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149 お仕置デート【クオーツ】

現在、俺はクオーツに跨り空を進んでいる。

彼女の提案で今日は遠駆けを希望されたからだ。

コントラクトの契約上でも本人が良いと言えば俺も乗ることが出来るので本人がそれでいいならと了承した。

そして俺達はあまり深く考える事なく気の向くまま流れる様に過ぎていく風景を楽しんでいた。


「楽しい?」

「ああ、こうして生き物に乗って移動するのは子供の頃以来だ。なんか童心に返ったみたいでとても楽しいぞ。」


ちなみに子供の時に乗ったのは地上を進む普通の馬で空など飛ばない。

しかも係の人が引いてくれるレジャー用の馬なので歩く速度で少し移動しただけである。

今と比べるべくもないが子供心に馬に乗ったという感動は今も残っていた。


「ユウならいつ乗せても私は構わないわよ。また一緒に出掛けましょう。」

「クオーツがそれで良いなら俺も構わないぞ。その時はまた頼むな。」


先程から普通に会話をしているのは俺が頑張って馬語を勉強したから。

と、言う訳ではなく言語スキルがやっと成長したからだ。

それでもスキルポイントの力を借りてレベルを1上げてやっと会話が出来るようになっている。

どうやら俺は言語について苦手意識があるためかなかなか上がらなかった。

切羽詰まっていないのが最大の理由かもしれないがそれでも自力で少しは上げた自分を褒めてやりたい。


それと今乗っているクオーツは普通の馬サイズになってもらっている。

出かける時には何処かの世紀末覇王が乗るようなサイズだったのでお願いして小さくなってもらった。

結果として大きい時よりも今の方が乗っている相手の感触を強く感じるからと納得してくれている。

ヘザーから話は聞いていたが好意を持たれているのは確かな様なので少し安心した。

もし聞いていなければ普通に彼女の好意に気付けなかっただろう。


そして、俺は少し前から気になっていた事を聞く事にした。

先日リバイアサンと会話した際、龍は仲間同士で子を成す事が出来ると言っていた。

その辺の知識が浅い俺はそれまでは思いもしなかったが、ゴブリンですら他種族を使って子供を作れるのでよく考えれば分かる事だった。

なら、クオーツにももしかしたら親が居るのではないかと考えた訳だ。


「クオーツには親は居ないのか?」

「う~ん。育ての親は居るかな。そう言えばライラが出かける前にユウにその事を説明してあげてって言ってたわね。」


流石が今では我が家を纏めるライラさんだ。

既に俺の行動を呼んで先回りしているとは。

初めて会った時の養って発言がまるで嘘の様だな。


「それならクオーツの事を教えてくれないか?」

「ふっふ~ん。良いわよ。私の事を教えてあげる。」


するとクオーツは上機嫌に説明を始めた。

それと同時に速度が緩やかになり、風景もゆったりと過ぎて行くようになる。


「私達、麒麟が生まれる方法は大きく分ければ2つあるの。一つはドラゴン同様に男女が愛し合って生まれる方法。でも私達は数が少ないし、妊娠する可能性がとても低いの。だからもう一つの方法が良く使われるわね。」

「それは自然発生に近い物なのか?」


魔物は魔素が集まって生まれる。

それなら麒麟と言えどもその可能性があるかもしれない。


「ダンジョン内だとその可能性も0じゃないけどかなり深いダンジョンじゃないと無理だと思うわ。近い方法だけど地上の魔素溜まりを利用する方法ね。そこに複数の麒麟が霊力を注いで新しい子供を生み出すの。失敗する事もあるらしいけど自然に任せるよりも確率は高いわ。」

「それで育ての親なのか?」

「ええ。何人もの麒麟で協力するから明確な親が居ないの。私もそうやって生まれたのよ。」


それなら納得だ。

しかし、それなら育ての親に挨拶に行かないといけないかもしれないな。

その辺はどうすれば良いんだ。


「その育ての親が何処に居るか分からないのか?」

「分からないわね。麒麟の群れは殆ど雌だけど群れの中にリーダーと呼べる雄が1頭居てその指示で移動しながら生活してるの。しかも人里から離れた場所に好んで住んでるから情報も集まり難いと思うわ。」


それなら諦めるしかないかもしれない。

それに犬ならともかく俺に麒麟の顔を見分ける事は出来そうにない。

現にかなり前方に麒麟の群れが移動しているが全部一緒に見える。


(・・・・・)

「クオーツ。」

「どうしたの?」

「少し先に30人程の麒麟が飛んでるんだがどう思う?」

「ホント!それはきっと移動中の群れね。あちらの大陸から旅して来たのかも。」


そう話していると群れの方向が変わりこちらへと進路を向けた。

すると互いに接近し合っている為その距離はみるみる縮まって行く。

そして数分後、俺達は肉眼で確認できるほどの距離まで近づいた。

あちらは速度を緩め、俺達の前方の空に停止する。

しかし、クオーツはそんな事を気にする事無くスイ~っとその上を過ぎ去って言った。

それには流石の俺も呆れて一言いたい。

まさかこの状況で完全に無視して通り過ぎるとは思わなかった。

しかし、その前に俺達の後ろから雷鳴が轟いた。


「待たぬか貴様ーーー!雌の分際で我の上を行くとは何様のつもりだーーー!」

「何様も何もその程度の事でそんなに怒るなよ。貴様こそ何様だ。」


俺はクオーツに声を掛けるつもりだったがイチャモンを付けられて咄嗟に言って返してしまった。

しかしその声は大きな雷鳴に掻き消され、俺達の横を奴の攻撃が通り過ぎる。

だがこれは別に相手が当たらない様に放ったのではなく、クオーツが軽く横にヒョイッと飛んで躱したからだ。

しかし、そうしなければ確実に雷撃が直撃していただろう。

威力から考えて死ぬ事は無かっただろうが俺達は地上から500メートル以上は離れて飛んでいる。

電撃を受けた事は無いので分からないが飛行が困難になって落下すれば掠り傷では済まないだろう。

確実に打ち身や捻挫にはなりそうだ。


「そこの人間!我を愚弄するか!」


どうやら聞こえないと思っていたがしっかりと聞こえていたらしい。

1人の麒麟が鼻息荒く前に出ると嘶いて威嚇してくる。

その時に腹のあたりを見て気付いたがどうやら雄の麒麟の様だ。

初めて見たが雄は気性が荒いのだろうか。


(そう言えば麒麟は怒ると気性が荒くなるんだったな。)


俺がそんな事を思い出していると相手は前足で空中を掻き額に角を出現させる。

すると角には禍々しい気が纏わり付き、それを俺達に向けて走り出した。


「怒りの呪いを喰らえーーー!」


どうやら、あれは麒麟の能力の一つである呪いの様だな。

クオーツは家に来て使った事は無いが見るからに強力そうだ。


するとクオーツも角を生やし相手よりも僅かに首を下げた。


「アンタ、私のユウになんてモノ向けてるの!」


そしてクオーツの角には反対に浄化の力が宿る。

それを見て相手は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「愚かな、貴様程度の若い麒麟に防げるほど我が呪いは甘くない。二人まとめて苦しみ抜いて死ねー!」


しかし、クオーツの浄化の力はいまだに高まり続けている。

それは次第に相手の呪いの威力に迫る勢いだ。


(そう言えば加護で強化できるか?)

『可能です。』

(ならクオーツに加護を与えてくれ。)

『分かりました。クオーツに加護を付与します。』


するとクオーツはそれに気が付いたのか顔を上げて声を掛けて来た。

何やら先程よりも鼻息が荒く興奮もしているようだ。


「ユウ!もしかして何かしてくれたの?」

「ああ、加護を与えたんだが迷惑だったか。」

「そ、そんな事ないわ、とても嬉しい。あなたをとても身近に感じる。」


すると加護により角に纏う気が強さを増していく。

そして、どうやら新たなスキルも習得できたようだ。


『人馬一体を習得しました。』

『人馬一体と加護を通して水の精霊力をクオーツに流します。』

「あ、あああ。ユウが流れ込んでるみたい。今の私ならどんな呪いも消し去れるわ。」


そして受けの大勢だったクオーツは嘶くとともに走り出した。

体が巨大化し、相手に負けない大きさになると額と額、角と角をぶつける様に二人は衝突する。

すると、その瞬間に辺りは強烈な浄化の波動に包まれ相手の呪いを欠片も残さず消し去った。

それと同時に奴はクオーツに弾き飛ばされてしまい錐もみ状態で地上へと落ちて行く。


「ぐおおおおおーーーー!馬鹿なーーー!」

「私達の愛の共同作業に勝てる者なし!」


クオーツは興奮しているのか気になる事を口走り勝利を宣言するように大きく前足を上げて嘶いた。

しかし、すぐに自分が口走った事に気が付くと背中にいる俺に顔を向けて来る。


「あの、その、今のは言葉の綾と言うか・・・ははは。」


そして言った直後に落ち込んだ雰囲気を出すと人間の姿に変わっていく。

俺はある程度小さくなった所で気付き、クオーツから下りると自分で空に浮いて変身が終わるのを待った。

そして人の姿になったクオーツは顔を俯かせ、やはり少し落ち込んでいるように見える。

しかし彼女は急に顔を上げると俺の目をまっすぐに見つめて来た。


「ごめんなさい。私はやっぱり自分に嘘を付きたくない。」


クオーツの顔は不安や恐怖が綯交ぜにしている様な表情だが、その目からは強い意志が伝わって来る。

俺はその目をまっすぐに見返すとクオーツの次の言葉を待った。


「私は・・・私はユウが大好き。だから他の皆と同じようにあなたには女として私を見て欲しい。ユウの命令だったらなんだって聞くわ。他の男を乗せたって良い。だから私の事もちゃんと見て。」


クオーツは俺の胸に飛びつき懇願するように告げて来る。

俺はそんな彼女を優しく抱き留めるとその頬に手を添えた。


「お前の気持ちは分かった。でも・・・。」


すると今度は俺の言葉にクオーツが顔を上げて次のセリフを待った。

それに対して俺は頬を優しく撫でながら言葉を続ける。


「絶対に他の男は乗せん。お前は今から俺の女だ。それにお願いはしても命令はしないから安心しろ。」


そしてクオーツは言葉を聞くと同時に力いっぱいに俺の胸に顔を埋めた。

昔の俺なら背骨が砕けている様な激しい抱擁だが、今なら心地よくすら感じる。

俺はそんなクオーツの顔を上げさせると唇を合わせる軽いキスをした。

彼女はキスが初めての様でまるで固まったかのように動かなくなり次第に紅潮していく。

しかし、互いに唇の柔らかさと温もりは伝わったので彼女は体中を真っ赤にすると再び胸に顔を埋めてしまった。

そして胸の中で彼女は確かに聞こえる声で言葉を返して来る。


「ユウ・・・。ありがとう。これからもよろしくね。」

「ああ、死ぬまで離さないからな。」


すると俺達を見ていた雌の麒麟たちから嘶きと同時に祝福の言葉が送られてくる。

やはり雌の方が気性は穏やかなのだろう。

彼女たちは俺達の告白を一部始終見ていたようなので少し恥ずかしくなってくる。

しかし、この感動を踏み躙ろうとするする者が現れた。


「裏切者共めーーー!呪われろ。貴様ら全員呪われてしまえーーー!」


そう言って再び現れたのは先程落ちて行った雄の麒麟だ。

その姿は先程と違い角だけでなく体中から禍々しい気を放っている。

どう見ても能力が暴走している様で歯止めも効かなくなっている様だ。

すると次第にその体も呪いに侵食されていき、輝いていた鱗は剥がれ落ち、ただれた様な肉体を俺達の前に晒した。

目からは血の涙を流し、周囲へと呪いも振りまいている様だ。


その為、下にある森に呪いが飛び火し、魔物化が始まっている。

マップを見れば俺達の下は呪いを受けてイビルエントと言う魔物で溢れていた。

以前ジェネミーに聞いた事があるが普通のエントは森の賢者と言われる程に賢く、とても穏やかな性格で森を豊かにする存在らしい。

しかし、呪いを受けたエントはイビルエントとなり逆に森を病ませ破壊していく存在に変わると教えてくれた。

今回は呪いを受けてからの魔物化なので最初からイビルエントとして生まれた様だ。


するとそれを見て雌の麒麟たちは雄の麒麟を囲み浄化の光で周囲を含めて浄化し始める。

それによりイビルエントは次第に呪いが消えて大人しくなりエントへと変わり始めた。

しかし、雄の麒麟は浄化の光を跳ね除けるほどの呪いに塗れて効果がない様だ。

すると一人の麒麟が俺達に声を掛けて来た。


「力を貸してください。私達では抑える事も出来ません。」

「殺しても良いなら手伝うが?」


懇願する麒麟に俺は冷酷な選択肢を突きつける。

しかし、俺の目にはあの雄は既に手遅れに見えた。

全力を出せば救える可能性はあるが今の段階で五分五分と言ったところだ。

それに俺は万能の存在ではないので後で何か言われたくはない。

一応はその覚悟を持っていてほしい。


「分かりました。どうかお願いします。早くしなければこの一帯が呪いに飲み込まれてしまいます!」

「分かった。クオーツ行くぞ!」

「任せて!」


俺の言葉にクオーツは行動を開始し、その角に浄化の力を凝縮していく。


『ユウさん、クオーツに眷族になる意思を確認してください。』

(分かった。)

「クオーツ。俺の眷族になるか?」

「ユウの為なら何にでもなるわよ。」


クオーツは悩む時間もなく、即答で返事を返してくれる。

俺はそれに笑みを浮かべると彼女を眷族にした。


『クオーツを眷族にしました。』

『加護と眷族を通して彼女に力を流します。』

『ホープエンジン起動、モードを破壊から浄化へと切り替えます。』

『精霊力からは水の属性のみを抽出、霊力と混合。』


「な、何この力。とても熱いのに優しい感じがする。これならやれるわユウ!」


俺からの力を受けてクオーツは限界まで力を高めると俺に顔を向けた。

そして口元に笑みを浮かべると自分の角に手を添える。


「後はお願いね。あいつを助けてあげて。」


そう言った直後、彼女の角は額から外れて俺にそれを差し出して来る。

そして俺がそれを受け取ると、その形は一振りの剣になり俺の力を受けて更に強い輝きを放った。


「後は・・お願いね。」


クオーツは最後にそう言うとその体を大きく傾けた。

俺はクオーツを抱き留めると雌の麒麟が1人列を離れて駆け寄って来る。


「幼い身でこの覚悟には驚きました。その子はこちらで預かりましょう。」

「任せたぞ。」

「この身に代えても。」


俺はクオーツを任せると剣を手に雄へと向かって行った。

すると雄は俺の接近に気付き更に呪いの力を高めていく。

すると周囲の雌はその呪いに押されて次第に後ろへと下がり始める。

そんな中で俺は全く影響を受ける事なく剣を構えて進み続けた。


「なで・・影響を・・うげな゛い。」

「俺には呪い無効があるからな!」

「おの゛れーーー!」


俺は雄の懐に入るとその体をツクヨミで切り裂いた。

すると失敗していないにも関わらずその体は大きく切り裂かれ光に包まれていく。

それと同時に手にある剣も砕け散り激しい浄化の光が周囲一帯を包み込んだ。

そして、光が消えた後には雄の姿は何処にもなく、マップにもその存在は確認できない。

どうやら既に手遅れだったようで呪いに飲み込まれていたのだろう。

しかし、最高の結果は得られなかったが最悪は回避できたようだ。

俺は溜息を零すとクオーツの許へと向かって行った。

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