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153 忘れていた解体

俺達が日本に帰り部屋に入ると残っていた皆に驚かれてしまった。

それもそのはずで早くても数日はあちらに滞在する予定で出かけたからだ。

それが出て行って数時間で帰ってくればそんな顔もしてしまうだろう。

するとオリジンは少し不安げな顔で問いかけて来た。


「どうしたのユウ。もしかしてまた何かトラブルがあったの?」


またと言われて少し心に来るものがあるが今までの事を考えると仕方ないだろう。

俺の事を何処からか見ている事が多い彼女でも、まさかこんなに早く帰って来るとは予想外だったようだ。


「実は門の前まで行ったんだが亜竜に遭遇したんだ。」


すると俺の言葉に周りからは「またか」といった驚きとも呆れとも取れる視線が向けられる。

そんな中で笑っているのはオリジンとメノウくらいだ。


「でも、逃げて来たって事は無いわよね?」

「もちろん倒したんだがそれを国の兵士が没収しようとしてきたんだ。しかも武器まで一緒にな。だから一旦こうして帰って来た。今回はなるべく友好的に行きたいから争いになる前にこちらから引いて戻って来た。」


するとオリジンは苦笑を浮かべると軽く頷きをくれた。

今回は俺達に不備が無いのを分かってくれたようだ。


「成長したわね。それならこちらで少し手を回しておくわ。しばらくはあちらに行かない方が良いから別の予定でも立てましょ。」


何をするかは気になるがまずは今回の事をクラウドにも話す必要があるだろう。

色々面倒も掛けたし、彼はあちらで武器を購入してくると思っている。

それが手ぶらで帰って来たのだからちゃんとした説明をしておかなければならない。

俺達はいったん解散するとアキト達も自分の部屋に帰って言った。

彼も部下である4人に状況説明をする必要があるだろう。

家のメンバーは服を着替えに行ったので少ししたら部屋着に着替えて下りて来るはずだ。


後はゲンさんとサツキさんだが俺は今から東京に行きクラウドに会わないといけない。

その事を伝えると二人は彼への報告は任せてくれた。


「それならクラウド達の方は任せたぞ。」

「それじゃあマリベルちゃんお願いね。」

「はい。」


俺達はゲートを潜り道場に到着すると空に飛び上った。

二人もかなり飛ぶのが上手くなり、今では移動はもっぱらこれであるそうだ。

ただし低空だと驚かれるので少し高めまで上昇する。

そうすれば見られてもそう簡単には判別は出来ないだろう。

そして別れようとするとその前にサツキさんから声を掛けられた。


「ユウ君。先日レベルに関して相談してくれたけどダンジョンに潜る気はない?」

「ダンジョンですか?いったい何処の?」

「北海道稚内市にある宗谷岬よ。今の時期は自衛隊でもすぐにあそこまで行けないの。」

「空や海からは行けないのですか?」


自衛隊なら色々訓練しているはずだ。

空からヘリで運ぶとか、海から上陸させるとか。


「それが今年は流氷が来てるらしくて海からは危険なの。空もこの時期は風が強くて安全に下りられないわ。それにあそこには大群が駐留できる場所もないし。」


そう言えば流氷が見られるのは2月くらいからだと前でネットで見たな。

しかも近年、減っていた流氷が昔の様に多く流れてきてるとあった。

恐らくそれは精霊達の仕業だろう。

最近は日本も四季を感じられる機会が減ってきているので昔の様な寒い冬が戻って来ているのかもしれない。

それにこの時期は確かシベリア気団から強い風が吹き込んでいるんだった。

天候も安定しないと天気予報でも良く言っているのでそのせいかもしれない。

しかし、サツキさんの口ぶりだと何か急いでいるような感じを受ける。

もしかして何かあったのか?


「それなら仕方ないですけど何かあったんですか?」


するとサツキさんは頬に手を当て珍しく困った表情を浮かべた。

これは余程の事があったのだろう。


「それがあそこは人が少ない上に雪に埋もれてたらしくてダンジョンの発見が遅れたの。それで地元からの連絡だとスタンピードの兆候があるらしいのね。もしそうなると日本初の大災害になるかもしれないから事前に対処しないと世論がどう動くか分からないわ。」


確かに今はまだ大きな被害が無いため世論は今の状況に支持を示している。

しかし、人の心とは何かを切っ掛けに簡単に覆る。

それを防ぐには今を維持するか、より良い状況へと持っていくしかない。

現在はそのより良い状況に近づけている最中なので世論の支持を失う訳にはいかないだろう。

特に家には人間でないメンバーが多い。

彼女たちの安全と生活の為にはスタンピードなど起こさせる訳にはいかない。


「分かりました。後で皆に言っておきます。」

「お願いね。こちらからは私達と他にも数人は手伝いに回すから。」


スタンピードとなれば国の一大事だがサツキさんが連れて来るならタダ者ではないだろう。


(さて、今回は誰を参加させるか。)


俺はそんな事を思いながら家に連絡を入れておき、クラウドの許に向かう。

そして到着して声を掛けると、やはりその顔に驚きの表情を浮かべて出迎えられた。


「どうしたんだ。今日はあちらに行く日だろ。何か足りない物でもあったのか?」

「いやあ、それがな。」


俺はあちらでの出来事を二人に説明した。

するとクラウドの顔から表情が消え何か独り言を始めてしまう。

そしてしばらくすると結論が出たのか一人で頷いた。


「ユウ、俺が近日中に国の様子を確認に向かう。その際にはアキトの部下を借りるから話をしておいてくれるか?」

「それならこれから北海道に行ってスタンピードを止めないといけないんだ。何かあった時に困るから一緒に行かないか?」


クラウドとキテツさんは俺の申し出に少し悩むと俺に向かい頷きを返した。


「よし、それならあちらで鍛冶を行いながらお前らのサポートをしてやるぜ。そうと決まればお前らが倒した亜竜を見せてみろ。もしかしたら良い物が取れるかも知れねえ。」


良い物と言われ俺は一瞬、出そうとしてしまうが何とか踏み止まった。

こんな所で出してしまうと後でライラに怒られてしまう。

こうなるとこの二人にも家に来てもらい、そこで一緒に解体してもらった方が良さそうだ。


「それならワームもあるから家で一緒に解体しないか?ライラが素材を取るからここじゃあ出来ないんだ。」

「おお、ワームもあるのか。こりゃ期待が膨らむな。」


クラウドは何か凄くワクワクしているが、先ほど言っていた良い物に関係しているのだろうか。

後々の為に少し聞いておこう。


「ワームや亜竜に何かあるのか?」

「そりゃあ、お前。向こうでもみんな武装してたのは見てるだろ。あれはワームを狩りに行ってるんだ。」

「ワームを?」

「そうだ。実はオリハルコンやヒヒイロカネと言った希少金属、それにお前の剣にも使ってるミスリルや魔鉄なんてのはそこらの石にも含まれてんだ。」


そう言えば聞いた事があるな。

その辺の砂にも金属などの原料が含まれていたりするけど集めるコストが合わないから誰も手を出さないって。

それとワームに何か関係があるのか?


「まだ分からないって顔だな。ワームは地中を進むとき大量の土を体に取り込むんだが分解できなかった金属を体内にため込む習性があるのよ。だからそいつらの体の中には俺達の求める物がある可能性が高い。しかも亜竜にまで進化したワームの体内だ。絶対に何かある。それに良い金属は地中の深い所にある事が多い。お前の話だとそいつの住処はかなり深かった様だからな。俺も期待が膨らむってもんよ。」


そこまで教えてもらって俺もようやく納得できた。

もしかすると今回手に入らなかった材料が最低限でも揃うかもしれない。

そう思い俺はさっそく二人に声を掛けて帰る事にした。


「そうと決まれば急いで向かおう。」

「おう!」


しかし、二人の肩が大きく跳ねて顔色をどんどん悪くしていってしまう。

そこで俺は先日の事を思い出しその理由に気が付いた。

それに先日の様な状態では解体もままならないだろう。

仕方なく俺はメノウに電話をかけてマリベルを連れて来てもらう事にした。


そして少しすると上空からマリベルと共にメノウが下りて来る。

メノウが転移を出来る事は一応秘密なので、今日はここの上空に転移してもらい下りてきてもらった訳だ。

後はマリベルに頼み家までのゲートを開いてもらうだけで良い。

そしてマリベルがゲートを開こうとするとクラウドから待ったがかかった。


「設備を持って行くから少し待っててくれ。」


そう言ってクラウドは鍛冶場の建物に駆け寄るとそれをそのままアイテムボックスへと収納した。

どうやら土台の上に乗っていただけの様で、簡単に持ち運びできるように作られていたようだ。

これは完全にアイテムボックスに対応した作りだろう。

これならスペースさえ確保できれば何時でも何処でも鍛冶が出来る。

そして、工房を収納したクラウドは俺達の許に戻って来た。


「待たせたな。やっぱり良い物を作るなら鍛冶場は必要だからな。」

「いや、俺も配慮が足りなかった。旅支度の時間は必要だったな。」


最近出かける事が多かったので自分の感覚で行動してしまった。

普通は遠出するなら準備は必要だろう。

流石に鍛冶場ごととは思わなかったがここは俺が気を使うべきだった。


そして俺達はゲートを潜り我が家へと向かって行った。

家に帰るとみんな揃っている様で俺はまずはライラに声を掛ける。


「今日の亜竜と先日のワームをクラウドが解体したいらしいんだ。もしかしたら良い金属が取れるかもしれないらしい。」

「ああ、そうだったわね。あれだけ立派な地下系の魔物なら十分可能性があるわ。それじゃあ早速解体しましょうか。」

「ああ、頼む。俺は今からマリベルと一緒に例の所にポイントを作りに行ってくる。」

「分かったわ。こちらの人数は足りてるから大丈夫よ。」


そしてマリベルに解体用の部屋を用意してもらうと俺は彼女と一緒に再び東京に移動して行った。

ここからなら1時間も掛からず目的地に到着できる。

今回は寄り道をせずに一直線に向かうので帰れば解体を手伝えるかもしれない。


そして到着するとそこは白銀の世界が広がっていた。

陸は全面雪が覆い、海には真っ白な流氷が漂っている。

初めて流氷を生で見るがなんだか不思議な気持ちだ。

地元では絶対に見れない光景なので現実感が全くない。

まるで初めて魔物を見たあの夜の様だ。


しかし、ここには流氷を見に来た訳ではない。

俺は意識を切り替えてダンジョンへと向かって行った。

スキルを使えば魔素の流れからある程度の場所が分かる。

そしてそこに到着すると武装した集団が待機しておりダンジョンを見張っていた。

装備からして地元の自警団だろう。

彼らに聞けば何か情報を得られるかもしれない。


俺は彼らの所まで移動すると軽く声を掛けた。


「こんにちは。」

「ん?観光客か?悪いがここは危険だ。早く帰った方が良い?」


どうやら目的地はここで間違いない様だ。

彼らの視線の先には地の底に続くような入口が下へと続いているのが見える。


「いえ、俺は観光客ではありません。政府から依頼を受けて明日からダンジョンに潜る事になりました。もし情報があればお聞きしたいのですが良いですか?」


すると彼らは俺を上から下まで観察しある事に気が付いたようだ。

彼らはそれに気が付くと不思議そうな表情を向けて来る。


「お前、そんな恰好で寒くないのか?今はマイナス15℃を下回ってるんだぞ。」


俺は普段着で来ているが上には一般的なジャケットを着ている程度だ。

当然、普通に考えれば寒くて手足が震えているはずだが俺にその様子はない。

肌の色も健康的に赤みが差し、まるで寒さを感じさせていなかった。


「スキルのおかげで大丈夫です。こう見えてもレベルは高いので。今日は明日に備えた様子見をしに来ました。もし知っているなら中がどのようなダンジョンか知りたいのですが。」

「ああ、それなら資料にあったフィールドタイプというダンジョンの様だ。俺達だと入っても敵を処理できずに先に進めない。そして、これも資料通りだが入口が少しずつ拡張している。あまり情報が無くてすまない。」

「いえ、タイプが分かっただけで充分です。それと今日は帰るのでこれは俺の連絡先です。何かあったらすぐに電話をお願いします。スタンピードは無理をして止めれる物ではないので魔物が溢れたらすぐに逃げてください。出来れば状況が確認できるあの丘までは下がった方がいいです。溢れる時は一瞬で周囲が魔物で埋め尽くされますから。」


すると俺の言葉を聞き周囲が慌ただしく動き始める。

どうやら忠告を理解してここから移動してくれるようだ。

丁度近くにここを見下ろす事の出来る丘があって助かった。

最初に出て来るのはレベルの低い魔物からなのであそこなら十分に逃げ切れるだろう。


「俺達も命は欲しいからな。アンタの言葉に従って場所を移動しよう。」

「そうしてください。政府もですが俺達も犠牲者が0になるのを目標にしています。移動が終了したら俺も一旦帰りますから忘れ物の無い様にしてください。」


そして俺はしばらくここに滞在し彼らの移動を見届けた。

俺もスタンピードを体験したのは一度だけなので経験豊富という訳では無いからだ。

もし状況が急変して今すぐに魔物が溢れれば彼らに助かる道は無いだろう。



その頃、家では解体作業が進み問題の臓器へと到着していた。


「これが目的の場所だな。」


ライラが血を回収し、他の臓器類を丁寧に切り取った先にそれはあった。

まずは順番にワームからだが予想以上に大きく膨らんでいる事からクラウドもかなりの期待を感じている。

そして、解体用の刃物を問題の臓器に向け周囲に誰も居ない事を確認して合図を送った。


「行くぞ。」


そしてクラウドがそこを切開すると中から歪な形をした大量の金属が流れ出してくる。

その為足元はゴロゴロとした金属で埋め尽くされ、足の踏み場もない状態へと変わってしまった。


「うおっと、こりゃあ~大当たりだ!」


そう言って汚れるのも気にせずに転がっている金属を手に取りクラウドは鑑定を使用して確認を始めた。

しかし、そこにあるのはあくまでも純粋な金属ではあるが幾つもの金属が乱雑に混ざり合う合金とも呼べない物だ。

その為、クラウドは金属の塊を拾うと、それをライラへと渡した。


「それじゃあ頼むぞ。」

「任せておいて、これこそ私の腕の見せ所よ。」


そして、たとえ金属が混ざり合っていたとしても、ライラと言う優秀な錬金術師が居るので心配はない。

錬金術の本領は分解と再構築。

無から有を作ったり全く違う物質は作り出せないが素材の分離程度なら問題なく行える。

ライラは周りを綺麗にすると出てきた金属を床に積み上げ分離を開始した。

するとそこにはいくつもの金属がインゴットの形で並び、積み上がっていく。

クラウドはそれらを再び鑑定すると何の金属化の確認に入った。


「こっちは魔鉄とミスリルか。」


一番多いのはやはり希少金属の中でも一番多い灰色をした魔鉄である。

次がミスリルとなり薄い青緑の金属が続く。


「おお、こいつも出たか。」


そして次が薄い赤味のある金属でヒヒイロカネ。

クラウドはこれを使いサツキの小太刀をどうにかしようと考えていた。

今まで手元になかった金属だが、それなりの量が手に入りこれなら良い仕事が出来そうである。


「これも丁度在庫を使い切ったんだよな。。しかしこの量ならサツキの小太刀でギリギリだな。」


そして最後がユウの刀を打つのに使ったアダマンタイトだ。

この金属は銀色をしており、まるで砂糖の塊の様な金属である。

これは少量だが刀を1本作るには十分に足りそうだ。

しかし、2本となると難しく小太刀も無理そうであった。

それにクラウドが求めるもう一つの金属が含まれていない。


「は~・・・こいつには無かったか。流石にワームだとキツかったみたいだな。仕方ねえ。から次に賭けるか。」


その為クラウドは次に希望を託すことにした。

ワームにしては良い素材が取れたがやはり深さが足りなかったようだ。

目的の金属は地中深くに存在している為、ワームではそこまで潜れなかったのだろう。

クラウドは希望を込めて亜龍の方へと向かい切り裂かれた腹から中へと入って行く

そしてワーム以上に大きく膨らんだ目的の臓器の前に立つと緊張で息を呑みながら刃物で横に切り裂いた。

するとそこからは真っ黒で、まるで炭の様な金属がゴロゴロと出て来た。

クラウドはそれに目を釘付けにしてその中の一つを手に取って確認をする。

するとそこには彼が求めていた名前が表示される。


「やった・・・。やったぞ!大量のオリハルコンだ!これだけあれば全員分の武器を作ってやれるぞ!」


クラウドは手にあるオリハルコンを掲げて子供の様に大はしゃぎだ。

その後、金属はライラにより錬成されインゴットになるとクラウドに託される事となった。


まずは専用の金床とハンマーの作成から始まりそれから武器の作成に入らなければならない。

そうしなければ最強の硬度を誇るオリハルコンの加工が出来ないのだ。

ちなみに作った後に魔石で強化するため、同じ金属を加工しても激しく摩耗することは無い。

大量の魔石を使用する事になるが、それに関しては既に上等な魔石を大量に渡されている。


その後、クラウドとキテツはこれからしばらく眠れない夜を過ごすのだった。

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