に示し、認められた者が選ばれる。」


それが本当なら、なんとも滅茶苦茶な話だと思った。

しかし、鍛冶に生きるドワーフらしい選び方だとも思える。

まさにカルチャーショックとはこのような事を言うのかもしれない。

まるで民主制の様な気もするが作品だけしか見なければいつかはロクでもない人間が王になるんじゃないだろうか。


「もちろん、見られるのは作品だけじゃない。それだけの作品を作れる者はそれまでに多くの名声も手にし、人柄もよく知られている。その為どんなに良い作品でも作った鍛冶師の人格が伴われなければ認められることは無い。」

「でも、それならあの手紙についてはどうなんだ?見るからにあれを送りつけて来たのは人格者には思えないぞ。」


俺の言葉に周りも頷きクラウドは渋面を作る。

しかし、こうして話し始めた以上は何か心当たりがあるのだろう。

オリジン辺りは知っていそうだが口を開かず静かに聞いているので、今のところは何も言う気は無さそうだ。


「実は王を決める選定は何年かに一度行われる。しかし、前回の王が退任してからそれが行われていないんだ。」

「それはつまり王が居ないって事か?」


俺の言葉にクラウドは頷きを返すが表情は更に歪められる。

その顔は今では鬼瓦の様に目は吊り上がり、今にも鬼炎を吐きそうだ。


「そうだ。選定は国が主導で行いその間の国の運営は宰相や役人たちが行う。その為、国民もその時を待ってはいるが一向に執り行われる気配がない。それに城の者たちにはこの制度に異議を唱える者も多かった。もしかすると自分達だけで国を管理できていると考えているのかもしれない。」


(それにしてもクラウドはまるで見て来たように話すな。もしかして城で働いた経験があるのか。)


するとここでオリジンが初めて口を開いた。

しかし、その顔には何故か苦笑を浮かべている。


「一応言っておくけど鍛冶の腕が良いって事はその人物がそれだけ精霊と密接な関係があるって事よ。ドワーフは精霊の力を借りて鍛冶を行うからそれだけでも精霊に認められている証拠になるの。だから歴代の王は精霊を軽んじる事が無かったのよ。」


そう言って彼女はフレアに視線を向ける。

確か彼女は王に直接伝えたと言っていたがクラウドは王は不在だと言っている。

ならフレアが会った王はいったい何者なのだろうか。

すると彼女は意外にもあっさりと自分の間違いを認め頭を下げた。


「すみません。王座に座っていたのでその者が王だと思っていました。よく考えれば精霊の加護もほとんど無い者だったのであれは偽物だったのですね。」


そう言ってフレアにしては珍しく落ち込んで項垂れた。

しかし精霊王が人前に出るのはとても稀な事だ。

フレアが王の顔を知らなくてもそれは仕方がない。

あちらも突然彼女が現れて代役を急いで準備したはずだ。

その為、本物の鍛冶師を準備している時間が無く、城の者が代役を務めたのだろう。


「そう言う事なの。ごめんなさいねユウ。私は知ってたんだけど、あまり人間の営みに興味がなくて何もしなかったの。でもまさかここまで私達が軽んじられるとは思わなかったわ。」


するとその言葉に素早く反応したのはクラウドだ。

彼は大慌てで立ち上がるとオリジンたちが座る傍に駆け寄り頭を垂れた。


「申し訳ありませんオリジン様。全ては我らドワーフの招いた事です。そして、どうかお願いします。我らに今一度チャンスをお与えください!」


クラウドは今にも額が床に付きそうな程に頭を下げて必死にオリジンに嘆願する。

やはりドワーフとしては国と同族の危機に必死なのだろうか?

しかし、何か違う様な雰囲気を彼から感じる。

まるで今の彼は国を背負っているようなそんな感じだ。

するとその言葉にオリジンは真剣な顔になるとクラウドに視線を落とした。


「分かりました。あなたの願いを聞き入れ、もう一度チャンスを与えます。前ドワーフ王としてしっかりこの騒動を収めて見せなさい。」

「ありがとうございます!」


しかし二人の会話を聞いて俺達は一斉にクラウドへと視線を集めた。

初めて聞いたクラウドの肩書に全員が驚いている様だ。

それに前王と言う事は一度はあの国で最も優秀な鍛冶師となった者と言う事だろう。

どうりで作ってもらった武器がどれも想像を超えている訳だ。

そして、俺達の驚きを置き去りにしてオリジンは話を続けた。

しかし、それは確実に警告と言える言葉である。


「しかし、二度目は無いと知りなさい。私達精霊も世界の管理者として一つの種族を優遇する事は出来ないのですから。」

「肝に免じておきます・・・。」


そう言ってクラウドは顔を上げると、そこには今までの気の良い男はいなくなっていた。

そこにいるのは国を背負う王。

ドワーフ王が覇気を体に纏い力強い眼差しを向けている。


「オリジン様。一つお願いがございます。」

「何?」

「我が工房にひと時で構いません。皆様の真の加護を賜りたく思います。」


するとオリジンは表情を崩し軽やかに笑った。

そして少し考えた後に視線を周囲に向け大きく頷いた。


「良いでしょう。しかし、死ぬかもしれませんよ。」

「この命に代えても成し遂げてみせます。」


何か重要な事の様だが俺にはサッパリ分からない。

ただ、話の流れからして何かを作ろうとしている事は分かる。

するとクラウドは何故か突然こちらに視線を向けて声をかけて来た。


「ユウ、お前は熱に対する耐性が高いな。」

「良く分かったな。まあ、耐性ではなく無効だけどな。」


俺は別に知られても問題ないので即座に言い切った。

それに俺もここに集まっているメンバーの事は信頼している。

全てを明かす事は出来なくても部分的に教える事に問題は無い。

しかもあんな真剣な顔で断言されれば答える以外の選択肢は無いだろう。

するとクラウドは表情を変える事なく頷くと俺に思いもよらない事を言って来た。


「なら俺の相槌をやれ。今回の事にキテツは巻き込めん。」


しかしその言葉にキテツさんは立ち上がるとクラウドに駆け寄った。

流石に日本に来てからずっと一緒に仕事をしてきたのでこの提案を鵜呑みには出来ないのだろう。


「おい待て。それは水臭いぞ。」


しかしそう言って声を掛けるがクラウドは躊躇なく首を横に振った。

そして、その目には有無を言わせない程の意志が宿っておりキテツさんは息を飲んだ。


「今のお前だと鍛冶場にすら近付けん。悪いが今回は遠慮してくれ。俺が生き残れたらお前に俺の全てを教える。だから今だけは我慢してくれ。」


そう言ってクラウドは彼の肩を叩き僅かに表情を緩めた。

しかし、それも束の間の事ですぐに表情を引き締める。

するとオリジンと精霊王も立ち上がると俺達は自然とそれに続いて行った。


「ユウ、気を付けてね。」


そう言って俺の愛する者たちは口々に声を掛けてくれる。

俺は彼女たちに笑顔で応えるとマリベルの開いたゲートを潜って行った。

このゲートが何処に向かっているのかは知らないが向かう先からは途轍もない精霊力を感じる。

それに近付くにつれてオリジンや精霊王たちの力の高まりも同時に感じられた。

もしかすると向かう先は彼らの領域なのかもしれない。


「何処に向かってるんだ?」

「私達が普段住んでいる場所よ。」

「まさか精霊の住処ですか!?」


オリジンの言葉にクラウドは目を見開き驚きの声を上げる。

しかし俺としては普段のオリジンの行動からライラの部屋を連想してしまう。

そんな内心を知ってかテラが声を掛けてきた。


「大丈夫ですよ。部屋は私達がいつも綺麗にしていますから。」

(しかし、その言い方だと確実にオリジンは含まれてないよね。)

「ふふ、どうですかね。お母様の名誉のために黙っておきましょうか。」


何気にテラはこうして時々毒を吐く事がある。

いつもは4人の中で一番面倒見が良くて常識人なのに長く生きると言う事はそれはそれで大変なのかもしれない。


「それに最近はかなり楽になりましたよ。」

「そうなのか?」


そう言ってテラは軽やかに笑い先頭を歩くオリジンに暖かい視線を向けた。

これではどちらが母親だか分からないな。


「だって、あなたの所でさばいてるでしょ。」

「まさかの丸投げかよ。」

「フフフ。そうとも言いますね。だから長生きして私を楽させてください。」


すると俺達の会話に気付いたのかオリジンから鋭い視線が飛んでくる。

それをテラは笑顔で受け流し、スススーと離れて行った。

こうして話していると人間とそれほど変わらない印象を受けるが、それは俺がオリジンと愛を結んだからだろう。

彼女たちは人に見えても俺達とは大きく違った存在だ。

その力は世界を滅ぼすほどに大きく人間には畏敬の念を抱かせる。

しかし、俺には遠慮も恐れも無いので、これからも良い御近所付き合いをして行きたいものだ。


そんな事を考えているといつの間にかこちらを見ていたオリジンに笑われてしまった。

何が面白かったのかは分からないがその嬉しそうな笑顔を見れたので良しとする。

そしてゲートから出るとそこは満開の花園だった。

地面は花で覆われ、木々も元気に葉を茂らせている。

するとオリジンはこちらに向き直り笑顔で両手を広げた。


「ようこそ精霊の住処へ。人間を招いたのは数百年ぶりね。」


すると周囲から精霊が集まりだし、俺達の周りを光の玉が動き回る。

そしてそれらは次第に人の姿へと変わり俺達の周りで元気に踊り始めた。

彼らは聞いた事のないメロディーの歌を口にしているが、とても心地よくマーメイドたちの声よりも美しい。

そしてオリジンが手を振ると歌を止めて笑いながら去って行った。


「それではクラウド、鍛冶場を出しなさい。シルフィー、アクア、フレア、テラはそこに加護を与える準備を。ユウも気を抜かないようにね。油断してると大怪我をするわよ。」


そして、オリジンはテキパキと指示を出していき準備を進める。


テラが地面を平らにするとその上にクラウドは鍛冶場を取り出し中へと入って行った。

するとフレアは炉に火を入れそこに息を吹き込み加護を与える。


「この火は相手の意志を読み取って火力を上げてくれますが最高6000℃まで上昇するから気を付けなさい。私の加護のあるユウならともかくあなただと油断してたら蒸発しますよ。」

「心得ております。それにオリハルコンの軟化点は2500℃以上です。もとより命がけにございます。」


確か太陽の表面温度が6000℃だったかな。

ここまで行くと俺には凄い温度だとしか認識できない。


その他にも精霊王たちは建物や使われる道具類に力を注いでいく。

特に鍛冶道具はテラが入念に強化している様だ。

作っている最中に壊れない様にしているのだろう。

そして、準備が整うとフレアは最後にクラウドに熱に対する防御を施して俺達を残し退出して行った。


「よーし。それじゃあやるかー。お前はこれを使え。」


そう言ってクラウドは自分の物よりも大きなハンマーを渡して来る。

その大きさは人間ほどもあり、まるで破城槌の様だ。

当然、金属で出来ている為、手に持つとかなり重たい。

振るう事は出来るが慣れるまでに時間が掛かりそうだ。


それに対してクラウドは以前見たのと同じサイズのハンマーを手に取っている。

それでも彼はあれを片手で操り、反対の手で金属を保持しなければならない。

しかも過熱に成型とやる事は山済みなので俺より遥かに負担が大きいはずだ。

しかし、俺に鍛冶の経験はない。

知識としてあるのもテレビで軽く見た程度のものなのでそれだけは言っておかないといけないだろう。


「流れで付いてきたが、俺は鍛冶をするのは初めてだぞ。」

「そんなのは見ればわかる。細かい所は俺が指示を出すからそれを聞いて調整しろ。」


(あの騒音の中で声を聞き分けないといけないのか。もしかするとそれが一番難しいかもしれないな。)


そしてクラウドは置いてあったオリハルコンのインゴットを手に取ると炉へと入れた。

このインゴットには精霊王に加えオリジンも力を注いだ特注品だ。

いったい今からどんな剣を作るのか知らないが今は全力で鍛冶に集中するしか無いだろう。

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