131 精霊王からの贈り物(食費)
俺達は各々の方法で空を飛び、四国の道後へとやって来た。
しかし、ヴェリルはまだ飛べないので俺が抱えて移動して来たが、もしかすると竜化したら飛べるかもしれない。
しかし、色々な問題があるので今日は竜化自体を控える事にした。
そして到着したがここは有名な観光地である。
宿が空いているか心配だったがホテルに行くとなんとか人数分の部屋を確保することが出来た。
それにどうやら、この周辺はまだ魔物の対応が不完全のようだ。
いくつかの観光地では既に結界の設置が万全な所もあるとすると対応が遅いとしか言えない。
かなり前に近くのお菓子屋には送ったのだがどうやら町としては設置に踏み切っていないようだ。
こちらとしてはそれで部屋が空いているので助かった形になっているが少し心配になる。
そして、この場所には当然マリベル便で来る事が出来る。
そのためホテルをゲンさん達が確認している間に俺は皆を迎えに向かった。
そして無事に合流するとホテルのロビーで合流し、部屋割りを決めて早速食事へと向かう。
時刻は昼頃なので丁度良く、皆には先に連絡を入れておいたので全員昼食はこれからだ。
そして俺達は歩いて近くの商店街へと向かって行った。
そこには道後温泉もあるがその横に俺のよく行くお店がある。
ここは日本酒とビールの揃いが良いので来た時は必ず寄らせてもらっている。
それでも来れるのは年に1度か2度程度なので常連にはなれていない。
(マリベルのおかげで簡単に来れる様になったから通ってみるか。)
そう思ったがすぐにその考えを却下した。
ディスニア王国に言った時ならともかく、頻繁に外食する事をメノウが許してくれるはずはない。
それどころかそんな事をすると泣かれそうで怖い所がある。
そのため思考を変えてメノウにここの味を覚えてもらい家で再現してもらう事にした。
そうすればここの味をいつでも楽しめるので俺は事前に声をかけておく。
「実はここには美味しい料理が沢山あるんだが。」
「分かっていますよ。家で再現してほしいのですね。私も自分の料理でユウさんの胃を満たしたいので任せてください。」
メノウは胸を叩くと笑って了承してくれたので俺はお礼として頭を撫でておく。
彼女はそれを子供の様な笑顔で受け入れ、並んで店に向かって行った。
そして、店に入ると待つ事なく一番奥のテーブルへと案内される。
外の観光客もいつもより数が少なかったがやはりここもその影響を受けている様だ。
俺達の人数なら店の半分以上を埋める事になるのに待つ必要が無かった。
逆に団体で来た事で店員が喜んでいるので最近お客があまり来ていないのかもしれない。
(後でそれとなく聞いてみよう。)
そして俺達が席に着くとそれぞれに注文を言っていった。
その中でメノウとホロはメニューの上から下まで全部という、まるで何処かのアニメキャラのような注文をしている。
普通なら迷惑だろうが俺たち以外に客はいないので問題は無いだろう。
一部の店では昼はランチメニューしかしていない所もあるが、ここは昼の営業開始から夜まで全てのメニューを頼むことが出来る。
店員は驚いた様な顔をしているがそれは仕方がない事だ。
見るからにそれだけ食べれるようには見えないので心配もしているかもしれない。
それに周りのメンバーもガッツリと色々頼んでいるので下手をしたら夜の食材を食べ尽くしてしまう勢いだ。
以前は夜に来て注文すると食材切れで提供できない料理が幾つかあったのでその可能性もあるかもしれない。
すると誰も居ないと思っていた隣の席からも声が上がった。
しかし、店員を見ると「あれ?」と首を傾げている。
俺ですら気付かないのに普通の者が気付けるはずがない。
俺はどんな人が居るのかを確認するためにそちらへと視線を向けた。
するとそこには緑、青、赤、茶色の頭髪が衝立の向こうに確認できる。
さらに衝立の端からは黒い服に黒い髪の何処かで見た事がある後ろ姿まであった。
するとその少女は注文を取りに来た店員に向けて振り向き頼む料理を口にする。
「このメニューにあるお酒以外の料理を全部頂戴。」
どうやら俺達以外にも猛者がいた様だ。
(そうじゃない!)
「オリジン何でここにいるんだ!」
すると彼女は『今気付きました。偶然ですね。』と言った表情でこちらに振り向いた。
「わ~不思議。何でここに居るの?」
それはこちらのセリフである。
最近現れないと思ったらこうしていきなり現れるので困る。
もしかして支払いも俺達がしないといけないのだろうか?
そう考えるとオリジンは力強く親指を立てて歯をキラリと光らせた。
何か最近、オリジンはこちらに染まりつつある気がする。
それに彼女の食わず嫌いがなくなったのは確実にメノウとクリスのおかげだろう。
あの二人のご飯は好き嫌いをすると勿体なく思う程に美味いからな。
しかし、その仕草は確実にこちらの影響で間違いない。
最初に出会った頃のあの大人しくて謙虚?なオリジンはどこに消えたのか。
そして、俺が嘆いている間に店員が知り合いと気付き、気を利かせて衝立を他所に移動させてくれる。
するとそこにはやはり精霊王であるシルフィー、アクア、フレア、テラが苦笑いを浮かべて手を振っていた。
(なんでお前らまで居るの?)
とは言ってもこの4人が食べる量は常識の範疇なので問題ない。
問題はなくなるまで食べようとするオリジンだ。
こいつは金がないくせに食べる量が凄いので困ってしまう。
恐らく我が家の経済を最も圧迫している存在だろう。
そう考えているとシルフィーがオズオズと何かの紙束を取り出した。
「これでしばらくの支払いをどうにか・・・。」
俺がそれを受け取るとそれは100ドルの札束だった。
しかも、銀行から今出してきましたというような綺麗なピン札の束である。
(ま!まさか・・・!銀行から盗んで・・・。)
そう考えたがシルフィーは急いで俺の考えを否定した。
「ち、違うよ。ちょっと世界を見てたらすっごく大きな低気圧が上陸しそうだったからそれを穏やかにしてあげたんだよ。そしてらその国の大統領とか言うのがお礼にってそんなの沢山くれたの。そう言えばその人、以前そこの総理と船の上でお話してたような。」
それだけで誰なのかが判明した。
どうやらあの大統領は、今のこの世界を上手く渡って行く事が出来る人物の様だ。
未知な者であるシルフィーにこうしてお金と言う形だがお礼が出来るのがその証拠である。
しかし、逆に排除しようとすれば消してくれた以上の低気圧が襲った可能性は高そうだ。
俺はその札束を受け取るとアイテムボックスに収納した。
(これ、後で銀行に行って円に両替しないとな。)
すると次にアクア、フレア、テラも続いて何かを取り出した。
そしてそれを見るとアクアはユーロ、フレアは金塊、テラは大きなダイヤモンドの原石である。
(これはまた・・・。テラはともかくアクアとフレアは微妙な物を。)
すると二人も俺の顔を見て説明を始めた。
(なぜそこで俺の顔を見てから始めるんだ・・・。)
「私は大きな入り江がある所に行ってその周辺の水を浄化したらこの紙を沢山もらいました。」
入り江と言えばもしかして地中海の事か。
確かにあの周辺は水質汚染や大気汚染で水が飲めない地域もあるって話だな。
酸性雨が酷い時期もあって湖の魚が死滅したとか森の木が枯れ果てたとか被害もかなり出た所もある。
「それなら納得しよう。それでフレイは?」
「私は砂だらけの所に行って気候を落ち着かせてたら何故か一杯攻撃されました。だからそれらを全員始末してアジトを物色してたらこれが・・・落ちてました。」
「・・・。」
それはもしかして中東の辺りではないだろうか。
もしかしてテロ集団と鉢合わせして戦闘になったのかもしれない。
しかし、それは落ちていたのではなく置いてあったのではないだろうか?
すると少し離れていたクオーツが金塊に歩み寄ると何故か浄化を行った。
「何か凄い妄執と怨念が染込んでたから浄化しておいたわよ。」
「あ、ああ。ありがとう。」
クオーツは俺のお礼の言葉にニコニコしながら席に戻って行った。
それに今回は上手く出来た様で周囲への影響は出ていないようだ。
(まあ、持ち主不明の金塊なら仕方ないな。既に相手も死んでるだろうし何処かで早めに換金しておこう。)
しかし、知らない事とはいえ精霊王に喧嘩を売るとは命知らずな連中だ。
そして、一応テラにもこれをどうしたのかと聞いてみる事にした。
「それで、テラはこれをどうしたんだ?」
「私は土の精霊王だから自分で作りました。宝石作りは得意なので。」
まあ、そんな事だろうと思った。
宝石と言っても鉱物である。
精霊王であるテラなら作れるだろうと以前から思っていた。
しかし、催促するほど彼女は家の家計を圧迫している訳ではなかったので言うのを控えていたのだ。
そして、見ればダイアの原石と言っても素人目で見て全く濁りや傷は無さそうだ。
しかも大きさは俺の拳よりもデカい。
ダイヤモンドはカットの過程で4分の1程まで小さくなると言うがこれだけ大きいと加工後もかなり大きい物になるだろう。
確か、ライラの顧客に富豪がいたので一度確認してもらおう。
もしかしたらあちらで買い取ってくれるかもしれない。
余程安く見積もられない限りは売ってもいいだろう。
原石は加工に手間もかかるので・・・。
(待てよ。)
俺は携帯を取り出しダイヤモンドの加工後の画像をテラに見せた。
「こんな感じに形を変えられるか?」
するとテラは頷いて原石に手を翳すと大量の力を注いで形を画像そっくりに作り変えた。
「ありがとうテラ。これならすぐにでも売れそうだ。」
もしダメでも加工の手間はかなり省略されたはずだ
後は持って行った相手がいくらで買うかだが100万と言う事は無いだろう。
俺は素人だからわからないがその数倍はするはずだ。
俺はそれをライラに渡して手ごろな所へ売ってもらう様に頼んでおいた。
彼女は持っていたペンとダイヤモンドを並べて写真に写すと何通か画像を送っている。
おそらく数日中に返信が来るだろう。
そうしていると出来上がった料理がテーブルに並び始めた。
「それではこちらがお酒とささみユッケになります。」
俺の前にはささみで作られたユッケが置かれる。
ここのユッケは牛肉のユッケ同様に提供が難しくなったため一度は消えたのだが誰かがスキルで浄化系の魔法を覚えたのだろう。
菌さえ殺せば日本の食材は安心して食べられる。
今日は久しぶりに訪れてメニューにこれが復活しているのを見たとたんに注文してしまった。
これと日本酒がよく合うのだ。
そして机に料理が並び始めると各々で食べ始めた。
何せ全種類注文する者が二人もいるので、それなりにスペースを開けておかないと料理が乗り切らない。
今日は完全無礼講と言う事でアルコールも解禁してある。
既に俺達の体はちょっとやそっとのアルコールでは酔わないのもあるが一番大きいのはスキルの成長だろう。
京都の時と違い全員が自分で体内のアルコールを中和する術を持っているのでいざとなればそれぞれで対処が出来る。
そして挨拶無しの乾杯のみで食事を開始した。
店員は既に気を利かせて店の外に貸しきりの札を出してくれている。
かなり特殊なメンバーが揃っているのでとても有り難い。
それにこれはきっと店側からの無言の意思表示だろう。
すなわち店の食材を全て食い切って見せろと言う事だ。
そう思った俺は立ち上がると酒杯を掲げて声を上げた。
「みんなー。今日はこの店を食い尽くしてやろうぜー。」
俺の音頭に全員が酒を片手に掲げて「お~~~」という元気な返事を返してくれる。
そして数時間後、店からは殆どの食材が消えうせた。
主に食べたのはいつもの3人だが今日は全員がよく食べている。
ゲンさんとサツキさんはここの漬物が気に入った様でそれを酒の肴にして大量に食べていたし、アキト達自衛隊組は肉を中心に食い尽くしていた。
俺達は色々な物を食べていたが最終的には残り物の食材で適当に作ってもらった料理まで食べている。
ここまでくれば店側も意地で食材を無くす心算なのだろう。
それにオリジンはいつもの事だが、今日は精霊王たちも遠慮する必要が無いと言う事で好きなだけ料理を食べていたようだ。
特に彼女らはビールが気に入り水の様に口へと流し込んでいた。
オリジンはカクテルが気に入った様でこちらはこちらで大量に飲んでいる。
最初店員は「子供にお酒は・・・」と言っていたが、オリジンが年齢的には大人である証拠に何処で作ったのか身分証を出して店員に見せていた。
(偽造か?)
「失礼ね。ゲンジュウロウがこういう時の為に作ってくれたのよ。」
流石ゲンさんだ。
こう言う所は抜かりがない。
あれがあれば最終的に子ども扱いはされないだろうしお金さえ払えば問題がない。
ただオリジンがお金を払ったところを見た事が無いので少し心配ではある。
食い逃げしないかと言う意味で・・・。
「しないわよ。おなかがすいたらユウの所で食べれば良いんだから。」
おっと、心を読まれてしまったか。
だがなんと横暴な発言だろうか。
娘である精霊王たちを見習ってもらいたい。
しかし、精霊王たちからはそれなりの金額と相応の物を受け取っているのでしばらくは来ても問題は無いだろう。
出来れば事前に連絡が欲しい所だが彼女らは神出鬼没である。
何時現れるかはまったく予想がつかないし精霊王たちに至っては世界中を移動して地球環境を整えているようだ。
規模が大きすぎて冗談にしか思えないが恐らく本当の事だろう。
いつか地球全土が住みよい綺麗な星になるかもしれない。
(そう言えばそんな事を頼んでみようかと思っていたが無駄骨だったな。)
そして食事が終わるとゲンさんが全員に声を掛けた。
「それじゃあ話そうかの。儂ら神楽坂家について。」
危うく本題を忘れるところだったがゲンさんが自分から話し出してくれて助かった。
あのままだと今日はホテルに帰って温泉に浸かった後にのんびり眠ってしまう所だった。
そして、俺達はゲンさんの話に耳を傾ける。
それはもう1000年前の話。
それは一匹の龍と村人の話であった。




