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136 露天風呂、オリジン再び

俺は露天風呂に浸かりのんびり空を見上げていた。

それに今は冬なので星がとても綺麗だ。

隅には数本の木がライトアップされその姿を照らし出していた。

今は季節が悪いが夏になると緑の葉を茂らせ、時期が良ければ美しい花を見る事も出来る。

今回は見る事が出来ないがこれはこれで四季を感じられるので俺のお気に入りだ。

そして、のんびりしていると不意に後ろでシャワーを流す音が耳に届いた。

しかし、俺はそちらに顔を向ける事はしない。

こんな事が出来る存在は限られているし、そんな人物には1人しか心当たりがないからだ。

そして、シャワーの音が止まるとペタペタと足音が近づいてくる。


「横に入っても良い?」

「ああ。」


ここの露店は浴槽の種類はあるが1つ1つはそんなに大きくない

今の場所は3人も入ればそれなりに狭く感じる。

二人で丁度いいぐらいだろう。

俺は他に人がいなかったので真ん中で足を延ばしていたが少しだけ横に避ける。


「ありがとう。そう言えばお礼の言葉も今まで使った事が無かった気がするわね。」


俺はそこで彼女に視線を向ける。

声で分かっていたが俺の横にいるのは大人の姿のオリジンだ。

今回は俺が教えたマナーを守り掛け湯をしてタオルを付けずに湯船に浸かっている。

そして俺の視線に気付くと微笑みを返してきた。

先程とは違い大人を感じさせる動きに流石の俺も心臓の鼓動が跳ねる。

俺は気を紛らわせるためにオリジンに言葉を返した。

独り言かもしれないが今の俺にはそれくらいしかできそうにない。

正直に言えば立ち上がればバレるとだけ言っておこう。


「そう言えば俺もお礼を言われたのは殆どなかったな。」

「まあ、いつもは精霊の園から出てこないからね。」

「そうなのか?家にはよく来てるじゃないか。」

「ふふ、そうね。それはきっとユウがそこに居るからよ。」


オリジンはそう言って俺の傍に来ると肩に頭をのせる。

そこに先ほどの揶揄う様な雰囲気はなく、何処か真剣で、しかし甘えているようにも感じられた。

そのままオリジンは俺の手に自分の手を重ねると言葉を止める。


そして、俺は初めてオリジンが僅かに震えており、心臓が早鐘の様に打ち付けている事に気付いた。

俺もかなり鼓動が早くなっているので気付かなかったが、会話が止まり周囲に静けさが戻った事で感じ取ることが出来た。

そして気付くと同時にオリジンは俺の手を強く握りしめ今にも泣き出しそうな不安に満ちた瞳を向けて来る。

こんなオリジンは初めて見たので俺はとっさにオリジンの手を握り返した。


「その・・・。迷惑よね。」


そしてオリジンが絞り出した言葉は今までに聞いた事が無いほど弱々しく、自らを否定する言葉だった。

そして立ち上がろうとする彼女を繋いだ手に力を込めてその場に引き留める。

その行動にオリジンは目を見開いて驚いた表情をするがその目には僅かに涙が染み出ていた。

これが俺の勘違いなら骨の10や20折れようと、体に風穴があいても仕方ないだろう。

しかし、こんな顔のオリジンをこのまま行かせるともう会えない気がした。

俺の中で何かが絶対にその手を離すなと叫んでいる。

そんな彼女の顔を正面から見詰め、少しずつ顔を近づけていった。

そして唇を重ねるとオリジンは抵抗する事なくそれを受け入れ頬を朱に染める。

互いに目を閉じ数秒が過ぎ、唇を離して互いに見つめ合うとその顔からは先ほどまでの影は消え失せ、笑顔と言う花が咲き誇っていた。


「嫌じゃなかったか?」

「いいえ・・・とても嬉しいわ。」


オリジンは俺の問いに首を左右に振って答えた。

そして今度はオリジンから唇を重ねてくるので俺はそれを受け入れる。

すると彼女は俺の体の一部の反応に気付きクスリと笑った。

そして一緒に湯船に浸かると横に並んで互いに手を強く握り締めた。


「私を女として見てくれる?」

「言われなくてもそのつもりだ。」

「それなら一つだけお願いを聞いて。」


するとオリジンの表情が再び曇ったので俺はそれをどうにかしたくて首を縦に振った。

別に欲望に負けたとかではなく、この時の俺は騙されているとしてもその願いを純粋に聞いてやりたいと思った。

それにこれは彼女が食べ物以外で初めてする真剣なおねだりだ。

協力しない理由は一つもない。


「ならユウに流れる力を私に貸して。」

「俺の力?どうすれば良いんだ?」


俺は一瞬悩んだがすぐに自分の中に答えを見つけた。

しかし、それには一つの問題がある。

恐らくは今の状態でも加護は与えられるがあれはそれほど大きな力ではない。

大きく力を与えるなら寵愛を与えなければならないが互いに体を重ねて愛し合う必要がある。

ちなみにヘザーも最初は加護だったがあの後の一件で寵愛に変化している。

精霊たちはキスだけで寵愛としているが、どのような方法を取っているのか俺は知らない。

だから俺が寵愛を与えられる方法はこの一つだけだ。

すると俺がそこで悩んでいるとオリジンは腰を浮かせて再びキスをして来た


「精霊力が何処に集まるかは知ってるでしょ。」

「ああ。」


俺はそれに対し頷きを返す。

最近使える様になったばかりだが知らなければ使えない。

当然それは下腹部の下丹田あたり・・・。


「そうね。だから私と繋がって欲しいの。」

「良いのか?」


これは最終確認だ。

既に互いが好きな事は分かっているので後はその覚悟があるかと言う事だ。

するとオリジンは笑顔で頷いた。


そして俺達はその場で互いに愛し合い思いをぶつけ合った。

出来ればこんな形ではなく、もっとゆっくりと関係を深めていきたかったがここで断るとオリジンに恥を掻かせてしまう事になりかねない。

それならいつもとは逆だが、今は俺の意見を押し通すよりもオリジンが望む様にしてやるのが一番だろう。


『オリジンに寵愛を付与しました。』


そして、無事に寵愛を与える事に成功すると互いに手を握り空を見上げて湯船に肩まで浸けた。

こうしてオリジンと過ごす日が来るとは思わなかったが今はとてもスッキリした気分なのが分かる。

しかし、これはまだ準備の一部が整ったに過ぎない。

それを知らせる様にスピカの声が聞こえ俺の中の力が急激に高められていく。


『ホープエンジン出力上昇100パーセント。』

『精霊の母の加護により制御良好。』

『限界値上昇、出力200パーセント。』

『海王の加護によりホープエンジンを強化。』

『オリジンとの力の循環を検知。』

『精霊王からもさらなる力の流入を検知。』

『限界値上昇、出力300パーセント。』

『ホープエンジンのレベルが1から10に上昇。』

『オール・エナジー・フュージョンのレベルが1から10に上昇。』

『限界値上昇、出力500パーセント。』

『メノウから巨大な力の流入を検知。』

『ホープエンジン限界突破。』

『ホープエンジンがホープエンジン・改に進化しました。』

『ホープエンジン動作安定。』

『ホープエンジン・改のレベルが1から10に上昇。』


するとオリジンに俺からの力が流れ込み信じられない程の力が宿る。

その余波を受け周囲の植物は葉を茂らし、花を咲かせる。

しかし、それだけではなくオリジンからの寵愛が強まる事で俺にも巨大な力が流入してくる。

それが円環の様に互いに循環し更に力を強めていく。

そしてオリジンは俺を見詰めると再び唇を重ねて来た。

すると更に力の循環が加速し力が高まり始める。


「大好きよユウ。だからずっと傍に居て。」

「・・・。」


しかし高揚して洩らしたオリジンの言葉に返事を返す事は出来ない。

人間である俺にはどんなに長く生きようと限界はある。

どんなに愛していようとずっとは付いていてやれないのだ。

だがその代わりに今を充実させてやる事は出来る。

俺は激しいキスを返しオリジンの口をふさいだ。

するとオリジンから限界まで高められた力が放出され、星空に上がると世界へと広がり始めた。


そして俺達は疲労で肩を上下させながら世界へと広がって行く力の流れに目を向けた。

これだけの力を使って何をしたのか知らないのは良くないが今はオリジンの細い体を抱きしめて満足感に心を満たす。

すると息を整えたオリジンが穏やかな表情を浮かべて声を掛けて来た。


「フフ、何をしたのか知りたいって顔してるわね。」

「出来れば顔じゃなくて心を読んでくれ。それなりに気にしてるんだから。」

「そんな事したらつまらないでしょ。メノウもずっとあなたの心の声を聞いてるわけじゃないのよ。私だってこれからはそうするわ。なんだかその方がユウを近くに感じられる気がするから。」


俺は小さく溜息を零すと、仕方なく諦めた。

すると腕の中のオリジンから穏やかな寝息が聞こえて来る。

俺は彼女を抱えると服を着せて人に見られない様に部屋に戻った。

俺の部屋は2人用の部屋でベットは二つある。

片方には既にホロが寝息を立てており片方しか空いていない。

俺はもう片方にオリジンを寝かせて布団を掛けると、そのままソファーに腰を下ろした。


するとその横に精霊王たちが転移して現れたので今までの事を全て見ていたのだろう。

恥ずかしい気持ちはあるが、今までのライラ達との事も見られていると考えると既に手遅れな気がする。

それに先程は俺に大量の精霊力が流れ込んだので彼女たちとも話は付いていたはずだ。

メノウも協力してくれたので今回の事は知っていだろうから何か言われる心配はないだろう。


すると彼女たちもそれぞれ腰を下ろすと俺に視線を集中させ頭を下げた。


「ありがとうねユウ。母様凄く幸せそう。」

「お母様はずっと孤独だったからあなたと愛し合えて凄く嬉しいと思うわ。」

「母様はああ見えて初心だから、しっかりリードしてあげてね。」

「生活力は無いけどそこはまた私達がサポートするわ。だから見捨てないであげてね。」


なんだか最初は良い話なのにだんだん酷くなっていってるのは気のせいだろうか。

特に最後のテラの言葉はかなり酷い。

しかも否定できないので返す言葉も見つからなかった。

まあ、それは置いとくとして俺は4人に頷いて先ほどの事を確認しておく。


「あれだけの力で何をしたんだ?」

「聞いてないの?」

「ああ。必要を感じなかった。」


すると4人は互いに顔を合わせて穏やかに笑い合う。


「お母様は良い相手に巡り合えたのね。ここまで信頼してくれる相手はそうそういないわ。それなら私達が言ったら怒られちゃうわね。」

「そうね。これは世界の為だけどユウの為でもあるから母様は自分で教えたいはずよ。」

「そのあたりは頑固なのよね。そこはユウに似てるかも。」

「そうだね。私もそう思うよ。人間で言えば血液型はB型かな。」

「「「言えてる。」」」


その後4人は結局、何も言わずにお礼だけ言って消えていった。

するとホロがムクリと起き上がると犬の姿になり布団から出て来る。

そして枕元をその前足でポフポフ叩くと、その横に丸くなった。

どうやらここで寝ろと言う事らしい。


「ありがと、ホロ。」


俺はそう言って布団に入るとホロは俺の顔を一度舐めて再び寝息を立て始める。

今日は色々あったが温泉に入れたので精神の疲れはかなり無くなった。

ただし明日にはライラたちに事情を話しておかなければならない。

別に悪い事?をした訳ではないし、オリジンは皆との関係も良好だ。

それにホロとメノウとは特に仲がいいので問題は無い・・・はずだ。

精霊王たちもさらなる協力を約束してくれたので家計が圧迫される心配も消えた。

そして俺はそのまま朝まで眠りについた。



ちなみに先程の露天風呂だが、木は葉を落とす事を忘れ、年中花が咲き乱れるようになったそうだ。

その事が世間に知られるとそれを目当てにした観光客が殺到し、この付近一番のホテルになった事はまた別の話である。

更にこの付近の泉質が変化し『若返りの湯』と言われるようになったとか無かったとか。

ただ、天皇の一族が頻繁に湯治に訪れる様になったのはこれから少し先の事であった。

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